行政行為の瑕疵|無効と取消しの違いと重大明白説
行政行為の瑕疵(かし)を体系的に解説。無効と取消しの違いを比較表で即答し、重大かつ明白な瑕疵(重大明白説)の判断基準、無効な行政行為の具体例、違法性の承継、瑕疵の治癒・違法行為の転換までを判例つきで整理。行政書士試験の得点力を高めます。
結論|行政行為の瑕疵とは・無効と取消しはどう違うのか
行政行為の瑕疵とは、行政行為が法律の定める要件を欠いていること、つまり行政行為の法的な欠陥をいいます。瑕疵ある行政行為は、瑕疵の程度によって取消しうべき行政行為と無効な行政行為の二つに分かれます。分かれ目は、瑕疵が「重大かつ明白」といえるかどうか(重大明白説)です。
ひとことで言えば、取消しうべき行政行為は「期限内に、決められた方法で争わないと有効になってしまう」もの、無効な行政行為は「いつでも、どんな訴訟でも、誰でも効力を否定できる」ものです。この違いは瑕疵の程度から生じます。
この記事でわかること
- 無効と取消しの違い(5つの視点で比較)
- 重大明白説の内容と、明白性を緩和する例外的な考え方
- 無効な行政行為の具体例(どんな瑕疵なら無効になるのか)
- 違法性の承継が認められる場合・認められない場合
- 瑕疵の治癒・違法行為の転換の定義と具体例
- 記述式での書き方とFAQ
はじめに|瑕疵ある行政行為とは
行政行為は、法律に基づいて適法に行われることが原則です。しかし、現実の行政活動においては、法律の要件を満たさない行政行為がなされることがあります。このような法律上の瑕疵(欠陥)のある行政行為を「瑕疵ある行政行為」といいます。
瑕疵ある行政行為の取扱いは、行政法学における最も重要な論点の一つです。瑕疵の程度に応じて「取消しうべき行政行為」と「無効な行政行為」に区分され、両者では法的効果が大きく異なります。
行政書士試験では、この区別が択一式・記述式の両方で出題されます。特に記述式では、無効と取消しの区別の基準(重大明白説)を正確に論述することが求められます。
本記事では、瑕疵ある行政行為の分類、無効と取消しの区別の基準、無効な行政行為の具体例、違法性の承継、瑕疵の治癒と違法行為の転換、そして関連する重要判例を解説します。
この論点が行政書士試験で重要な理由
行政行為の瑕疵は、行政法総論の中でも特に出題頻度が高い分野です。その理由は、この論点が一つの「ハブ(結節点)」として、行政法の主要分野と縦横に結びついているからです。
- 行政行為の効力論との関係:公定力・不可争力・自力執行力といった行政行為の効力は、瑕疵が「取消しうべき瑕疵」にとどまるのか「無効原因」となるのかによって、その及び方が決定的に変わります。
- 行政事件訴訟法との関係:瑕疵が取消原因にとどまれば取消訴訟(出訴期間あり)で、無効原因に達すれば無効等確認訴訟(出訴期間なし)で争うことになります。どの訴訟類型を選ぶかは瑕疵の程度に直結します。
- 行政手続法との関係:理由の提示や聴聞といった手続的瑕疵が、行政行為の効力にどう影響するか(取消事由か、無効事由か、治癒されるか)が問われます。
このように、瑕疵論は「実体法的瑕疵」と「手続的瑕疵」の両面から、行政法のあらゆる分野へ橋渡しをする論点です。だからこそ、択一でも記述でも繰り返し出題されます。行政法全体の中での位置づけは行政法の全体像|3分野の構造と学習順序もあわせて確認しておくと、瑕疵論がどこに乗っている議論なのかが見えやすくなります。
瑕疵ある行政行為の分類
瑕疵の意味
行政行為の瑕疵とは、行政行為が法律の定める要件を欠いていることをいいます。具体的には、以下のような場合に瑕疵が生じます。
- 主体に関する瑕疵: 権限のない行政庁が処分を行った場合、意思能力を欠く公務員が処分を行った場合
- 内容に関する瑕疵: 処分の内容が法律に違反する場合、処分の内容が不明確な場合、処分の内容が実現不可能な場合
- 手続に関する瑕疵: 法律が要求する手続(聴聞、理由の提示など)を欠いた場合
- 形式に関する瑕疵: 法律が要求する形式(書面など)を欠いた場合
この4分類は、後で「どの瑕疵なら無効になりやすいか」を考えるときの土台になります。一般に、主体の瑕疵と内容の瑕疵は外形から見えやすく無効に傾きやすいのに対し、手続・形式の瑕疵は取消事由にとどまることが多い、という傾向があります。
違法な瑕疵と不当な瑕疵
瑕疵は、その性質によって「違法」と「不当」に分けられます。この区別は、争訟手段の選択に直結するため正確に押さえる必要があります。
- 違法: 行政行為が法令(法規)に違反していること。違法な処分は、取消訴訟・審査請求のいずれでも争うことができます。
- 不当: 法令には違反しないが、行政庁の裁量権の行使が公益目的に照らして妥当性を欠くこと。不当な処分は、原則として取消訴訟では争えず、審査請求(行政不服審査法に基づく不服申立て)でのみ争うことができます。
この点は行政不服審査法1条1項が「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し」と定めていることから読み取れます。
この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。
― 行政不服審査法 第1条第1項
つまり、審査請求は違法性のみならず不当性まで審査できる点で、取消訴訟よりも審査対象が広いという特徴があります。裁量に関する論点は行政裁量|要件裁量・効果裁量と司法審査の限界で、不服申立てと訴訟の使い分けは行政不服審査と行政事件訴訟の徹底比較で詳しく扱います。
取消しうべき行政行為と無効な行政行為
瑕疵ある行政行為は、瑕疵の程度に応じて以下の二つに分類されます。
取消しうべき行政行為: 瑕疵はあるが、権限ある機関によって取り消されるまでは一応有効な行政行為。公定力が認められる。
無効な行政行為: 瑕疵が重大かつ明白であり、初めから法律上の効力を有しない行政行為。公定力が認められない。
なお、行政行為の瑕疵がさらに重大で、行政行為としての外形すら備えていない場合は「行政行為の不存在」とされます。例えば、行政庁の意思決定がそもそも存在しない場合や、私人による偽造書類による「処分」がこれにあたります。不存在の場合は、そもそも行政行為として観念できないため、無効よりもさらに前段階の問題となります。試験では「無効」と「不存在」を厳密に区別する場面は多くありませんが、概念として押さえておくと整理が進みます。
無効と取消しの違い|5つの視点で比較
ここが本記事の中心です。無効と取消しの違いは、単なる用語の違いではなく、「いつまでに」「どの訴訟で」「誰が」争えるかという実践的な帰結の違いとして現れます。まず一覧表で全体を押さえましょう。
以下、5つの視点に分けて、なぜそうなるのかを説明します。
違い1|公定力の有無
公定力とは、行政行為に瑕疵があっても、権限ある機関が取り消すまでは一応有効なものとして扱われる効力をいいます。取消しうべき行政行為には公定力がありますが、無効な行政行為には公定力がありません。
公定力の実質的な根拠は、取消訴訟という特別の争訟制度が法定されていること(取消訴訟の排他的管轄)に求められるのが一般的な理解です。すなわち、行政事件訴訟法が処分の効力を否定する手段として取消訴訟を用意した以上、その手続によらずに処分の効力を否定することは原則として許されない、という考え方です。
裏を返せば、瑕疵が重大かつ明白で処分がそもそも無効なのであれば、否定すべき「効力」がありません。だから取消訴訟を経る必要がなく、公定力も働かないわけです。公定力そのものについては行政行為の効力|公定力・不可争力・自力執行力を整理で詳しく扱います。
違い2|争い方(訴訟類型)
取消しうべき行政行為を争うには、取消訴訟または審査請求によらなければなりません。取消訴訟は行政事件訴訟法3条2項に定義されています。
この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
― 行政事件訴訟法 第3条第2項
これに対し、無効な行政行為は公定力がないため、争い方の選択肢が広がります。無効等確認訴訟(行政事件訴訟法3条4項・36条)はもちろん、公法上の当事者訴訟や民事訴訟の中で「あの処分は無効だ」と主張することもできます。処分の効力の有無が民事訴訟の前提問題として争われる場合を争点訴訟といい、行政事件訴訟法45条が手続的な規律を置いています。
私法上の法律関係に関する訴訟において、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無が争われている場合には、第二十三条第一項及び第二項並びに第三十九条の規定を準用する。
― 行政事件訴訟法 第45条第1項
「無効なら民事訴訟でも主張できる」という結論は択一で頻出です。取消訴訟の全体像は行政事件訴訟法の基礎|取消訴訟を中心とした全体像、当事者訴訟は当事者訴訟|形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟で扱っています。
違い3|期間制限(不可争力)
取消訴訟には出訴期間があります。行政事件訴訟法14条が定めています。
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
― 行政事件訴訟法 第14条第1項
取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
― 行政事件訴訟法 第14条第2項
審査請求にも期間制限があり、行政不服審査法18条1項が「処分があったことを知った日の翌日から起算して三月」、同条2項が「処分があった日の翌日から起算して一年」と定めています。取消訴訟の起算点が「知った日から」であるのに対し、審査請求は「知った日の翌日から起算して」である点は、細かいですが択一で狙われるポイントです。
これらの期間を経過すると、もはや処分を争えなくなります。これが不可争力です。一方、無効な行政行為にはこの期間制限がありません。「処分から10年経っていても、無効なら争える」というのが決定的な違いです。
違い4|第三者への影響
取消しうべき行政行為には公定力があるため、処分の相手方だけでなく第三者も、その処分が有効であることを前提に行動しなければなりません。許可を受けた事業者と取引する取引先や、処分を前提に権利関係を組んだ者は、処分が有効であるという外観を信頼します。
これに対し無効な行政行為は、初めから効力がないため、第三者も当初から無効なものとして扱うことができます。逆に言えば、無効を広く認めると、処分を信頼した第三者が不測の損害を被ることになります。この点が、次に述べる「明白性」の要件が要求される理由につながります。
違い5|主張できる者と、争訟の結末
取消訴訟では、原告適格(処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者)が必要です。原告適格の詳細は原告適格の判断基準|法律上の利益を有する者とはを参照してください。
無効な行政行為については、取消手続を経ずに誰でも無効を主張できます。ただし、無効等確認訴訟という訴訟類型を使う場合には、行政事件訴訟法36条の原告適格の枠に服する点に注意が必要です(後述)。
また、取消訴訟には事情判決の制度があります。
取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。
― 行政事件訴訟法 第31条第1項
この31条は、行政事件訴訟法38条3項の準用規定に含まれていません。つまり、無効等確認訴訟には事情判決の制度がありません。無効な処分は初めから効力がなく、「取り消すことによる公益への障害」を観念できないからです。この対比は択一で問われることがあります。
なお、審査請求についても行政不服審査法45条3項が事情裁決を定めており、こちらは「違法又は不当」な処分が対象です。
実務的な使い分け|どちらを主張すべきか
受験生がよく迷うのが「無効と取消し、どちらを主張すべきか」です。実務的な思考順序は次のとおりです。
- 出訴期間内なら、まず取消訴訟。取消訴訟は瑕疵が重大明白でなくても違法でありさえすれば勝てるため、無効を主張するより勝訴のハードルが低いからです。
- 出訴期間を過ぎてしまったら、無効を主張するしかない。この場合は瑕疵が重大かつ明白であることまで主張・立証する必要があり、ハードルが上がります。
- 期間内であれば、取消訴訟と無効等確認訴訟を併合提起する(あるいは予備的に主張する)こともあり得ます。
つまり、無効の主張は「期間を過ぎた者の最後の砦」という位置づけです。この理解があると、なぜ判例が無効の要件を厳しく設定しているのか(安易に認めると出訴期間制度が骨抜きになる)が腑に落ちます。
無効な行政行為については公定力が認められないため、出訴期間の制限なくいつでもその無効を主張することができる。
重大明白説|無効と取消しを分ける判断基準
無効な行政行為と取消しうべき行政行為を区別する基準として、通説・判例は「重大明白説」を採用しています。ここは記述式で最も問われやすい部分です。
重大かつ明白とはどういうことか
重大明白説によれば、行政行為の瑕疵が重大かつ明白である場合に、その行政行為は無効となります。
- 重大性: 瑕疵が法律上の重要な要件に違反していること。些細な手続の欠落や軽微な事実誤認では足りません。
- 明白性: 瑕疵の存在が処分の外形上から一見して看取しうるほど明白であること。
両方の要件を満たすことが必要であり、瑕疵が重大であっても明白でなければ無効とはならず、取消しうべき行政行為にとどまります。逆に、明白であっても重大でなければ無効にはなりません。「かつ」であって「または」ではない、という点が択一の引っかけどころです。
なぜ「明白性」が要求されるのか(趣旨)
なぜ無効とするために「重大性」だけでなく「明白性」まで要求するのでしょうか。その趣旨は、第三者の信頼保護と法的安定性の確保にあります。
行政行為には公定力があり、相手方や第三者は、その処分が一応有効であることを前提に行動します(例えば、許可を受けた事業者と取引する第三者)。もし瑕疵が外形上明らかでないのに後から無効と扱われると、その処分を信頼して行動した第三者が不測の損害を被ります。そこで通説・判例は、瑕疵が処分の外形上一見して明らかである場合に限って無効を認めることで、外観を信頼した者の保護と法的安定を図っているのです。
もう一つの趣旨として、出訴期間制度の実効性の確保があります。無効が緩やかに認められると、出訴期間を経過した者が「あれは無効だった」と主張して蒸し返すことができてしまい、行政法関係を早期に確定させるという不可争力の趣旨が失われます。
この二つの趣旨の理解は、後述する「明白性の補充要件説」を理解する前提になります。明白性が信頼保護のための要件である以上、信頼保護の必要がない類型では明白性を要求しなくてもよい、という論理がつながるわけです。
重大明白説を定式化した判例|最判昭和34年9月22日
最高裁は、農地買収処分の無効が争われた事件で、無効原因となる瑕疵について次のように述べました。
重大かつ明白な瑕疵とは、処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大明白な瑕疵がある場合を指す。
― 最判昭和34年9月22日(民集13巻11号1426頁)
この事件は、農地買収計画に対して異議・訴願が提起されていたにもかかわらず、その決定・裁決を経ないまま手続が進められたという事案でした。最高裁は、そのような違法は取消事由にはなるが、当然無効の原因にはならないとして、無効の主張を退けています。
出題ポイント: この判例は「無効を認めた判例」ではなく「無効を否定した判例」です。手続に違法があっても、それだけで当然に無効になるわけではないことを示しています。判決は、無効原因となる重大明白な誤認の例として、農地でない土地を農地と誤認したような場合を挙げており、「処分の前提となる事実そのものを取り違えた」レベルの誤りが求められていることが読み取れます。
明白性はどう判断するか|最判昭和36年3月7日
明白性の判断方法について、最高裁は次のように判示しました。
行政処分の瑕疵が明白であるということは、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定の誤認であることが、処分成立の当初から、外形上、客観的に明白であることをさすものと解すべきである。
― 最判昭和36年3月7日(民集15巻3号381頁)
判決理由では、明白性の判断方法について「瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきものであつて」と述べられています。
出題ポイント: ここで押さえるべきは「外形上・客観的に」という判断方法と、「処分成立の当初から」という時点です。明白性は処分の外形を客観的に見て判断するものですから、当事者の内心や認識といった主観的な事情を基準に据える選択肢は、判例の枠組みに合いません。「相手方が瑕疵を知っていたから明白性が認められる」といった形の記述には警戒してください。また、明白性は処分成立の当初から備わっている必要があり、後になって明らかになったことは明白性を基礎づけません。
明白性を緩和する考え方|明白性補充要件説
通説の重大明白説に対し、明白性を常に必要とするのは妥当でないとする見解があります。これを明白性補充要件説といいます。明白性を独立の必須要件とせず、第三者の信頼保護の必要性が高い場合に限って補充的に考慮すればよい、という考え方です。
この考え方に親和的な判断を示したのが、課税処分の無効が争われた次の判例です。
最判昭和48年4月26日(課税処分と当然無効)
課税処分に課税要件の根幹に関する内容上の過誤が存し、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情のある場合には、当該処分は、当然無効と解するのが相当である。
― 最判昭和48年4月26日(民集27巻3号629頁)
事案は、実際には土地建物を所有したことがなく譲渡所得が全く発生していない者に対して、譲渡所得があるものとして課税処分がされたというものです。最高裁は、この処分について「譲渡所得の全くないところにこれがあるものとしてなされた点において、課税要件の根幹についての重大な過誤をおかした瑕疵を帯有する」と述べ、当然無効を認めました。
出題ポイント: 注目すべきは、この判旨に「明白」という言葉が出てこないことです。課税処分は課税庁と被課税者との間にのみ存在する関係であり、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要が乏しい類型です。前述のとおり明白性の要件は第三者の信頼保護を趣旨とするため、その必要が乏しい課税処分では、明白性を独立の要件として要求しなくても差し支えない、という論理になります。
ただし、この判例の射程については学説上の争いがあり、一般に明白性の要件が不要とされたわけではありません。「例外的事情のある場合」という限定が付されている点も含め、あくまで例外的な類型における判断であることに注意してください。「判例は明白性を不要とした」という趣旨の選択肢は誤りです。
無効・取消しの区別基準の整理
ここまでの区別基準を整理すると、次のようになります。
記述式で「無効と取消しの区別の基準を論ぜよ」と問われた場合は、まず重大明白説(重大かつ明白な瑕疵があれば無効)を中心に据え、余裕があれば例外的に明白性を緩和する判例があることに触れる、という構成が安全です。
行政行為の瑕疵が重大であっても明白でない場合、通説・判例(重大明白説)によれば、当該行政行為は無効とはならず取消しうべき行政行為にとどまる。
無効な行政行為の具体例|どんな瑕疵なら無効になるのか
「重大かつ明白」といわれても抽象的でイメージが湧きにくいものです。ここでは、どのような瑕疵が無効原因となりやすいかを、瑕疵の4類型に沿って具体的に整理します。
主体に関する瑕疵の具体例
主体の瑕疵は、処分の外形(誰が処分したか)から見えやすいため、明白性が認められやすく、無効となりやすい類型です。
- 権限のない行政庁がした処分: 法律がA大臣の権限としている処分を、B大臣が行った場合。
- 正当に組織されていない合議制機関の議決に基づく処分: 定足数を欠くなど、機関の構成自体に重大な欠陥がある場合。
- 公務員でない者がした処分: そもそも処分権限を持たない私人による「処分」は、無効を超えて不存在と評価される場合もあります。
内容に関する瑕疵の具体例
内容の瑕疵のうち、処分の前提事実そのものを取り違えたケースは、重大明白と評価されやすい典型例です。
- 人違いの処分: 全く別人を名宛人としてなされた処分。
- 物違いの処分: 課税や収用の対象となる土地・建物を取り違えた処分。
- 実現不可能な内容の処分: 存在しない土地を対象とする処分、法律上不可能な義務を課す処分。
- 課税要件の根幹に関する重大な過誤: 所得が全く発生していないのに所得があるものとしてなされた課税処分(最判昭和48年4月26日)。
- 内容が不明確な処分: 何を命じられているのか特定できない処分。
手続・形式に関する瑕疵の具体例
手続・形式の瑕疵は、原則として取消事由にとどまるとされます。外形からは瑕疵が見えにくく、明白性を欠くことが多いためです。もっとも、手続の欠落が制度の根幹に関わる場合には無効原因となり得ると解されています。
- 法律が要求する書面によらずに口頭でなされた処分
- 相手方への告知・通知が全くなされていない処分
- 法律が必要的とする諮問手続を全く経ていない処分
一方で、聴聞や理由の提示(行政手続法の全体像|申請・不利益処分・行政指導の手続、不利益処分と聴聞・弁明の機会の付与を参照)を欠いた処分は、判例上は取消事由として扱われるのが基本線です。
無効になりにくい例(対比で覚える)
無効の具体例だけを覚えると、「違法=無効」と誤解しがちです。次の例と対比して覚えてください。
暗記のコツ: 「中身を取り違えたら無効に近づき、手続を間違えたら取消しにとどまる」という方向感でまず整理し、そのうえで例外(課税処分の昭和48年判例)を足すと、択一で迷いにくくなります。
取消しうべき行政行為
取消しの意義
取消しとは、瑕疵のある行政行為について、その瑕疵を理由として行政行為の効力を遡及的に消滅させることをいいます。
取消しには以下の二つの種類があります。
- 争訟取消し: 取消訴訟や審査請求による取消し。国民の側からの取消請求
- 職権取消し: 行政庁自らが行う取消し。行政庁の側からの取消し
争訟取消し
争訟取消しは、取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)または審査請求(行政不服審査法2条)によって行われます。
行政庁の処分に不服がある者は、第四条及び第五条第二項の定めるところにより、審査請求をすることができる。
― 行政不服審査法 第2条
取消訴訟の要件は以下のとおりです。
- 処分性: 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為であること
- 原告適格: 処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者であること
- 狭義の訴えの利益: 処分の取消しによって回復すべき法律上の利益があること
- 出訴期間: 処分があったことを知った日から6か月以内、処分の日から1年以内(行政事件訴訟法14条1項・2項)
この出訴期間を経過すると、もはや取消訴訟で争うことができなくなります。これが不可争力です。瑕疵が取消原因にとどまる限り、出訴期間経過後はその瑕疵を理由に処分の効力を否定できなくなる点が、無効な行政行為(出訴期間の制限なし)との決定的な違いです。訴えの利益については訴えの利益|狭義の訴えの利益の判断枠組みもあわせて確認しておきましょう。
職権取消し
職権取消しとは、処分庁又はその上級行政庁が、瑕疵ある行政行為を自らの判断で取り消すことをいいます。
職権取消しには一般法上の明文規定はありませんが、行政庁の権限として当然に認められると解されています。その根拠は、違法・不当な状態を是正して法律による行政の原理を回復することにあります。瑕疵ある行政行為を放置することは、法治主義の観点から望ましくないため、処分庁は明文の根拠がなくても自ら是正できると考えられているのです。法律による行政の原理そのものは法律による行政の原理|法律の留保・優位を整理で扱っています。
ただし、職権取消しの行使にも一定の制約があります。特に、授益的行政行為(国民に利益を与える行政行為)の職権取消しについては、国民の信頼保護の観点から制限が課されると解されています。
整理すると、職権取消しの制限は行政行為の性質によって次のように異なります。
侵害的行政行為の職権取消しは相手方にとって利益になるため自由に行えるのに対し、授益的行政行為の職権取消しは相手方の不利益になるため制限される、という対比を押さえておきましょう。判断枠組みは、取消しによって相手方が失う利益と、取消しをしないことによって損なわれる公益とを比較衡量するというものです。
取消しと撤回の区別
行政行為の「取消し」と「撤回」は明確に区別される概念です。
撤回の具体例:
- 法令違反を理由とする営業許可の取消し(講学上は「撤回」)
- 公益上の必要による許可の取消し
法律の条文上は「取消し」と表記されていても、講学上は「撤回」に該当するものが多いことに注意が必要です。例えば、食品衛生法に基づく営業許可の「取消し」は、成立後の法令違反を理由とするものであり、講学上は「撤回」です。この論点は取消しと撤回の違い|行政行為の効力消滅を整理でさらに詳しく扱っています。
撤回権の制限と法的根拠
撤回についても、いくつか重要な論点があります。
第一に、撤回の法的根拠の要否です。判例は、法律に撤回の明文規定がなくても、撤回の必要性が高い場合には法律の根拠なく撤回できるとしています。最判昭和63年6月17日(菊田医師事件・優生保護法指定医師指定取消事件)は、医師がいわゆる実子あっせん行為を行い指定医師としての適格性を欠くに至った事案で、次のように判示しました。
法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができるというべきである。
― 最判昭和63年6月17日(菊田医師事件)
判決は、撤回によって医師が被る不利益を考慮してもなお、指定を撤回すべき公益上の必要性が高いと認められることを理由としています。
出題ポイント: 「明文の根拠がなければ撤回できない」という選択肢は誤りです。ただし、「常に自由に撤回できる」わけでもなく、撤回によって相手方が被る不利益を上回る公益上の必要性が求められる点まで押さえてください。
第二に、撤回に伴う損失補償の問題があります。授益的行政行為の撤回によって相手方が既得の権利・利益を失う場合、損失補償が必要になることがあります。ただし、相手方の側に帰責事由(法令違反など)がある場合には補償は不要とされるのが原則です。損失補償の一般論は損失補償|正当な補償の意味と要否の判断を参照してください。
行政行為の「取消し」とは、成立後に生じた事由により将来に向かって効力を消滅させることをいう。
無効な行政行為の争い方
無効の意義
無効な行政行為とは、瑕疵が重大かつ明白であるために、初めから法律上の効力を有しない行政行為をいいます。
無効な行政行為の特徴は以下のとおりです。
- 公定力がない: 何人も、取消手続を経ることなくその無効を主張できる
- 不可争力がない: 出訴期間の制限なく、いつでも無効を主張できる
- 争い方が多様: 無効等確認訴訟(行政事件訴訟法36条)のほか、当事者訴訟、民事訴訟でも無効を主張できる
無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。
― 行政事件訴訟法 第36条
無効等確認訴訟の補充性
行政事件訴訟法36条の条文は読みにくいことで有名ですが、ここから読み取るべきは「補充性」の要件です。すなわち、無効等確認訴訟は、「現在の法律関係に関する訴え(当事者訴訟・民事訴訟)によって目的を達することができないもの」に限って提起できる、という補充性が原則とされます。
つまり、無効な行政行為を前提とする現在の法律関係を争う訴え(例:課税処分が無効であることを前提とした、納付した税金の返還を求める訴え)で目的を達せるならば、そちらを使うべきで、無効等確認訴訟は補充的にしか使えないのが原則です。条文の主体的要件としては、次の二つの類型が定められています。
- 予防的無効確認訴訟: 当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者
- 補充的無効確認訴訟: 現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない者
このうち1の類型については、現在の法律関係に関する訴えとの補充性が緩やかに解される傾向があります。
なお、公法上の当事者訴訟としての確認の訴えが活用されるようになると、無効等確認訴訟の補充性要件の運用にも影響を与えます。最大判平成17年9月14日(在外日本人選挙権訴訟・民集59巻7号2087頁)は、在外国民が次回の選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認を求める訴えを、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法と認めました。確認訴訟の受け皿が広がるほど、無効等確認訴訟の出番は絞られることになります。
無効等確認訴訟に準用されない規定
無効等確認訴訟は、取消訴訟の規定のすべてが準用されるわけではありません。行政事件訴訟法38条が準用関係を定めており、試験対策としては「準用されないもの」を押さえるのが効率的です。
- 出訴期間(14条)は準用されない → いつでも提起できる
- 事情判決(31条)は準用されない → 事情判決はあり得ない
- 審査請求前置(8条)は準用されない → 不服申立ての前置は要求されない
- 執行停止(25条〜29条)は準用される(38条3項)
「無効等確認訴訟にも出訴期間がある」「無効等確認訴訟でも事情判決ができる」といった選択肢は誤りです。
違法性の承継|先行行為の瑕疵を後行行為で主張できるか
違法性の承継(瑕疵の承継)とは、先行する行政行為の違法を、後続する行政行為の取消訴訟において主張できるかという問題です。行政書士試験で近年出題が増えている論点であり、独立して理解しておく価値があります。
なぜ問題になるのか
典型的な場面はこうです。Aという処分がされ、次いでそれを前提にBという処分がされたとします。Aの出訴期間はすでに経過してしまいました。この状態で、Bの取消訴訟において「そもそもAが違法だったのだからBも違法だ」と主張できるでしょうか。
これを認めると、Aについて生じた不可争力(出訴期間経過により争えなくなる効果)が実質的に無意味になります。他方でこれを一切認めないと、Aの段階では自分が不利益を受けることに気づけなかった者が、救済の機会を失うことになります。この緊張関係を調整するのが違法性の承継の議論です。
原則は「承継されない」
原則として、先行行為と後行行為が別個独立の行政行為である場合、先行行為の違法は後行行為に承継されません。 先行行為に不服がある場合は、先行行為自体を出訴期間内に争うべきだからです。
この原則の背後には、先行行為に不可争力が生じている場合に後行行為の段階で瑕疵を蒸し返すことを許すと、出訴期間制度や不可争力の趣旨が没却される、という考え方があります。
例外的に承継が認められる場合
しかし、先行行為と後行行為が連続した一連の手続を構成し、先行行為の適否を独立して争わせることが不合理な場合には、例外的に違法性の承継が認められます。判断の決め手は、次の二つの観点です。
- 実体的観点: 先行行為と後行行為が結合して一つの効果の実現を目指しているか
- 手続的観点: 先行行為の段階で、争訟手続上の不服申立ての機会が実質的に保障されていたか
最判平成21年12月17日(安全認定と建築確認)
この枠組みを示したのが、東京都建築安全条例に基づく安全認定と建築確認の関係が争われた事件です。
同条例4条1項は、建築物の敷地が道路に一定以上接することを求めていますが、同条3項は、知事が周囲の状況等から安全上支障がないと認めて安全認定をした場合には1項を適用しないと定めていました。近隣住民が、安全認定を争わないまま建築確認の取消訴訟を提起し、その中で安全認定の違法を主張した、という事案です。
安全認定が行われた上で建築確認がされている場合、安全認定が取り消されていなくても、建築確認の取消訴訟において、安全認定が違法であるために本件条例…に違反するものであることを主張することができる。
― 最判平成21年12月17日(民集63巻10号2631頁)
最高裁は、①安全認定と建築確認が結合して一つの効果(建築規制の緩和とその実現)を目指すものであること、②安全認定は建築確認と異なり周辺住民に個別の通知がされる仕組みになっておらず、住民が安全認定の存在を知って争う機会が実質的に保障されていなかったことを考慮しています。
出題ポイント: 「結合して一つの効果」という実体面だけでなく、「先行行為を争う機会が保障されていたか」という手続面を挙げた点が、この判決の核心です。手続保障の観点を落とすと記述式で減点されます。
承継が認められない典型例
違法性の承継が否定される典型例として、租税の賦課処分(課税処分)とその後の滞納処分(差押え等)の関係があります。課税処分は納税義務を確定させる行為、滞納処分は確定した義務を強制的に実現する行為であり、それぞれ別個の目的・効果を持ちます。そのため、課税処分の違法を滞納処分の段階で主張することは原則として認められません。
同様に、土地収用における事業認定と収用裁決についても、承継を否定するのが伝統的な理解です(ただし学説上は争いがあります)。
承継の肯否を判断する観点を整理すると次のとおりです。
「無効」との関係
なお、先行行為の瑕疵が無効原因にまで達している場合には、そもそも承継の議論をするまでもありません。先行行為が無効であれば効力がなく、それを前提とする後行行為も当然に違法(あるいは無効)となるからです。承継が問題になるのは、先行行為の瑕疵が取消事由にとどまる場合であることを押さえておきましょう。
先行する行政行為の違法は、原則として後続の行政行為に承継され、後続行為の取消訴訟において先行行為の違法を主張することができる。
瑕疵の治癒|後から瑕疵がなくなる場合
瑕疵の治癒とは
瑕疵の治癒とは、行政行為に瑕疵があったが、その後の事情の変化により瑕疵が問題とならなくなり、当初から適法であったものとして扱うことをいいます。
瑕疵ある行政行為であっても、これを取り消してやり直させることが当事者にとって無意味な場合や、かえって法的安定を害する場合には、行政経済(無駄な手続のやり直しを避ける)の観点から、その効力を維持する考え方です。
具体例: 招集手続に瑕疵のある会議体の議決について、構成員全員が出席し異議なく議決した場合。全員が出席して審議している以上、招集手続をやり直しても結論は変わらないため、瑕疵を問題としない扱いが正当化されます。
瑕疵の治癒が認められない場合|最判昭和47年12月5日
判例は、瑕疵の治癒に一般的に慎重な態度をとっています。特に重要なのが、青色申告に係る更正処分の理由附記の不備が問題となった次の判例です。
青色申告についてした更正処分における理由附記の不備の缺疵は、同処分に対する審査裁決において処分理由が明らかにされた場合であつても、治癒されないと解すべきである。
― 最判昭和47年12月5日(民集26巻10号1795頁)
判決理由では、次のように述べられています。
処分庁と異なる機関の行為により附記理由不備の瑕疵が治癒されるとすることは、処分そのものの慎重、合理性を確保する目的にそわないばかりでなく、処分の相手方としても、審査裁決によつてはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない。
― 最判昭和47年12月5日
出題ポイント: 理由附記(理由の提示)の制度趣旨は、①行政庁の判断の慎重・合理性を担保すること、②相手方に不服申立ての便宜を与えることの二つです。事後の裁決で理由が明らかにされても、①は処分庁自身の慎重さを担保しませんし、②はすでに手遅れです。だから治癒されない、という論理を押さえてください。理由提示の制度は現在では行政手続法8条(申請拒否処分)・14条(不利益処分)に明文化されており、行政手続法の全体像|申請・不利益処分・行政指導の手続とあわせて理解すると効果的です。
治癒が認められやすい場合・否定される場合
瑕疵の治癒は、どのような瑕疵についても一律に認められる・認められないというものではありません。判例・通説の傾向を整理すると次のとおりです。
なお、瑕疵の治癒は法的安定性を重視する考え方であるため、安易に拡大すると手続規制の意義が失われます。そのため判例は、手続の趣旨を個別に検討して治癒の可否を判断しています。「軽微な瑕疵は治癒されうるが、重要な手続の瑕疵は治癒されない」という方向感を押さえておきましょう。
違法行為の転換|別の行政行為として読み替える
違法行為の転換とは
違法行為の転換とは、ある行政行為が本来意図された行為としては違法であるが、別の行政行為としての要件を満たしている場合に、その別の行政行為として有効と扱うことをいいます。これも瑕疵ある行政行為を維持する法理の一つで、行政経済の観点から認められます。
具体例: ある法律に基づく買収処分として行われた処分に、その法律上は違法な点があるが、別の法律に基づく買収処分としての要件はすべて満たしている場合に、後者の処分として有効と扱う、といったケースが学説上の設例として挙げられます。
転換が認められるための要件
違法行為の転換については、法律による行政の原理との緊張関係があり、安易に認めるべきではないとされています。転換が認められるための要件として、以下のものが挙げられます。
- 転換先の行政行為の要件を満たしていること
- 転換により国民の権利利益が害されないこと
- 転換を認めることが法律の趣旨に反しないこと
- 転換前と転換後の行為が同一の目的・効果を持つこと
判例上、違法行為の転換が明示的に認められた例は極めて限定的であり、学説上も批判が強い法理です。試験対策としては、定義と、瑕疵の治癒との違いを正確に押さえておけば十分です。
瑕疵の治癒との違い
出題ポイント: 択一では、治癒と転換の定義を入れ替えた選択肢がよく出ます。「同じ行為のまま瑕疵が補われるのが治癒、別の行為に読み替えるのが転換」と一言で言えるようにしておきましょう。
よくある誤解と注意点
行政行為の瑕疵をめぐっては、受験生が混同しやすいポイントがいくつかあります。択一で狙われやすいので、ここで集中的に確認します。
誤解1:無効な行政行為には公定力があると考える
無効な行政行為には公定力はありません。公定力とは「権限ある機関が取り消すまで一応有効として扱われる」効力ですが、無効な行政行為は初めから効力がないため、誰でも取消手続を経ずに無効を主張できます。「公定力がない=取消訴訟を経る必要がない」という帰結まで結びつけて理解しましょう。行政行為の効力一般については行政行為の効力|公定力・不可争力・自力執行力を整理で扱います。
誤解2:明白性は相手方や行政庁の主観で判断すると考える
明白性は処分の外形上、客観的に判断します(最判昭和36年3月7日)。当事者の内心や認識といった主観的事情を基準に据える選択肢は、判例の枠組みに合いません。また、明白性は「処分成立の当初から」外形上客観的に明白であることを要する点も押さえてください。
誤解3:取消しと撤回を条文の文言どおりに考える
法律の条文上「取消し」と書かれていても、講学上は「撤回」であることが多々あります。判断の決め手は「瑕疵が成立時に存在したか(取消し)、成立後に生じたか(撤回)」です。文言ではなく実質で判断する習慣をつけましょう。
誤解4:手続的瑕疵は常に治癒されると考える
手続的瑕疵がすべて治癒されるわけではありません。むしろ理由附記のように、当事者の権利保護に直結する重要な手続の瑕疵は治癒が否定されます(最判昭和47年12月5日)。「軽微な瑕疵は治癒されうるが、重要な手続の瑕疵は治癒されない」という方向感を押さえてください。
誤解5:違法性の承継は原則として認められると考える
違法性の承継は原則否定が出発点です。例外的に、両行為が結合して一つの効果を生じ、かつ先行行為を争う機会が実質的に保障されていない場合に承継が認められます。原則・例外を逆にしないよう注意しましょう。
誤解6:判例は明白性の要件を不要としたと考える
最判昭和48年4月26日は、課税処分について「例外的事情のある場合」に当然無効を認めたものであり、明白性の要件を一般的に不要としたわけではありません。原則はあくまで重大明白説です。この点を過剰に一般化した選択肢は誤りです。
誤解7:無効等確認訴訟にも出訴期間があると考える
行政事件訴訟法38条は、出訴期間を定める14条を無効等確認訴訟に準用していません。無効等確認訴訟に出訴期間はなく、事情判決(31条)の準用もありません。一方で執行停止(25条〜29条)は準用されます。
試験での出題ポイント
行政行為の瑕疵に関する行政書士試験の出題ポイントを整理します。
- 無効と取消しの区別の基準: 重大明白説(通説・判例)の内容を正確に記述できるようにする。記述式で「無効な行政行為とは何か」「無効と取消しの区別の基準は何か」が問われた場合に、「瑕疵が重大かつ明白である場合に行政行為は無効となる」と書けるようにする
- 無効な行政行為の法的効果: 公定力・不可争力がないこと、出訴期間の制限なく争えること、無効等確認訴訟以外の方法でも争えることを理解する
- 重大明白説の定式: 「処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大明白な瑕疵がある場合」を無効原因とした最判昭和34年9月22日。この判決は無効を否定した事案である点まで押さえる
- 明白性の判断方法: 処分成立の当初から、外形上・客観的に誤認が一見看取し得るかで判断するとした最判昭和36年3月7日
- 明白性補充要件説: 課税処分について例外的事情がある場合に当然無効を認めた最判昭和48年4月26日。第三者の信頼保護の必要が乏しい類型であることが理由
- 取消しと撤回の区別: 取消しは成立時の瑕疵を理由に遡及的に効力を消滅させるもの、撤回は成立後の事由により将来に向かって効力を消滅させるもの。法律上の「取消し」が講学上は「撤回」であることが多い
- 職権取消しの制限: 授益的行政行為の職権取消しは信頼保護の観点から制限される。比較衡量論を理解する
- 撤回権の制限と法的根拠: 明文の根拠がなくても公益上の必要が高ければ撤回できるとした最判昭和63年6月17日(菊田医師事件)を押さえる
- 瑕疵の治癒に関する判例: 青色申告更正処分の理由附記の不備について治癒を認めなかった最判昭和47年12月5日は必須判例
- 違法性の承継: 原則否定・例外的に肯定という枠組みと、最判平成21年12月17日の判旨(結合して一つの効果+手続保障)を理解する。課税処分と滞納処分は承継否定の典型例
- 無効等確認訴訟の準用関係: 出訴期間(14条)・事情判決(31条)は準用されないが、執行停止(25条〜29条)は準用される
行政法全体の出題傾向は行政法の頻出テーマランキングで確認できます。
記述式での問われ方
記述式では、次のような角度で問われる可能性があります。
- 「行政行為が無効となるのはどのような場合か、その基準と効果を40字程度で述べよ」→「瑕疵が重大かつ明白な場合に無効となり、公定力・不可争力を生じず出訴期間の制限なく争える。」といった骨子で構成します。
- 「ある授益的処分を行政庁が職権で取り消すことができるか、その制限について述べよ」→比較衡量論(信頼保護と公益の比較)を中心に記述します。
- 「先行処分の違法を後続処分の取消訴訟で主張できるか」→違法性の承継の原則・例外と判断基準(結合して一つの効果を目指すか、先行行為を争う機会が保障されていたか)を記述します。
- 「出訴期間を経過した後に処分の効力を争う方法はあるか」→無効を主張する道があること、そのためには瑕疵が重大かつ明白である必要があることを書きます。
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行政行為の瑕疵が明白であるか否かは、処分の相手方がその瑕疵の存在を知っていたかどうかによって判断される。
法律に撤回についての明文の規定がない場合、行政庁は授益的行政行為を撤回することが一切できない。
まとめ
行政行為の瑕疵は、行政法の中でも最も重要な論点の一つです。要点を3つに絞って整理します。
1. 無効と取消しの違いは「重大かつ明白か」で決まる
瑕疵ある行政行為は「取消しうべき行政行為」と「無効な行政行為」に区分されます。通説・判例が採用する重大明白説によれば、瑕疵が重大かつ明白である場合に行政行為は無効となります(最判昭和34年9月22日、最判昭和36年3月7日)。明白性の要件は第三者の信頼保護と出訴期間制度の実効性を趣旨とするため、課税処分のように信頼保護の必要が乏しい類型では、例外的事情がある場合に明白性を要件とせず当然無効を認めた判例(最判昭和48年4月26日)もあります。
2. 無効な行政行為は、いつでも・どの訴訟でも・取消手続を経ずに争える
無効な行政行為には公定力・不可争力が認められず、出訴期間の制限なくいつでもその無効を主張できます。無効等確認訴訟のほか、当事者訴訟や民事訴訟(争点訴訟)でも主張できます。無効等確認訴訟には出訴期間(14条)も事情判決(31条)も準用されません。
3. 瑕疵をめぐる周辺法理は「原則と例外」で覚える
取消しと撤回の区別(成立時の瑕疵か成立後の事由か)、職権取消しの制限(授益的行政行為は比較衡量により制限)、撤回の法的根拠(明文がなくても公益上の必要が高ければ可能・最判昭和63年6月17日)、瑕疵の治癒(原則として慎重、理由附記の不備は治癒されない・最判昭和47年12月5日)、違法行為の転換(判例上は極めて限定的)、違法性の承継(原則否定・例外的に肯定・最判平成21年12月17日)。いずれも原則と例外の枠組みで整理すると定着します。
行政行為の瑕疵は、効力論・行政手続・行政争訟と縦横に結びつく結節点です。関連分野とあわせて学習することで理解が一段と深まります。
- 行政行為の効力|公定力・不可争力・自力執行力を整理
- 行政行為とは|定義・分類・効力の基礎
- 行政裁量|要件裁量・効果裁量と司法審査の限界
- 行政手続法の全体像|申請・不利益処分・行政指導の手続
- 行政事件訴訟法の基礎|取消訴訟を中心とした全体像
- 取消しと撤回の違い|行政行為の効力消滅を整理
よくある質問(FAQ)
Q1. 無効と取消し、どちらを主張すべきですか?
出訴期間内であれば、まず取消訴訟を検討してください。 取消訴訟は「違法であること」を示せば足りるのに対し、無効の主張は「瑕疵が重大かつ明白であること」まで求められ、ハードルが高いためです。無効の主張が意味を持つのは、主に出訴期間を経過してしまった場合です。期間内であれば、取消訴訟を本体とし、無効の主張を予備的に組み合わせるという構成もあり得ます。
Q2. 無効確認訴訟はいつ使うのですか?
処分が無効であることを前提に、その確認自体を求める必要がある場面で使います。ただし行政事件訴訟法36条により、現在の法律関係に関する訴え(当事者訴訟・民事訴訟)で目的を達せる場合には使えないという補充性の制約があります。例えば、無効な課税処分に基づいて納付した税金を取り戻したいだけなら、不当利得返還請求という民事訴訟で目的を達せるため、無効等確認訴訟は原則として使えません。一方、処分に続く後続処分によって損害を受けるおそれがある場合(予防的無効確認)は、比較的認められやすい類型です。
Q3. 公定力とは何ですか?
行政行為に瑕疵があっても、権限ある機関が取り消すまでは一応有効なものとして扱われる効力をいいます。実質的な根拠は、行政事件訴訟法が取消訴訟という特別の争訟制度を設けていること(取消訴訟の排他的管轄)に求められます。公定力があるため、取消訴訟を提起せずに処分の効力を否定することは原則としてできません。ただし、無効な行政行為には公定力がありません。また、公定力は「処分が適法である」ことを意味するものではなく、国家賠償請求において処分の違法を主張することは、取消訴訟を経ていなくても妨げられないと解されています(国家賠償法1条を徹底解説参照)。
Q4. 重大明白説の「明白」はどのくらい明白であればよいのですか?
判例によれば、処分成立の当初から、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得る程度である必要があります(最判昭和36年3月7日)。「調査すれば分かる」「専門家が精査すれば判明する」というレベルでは足りず、処分の外形を見ただけで誤りが分かるようなケースが想定されています。人違い・物違いのような、処分の前提事実そのものを取り違えた場合が典型です。
Q5. 手続に違法があった処分は無効になりますか?
原則として取消事由にとどまり、無効にはなりません。 手続の瑕疵は処分の外形から見えにくく、明白性の要件を満たしにくいためです。実際、最判昭和34年9月22日も、異議・訴願に対する決定・裁決を経ないまま手続を進めた違法について、取消事由にはなるが当然無効の原因にはならないとしています。もっとも、告知が全くされていないなど、手続の欠落が制度の根幹に関わる場合には無効原因となり得ると解されています。
Q6. 違法性の承継と瑕疵の治癒は何が違うのですか?
違法性の承継は「先行行為の違法を後行行為の取消訴訟で主張できるか」という、複数の行政行為の関係の問題です。これに対し瑕疵の治癒は「一つの行政行為の瑕疵が事後の事情で問題とならなくなるか」という、単一の行政行為の問題です。似た場面で登場しますが、扱っている対象がまったく違います。さらに違法行為の転換は「ある行政行為を別の行政行為として読み替えられるか」という問題であり、これも別物です。3つを混同しないよう、対象(複数の行為の関係/同一行為の瑕疵/行為の読み替え)で区別してください。
Q7. 取消訴訟の出訴期間を過ぎたら、もう何もできないのですか?
いくつか道は残っています。第一に、瑕疵が重大かつ明白であれば無効を主張できます(出訴期間の制限なし)。第二に、出訴期間の徒過について「正当な理由」があれば、行政事件訴訟法14条1項・2項ただし書により出訴が認められる余地があります。第三に、処分の取消しは求められなくても、国家賠償請求によって損害の填補を求める道があります。国家賠償請求は取消訴訟を経ていなくても提起できると解されています。第四に、行政庁による職権取消しを促すという事実上の手段もあります。
Q8. 「不当」な処分は取消訴訟で争えないのですか?
争えません。 取消訴訟で審理されるのは処分の違法性であり、法令には違反しないが妥当性を欠くにとどまる「不当」は、裁判所の審査対象になりません。不当を争いたい場合は、行政不服審査法に基づく審査請求によることになります。行政不服審査法1条1項が「違法又は不当な処分」と定めていることが根拠です。この「審査請求は不当まで争える/取消訴訟は違法のみ」という対比は、択一の頻出ポイントです(行政不服審査法の全体像参照)。
演習で定着させる
この論点は、取消しうべき瑕疵と無効な瑕疵の境界、重大明白説のあてはめが本試験で繰り返し問われます。読んで理解した状態と、肢の言い回しを変えられても正誤を判断できる状態のあいだには差があります。行政書士ブートラボの肢別演習は過去問を一問一答に分解して出題するため、その差をその場で潰していけます。行政法は法令科目のなかで最も出題数が多い科目なので、関連する論点をまとめて回すのが得点効率の面でも有利です。