仮の救済制度|執行停止・仮の義務付け・仮の差止めを比較
行政事件訴訟法の仮の救済制度(執行停止・仮の義務付け・仮の差止め)を比較表で解説。各制度の要件・効力の違いと、内閣総理大臣の異議の制度を行政書士試験の出題ポイントに沿って整理します。
結論|3つの仮の救済を「要件の重さ」の順に並べる
行政事件訴訟法の仮の救済は3つ。要件が軽い順に、執行停止 → 仮の義務付け・仮の差止めです。分かれ目は損害要件と本案要件の2つだけです。
大前提は執行不停止の原則(25条1項)。訴えを起こしただけでは処分は止まりません。そして3つとも、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあれば認められず(25条4項・37条の5第3項)、内閣総理大臣の異議(27条)が3制度すべてに及びます(37条の5第4項による準用)。
この記事は、上の表の「損害要件」の列——なぜ執行停止は「重大な損害」で足り、仮の義務付け・仮の差止めは「償うことのできない損害」まで要求されるのか——を最大の見どころとして解説します。あわせて、条番号が紛らわしい行政不服審査法25条(執行停止)と行政事件訴訟法25条(執行停止)の違いも条文ベースで整理します。
はじめに|仮の救済制度の重要性
行政事件訴訟は、判決が出るまでに長い時間がかかることがあります。その間に行政処分の効力が維持され続けると、原告に回復困難な損害が生じるおそれがあります。そこで行政事件訴訟法は、本案判決が出るまでの間、暫定的に原告の権利利益を保護するための仮の救済制度を設けています。
行政書士試験では、執行停止・仮の義務付け・仮の差止めの3つの仮の救済制度の要件の違いが頻出です。本記事では、各制度を比較しながら整理します。
仮の救済が問題になる場面をイメージしておくと、要件の違いが頭に入りやすくなります。たとえば、営業停止処分を受けた事業者が取消訴訟を起こしても、判決が出るのは1年以上先になることも珍しくありません。その間ずっと営業を止められていれば、勝訴判決が出る頃には事業が立ち行かなくなっている――こうした「本案で勝っても救済が間に合わない」事態を防ぐのが仮の救済の役割です。本案訴訟の結論を待たずに、暫定的・応急的に権利を守る「点滴」のような制度だと理解しておきましょう。
3つの制度は、いずれも「本案訴訟が係属していること」を前提とする付随的な手続です。本案訴訟と切り離して単独で仮の救済だけを求めることはできません。この点は、本案訴訟の類型(取消訴訟・義務付け訴訟・差止訴訟)と仮の救済が一対一で対応していることと併せて押さえておきましょう。本案訴訟の全体像は行政事件訴訟法の基本/訴訟類型と取消訴訟の要件で確認できます。
執行不停止の原則
行政事件訴訟法の大前提として、取消訴訟の提起は処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げません(第25条第1項)。これを執行不停止の原則といいます。
処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
― 行政事件訴訟法 第25条第1項
つまり、取消訴訟を提起しただけでは、処分は有効なまま執行されるのが原則です。この原則の例外として、仮の救済制度が用意されています。
執行不停止の原則を採る3つの理由
なぜ訴えを起こしても処分は止まらないのか。理由は3つに整理できます。
第1に、公定力との整合です。行政処分には公定力があり、たとえ違法であっても、権限ある機関が取り消すまでは適法・有効なものとして扱われます。訴えの提起という私人側の一方的な行為だけで効力が失われるとすれば、この公定力の建て付けと矛盾します。
第2に、濫訴の防止です。仮に「訴えを起こせば自動的に処分が止まる(執行停止の原則)」とすると、処分を止めること自体を目的とした訴訟提起を誘発します。営業停止処分を受けた者が、勝訴の見込みがなくても、とりあえず訴えを起こして営業を続けるといった事態が起きかねません。
第3に、行政活動の実効性の確保です。租税の徴収、違法建築物の是正、危険物の規制といった行政活動は、迅速に実現されてこそ意味があります。訴訟のたびに執行が止まれば、行政目的そのものが達成できなくなります。
もっとも、執行不停止を貫けば、勝訴判決が出る頃には権利が回復不能になっているという事態が生じます。そこで「原則は不停止。ただし裁判所が個別に判断して、必要な場合に限り停止できる」という折衷的な建て付けが採られました。これが25条2項以下の執行停止です。1項(原則)と2項(例外)の関係で条文を読む癖をつけてください。
なお、行政処分の効力(公定力・不可争力など)については行政行為の効力/公定力・不可争力を完全解説も参照すると理解が深まります。
執行不停止の原則は行政不服審査法にもある
執行不停止の原則は、行政不服審査法でも同じく採用されています。
審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
― 行政不服審査法 第25条第1項
行訴法25条1項が「処分の取消しの訴えの提起は」で始まるのに対し、行審法25条1項は「審査請求は」で始まる——主語が違うだけで、止まらないものは同じ「処分の効力、処分の執行又は手続の続行」です。両法とも25条1項が執行不停止の原則という点は、条番号ごと覚えてしまうのが得策です。
ただし、原則が同じでも、例外(執行停止)の中身は行訴法と行審法で大きく異なります。判断主体、職権の可否、義務的停止の有無、「その他の措置」の可否——いずれもズレがあり、択一の格好の素材になります。この違いは後述の「行政不服審査法25条の執行停止との違い」で条文を並べて詳しく扱います。行政不服審査法の枠組み自体は行政不服審査法の全体像/行政書士試験の重要論点を整理で確認できます。
執行停止(第25条)
制度の趣旨
執行停止は、取消訴訟の提起を前提として、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部を停止する制度です。本案である取消訴訟の判決が確定する前に、処分の執行によって原告に生じる損害を暫定的に食い止めることを目的とします。執行不停止の原則の例外として位置づけられる点をまず押さえてください。
要件
執行停止が認められるには、以下の要件が必要です。
積極要件:
- 取消訴訟が係属していること(本案訴訟の提起が前提)
- 重大な損害を避けるため緊急の必要があること(第25条第2項)
消極要件(認められない場合):
- 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき(第25条第4項)
- 本案について理由がないとみえるとき(第25条第4項)
条文を正確に確認しておきましょう。
処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
― 行政事件訴訟法 第25条第2項
この条文には、試験に必要な情報がほぼすべて詰まっています。分解すると次のとおりです。
なお、「執行停止」という語は、この25条2項が定義語として置いたものです(以下「執行停止」という)。行審法25条2項も同様に「執行停止」を定義していますが、後述のとおり行審法の「執行停止」には「その他の措置」が含まれるという決定的な違いがあります。同じ言葉でも中身が違う——ここが両法比較の出発点です。
執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない。
― 行政事件訴訟法 第25条第4項
要件の「積極/消極」を区別する意味
要件を「積極要件」と「消極要件」に分けて整理するのには理由があります。積極要件は、それを満たすことを申立人(原告)側が疎明しなければならない事項です。一方、消極要件は、それが存在すると執行停止が認められなくなる障害事由で、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」については行政側が主張・疎明するのが通常と解されています。本案の理由の有無は、執行停止段階での暫定的な見込みとして判断されます。試験では「要件を満たすことを誰が立証するか」という角度で問われることがあるため、積極要件=原告側、という対応関係を意識しておくと有利です。
「重大な損害」へと要件が緩和された経緯
執行停止の損害要件は、2004年(平成16年)の行政事件訴訟法改正により「回復の困難な損害」から「重大な損害」へと改められました。これは、金銭賠償が可能であっても直ちに救済を否定するのではなく、より柔軟に救済を認める趣旨で、要件を緩和したものです。改正後の「重大な損害」は、財産的損害でも回復困難とは言い切れない場合を含みうる点で、従前より執行停止が認められやすくなったと評価されています。古い問題・古い参考書では「回復の困難な損害」と書かれていることがあるため、現行の「重大な損害」と取り違えないよう注意しましょう。
重大な損害の判断基準
裁判所は「重大な損害」を生ずるか否かの判断にあたり、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされています(第25条第3項)。
裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
― 行政事件訴訟法 第25条第3項
この第3項は、「重大な損害」の判断にあたって考慮すべき要素を法律自身が示した規定です。「回復の困難の程度」を考慮しつつも、それだけで決めるのではなく、損害の性質・程度や処分の内容・性質も総合的に勘案するという構造になっています。判例も、第25条第3項の趣旨を踏まえ、当該処分により申立人に生ずる損害が事後的な金銭賠償等によって回復することが社会通念上容易か否かなどを総合的に考慮して判断すべきものとしています。
申立てが必須|裁判所の職権による執行停止はできない
条文の文言をもう一度確認してください。25条2項は「裁判所は、申立てにより、決定をもつて」と書いています。
重要ポイント: 行政事件訴訟法の執行停止は、効力の停止・執行の停止・続行の停止のいずれについても、申立てが必要です。裁判所が職権で執行停止を発令することはできません。
ここは行政不服審査法との最大の違いの1つです。行審法25条2項は「審査請求人の申立てにより又は職権で」と明記しており、審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁自身であれば、職権による執行停止が可能です。裁判所は当事者が争っていない事柄に踏み込まない(当事者主義)のに対し、審査庁は行政組織内部で自ら是正できる立場にあるためです。
「行訴=申立てのみ/行審=上級庁・処分庁なら職権も可」——この対比は、そのまま択一の一肢になります。「裁判所は職権で執行停止をすることができる」という選択肢は誤りです。
なお、執行停止の申立てをする裁判所(管轄)は、本案の係属する裁判所と決まっています(28条)。仮の救済だけを別の裁判所に持ち込むことはできません。
執行停止又はその決定の取消しの申立ての管轄裁判所は、本案の係属する裁判所とする。
― 行政事件訴訟法 第28条
疎明で足りる|証明との違い
執行停止の決定は、疎明に基づいてします(25条5項)。
第二項の決定は、疎明に基づいてする。
― 行政事件訴訟法 第25条第5項
証明が「裁判官が確信を抱く程度の立証」であるのに対し、疎明は「一応確からしいと推測させる程度の立証」で足ります。仮の救済は緊急性が命であり、本案並みの厳格な立証を求めていては間に合わないためです。「執行停止の要件は証明しなければならない」という選択肢は誤りになります。
また、決定は口頭弁論を経ないですることができますが、あらかじめ当事者の意見をきかなければなりません(25条6項)。
第二項の決定は、口頭弁論を経ないですることができる。ただし、あらかじめ、当事者の意見をきかなければならない。
― 行政事件訴訟法 第25条第6項
「口頭弁論不要」だけを覚えて、ただし書の「当事者の意見聴取は必要」を落とすと失点します。手続を簡略化しても、相手方の言い分を聞く機会だけは確保するという組み立てです。
執行停止の効力(補充性)
執行停止の決定があると、処分の効力、執行又は手続の続行が停止されます。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、することができません(補充性、第25条第2項ただし書)。
これを処分の効力の停止の補充性といいます。3つの停止のうち「効力の停止」は最も強力な効果を持つため、より限定的な「執行の停止」や「続行の停止」で目的を達せられるなら、まずそちらを用いるべきだという考え方です。
具体例で整理すると次のようになります。
執行停止決定の効力|第三者効と拘束力
執行停止の決定には、取消判決と同じ2つの効力が及びます。条文の準用構造で押さえてください。
第三者効(対世効)は、取消判決の第三者効を定めた32条1項が、同条2項によって執行停止の決定に準用されることから生じます。
処分又は裁決を取り消す判決は、第三者に対しても効力を有する。
― 行政事件訴訟法 第32条第1項
前項の規定は、執行停止の決定又はこれを取り消す決定に準用する。
― 行政事件訴訟法 第32条第2項
拘束力は、33条1項が同条4項によって執行停止の決定に準用されることから生じます。行政庁は執行停止の決定に従わなければならず、停止された処分を執行することはできません。
第一項の規定は、執行停止の決定に準用する。
― 行政事件訴訟法 第33条第4項
ここで細かい引っかけがあります。33条は1項(拘束力)・2項(申請拒否処分が取り消された場合の再処分義務)・3項と続きますが、執行停止の決定に準用されるのは1項だけです。仮の救済は暫定的なものであり、行政庁に改めて処分をやり直す義務まで生じさせるものではないからです。
即時抗告
執行停止の申立てに対する決定(認容決定・却下決定のいずれも)に対しては、即時抗告をすることができます(25条7項)。
第二項の申立てに対する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
― 行政事件訴訟法 第25条第7項
第二項の決定に対する即時抗告は、その決定の執行を停止する効力を有しない。
― 行政事件訴訟法 第25条第8項
8項が重要です。行政側が「執行停止決定は不当だ」として即時抗告をしても、それだけでは執行停止の効力は止まりません。抗告に停止効を認めてしまうと、行政が抗告するだけで仮の救済が骨抜きになるからです。「即時抗告をすれば執行停止の効力は失われる」という選択肢は誤りです。
執行停止の効力を覆したい行政側に残された正攻法は、①抗告裁判所に取り消してもらう、②事情変更による取消しを申し立てる(26条)、③内閣総理大臣の異議を述べてもらう(27条)——の3つです。このうち③だけが、裁判所の判断を待たずに一発で効力を失わせる強力な手段であり、だからこそ厳しい歯止めが置かれています。
事情変更による執行停止の取消し(26条)
執行停止の決定が確定した後に事情が変わった場合には、相手方(行政側)の申立てにより、裁判所が決定で執行停止を取り消すことができます。
執行停止の決定が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更したときは、裁判所は、相手方の申立てにより、決定をもつて、執行停止の決定を取り消すことができる。
― 行政事件訴訟法 第26条第1項
ポイントは「相手方の申立てにより」であること。ここでも裁判所の職権による取消しは認められていません。執行停止の発令も取消しも、一貫して申立て主義です。
裁決の取消訴訟にも準用される(29条)
25条から28条までの規定は、裁決の取消しの訴えが提起された場合の執行停止にも準用されます(29条)。処分の取消訴訟だけの制度ではない点に注意してください。
「重大な損害」と「償うことのできない損害」の違い
ここが本記事の核心です。3つの仮の救済を分ける最大の分水嶺は、損害要件の言葉づかいにあります。まず、2つの条文を並べてみてください。
処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは
― 行政事件訴訟法 第25条第2項(執行停止)
…処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは
― 行政事件訴訟法 第37条の5第1項(仮の義務付け)
一字一句の違いですが、要件の重さはまるで違います。
2つの損害要件の意味
「重大な損害」は、損害の大きさに着目した要件です。25条3項が「損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案する」と定めているとおり、回復困難性は考慮要素の1つにすぎず、それだけで決まるわけではありません。したがって、金銭で賠償できる財産的損害であっても、規模や性質しだいで「重大な損害」に当たりうるという開かれた構造になっています。
これに対し「償うことのできない損害」は、回復不能性そのものを要件化した表現です。「償う」=事後的な金銭賠償等による填補、を正面から否定する語であり、原状回復も金銭賠償も実質的に機能しないレベルの損害を指します。生命・身体、あるいは待ったのきかない機会の喪失といった、後から取り返しのつかない利益が典型です。
言葉の強さの順に「重大な損害 < 償うことのできない損害」。この不等号を書けるようにしておけば、選択肢の語句入れ替えは全部見抜けます。
なぜ仮の義務付け・仮の差止めの方が要件が重いのか
理由は1つに集約されます。行政の第一次判断権に、本案判決の前に踏み込む度合いが違うからです。
行政法の建て付けでは、ある処分をするかしないかを最初に判断するのは行政庁であり、裁判所は事後的にその適法性を審査する立場にあります。これを行政の第一次判断権といいます。3つの仮の救済を、この観点から並べ替えてみましょう。
執行停止は「マイナスをゼロに戻す」消極的な救済です。行政が下した判断そのものは動かさず、判決が出るまで効果の発生を待たせるだけなので、後から本案で原告が負けたとしても、停止を解いて執行すれば原則として元に戻せます。取り返しがつく救済だから、要件を軽くできるわけです。
一方、仮の義務付けは「ゼロをプラスにする」積極的な救済です。裁判所が行政庁に対し、まだしていない処分を仮にせよと命じる——これは実質的に、裁判所が行政の第一次判断権を暫定的に代行することを意味します。しかも、いったん処分がされてしまえば、生活保護費が支給され、施設に入所し、学校に通い始めるといった既成事実が積み上がります。本案で原告が敗訴したとき、これらを完全に巻き戻すことは容易ではありません。取り返しがつきにくい救済だから、要件を重くするのです。
この対応関係は、次の一行にまとめられます。
「効果が強い救済ほど、要件は重い」——強い薬ほど、処方の条件は厳しい。
「損害要件」だけでなく「本案要件」もセットで重い
要件の重さの差は、損害要件だけではありません。本案(訴訟の中身)についての見込みの要求も、方向が逆になっています。
執行停止の本案要件は「負けが見えていなければOK」という緩い足切りにすぎません。これに対し、仮の義務付け・仮の差止めは「勝ちが見えていなければNG」という積極的なハードルです。ここでも、行政の第一次判断権に踏み込む以上、本案での勝訴可能性が相当程度見込めなければ発令すべきでない、という発想が貫かれています。
したがって、損害要件(重大な損害 → 償うことのできない損害)と本案要件(消極 → 積極)が、二重に重くなっているというのが正確な理解です。片方だけ覚えていると、もう片方を入れ替えた選択肢で失点します。
一方で共通している要件
要件の差ばかり見ていると、共通点を落とします。次の3つは3制度に共通です。
- 本案訴訟の係属(付随性)。仮の救済だけを単独で申し立てることはできません。
- 緊急の必要。3つとも「…を避けるため緊急の必要があ(る)」という同じ文言です。
- 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと(消極要件)。執行停止は25条4項、仮の義務付け・仮の差止めは37条の5第3項に、それぞれ別条文で置かれています。
仮の義務付け又は仮の差止めは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができない。
― 行政事件訴訟法 第37条の5第3項
条文の場所は違うが要件は同じ、という点に注意してください。「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」は3制度すべての消極要件です。
仮の差止めの損害要件は「重大な損害」であり、執行停止と同じである。
仮の義務付け(第37条の5第1項)
制度の趣旨
仮の義務付けは、義務付け訴訟の提起を前提として、行政庁に対し仮に一定の処分をすべきことを命じる制度です。2004年(平成16年)の行政事件訴訟法改正で、義務付け訴訟・差止訴訟の法定と併せて新設されました。
執行停止が「すでにされた処分を止める(マイナスをゼロに戻す)」消極的な救済であるのに対し、仮の義務付けは「行政にまだしていない処分を仮にさせる(ゼロをプラスにする)」積極的な救済である点に本質的な違いがあります。行政の第一次判断権に踏み込む度合いが大きいため、後述のとおり要件も厳格に設定されています。
本案である義務付け訴訟の要件は申請型義務付け訴訟の要件と判例/行政事件訴訟法を解説で詳しく解説しています。
要件
義務付けの訴えの提起があつた場合において、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずること(以下この条において「仮の義務付け」という。)ができる。
― 行政事件訴訟法 第37条の5第1項
積極要件:
- 義務付け訴訟が係属していること
- 償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること
- 本案について理由があるとみえるとき
消極要件:
- 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき(第37条の5第3項)
執行停止との要件の比較
仮の義務付けの要件は、執行停止よりも厳格です。損害の要件が「重大な損害」ではなく「償うことのできない損害」であり、本案について「理由があるとみえる」ことが積極的に求められます。
なぜ要件が厳格なのか
仮の義務付けは、本案判決を待たずに行政庁に処分を命じるものですから、本案で原告が敗訴した場合には、行政が本来すべきでなかった処分を仮にさせられたことになります。さらに、行政の第一次判断権を裁判所が暫定的に代行するに等しい強い効果を持ちます。そのため、損害要件を「重大な損害」より一段重い「償うことのできない損害」とし、本案の見込みも「理由がないとみえるときは不可」という消極的判断ではなく「理由があるとみえる」という積極的な見込みを要求することで、安易な発令を防いでいるのです。「強い救済には厳しい要件」という対応関係で理解すると忘れにくくなります。
仮の義務付けが取り消されたときの後始末(37条の5第5項)
仮の義務付けには、執行停止にはない独自の規定が置かれています。仮の義務付けの決定が即時抗告や事情変更によって取り消された場合、行政庁は、その決定に基づいてした処分・裁決を取り消さなければなりません。
前項において準用する第二十五条第七項の即時抗告についての裁判又は前項において準用する第二十六条第一項の決定により仮の義務付けの決定が取り消されたときは、当該行政庁は、当該仮の義務付けの決定に基づいてした処分又は裁決を取り消さなければならない。
― 行政事件訴訟法 第37条の5第5項
なぜこの規定が必要なのか。仮の義務付けは「行政庁に処分をさせる」制度なので、決定に従って実際に処分がされてしまいます。その後で仮の義務付けの決定自体が取り消されても、すでに世に出た処分は自動的には消えません。そこで、後始末として行政庁に処分の取消義務を課したわけです。
執行停止には対応する規定がありません。執行停止は処分を「止める」だけで新たな処分を生み出さないため、決定が取り消されれば止まっていた効力が復活するだけで、後始末が不要だからです。5項があるのは仮の義務付けだけ(仮の差止めにも該当しない)という点も、条文を見れば分かるとおりです。仮の差止めは処分をさせない制度なので、消すべき処分がそもそも存在しません。
仮の差止め(第37条の5第2項)
制度の趣旨
仮の差止めは、差止訴訟の提起を前提として、行政庁に対し仮に一定の処分をしてはならないことを命じる制度です。仮の義務付けと同じく2004年改正で新設されました。本案である差止訴訟の要件は差止訴訟の要件と判例/行政事件訴訟法を解説で扱っています。
要件
差止めの訴えの提起があつた場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること(以下この条において「仮の差止め」という。)ができる。
― 行政事件訴訟法 第37条の5第2項
仮の差止めの要件は、仮の義務付けと同一です。
積極要件:
- 差止訴訟が係属していること
- 償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること
- 本案について理由があるとみえるとき
消極要件:
- 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき(第37条の5第3項)
仮の義務付けと仮の差止めは、要件・条文(第37条の5)が共通で、内閣総理大臣の異議の規定が準用される点も共通です。「処分をさせる」か「処分をさせない」かという方向の違いだけだと整理しておきましょう。
3つの仮の救済制度の比較
この表のうち、試験で点差がつくのは損害要件と本案要件の2列です。「執行停止=重大な損害/消極要件」「仮の義務付け・仮の差止め=償うことのできない損害/積極要件」という対比を、口で言えるレベルまで仕上げておきましょう。
なお「第三者効・拘束力」の行に注意してください。37条の5第4項が準用しているのは「第二十五条第五項から第八項まで、第二十六条から第二十八条まで及び第三十三条第一項」であって、32条(第三者効)は準用対象に入っていません。仮の義務付け・仮の差止めには第三者効の規定がない、というのが条文の帰結です。ここは条文を読まずに「執行停止と同じだろう」と推測すると外します。
内閣総理大臣の異議が3制度すべてに及ぶこと
後述する内閣総理大臣の異議の制度は、第27条が執行停止について規定し、第37条の5第4項によって仮の義務付け・仮の差止めにも準用されています。「内閣総理大臣の異議は執行停止だけ」という古い理解は誤りで、現行法では3つの仮の救済すべてに及ぶ点に注意が必要です。下記の出題ポイントでも改めて触れます。
内閣総理大臣の異議
執行停止に関して、行政事件訴訟法は内閣総理大臣の異議の制度を設けています(第27条)。
内閣総理大臣は、執行停止の申立てがあった場合又は執行停止の決定があった場合に、異議を述べることができます。内閣総理大臣が異議を述べたときは、裁判所は執行停止をすることができず、既にした執行停止の決定を取り消さなければなりません。
ただし、異議を述べるには理由を附さなければならないとされ、また、異議を述べたときは次の常会において国会に報告しなければなりません。
第二十五条第二項の申立てがあつた場合には、内閣総理大臣は、裁判所に対し、異議を述べることができる。執行停止の決定があつた後においても、同様とする。
― 行政事件訴訟法 第27条第1項
第一項の異議には、理由を附さなければならない。
― 行政事件訴訟法 第27条第2項
内閣総理大臣は、やむをえない場合でなければ、第一項の異議を述べてはならず、また、異議を述べたときは、次の常会において国会にこれを報告しなければならない。
― 行政事件訴訟法 第27条第6項
27条を1項ずつ通す
内閣総理大臣の異議は、条文が6項まであり、それぞれに出題ポイントがあります。表で全体像を押さえてください。
3項は見落とされがちですが、単に「理由を付けろ」(2項)と言うだけでなく、どういう内容の理由でなければならないかまで定めている点が重要です。
前項の異議の理由においては、内閣総理大臣は、処分の効力を存続し、処分を執行し、又は手続を続行しなければ、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を示すものとする。
― 行政事件訴訟法 第27条第3項
つまり、内閣総理大臣が示すべき理由は「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」に関するものでなければならず、たとえば「行政の面子が潰れる」といった理由は条文の想定外です。もっとも、4項により裁判所は異議の当否を審査できないため、理由の当否をチェックするのは裁判所ではなく国会(6項の報告)と世論だ、というのがこの制度の設計です。
6項の「次の常会において国会にこれを報告」も、細かい語句が狙われます。「直ちに報告」「臨時会において報告」「両議院の承認を得なければならない」——いずれも誤りです。承認ではなく報告である点も落とさないでください。事後に報告するだけで、国会の承認は異議の効力の条件ではありません。
異議の制度の意義と問題点
内閣総理大臣の異議は、裁判所の判断(司法権)を行政の長の判断によって覆すことができる極めて強力な制度です。三権分立や司法権の独立との関係で違憲の疑いも指摘されてきました。これに対し、立法者は、異議を述べる場面をやむをえない場合に限定し(第27条第6項)、理由の附記を義務づけ(同条第2項)、国会への報告を要求し(同条第6項)、政治的・民主的なコントロールを及ぼすことでバランスをとっています。試験対策としては、これらの「歯止め」をセットで覚えておくとよいでしょう。
異議の効果と時期
内閣総理大臣の異議があると、執行停止の決定前であれば裁判所は執行停止をすることができず、決定後であれば裁判所は執行停止の決定を取り消さなければなりません(第27条第4項)。
第一項の異議があつたときは、裁判所は、執行停止をすることができず、また、すでに執行停止の決定をしているときは、これを取り消さなければならない。
― 行政事件訴訟法 第27条第4項
条文は「取り消すことができる」ではなく「取り消さなければならない」です。裁判所には異議の当否を審査する権限はなく、異議が述べられれば従わざるを得ません。「裁判所は異議に理由がないと認めるときは執行停止を維持できる」という選択肢は誤りです。
異議を述べる相手方も条文で決まっています。決定後の異議(1項後段)は、執行停止の決定をした裁判所に対して述べなければならず、ただし、その決定に対する抗告が抗告裁判所に係属しているときは抗告裁判所に対して述べます(27条5項)。
なお、内閣総理大臣は、やむをえない場合でなければ異議を述べてはならず(6項)、実際にも現行法下での行使例は極めて少ないとされています。制度としては強力ですが、抜かずの宝刀に近い位置づけです。
仮の義務付け・仮の差止めへの準用
重要ポイント: 内閣総理大臣の異議の規定(第27条)は、仮の義務付け・仮の差止めにも準用されます(第37条の5第4項)。
第二十五条第五項から第八項まで、第二十六条から第二十八条まで及び第三十三条第一項の規定は、仮の義務付け又は仮の差止めに関する事項について準用する。
― 行政事件訴訟法 第37条の5第4項
ここは過去の記述で「執行停止にのみ適用」と説明されることがありますが、現行法では第37条の5第4項により第27条(内閣総理大臣の異議)が仮の義務付け・仮の差止めにも準用されています。古い理解のままだと誤答につながるため、必ず最新の条文構造で押さえてください。
行政不服審査法25条の執行停止との違い
ここは混同が最も起きやすいところです。行政不服審査法25条=執行停止、行政事件訴訟法25条=執行停止——2つの法律の同じ条番号に、名前も同じ制度が置かれています。しかし中身は別物です。まず全体像を表で押さえ、そのあと条文で確認します。
比較表
分岐点1|審査庁が誰かで権限が変わる
行審法の執行停止で最重要なのは、審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁自身か否かで権限が2段階に分かれる点です。行訴法にはこの区別がありません(裁判所はつねに裁判所だからです)。
処分庁の上級行政庁又は処分庁である審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより又は職権で、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止その他の措置(以下「執行停止」という。)をとることができる。
― 行政不服審査法 第25条第2項
処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聴取した上、執行停止をすることができる。ただし、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止以外の措置をとることはできない。
― 行政不服審査法 第25条第3項
2項と3項を並べると、違いは3点です。
理屈は単純です。上級行政庁や処分庁自身は、その処分について指揮監督権や処分権限を持っているため、処分を止めるだけでなく、より踏み込んだ措置を職権でとっても組織の権限内に収まります。これに対し、第三者機関などの審査庁は他人の処分を審査しているだけなので、権限が抑制され、処分庁の意見を聴く手続も課されるのです。
「処分庁でも上級行政庁でもない審査庁が職権で執行停止をした」——これは3項に反するので誤りです。定番の一肢なので反射で切れるようにしておきましょう。
分岐点2|「その他の措置」がとれるか
行訴法の執行停止は、効力の停止・執行の停止・続行の停止の3つに限られます。裁判所が「その代わりにこうしなさい」といった別の措置を命じることはできません。
一方、行審法25条2項の「執行停止」には「その他の措置」が含まれます。これは、たとえば営業停止処分の期間を暫定的に短縮する、より制限の緩やかな措置に置き換える、といった柔軟な対応を指します。行政組織内部の是正手続だからこそ許される、行政ならではの機動性です。
「その他の措置」がとれるのは、行審法の、しかも上級行政庁・処分庁である審査庁だけ。この二重の限定を正確に覚えてください。行訴法にも第三者機関的審査庁にも「その他の措置」はありません。
この違いは、効力停止の補充性の書き方にも表れています。行訴法25条2項ただし書は「処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合」と書きますが、行審法25条6項は「処分の効力の停止以外の措置によつて目的を達することができるとき」と書きます。行審法の方が「その他の措置」を含む広い比較対象になっているわけです。
第二項から第四項までの場合において、処分の効力の停止は、処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、することができない。
― 行政不服審査法 第25条第6項
分岐点3|行審法には「義務的執行停止」がある
これは知らないと確実に落とす論点です。行訴法の執行停止は、要件を満たしても裁判所が「することができる」(25条2項)にとどまります。ところが行審法には、要件を満たせば審査庁が執行停止を「しなければならない」場面があります。
前二項の規定による審査請求人の申立てがあった場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、この限りでない。
― 行政不服審査法 第25条第4項
条文の構造を分解します。
- 審査請求人の申立てがあること(職権の場合には義務的停止にならない)
- 重大な損害を避けるため緊急の必要があると認めるとき
- → 審査庁は執行停止をしなければならない(義務)
- ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、または本案について理由がないとみえるときは、この限りでない
損害要件・消極要件の中身は行訴法25条2項・4項とほぼ同じです。違うのは効果——行訴法は「できる」、行審法4項は「しなければならない」。ここだけが決定的に異なります。
さらに、この「重大な損害」の判断について、行審法25条5項は行訴法25条3項とほぼ同文の考慮規定を置いています。
審査庁は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
― 行政不服審査法 第25条第5項
主語が「裁判所」から「審査庁」に変わっているだけで、考慮要素は完全に共通です。2014年の行審法全部改正の際に、行訴法の規定に揃えられたためです。「重大な損害」の判断枠組みは両法共通と覚えて構いません。
分岐点4|審理員の意見書と決定の速やかさ
行審法には、行訴法にない手続規定があります。審理員は、必要があると認める場合には、審査庁に対し執行停止をすべき旨の意見書を提出することができます(行審法40条)。そして、執行停止の申立てがあったとき、または審理員から40条の意見書が提出されたときは、審査庁は速やかに、執行停止をするかどうかを決定しなければなりません(行審法25条7項)。
審理員は、必要があると認める場合には、審査庁に対し、執行停止をすべき旨の意見書を提出することができる。
― 行政不服審査法 第40条
意見書は「執行停止をすべき旨」を述べるものであり、審査庁を法的に拘束するものではありません。ただし提出されれば、審査庁は速やかに諾否を決定する義務を負います。審理員制度そのものは行政不服審査法の審理員と審査会/改正の要点整理で詳しく解説しています。
なお、執行停止をした後に公共の福祉に重大な影響を及ぼすことが明らかとなったときなど事情が変更したときは、審査庁は執行停止を取り消すことができます(行審法26条)。行訴法26条の「事情変更による執行停止の取消し」に対応する規定ですが、行訴法が「相手方の申立てにより」裁判所が取り消すのに対し、行審法は審査庁が自ら取り消せる点が異なります。両法とも26条という条番号の一致も、ついでに覚えてしまいましょう。
混同を防ぐ覚え方
条番号が同じで紛らわしいこのテーマは、「共通点を先に固定し、違いを4点だけ足す」と整理できます。
共通する骨格
- 両法とも25条が執行停止、26条が執行停止の取消し
- 両法とも1項が執行不停止の原則
- 「重大な損害」の考慮規定(行訴25条3項/行審25条5項)はほぼ同文
- 消極要件(公共の福祉/本案について理由がないとみえるとき)も共通
行審法だけにある4つ
- 職権による執行停止(上級行政庁・処分庁である審査庁のみ)
- その他の措置(同上)
- 義務的執行停止(申立て+重大な損害+緊急の必要 → しなければならない)
- 審理員の意見書と「速やかに」決定する義務
裏返せば、行訴法の執行停止は「裁判所が、申立てにより、3類型のいずれかを、裁量で」という4語で言い切れます。2法の全体的な比較は行政不服審査法vs行政事件訴訟法/2法の徹底比較も参照してください。
行政不服審査法では、審査庁が処分庁の上級行政庁でも処分庁でもない場合であっても、職権で執行停止をすることができる。
頻出論点・出題ポイント
行政書士試験では、本テーマは択一式(5肢択一・多肢選択)でほぼ毎年のように出題範囲に入る重要分野です。過去の出題傾向を踏まえると、次の角度が繰り返し問われています。
- 執行不停止の原則: 取消訴訟の提起だけでは処分の効力は停止しない(第25条第1項)。「訴え提起=当然停止」とする選択肢は誤り。
- 損害要件の違い: 執行停止は「重大な損害」、仮の義務付け・仮の差止めは「償うことのできない損害」。語句の入れ替えが定番の引っかけ。
- 本案要件の違い: 執行停止は消極要件(理由がないとみえるときは×)、仮の義務付け・仮の差止めは積極要件(理由があるとみえるとき)。
- 効力の停止は申立てが必要・補充的: 処分の効力の停止には申立てが必要で、執行・続行の停止で目的を達せられる場合は効力の停止はできない(補充性、第25条第2項ただし書)。
- 内閣総理大臣の異議: 理由の附記(第27条第2項)と国会報告(第27条第6項)が必要。執行停止だけでなく、仮の義務付け・仮の差止めにも準用される(第37条の5第4項)。
- 損害要件の改正: 執行停止の損害要件は「回復の困難な損害」から「重大な損害」へ緩和された(2004年改正)。
- 本案の係属が前提: いずれの仮の救済も、対応する本案訴訟が係属していることが必要で、単独申立てはできない。
- 申立てが必須: 行訴法の執行停止は職権では不可(第25条第2項「申立てにより」)。職権が出てくるのは行審法25条2項(上級行政庁・処分庁である審査庁)。
- 行審法との条番号の一致: 行審法25条・行訴法25条がともに執行停止、両法とも26条が執行停止の取消し。条番号だけでは区別できない。
ひっかけの型|出題者が仕掛ける6パターン
過去問を分解すると、この分野の誤答肢はほぼ次の6つの型に収まります。型ごと覚えておくと、初見の選択肢でも即座に嗅ぎ分けられます。
型⑤の準用リストは特に狙われます。「25条5項から8項まで、26条から28条まで、及び33条1項」——これを唱えられるようにしておくと、「32条(第三者効)は入っていない」「33条2項(再処分義務)は入っていない」「25条2項から4項(要件そのもの)は入っていない。37条の5に固有の要件があるから」といった判断が全部できます。
数字で覚える|条番号チェックリスト
この分野は条番号の暗記コストが高いので、まとめて一覧にします。
よくある誤解
- 「取消訴訟を提起すれば処分は止まる」→誤り。執行不停止が原則であり、別に執行停止の申立てが必要です。
- 「仮の義務付けの損害要件は重大な損害である」→誤り。「償うことのできない損害」で、執行停止より厳格です。
- 「内閣総理大臣の異議は執行停止にしか使えない」→誤り。第37条の5第4項により仮の義務付け・仮の差止めにも準用されます。
- 「裁判所は内閣総理大臣の異議の当否を審査して退けられる」→誤り。異議があれば裁判所は従わなければなりません。
- 「処分の効力の停止は裁判所が職権で自由にできる」→誤り。効力の停止には申立てが必要で、しかも補充的にしか認められません。
- 「執行停止には本案勝訴の高い見込み(理由があるとみえる)が必要」→誤り。執行停止は「理由がないとみえるときは×」という消極要件にとどまり、積極的な勝訴見込みまでは要求されません。要求されるのは仮の義務付け・仮の差止めの方です。
関連論点
仮の救済は、本案訴訟の類型と一体で理解すると得点源になります。取消訴訟・無効等確認訴訟・不作為の違法確認訴訟・義務付け訴訟・差止訴訟といった抗告訴訟の全体像、原告適格や処分性といった訴訟要件と併せて学習しましょう。行政上の不服申立て(審査請求)における執行停止との対比も頻出です。
取消訴訟を提起すると、処分の効力は当然に停止する。
仮の義務付けが認められるためには、「重大な損害」を避けるため緊急の必要があることが要件である。
内閣総理大臣の異議の制度は、執行停止だけでなく仮の義務付け・仮の差止めにも適用される。
処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、することができない。
内閣総理大臣が執行停止について異議を述べたときは、裁判所はその当否を審査したうえで、理由がないと認めれば異議を退けて執行停止をすることができる。
まとめ
行政事件訴訟法の仮の救済制度は、執行停止・仮の義務付け・仮の差止めの3つがあります。執行不停止の原則のもと、これらの制度は本案判決を待たずに原告の権利利益を暫定的に保護する重要な役割を果たしています。
試験では、3つの制度の要件の違いが最重要です。特に損害要件(重大な損害 vs 償うことのできない損害)と本案要件(消極要件 vs 積極要件)の違いを正確に区別しましょう。執行停止は「すでにされた処分を止める」消極的救済、仮の義務付け・仮の差止めは「処分を仮にさせる/させない」積極的救済であり、後者の要件が厳格である理由を併せて理解すると記憶が定着します。さらに、処分の効力の停止の補充性、内閣総理大臣の異議が3制度すべてに及ぶこと(第27条・第37条の5第4項)も押さえておきましょう。
本案訴訟側の理解とセットにすると得点が安定します。あわせて行政事件訴訟法の基本/訴訟類型と取消訴訟の要件、申請型義務付け訴訟の要件と判例/行政事件訴訟法を解説、差止訴訟の要件と判例/行政事件訴訟法を解説を確認しましょう。執行停止の前提となる処分の効力については行政行為の効力/公定力・不可争力を完全解説、不服申立てとの対比は行政不服審査法の全体像/行政書士試験の重要論点を整理が参考になります。