1意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
1意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
1相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
1意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
結論:この肢は「誤り」。
根拠は民法398条の3第1項です。同項は、根抵当権者は、確定した元本ならびに利息その他の定期金および債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができると定めています。つまり、利息や損害賠償は最後の2年分に限られるのではなく、極度額の枠内であればその全部について優先弁済を受けられます。肢は2年分に限定している点で誤りです。
理由づけを説明します。「利息は最後の2年分」という制限は、普通抵当権について定められたものです(民法375条1項)。普通抵当権では、被担保債権の元本額が登記されているだけで、遅延損害金が時間とともに膨らむと後順位抵当権者や一般債権者の把握できる残余価値が予測できなくなってしまいます。そこで、後順位者の地位を保護するために利息等を最後の2年分に絞ったのです。これに対し根抵当権では、登記される「極度額」という上限枠が最初から公示されています。後順位抵当権者は、極度額を超える部分に自分の取り分があると計算できるので、枠内でどのように配分されようと不測の損害を受けません。したがって、2年分という制限を重ねる必要がないのです。この「なぜ根抵当には375条が及ばないのか」という理由づけまで押さえておくと、応用問題にも対応できます。
ひっかけポイントです。第一に、極度額はあくまで優先弁済を受けられる上限であり、被担保債権額が極度額を超えていても、超過部分は無担保債権として残るだけで、根抵当権自体が無効になるわけではありません。第二に、根抵当権は元本確定前は個々の債権に付従せず、被担保債権が一時的にゼロになっても消滅しません(付従性の否定)。第三に、確定前の根抵当権は個々の債権に随伴しないため、債権が譲渡されても根抵当権は移転しません(民法398条の7第1項)。この随伴性の否定も頻出です。
結論:この肢は「誤り」。
根拠は民法398条の4です。同条1項は、元本の確定前においては、根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができるとし、債務者の変更についても同様としています。そして同条2項は、その変更をするには後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しないと明文で定めています。さらに同条3項は、元本確定前に変更の登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなすと定めています。肢は「第三者の承諾を得た上で」としている点が条文に反しており、誤りです。
理由づけです。後順位抵当権者その他の第三者は、登記された極度額を超える範囲についてのみ期待を持っています。被担保債権の範囲や債務者が入れ替わっても、優先弁済の上限である極度額が動かない以上、第三者が把握している残余価値には何の影響もありません。だからこそ承諾が不要とされているのです。逆に、極度額そのものを変更する場合には、利害関係を有する者の承諾が必要とされています(民法398条の5)。極度額が上がれば後順位者の取り分が直接減り、下がれば根抵当権者の枠が減るからです。「極度額の変更だけが承諾を要する」と押さえておけば、この種の肢は瞬時に処理できます。
ひっかけポイントです。第一に、変更の登記は対抗要件ではなく効力要件的に働きます。元本確定前に登記しなければ変更はなかったものとみなされるのであり、当事者間でも変更の効果は生じません。第二に、確定前であれば根抵当権者の変更(民法398条の12以下の譲渡等)や債務者の変更も可能ですが、いずれも確定後にはできません。第三に、確定後にできるのは、極度額の減額請求(民法398条の21)と根抵当権消滅請求(民法398条の22)です。確定の前後で何ができるかを表にして整理しておきましょう。
1詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
結論:この肢は「正しい」。
根拠は民法398条の6です。同条1項は、根抵当権の担保すべき元本については、その確定すべき期日を定め、または変更することができるとしています。同条2項は民法398条の4第2項を準用しており、この変更には後順位抵当権者その他の第三者の承諾を要しません。したがって、根抵当権者と根抵当権設定者という当事者の合意のみで変更できます。同条3項は、その期日は、これを定めまたは変更した日から5年以内でなければならないと定めます。そして同条4項は、変更前の期日より前に変更の登記をしなかったときは、担保すべき元本は、その変更前の期日に確定すると定めています。肢の記述はこれらの条文を正確になぞっており、正しいといえます。
理由づけを補います。第三者の承諾が不要なのは、確定期日が動いても優先弁済の上限である極度額は変わらず、後順位者が把握する残余価値に影響が及ばないからです。5年という上限は、いつまでも元本が確定しない状態が続くと権利関係が固定化し、設定者や後順位者が不当に拘束されるため、定期的に見直しの機会を確保する趣旨です。また、登記を怠れば変更前の期日に確定するという規律は、登記された期日を信頼した第三者を保護するためのものです。ここは、登記しなければ「変更がなかったものとみなす」とする398条の4第3項と結論の建て付けが似ており、いずれも登記懈怠に対して変更前の状態を維持する扱いになっています。
ひっかけポイントです。第一に、確定期日は必ず定めなければならないものではありません。定めがない場合には、設定者は設定から3年を経過したときに担保すべき元本の確定を請求でき、請求から2週間の経過で確定します(民法398条の19第1項)。根抵当権者はいつでも確定請求ができ、請求時に確定します(同条2項)。第二に、確定期日の定めがある場合には398条の19の確定請求はできません(同条3項)。第三に、5年以内という制限は「変更した日から」であって、当初の設定日からではありません。細かい起算点まで正確に覚えておきましょう。
結論:この肢は「誤り」。
前半は正しいのですが、後半が条文に反します。民法398条の7第1項前段は、元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は、その債権について根抵当権を行使することができないと定めています。これは根抵当権の随伴性が否定されることを示す規定であり、肢の前半はこのとおりです。
これに対し後半です。民法398条の7第2項は、元本の確定前に債務の引受けがあったときは、根抵当権者は、引受人が負担する債務について、その根抵当権を行使することができないと定めています。さらに同条3項は、元本の確定前に免責的債務引受があった場合において、根抵当権者は民法472条の4第1項の規定にかかわらず、引受人が負担する債務に根抵当権を移すことができないと定めています。すなわち、免責的債務引受があっても引受人の債務に根抵当権を及ぼすことはできません。肢は「行使することができる」としており、誤りです。
理由づけです。確定前の根抵当権は、特定の債権にくっついているのではなく、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の枠で包括的に担保する枠支配権です。誰と誰の間の、どういう種類の取引から生じる債権を担保するのかという枠組み自体が公示の内容になっています。債権譲渡や債務引受によって当事者が入れ替われば、その枠組みの前提が崩れますから、当然に根抵当権が付いて回ることはないのです。もし引受人の債務を担保させたいのであれば、元本確定前であれば債務者の変更(民法398条の4第1項)の手続を踏み、確定前に登記をする必要があります。
ひっかけポイントです。第一に、この随伴性の否定は元本確定前に限られます。確定後は普通抵当権と同様に扱われ、債権譲渡があれば根抵当権も随伴します。第二に、元本確定前に根抵当権者や債務者について相続が開始した場合には、6か月以内に合意の登記をしなければ、相続開始時に元本が確定したものとみなされます(民法398条の8)。第三に、398条の7第3項は平成29年の債権法改正で新設された規定であり、免責的債務引受の担保移転を定める民法472条の4との関係を明示したものです。
1意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
3意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
結論:この肢は「誤り」。
根拠は民法398条の21第1項です。同項は、元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金および債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求することができると定めています。つまり、確定後こそ極度額の減額請求が認められるのであり、一切請求できないとする肢は誤りです。
理由づけを説明します。元本が確定すると、それ以後に新たな債権が発生しても根抵当権では担保されません。担保される債権額はもはや増えないのですから、極度額という大きな枠をそのまま残しておくのは実態に合いません。たとえば極度額5000万円の根抵当権で、確定時の残債務が800万円しかない場合、差額の4200万円分の担保価値が無駄に塞がれていることになります。設定者としては、その部分を他の融資の担保に回したいはずです。そこで民法は、確定後は現実の債務額プラス2年分の利息等という実額ベースまで極度額を切り下げる請求権を設定者に与えたのです。この減額請求権は形成権であり、意思表示が到達すれば当然に効果が生じ、根抵当権者の承諾は不要です。
ひっかけポイントを整理します。第一に、減額請求ができるのは根抵当権設定者であり、物上保証人や第三取得者も設定者に含まれると解されています。第二に、これとは別に、根抵当権消滅請求の制度があります(民法398条の22第1項)。元本確定後に現に存する債務額が極度額を超えるとき、他人の債務を担保するために設定した物上保証人や第三取得者などは、極度額に相当する金額を払い渡しまたは供託して根抵当権の消滅を請求できます。ただし債務者自身や保証人はこれを行えません(同条3項、民法380条・381条準用)。第三に、消滅請求は極度額を超える債務がある場面、減額請求は枠が余っている場面と、想定する局面が異なります。両者を混同しないようにしましょう。
結論:この肢は「誤り」。
根拠は民法406条です。同条は、債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は債務者に属すると定めています。本問では、甲建物または乙建物のいずれかを引き渡すという給付が問題になっており、この給付の債務者は売主であるAです。したがって、特約がない限り選択権はAに帰属します。Bに帰属するとする肢は誤りです。
理由づけを補います。選択債権は、数個の給付のうちどれを履行するかが未確定の債権です。民法が任意規定として債務者に選択権を与えたのは、実際に給付を実現しなければならないのは債務者であり、どの給付なら履行しやすいかを最もよく判断できる立場にあるからです。また、債務者に選択させても、債権者は約束された複数の給付のどれかは必ず受けられるのですから、格別の不利益を被りません。もっとも406条は「別段の意思表示がないときは」という趣旨の任意規定ですから、当事者の合意で債権者や第三者を選択権者と定めることは自由です(民法409条参照)。
ひっかけポイントです。第一に、誰が債務者かを取り違えないことです。本問では甲・乙いずれかの建物の引渡しという給付が選択の対象ですから、その債務者は売主Aです。代金債務の債務者である買主Bに引きずられて答えないようにしましょう。第二に、選択権者が選択権を行使しないまま放置している場合には、相手方は相当の期間を定めて催告することができ、その期間内に選択がなければ選択権は相手方に移転します(民法408条)。第三に、選択の効果は債権の発生時に遡ります(民法411条本文)。ただし、第三者の権利を害することはできません(同条ただし書)。第四に、そもそも選択債権は、目的物が種類ではなく個性をもって特定された数個の給付から選ぶ場合の話であり、種類債権(民法401条)とは区別されます。
1意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。
2前項の公示は、公示送達に関する民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定に従い、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも一回掲載して行う。ただし、裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる。
3公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じない。
4公示に関する手続は、相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の、相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属する。
5裁判所は、表意者に、公示に関する費用を予納させなければならない。
結論:この肢は「誤り」。
根拠は民法407条です。同条1項は、債権者または債務者が選択をすべき場合には、その選択は相手方に対する意思表示によってすると定め、同条2項は、前項の意思表示は相手方の承諾を得なければ撤回することができないと定めています。したがって、Aが甲建物を選択する旨の意思表示をBにした以上、Bの承諾がなければこれを撤回して乙建物を選択し直すことはできません。承諾を得ることなく撤回できるとする肢は誤りです。
理由づけです。選択権は形成権であり、一方的な意思表示によって債権の内容を確定させる強力な権利です。選択の意思表示が相手方に到達すれば、給付の目的は甲建物に確定し、以後は特定物売買と同じ状態になります。相手方は、これから甲建物の引渡しを受けられるという前提で、登記の準備をしたり、資金を用意したり、転売の交渉を始めたりするかもしれません。選択権者が気まぐれに撤回できるとすれば、こうした相手方の期待と行動を裏切ることになり、法律関係が再び不安定になってしまいます。そこで民法は、撤回には相手方の承諾を要求したのです。逆にいえば、相手方が承諾するのであれば、当事者双方の合意で内容を変更することは自由ですから、撤回も認められます。
ひっかけポイントを挙げます。第一に、選択権者が第三者である場合には、その選択は債権者または債務者に対する意思表示によってしますが(民法409条1項)、この場合の撤回には債権者および債務者双方の承諾が必要と解されています。第二に、選択の効果は債権発生時に遡及します(民法411条本文)。ですから、選択後は最初から甲建物の売買であったものとして扱われます。第三に、撤回できないことと、錯誤や詐欺を理由とする取消しができるかは別問題です。選択の意思表示も意思表示である以上、意思表示に関する一般規定の適用を受けます。
結論:この肢は「正しい」。
根拠は民法410条です。同条は、債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権はその残存するものについて存在すると定めています。本問では、選択権者であるAの過失により甲建物が焼失して給付が不能となったのですから、債権は残存する乙建物について存在することになります。したがって、給付の目的物は乙建物になり、肢は正しいといえます。
理由づけです。選択権者が自らの過失で一方の給付を不能にしておきながら、なおその不能な給付を選択できるとしたらどうなるでしょうか。Aは焼失した甲建物を選択し、履行不能を理由に契約関係を清算してしまえるかもしれません。これは、自分の落ち度で相手方の期待を一方的に消し去ることを認めるに等しく、公平に反します。そこで民法は、不能が選択権者の過失によるものである場合には選択の余地を失わせ、残存する給付に自動的に特定させることにしたのです。逆に、不能が選択権を有しない当事者の過失による場合や、当事者双方に帰責事由のない不可抗力による場合には410条は適用されず、選択権者はなお不能となった給付を選択することができます。この場合、選択権者は、相手方に帰責事由があれば填補賠償を請求し(民法415条2項)、あるいは代償請求権(民法422条の2)を行使するといった処理が可能になります。選択の自由を残すことが、かえって選択権者の保護になるわけです。
ひっかけポイントです。第一に、民法410条は平成29年の債権法改正で内容が大きく変わりました。改正前は、給付の中に不能のものがあれば原則として残存するものに特定し、選択権を有しない当事者の過失による不能の場合だけ特定しないという建て付けでしたが、現行法は「選択権を有する者の過失」による場合に限って特定するという逆の組み立てになっています。改正法は2020年4月1日施行であり、本問は改正後の規律を前提としています。2026年現在も同内容です。第二に、特定の効果は債権発生時に遡ります(民法411条)。第三に、選択権者が選択をしない場合の移転については民法408条が別に定めています。混同しないようにしましょう。
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。
一 相手方の法定代理人
二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方
結論:この肢は「誤り」。
根拠は民法409条1項です。同項は、第三者が選択をすべき場合には、その選択は債権者または債務者に対する意思表示によってすると定めています。「または」ですから、CはAとBのいずれか一方に対して意思表示をすれば足り、両者に対してしなければならないわけではありません。両者に対する意思表示を要するとする肢は誤りです。
理由づけです。第三者に選択権を与えるのは、当事者双方が中立の判断を委ねたい場合や、専門的知見を持つ者に決めてもらいたい場合です。そのような第三者に、常に当事者全員へ通知することを義務づけると、手続が煩雑になり、一方への通知漏れによって選択の効力が生じないという事態を招きます。他方、当事者は互いに契約関係にあるのですから、一方が選択の通知を受ければ他方に伝わることが期待でき、実害は生じません。そこで民法は、いずれか一方への意思表示で足りるとしたのです。なお、当事者間で選択の事実が共有されない不都合を避けるため、通知を受けた当事者が相手方に伝えるべきものと解されています。
ひっかけポイントです。第一に、選択権者が債権者または債務者である場合には「相手方に対する意思表示」によってします(民法407条1項)。当事者が選択権者のときと第三者が選択権者のときで条文が分かれている点に注意しましょう。第二に、第三者がした選択の撤回には、債権者および債務者双方の承諾が必要と解されています。407条2項が相手方の承諾を要求している趣旨からの帰結です。第三に、第三者が選択をすることができず、または選択をする意思を有しないときは、選択権は債務者に移転します(民法409条2項)。第四に、選択の効果が債権発生時に遡ること(民法411条本文)と、その遡及効が第三者の権利を害せないこと(同条ただし書)も、あわせて押さえておきましょう。
結論:この肢は「誤り」。
根拠は民法409条2項です。同項は、第三者が選択をすることができず、または選択をする意思を有しないときは、選択権は債務者に移転すると定めています。本問において、甲建物または乙建物のいずれかを引き渡す債務の債務者は売主であるAです。したがって、Cが選択できないときに選択権が移転する先はAであって、買主Bではありません。Bに移転するとする肢は誤りです。
理由づけです。民法は、選択債権の選択権の帰属について、原則として債務者に属するという立場を採っています(民法406条)。実際に給付を実現する債務者が、どの給付なら履行できるかを最もよく知っているからです。第三者に選択を委ねたのはあくまで当事者の特約による例外であり、その第三者が選択できなくなった以上、原則の姿である債務者に選択権が戻ると考えるのが自然です。409条2項はこの発想に基づく規定です。
ひっかけポイントを整理します。第一に、選択権が移転する先が「債務者」なのか「相手方」なのかを、場面ごとに区別しましょう。第三者が選択できない場合は債務者に移転します(民法409条2項)。これに対し、債権者または債務者が選択権を有する場合において、弁済期が到来した後、相手方が相当の期間を定めて催告したのに選択がされないときは、選択権は相手方に移転します(民法408条)。つまり、選択権者が当事者の一方であるときは「相手方へ」、第三者であるときは「債務者へ」という違いがあります。ここは間違えやすい部分です。第二に、408条の場合には、弁済期の到来と相当の期間を定めた催告という要件が必要である点も落とさないようにしましょう。第三に、本問のように誰が債務者かを問う形の出題では、売買の目的物引渡債務の債務者が売主であることを確認してから条文をあてはめる習慣をつけると、取り違えを防げます。