(公開 2026/02/11) / 行政法

行政行為の取消しと撤回|違いを比較表で整理

行政行為の職権取消しと撤回の違いを比較表で徹底整理。成立時の瑕疵に基づく取消しと後発的事由に基づく撤回の区別、効果の違い(遡及効と将来効)、取消しの制限(信頼保護の原則)、撤回の制限(授益的処分)を解説します。

はじめに|取消しと撤回の区別が重要な理由

行政行為の「取消し」と「撤回」は、いずれも行政行為の効力を失わせる行為ですが、その法的な意味は大きく異なります。行政書士試験では、両者の区別が頻出であり、正確な理解が求められます。

日常用語では「取消し」も「撤回」もほぼ同じ意味で使われますが、行政法学上は以下のように厳密に区別されます。

  • 取消し(職権取消し): 行政行為の成立時に存在した瑕疵を理由に、その効力を失わせること
  • 撤回: 行政行為の成立時には瑕疵がなかったが、後発的な事由を理由に、その効力を失わせること

この区別は、単なる用語の使い分けではなく、効果(遡及効か将来効か)・法的根拠の要否・制限の内容といった具体的な法律効果の違いに直結します。両者を混同すると、行政行為論のほぼすべての論点で誤った結論を導いてしまうため、まずこの入口を正確に押さえることが学習の出発点となります。

行政行為の取消し・撤回は、行政行為の効力論(公定力・不可争力・不可変更力等)と並ぶ「行政行為総論」の中心テーマであり、択一式(5肢択一・多肢選択)で繰り返し出題されています。判例の射程や学説の対立がそのまま問われることも多く、暗記だけでなく「なぜそうなるのか」という制度趣旨の理解が得点に直結します。

本記事では、取消しと撤回のそれぞれについて、その意義、効果、制限を詳しく解説し、比較表で整理します。あわせて、頻出判例の事案・判旨・意義、過去問で問われた角度、受験生が陥りやすい誤解についても深掘りしていきます。

行政行為の取消し・撤回の全体像

効力を失わせる4つの態様

行政行為の効力が失われる場面を整理すると、その原因と主体の組み合わせから次の4つに大別できます。

態様原因主体法学上の呼称争訟取消し成立時の瑕疵裁判所・審査庁取消し職権取消し成立時の瑕疵行政庁(処分庁・監督庁)取消し撤回後発的事由原則として処分庁撤回失効期限の到来・対象の消滅等(行為を要しない)失効

このうち本記事の中心は職権取消し撤回です。両者はいずれも「行政庁が自らの判断で行政行為の効力を失わせる」点で共通しますが、効力を失わせる原因が「成立時にあったのか(取消し)」「あとから生じたのか(撤回)」という時点の違いが決定的です。

「失効」との区別

撤回と混同しやすいものに「失効」があります。失効とは、行政庁の特別な意思表示を要することなく、一定の事実の発生によって行政行為の効力が当然に消滅することをいいます。たとえば、許可に付された期限の到来、許可の対象物の消滅(許可を受けた建物の滅失等)、相手方の死亡などです。

撤回は行政庁の積極的な意思表示(撤回行為)を必要とするのに対し、失効はそうした行為を要しない点で異なります。試験では「後発的事由による効力消滅=すべて撤回」と早合点しないよう、失効との区別も意識しておきましょう。

行政行為の職権取消し

職権取消しの意義

職権取消しとは、行政行為の成立当初から存在した瑕疵(違法又は不当)を理由として、行政庁がその行為の効力を失わせることです。

ここでの「取消し」は、裁判所が行う取消し(取消訴訟による取消し)とは区別されます。裁判所による取消しは「争訟取消し」と呼ばれ、行政庁自身が行う取消しは「職権取消し」と呼ばれます。

職権取消しの特徴

  • 原因: 行政行為の成立時に存在した瑕疵(違法又は不当)
  • 主体: 処分庁又は監督庁
  • 効果: 原則として遡及的に効力が消滅(遡及効)
  • 法的根拠: 法律の明文の根拠がなくても、行政庁の一般的権限として認められる

「違法」だけでなく「不当」も対象

職権取消しの原因となる瑕疵には、違法(法律違反)だけでなく不当(裁量権の行使が妥当を欠くこと)も含まれる点に注意が必要です。これは争訟取消しのうち、行政上の不服申立て(審査請求)と共通する特徴です。

一方、裁判所による取消訴訟では、原則として「違法」のみが審査対象であり、「不当」は司法審査の対象になりません(行政権と司法権の役割分担)。この「行政庁による取消し・審査請求は違法+不当、取消訴訟は違法のみ」という対比は、行政救済法とあわせて頻出の出題ポイントです。

職権取消しの効果(遡及効)

職権取消しは、行政行為の成立時に遡って効力を消滅させます(遡及効)。つまり、取り消された行政行為は「初めからなかったもの」として扱われます。

遡及効の具体例

営業許可に瑕疵があった場合に職権取消しがなされると、その営業許可は最初から存在しなかったものとして扱われます。したがって、取消し前に行われた営業活動は、法律上は無許可営業であったことになります。

ただし、遡及効を厳格に貫くと関係者に予測不可能な不利益を与えることがあるため、実務上は信頼保護の観点から遡及効を制限する場合もあります。授益的行政行為の取消しでは、遡及効そのものを将来に向かってのみ生じさせる(実質的に撤回に近い扱いをする)といった配慮がなされることもあります。

なぜ法律の根拠が不要なのか(制度趣旨)

職権取消しに法律の明文の根拠が不要とされる理由は、「違法・不当な行政行為を是正することは、適法・適正な行政の回復という法治主義の要請そのものであり、行政庁の本来的職責に含まれる」と説明されます。瑕疵ある行為を放置することは法秩序に反するため、その是正のために改めて授権規定を要しないと考えるわけです。

これに対し、後述する撤回は「適法に成立した行為」の効力を奪うものであり、相手方の地位や信頼を侵害する度合いが大きいため、法律の根拠の要否について争いが生じます。この「取消し=根拠不要、撤回=根拠の要否に争い」という非対称が、両者の法的性質の違いを端的に表しています。

職権取消しの権限を有する者

処分庁

行政行為を行った行政庁(処分庁)は、自ら行った行政行為を職権で取り消す権限を有します。法律上の明文の根拠がなくても、この権限は行政行為を行う権限に当然に含まれると解されています。

監督庁(上級行政庁)

処分庁の上級行政庁(監督庁)も、法律上の根拠なしに下級行政庁の行政行為を取り消す権限を有するかについては、学説上争いがあります。

多数説は、上級行政庁は監督権の一環として下級行政庁の行政行為を取り消す権限を有すると解しています。ただし、法律が処分庁に専属的な権限を与えている場合には、上級行政庁であっても取り消すことはできないとされています。

なお、これは行政組織内部の指揮監督関係に関する議論であり、上級行政庁が下級行政庁に「取り消すよう命じる(指揮監督権の行使)」ことができるのは比較的争いが少ない一方、上級行政庁が「自ら直接取り消す」ことができるかは別問題として議論されます。

不可変更力との関係

行政行為のなかには、その性質上、処分庁自身が自由に職権取消しをすることができないものがあります。代表例が、審査請求の裁決などの争訟裁断行為です。これらは紛争を終局的に解決する作用であるため、いったん下した判断を行政庁自ら覆すことは許されません。これを不可変更力(自縛力)といいます。

つまり、職権取消しの権限は無制限ではなく、不可変更力が生じる争訟裁断行為については、たとえ瑕疵があっても処分庁による職権取消しが制限されます。職権取消しの制限と並んで押さえておきたい論点です。

行政行為の撤回

撤回の意義

撤回とは、行政行為の成立当初は適法かつ有効であったものが、後発的な事由(事情の変更、義務違反等)により、その効力を将来に向かって失わせることです。

撤回の特徴

  • 原因: 行政行為の成立後に生じた後発的事由
  • 主体: 原則として処分庁(監督庁については争いあり)
  • 効果: 原則として将来に向かって効力が消滅(将来効)
  • 法的根拠: 法律の根拠が必要かについて学説に争いあり

撤回権者は誰か(処分庁に限られる)

撤回の主体は、原則として処分庁に限られると解されています。撤回は、適法に成立した行政行為について、後発的な事情を踏まえて公益との調整を図る判断であり、行政行為を行った処分庁が最もその判断にふさわしいと考えられるためです。

職権取消しでは監督庁も主体になりうる(多数説)のに対し、撤回は監督庁が当然にはできないと解される点が、両者の違いとして問われることがあります。

撤回に法律の根拠は必要か

撤回に法律の根拠が必要かについては学説の対立がありますが、判例は授益的行政行為であっても、法律に明文の撤回規定がなくても、撤回を必要とする公益上の理由があれば撤回しうるという立場を示しています。後掲の最判昭和63年6月17日(菊田医師事件)がこの点に関する重要判例です。

したがって、「撤回には常に法律上の明文の根拠が必要である」という記述は誤りであり、頻出の引っかけポイントです。

後発的事由の具体例

撤回の原因となる後発的事由には、以下のようなものがあります。

  1. 法令上の要件の喪失: 許可の条件を満たさなくなった場合(例: 欠格事由に該当した)
  2. 義務違反: 許可に付された条件に違反した場合
  3. 公益上の必要: 社会状況の変化により、行政行為の存続が公益に反するようになった場合
  4. 相手方の申出: 行政行為の相手方自身が撤回を求めた場合

撤回の効果(将来効)

撤回は、原則として将来に向かって効力を消滅させます(将来効)。つまり、撤回がなされるまでの間、行政行為は有効に存在していたものとして扱われます。

将来効の具体例

営業許可が撤回された場合、撤回前に行われた営業活動は適法な営業活動として扱われます。撤回の時点から先についてのみ、営業許可がないことになります。

取消しと撤回の比較

比較表

比較項目職権取消し撤回原因成立時の瑕疵(違法・不当)後発的事由(事情変更・義務違反等)効果遡及効(行政行為時に遡及)将来効(撤回時以降に向かって)法的根拠法律の根拠なしに可能法律の根拠の要否に争いあり(判例は不要としうる)行為の性質成立時から瑕疵ある行為の是正適法に成立した行為の将来的消滅行使の主体処分庁・監督庁原則として処分庁のみ共通の制限授益的行為では信頼保護・比較衡量による制限授益的行為では制限・補償の問題

共通点も押さえる

取消しと撤回は対比して覚えることが多いですが、共通点も整理しておくと理解が深まります。

  • いずれも行政庁が一方的に行う行政行為である(それ自体が処分性を持ちうる)。
  • いずれも授益的行政行為については相手方の信頼保護の観点から制限される。
  • いずれも、相手方に不利益を及ぼす場合には行政手続法上の不利益処分に該当しうる。
  • いずれも、相手方はその取消し・撤回を処分として争うことができる(審査請求・取消訴訟の対象になりうる)。

「対比=相違点」だけに偏らず、共通の枠組みのなかで違いを位置づけると、応用問題にも対応しやすくなります。

用語の注意点

実定法上は、「取消し」と「撤回」の用語が必ずしも行政法学上の用法と一致しません。例えば、運転免許の「取消し」(道路交通法103条)は、免許取得後の違反行為(後発的事由)を理由とするものであり、行政法学上は「撤回」に該当します。

同様に、生活保護の「廃止」、許可の「取消し」など、実定法の表現は多様です。条文上「取消し」と書かれていても、その実質的な原因が後発的事由であれば、行政法学上は撤回として扱う、というのが理解の核心です。

試験では、法律上の用語と行政法学上の概念を区別して理解することが重要です。問題文が「○○法上の取消し」という形で具体的な制度を示してきた場合は、その原因(成立時の瑕疵か後発的事由か)に着目して、学問上どちらに当たるかを判断しましょう。

取消しの制限

信頼保護の原則による制限

職権取消しは行政行為を遡及的に消滅させるものですが、行政行為の相手方がその効力を信頼し、それを前提に生活や事業を営んでいる場合、無制限に取消しを認めると信頼を裏切ることになります。

そこで、信頼保護の原則(信義則の一適用場面)により、職権取消しには一定の制限が課されます。

侵害的行為と授益的行為で扱いが違う

職権取消しの可否は、対象となる行政行為が侵害的(負担的)か授益的かで大きく異なります。

  • 侵害的行政行為(相手方に義務を課し、権利を制限する行為。例: 課税処分、各種命令)の職権取消しは、相手方の不利益を除去し利益を回復させるものであるため、原則として自由に取り消すことができる。信頼保護による制限は基本的に問題になりません。
  • 授益的行政行為(相手方に権利・利益を与える行為。例: 許可、認可、給付決定)の職権取消しは、相手方の既得の地位・信頼を奪うため、比較衡量による制限を受けます。

この「侵害的=原則自由、授益的=制限あり」という対比は、取消し・撤回の両方に共通する重要な軸です。

取消しの制限が問題となる場面

特に問題となるのは、授益的行政行為(相手方に利益を与える行政行為)の職権取消しです。

  • 営業許可の取消し
  • 年金受給権の認定の取消し
  • 補助金交付決定の取消し

これらの場合、相手方は行政行為を信頼して一定の行動をとっているため、その信頼を保護する必要があります。

判例の立場

最判昭和43年11月7日(農地買収計画取消事件)

行政行為の取消しは、行政行為の成立に瑕疵がある場合に、その効力を遡及的に消滅させるものであるが、授益的行政行為の取消しについては、これにより相手方が被る不利益と、取消しによって実現される公益とを比較衡量し、取消しの適否を判断しなければならない。
― 最判昭和43年11月7日(農地買収計画取消事件)

この判例は、授益的行政行為の職権取消しについて、相手方の不利益と公益の比較衡量を求めています。

関連判例|生活保護費の遡及的取消し

授益的処分の取消しの制限に関連して、給付行政の場面でも重要な判例があります。一般に、生活保護の開始決定や給付決定に瑕疵があった場合でも、受給者の信頼や生活の実態を踏まえ、遡及的な取消し・返還には慎重な配慮が求められると理解されています。試験では、授益的処分の取消しは「比較衡量」というキーワードで判断する、という枠組みを押さえておけば足ります。

取消しの制限の考慮要素

授益的行政行為の職権取消しの可否を判断する際には、以下の要素が考慮されます。

  1. 瑕疵の重大性: 瑕疵が重大であるほど取消しは認められやすい
  2. 相手方の帰責性: 瑕疵が相手方の詐欺・虚偽申請等に起因する場合は取消しが認められやすい
  3. 相手方の信頼の正当性: 瑕疵の存在を知らなかった場合は信頼保護の要請が強い
  4. 取消しにより実現される公益: 公益上の必要性が高いほど取消しが認められやすい
  5. 時間の経過: 処分から長期間が経過しているほど取消しは制限される方向に作用

ポイントは、相手方に帰責性(不正取得・詐欺・偽りの申請等)がある場合は、信頼保護の要請が弱まり、取消しが広く認められるという方向性です。逆に、行政側のミスによる瑕疵で、相手方が善意・無過失でこれを信頼していた場合は、取消しが制限されやすくなります。

撤回の制限

授益的行政行為の撤回の制限

撤回は、適法に成立した行政行為の効力を将来に向かって消滅させるものです。授益的行政行為の撤回は、相手方が適法に取得した利益を奪うことになるため、一定の制限が課されます。

撤回が認められる場合

  1. 法令上の根拠がある場合: 法律が撤回事由を明示している場合(例: 免許取消事由を法定)
  2. 相手方の義務違反がある場合: 許可条件への違反等
  3. 公益上の必要がある場合: ただし、相手方に対する補償の問題が生じる
  4. 相手方が撤回に同意している場合

重要判例|菊田医師事件

撤回権の制限に関する最重要判例が、いわゆる菊田医師事件です。優生保護法(当時)に基づく指定医師の指定を受けた医師が、その指定の趣旨に反する行為(実子あっせん)を行ったことを理由に、指定が撤回された事案です。

最判昭和63年6月17日(菊田医師事件)

指定医師の指定の撤回によって上告人の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができる。
― 最判昭和63年6月17日(菊田医師事件)

事案の要点: 指定医師が法の予定しない実子あっせん行為を反復したため、医師会が指定を撤回した。

判旨の意義: ① 撤回について法令上の明文の規定がなくても、撤回を必要とする公益上の必要性が高ければ、処分庁は撤回できること、② ただしその判断にあたっては相手方が被る不利益と撤回すべき公益上の必要性とを比較衡量することを示した点に意義があります。撤回についても、取消しと同様の比較衡量の枠組みが妥当することを明らかにした判例として、繰り返し出題されています。

補償の問題

授益的行政行為の撤回が公益上の必要から行われた場合、相手方の損失に対する補償が必要かという問題があります。

相手方に帰責事由がなく、もっぱら公益上の理由で撤回が行われた場合には、相手方に生じた損失に対して損失補償が必要と解される場合があります。これは、特定の個人に特別の犠牲を課すことになるためです。

一方、相手方の義務違反を理由とする撤回の場合には、補償は不要です。

この「帰責性なし+公益目的の撤回=補償あり/義務違反による撤回=補償なし」という対応関係が、撤回と損失補償をつなぐ論点として問われます。なお、菊田医師事件は相手方の行為(義務違反的な行為)が撤回原因であったため、補償が問題となる場面ではない、という整理も押さえておきましょう。

不利益処分としての取消し・撤回と行政手続法

行政手続法との関係

職権取消しや撤回が、相手方にとって不利益な効果をもたらす場合には、行政手続法上の不利益処分に該当し、聴聞又は弁明の機会の付与が必要となります。

特に、許認可等を取り消す場合には、聴聞の手続が必要です(行政手続法13条1項1号イ)。

行政手続法第13条第1項第1号イ
許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
― 行政手続法第13条第1項第1号イ

ここでいう「取り消す」には、行政法学上の「撤回」も含まれます。法律の用語として「取消し」と表記されていても、行政法学上は「撤回」に該当するもの(運転免許の取消し等)も、聴聞の対象となります。

聴聞と弁明の機会の使い分け

行政手続法上、不利益処分の手続は、その不利益の重大性に応じて聴聞弁明の機会の付与に分かれます。

手続対象となる主な処分方式聴聞許認可等の取消し(撤回含む)、資格・地位の直接剥奪、役員等の解任命令など重大な処分原則として口頭・対審的弁明の機会の付与上記以外の不利益処分(営業停止など)原則として書面

許認可等を「取り消す(撤回する)」処分は、相手方の地位を失わせる重大な不利益処分であるため、より手厚い聴聞の対象とされています。一方、一定期間の業務停止のような処分は、原則として弁明の機会の付与で足ります。この振り分けは、行政手続法分野の頻出論点であり、取消し・撤回の手続的側面として一体で押さえておくと効率的です。

無効な行政行為との関係

取消しと無効の違い

行政行為の瑕疵には、取消原因となる瑕疵と無効原因となる瑕疵があります。

比較項目取消しうべき行政行為無効な行政行為瑕疵の程度違法又は不当(軽微な瑕疵)重大かつ明白な瑕疵効力取消しまでは有効当初から無効争う方法取消訴訟(出訴期間の制限あり)無効等確認訴訟(出訴期間の制限なし)公定力ありなし不可争力あり(出訴期間経過で争えなくなる)なし(いつでも無効主張可)

「重大かつ明白」基準

行政行為が無効となるのは、その瑕疵が重大かつ明白な場合に限られるとするのが判例・通説です(重大明白説)。瑕疵が重大でも明白でない場合は、取消しうべき行政行為にとどまり、職権取消しや取消訴訟の対象となります。

職権取消しの議論は、あくまで「取消しうべき瑕疵(=有効に成立しているが取り消せる)」を前提としたものです。無効な行政行為は、そもそも初めから効力がないため、改めて「取り消す」必要がない、という関係を意識しておきましょう。

過去問・出題分析|どんな角度で問われるか

行政書士試験では、取消し・撤回は次のような切り口で繰り返し出題されています。

  • 原因と効果の対応: 「成立時の瑕疵=取消し=遡及効」「後発的事由=撤回=将来効」を入れ替える正誤問題。
  • 法的根拠の要否: 「撤回には常に法律の明文の根拠が必要」とする誤り肢(菊田医師事件の射程)。
  • 比較衡量の主体・場面: 授益的処分の取消し・撤回はいずれも比較衡量で判断されるという理解を問う。
  • 実定法用語とのズれ: 運転免許の「取消し」が学問上は撤回にあたる、という典型。
  • 手続法との接続: 許認可の取消し(撤回)には聴聞が必要、という横断問題。
  • 損失補償との接続: 公益目的・帰責性なしの撤回では補償が問題となる、という横断問題。

これらは単独の知識を問うだけでなく、行政手続法・行政救済法・損失補償と横断的に組み合わせて出題される傾向が強い分野です。取消し・撤回を「行政行為論の孤立した一項目」と捉えず、各分野の結節点として学ぶことが得点力につながります。

試験対策上の重要ポイント

頻出論点の整理

  1. 取消しの原因は成立時の瑕疵、撤回の原因は後発的事由
  2. 取消しの効果は遡及効、撤回の効果は将来効
  3. 職権取消しには法律の根拠不要。撤回も判例上、明文の根拠がなくても公益上の必要があれば可能
  4. 実定法の用語と行政法学上の概念の不一致: 「免許取消し」は行政法学上は「撤回」
  5. 授益的行政行為の取消し・撤回はいずれも比較衡量が必要(信頼保護の原則)
  6. 授益的行政行為の撤回には補償が必要な場合がある(帰責性なし+公益目的)
  7. 許認可等の取消し(撤回を含む)には聴聞が必要
  8. 侵害的行政行為の取消しは原則自由(信頼保護の問題が生じにくい)

よくある誤解の整理

  • 「職権取消しには法律上の根拠が必要である」→ 誤り(法律の根拠なしに可能とするのが通説・判例)
  • 「撤回には常に法律の明文の根拠が必要である」→ 誤り(菊田医師事件=明文なくても公益上の必要があれば可能)
  • 「撤回は行政行為の成立時に遡って効力を失わせる」→ 誤り(撤回は将来効。遡及効は取消し)
  • 「道路交通法上の運転免許の取消しは、行政法学上も取消しに該当する」→ 誤り(後発的事由に基づくため、行政法学上は撤回に該当)
  • 「授益的行政行為の取消しは信頼保護により一切できない」→ 誤り(比較衡量で公益が勝てば可能)
  • 「侵害的行政行為の取消しも信頼保護により制限される」→ 誤り(侵害的行為の取消しは相手方に有利であり原則自由)
  • 「撤回は監督庁も当然に行える」→ 誤り(撤回権者は原則として処分庁)

まとめ

行政行為の取消しと撤回は、行政法の基礎理論として最も重要なテーマの一つです。以下の点を正確に整理しておきましょう。

  • 取消しは成立時の瑕疵が原因、撤回は後発的事由が原因
  • 取消しは遡及効(行為時に遡る)、撤回は将来効(撤回時以降)
  • 職権取消しには法律の根拠は不要(通説)。撤回も判例上、明文の根拠がなくても公益上の必要があれば可能(菊田医師事件)
  • 授益的行政行為の取消し・撤回は、相手方の不利益と公益との比較衡量により制限される
  • 授益的行政行為の撤回では、帰責性がなく公益目的の場合に損失補償が問題となる
  • 侵害的行政行為の取消しは原則として自由
  • 実定法の「取消し」が行政法学上の「撤回」に該当することがある
  • 許認可等の取消し(撤回を含む)には聴聞が必要

比較表を用いて両者の違いを正確に記憶し、判例(農地買収計画取消事件・菊田医師事件)の立場を理解しておくことが合格への近道です。取消し・撤回は単独で完結せず、行政手続法や損失補償と接続して問われるため、横断的な視点で復習しておきましょう。

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確認問題

行政行為の職権取消しは、行政行為の成立後に生じた後発的事由を理由として、その効力を将来に向かって消滅させるものである。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
設問は「撤回」の説明です。職権取消しは、行政行為の「成立時に存在した瑕疵」を理由として、その効力を「遡及的に」消滅させるものです。後発的事由を理由に将来に向かって効力を消滅させるのは「撤回」です。
確認問題

道路交通法上の運転免許の「取消し」は、免許取得後の違反行為(後発的事由)を理由とするものであり、行政法学上は「撤回」に該当する。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
道路交通法上の運転免許の「取消し」は、免許取得後の交通違反等の後発的事由を理由に行われるものであるため、行政法学上は「取消し」ではなく「撤回」に分類されます。実定法の用語と行政法学上の概念が一致しない典型例です。
確認問題

授益的行政行為の職権取消しは、信頼保護の原則により一切認められない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
授益的行政行為の職権取消しは、信頼保護の原則により一定の制限を受けますが、「一切認められない」わけではありません。判例(最判昭和43年11月7日)は、相手方が被る不利益と取消しにより実現される公益を比較衡量して取消しの適否を判断すべきとしており、公益上の必要性が高い場合には取消しが認められます。
確認問題

授益的行政行為の撤回は、法令上その撤回について直接明文の規定がない限り、行うことができない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
判例(最判昭和63年6月17日・菊田医師事件)は、撤回によって相手方が被る不利益を考慮してもなお撤回を必要とする公益上の必要性が高いと認められる場合には、法令上明文の規定がなくても、処分の権限を付与されている行政庁は撤回をすることができるとしています。したがって「明文の規定がない限り撤回できない」とする本問は誤りです。
確認問題

相手方に課された義務の違反を理由として授益的行政行為が撤回された場合、行政庁は当然に相手方の損失を補償しなければならない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
損失補償が問題となるのは、相手方に帰責事由がなく、もっぱら公益上の理由から撤回が行われ、特定の者に特別の犠牲を課す場合です。相手方の義務違反を理由とする撤回の場合は、相手方に帰責性があるため、補償は不要と解されます。
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