第五十七条第一項の募集をする場合には、発起人は、第五十八条第一項第三号の期日又は同号の期間の初日のうち最も早い日以後は、第三十三条第九項並びに第三十七条第一項及び第二項の規定にかかわらず、定款の変更をすることができない。
この条文の過去問 2肢
結論:この肢は「正しい」。誤っているものを選ぶ本問では、正解肢になりません。
根拠条文は会社法389条1項です。同項は「公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、第三百八十一条第一項の規定にかかわらず、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができる」と定めており、この肢は条文の文言そのままです。いわゆる会計限定監査役(監査範囲限定監査役)の規定です。
理由づけとして、この制度が認められる理由を押さえましょう。監査役の本来の職務は、取締役の職務の執行全般を監査すること、すなわち会計監査と業務監査の双方に及びます(会社法381条1項)。しかし、株式に譲渡制限が付されている非公開会社の多くは同族的な中小企業であり、株主自身が経営に関与しているため、業務監査の必要性は相対的に低く、他方で本格的な監査体制を整えるコスト負担は重くなります。そこで会社法は、非公開会社に限って監査範囲を会計事項に限定する選択肢を認めたのです。逆に、監査役会設置会社や会計監査人設置会社は、それ自体がしっかりした監査体制を前提とする機関設計ですから、限定は認められません。
ひっかけポイントは三つあります。第一に、「公開会社でない」ことが要件であり、公開会社では限定できません。ここでいう公開会社とは、発行する全部または一部の株式について譲渡制限を定めていない会社をいい(会社法2条5号)、上場会社という意味ではありません。第二に、会計限定監査役を置く会社は、会社法上の「監査役設置会社」には当たりません(会社法2条9号かっこ書)。この定義の違いは、株主による取締役会招集請求権(会社法367条)や株主の権利の範囲、各種の読み替え規定に影響します。第三に、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあることは登記事項です(会社法911条3項17号イ)。これは2014年改正で追加されたもので、取引の相手方が監査体制を把握できるようにする趣旨です。
関連知識として、会計限定監査役の責任に関する重要判例があります。最判令和3年7月19日は、会計限定監査役であっても、計算書類等が会社の財産および損益の状況を正しく示しているかを確認する職責を負い、会計帳簿の内容が信頼性を欠くことが明らかな場合など、その内容を信頼することが許されない特段の事情があるときには、追加的な調査を行うべき義務があるとしました。会計限定だから責任が軽いと安易に考えてはならないというメッセージを持つ判例です。
結論:この肢は「誤り」。本問は誤っているものを選ぶ問題ですから、この肢が正解肢です。
根拠条文は会社法390条3項です。同項は「監査役会は、監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならない」と定めています。すなわち、常勤監査役を選ぶのは監査役会であって、株主総会ではありません。この肢は選定機関を株主総会に置き換えている点で誤りです。用語の面でも、条文は「選定」という語を用いています(既に監査役である者の中から特定の地位に就ける行為なので「選定」、機関の構成員を新たに選ぶ行為が「選任」です)。
理由づけとして、常勤監査役の意義と、なぜ監査役会が選ぶのかを押さえましょう。常勤監査役とは、他に常勤の職を持たず、会社の営業時間中は原則としてその会社の監査役の職務に専念する者をいうと解されています。日常的に会社に出社して情報を収集し、非常勤監査役や社外監査役に情報を共有することで、監査役会全体の監査の実効性を高める役割を担います。誰を常勤にするかは、監査役会の内部における役割分担の問題であり、監査役の独立性を確保する観点からも、監査役自身の合議で決めるのが適切です。株主総会が常勤者を指名できるとすれば、実質的に多数派株主・経営陣が監査役会の内部体制に介入できることになりかねません。なお、監査役会は常勤監査役を解職することもできます(会社法390条2項2号は、常勤の監査役の選定および解職を監査役会の職務としています)。
ひっかけポイントは、「選任」と「選定」の場面の区別です。監査役そのものは、株主総会の決議によって選任されます(会社法329条1項)。したがって、監査役会設置会社では、まず株主総会が監査役を選任し、その選任された監査役の中から監査役会が常勤監査役を選定する、という二段構えになります。この流れを混同させるのが本肢の狙いです。
関連知識として、監査役会の構成要件も押さえましょう。会社法335条3項は「監査役会設置会社においては、監査役は、三人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない」と定めています。「過半数」ではなく「半数以上」である点が頻出です(たとえば監査役4人なら社外監査役2人以上で足ります)。また、監査役会の職務は、監査報告の作成、常勤監査役の選定・解職、監査の方針や業務・財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定です(会社法390条2項)。ただし、監査役会の決定は各監査役の権限の行使を妨げることができません(同項ただし書)。監査役は独任制の機関であり、監査役会は監査役の権限を制約するものではないという原則は、取締役会との決定的な違いとして理解しておいてください。
なお、監査等委員会設置会社では常勤の監査等委員の選定は義務付けられておらず、指名委員会等設置会社でも常勤の監査委員の選定義務はありません。常勤者の選定義務が明文化されているのは監査役会設置会社である点も、比較して押さえておくとよいでしょう。