株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
1発起人は、株式会社の成立の時に、出資の履行をした設立時発行株式の株主となる。
2前項の規定により株主となる権利の譲渡は、成立後の株式会社に対抗することができない。
この条文の過去問 2肢
結論:この肢は「誤り」。
根拠は商法15条2項です。同項は「前項の規定による商号の譲渡は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と定めています。つまり商号譲渡の登記は「対抗要件」であって、「効力発生要件」ではありません。したがって甲乙間の商号譲渡は当事者の意思表示の合致によって当然に効力を生じ、登記がなくても甲乙間では商号は乙に移転します。登記をしなければ「その効力は生じない」とする本肢は、対抗要件を効力要件にすり替えた誤りです。
前提として商法15条1項は、商号の譲渡を「営業とともにする場合又は営業を廃止する場合に限り」認めています。商号は営業の同一性を示す標識ですから、営業と切り離して商号だけを流通させると、その商号を信頼して取引をする相手方が営業主体を誤認させられるおそれがあるためです。本肢は「営業とともに」譲渡する場面ですから、この制限自体はクリアしており、争点は登記の位置づけだけに絞られます。
ひっかけポイントは二つあります。第一に「効力要件か対抗要件か」の言い換えです。民法177条・178条と同じ発想で、当事者間では意思表示だけで有効、第三者との関係では公示が要る、という二段構えを必ず押さえてください。同じ商号を二重に譲り受けた者どうしの優劣も、この15条2項の登記の先後で決まります。第二に、商号譲渡による変更の登記は譲受人(乙)の申請によって行い、申請書には譲渡人(甲)の承諾書等を添付します(商業登記法30条1項・2項)。手続面の知識としてあわせて押さえておきましょう。なお、個人商人の商号の登記そのものが任意である(商法11条2項は「登記することができる」と定める)ことも、登記が効力要件でないことの裏付けになります。
結論:この肢は「誤り」。
前半は正しく、後半が誤りです。まず商法17条1項は「営業を譲り受けた商人(譲受人)が譲渡人の商号を引き続き使用する場合には、その譲受人も、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う」と定めます。ここまでは本肢のとおりです。
問題は免責の方法です。商法17条2項は「前項の規定は、営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人が譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人及び譲渡人から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする」と規定しています。つまり免責の方法は二つで、(ア)譲受人が単独で行う免責の「登記」、(イ)譲受人「及び」譲渡人の双方から第三者に対して行う「通知」です。本肢は乙(譲受人)だけが丙に通知したというのですから、(イ)の要件を満たしません。乙は丙に対して弁済責任を負い続けます。
理由づけとして、17条1項の責任は、商号が続用されているために営業主体の交代を知らない債権者が「債務者は変わっていない」と誤信することを防ぐ、外観法理(禁反言)に基づく責任です。免責はその例外ですから、外観を確実に打ち消したといえる方法に限定されます。譲受人だけの通知では、譲渡人が本当に営業を譲渡したのか、責任の分配について合意があるのかを債権者が確認できず、外観の打消しとして不十分なのです。
関連知識として、17条3項は、譲受人が責任を負う場合、譲渡人の責任は営業を譲渡した日後2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対してはその期間経過時に消滅する、と定めます(除斥期間)。また判例は17条1項(会社法22条1項も同旨)の適用範囲を広くとらえ、ゴルフ場の営業譲渡において譲受人がゴルフクラブの名称を続用した事案で、同項の類推適用により譲受人が預託金返還義務を負うとしました(最判平成16年2月20日)。商号そのものでなくても、営業主体を示す名称の続用があれば同様に扱われうる点は要注意です。
1民法(明治二十九年法律第八十九号)第九十三条第一項ただし書及び第九十四条第一項の規定は、設立時発行株式の引受けに係る意思表示については、適用しない。
2発起人は、株式会社の成立後は、錯誤、詐欺又は強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない。
この条文の過去問 2肢
結論:この肢は「誤り」。
根拠は商法17条4項です。同項は「第一項に規定する場合において、譲渡人の営業によって生じた債権について、その譲受人にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有する」と定めています。要件は「善意」だけでなく「重大な過失がないこと」も必要です。「丙の過失の有無を問わず、丙が善意であるとき」に効力を有するとする本肢は、無重過失の要件を落としているため誤りです。丙に重過失があれば、乙への弁済は甲に対する関係で効力を生じません。
理由づけを確認しましょう。営業譲渡があっても、債権が当然に譲受人へ移転するわけではありません。乙に承継されていない債権は依然として甲に帰属します。ところが商号が続用されていると、債務者である丙は「商号の主体である乙こそが債権者だ」と誤信して乙に弁済してしまう。この誤信を保護するのが17条4項で、いわば受領権限のない者への弁済を有効とする外観保護規定です。
ここで比較しておきたいのが民法478条です。同条は「受領権者としての外観を有する者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する」と定め、無「過失」まで要求します。これに対し商法17条4項は無「重過失」で足ります。商取引の迅速性・大量性を考慮し、弁済者の保護をより厚くした趣旨です。民法より緩い、という方向性で覚えると混乱しません。
ひっかけポイントは、本肢のように「過失の有無を問わず」と言い切るパターンのほか、逆に「善意かつ無過失であるとき」と民法の要件に寄せてくるパターンです。後者は結論としては保護されるケースを含みますが、条文の要件としては正確でないため、択一では条文どおり「善意・無重過失」で判定してください。なお、この規定は債権の弁済(受領)の場面であり、17条1項の債務の弁済責任とは向きが逆であることも意識して整理しましょう。
結論:この肢は「誤り」。
根拠は商法18条です。1項は「譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡人の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡人の債権者は、その譲受人に対して弁済の請求をすることができる」と定めます。ここまでは本肢のとおりで、乙は責任を負います。しかし2項は「譲受人が前項の規定により譲渡人の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡人の責任は、同項の広告があった日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する」と定めており、広告によって譲渡人の責任が直ちに消滅するとはしていません。
つまり債務引受広告がされた時点では、甲と乙が重ねて責任を負う状態(不真正連帯の関係)になります。丙は甲に請求してもよいし、乙に請求してもよいのです。甲の責任が消えるのは、広告の日から2年以内に丙が請求または請求の予告をしなかった場合に、その2年が経過した時点です。「甲の弁済責任が消滅するため、丙は乙に対して弁済の請求をしなければならない」とする本肢は、この二重責任の構造と2年の期間制限を無視しており、誤りです。
条文の趣旨は次のとおりです。18条1項は、商号続用がないため17条1項の外観責任が生じない場面でも、譲受人が自ら「債務を引き受ける」と対外的に表示した以上、その表示を信頼した債権者を保護すべきだ、という禁反言の考え方に立ちます。他方、債権者にとって甲は本来の債務者ですから、広告があったというだけで甲を免責すれば債権者を害します。そこで甲の責任を存続させたうえ、法律関係の早期確定のために2年の除斥期間を置いたのです。同じ2年の仕組みが17条3項(商号続用の場合)にも置かれており、セットで押さえてください。
関連知識として、「債務を引き受ける旨の広告」といえるかどうかは文言だけで決まらず、社会通念上、営業によって生じた債務を譲受人が引き受けたと債権者一般が信じるような表示であれば足りるとされます。逆に、単に営業を承継した旨を述べる挨拶状にとどまる場合は、債務引受広告と認められないと解されています。