行政手続法の全体像|目的・適用範囲を図解
行政手続法の目的(1条)、適用範囲と適用除外(3条・4条)、処分・行政指導・届出の3本柱を図解で解説。地方公共団体との関係や命令等制定手続きまで、行政書士試験に頻出の条文を正確に整理します。
行政手続法は、行政書士試験の行政法科目において最も条文知識が問われる法律の一つです。択一式では毎年複数問が出題され、条文の正確な理解が合否を分けるといっても過言ではありません。本記事では、行政手続法の目的・適用範囲から処分・行政指導・届出の3本柱の概要、地方公共団体との関係まで、全体像を体系的に整理します。
行政手続法は条文数が46条と比較的少なく、しかも繰り返し同じ条文が問われるため、行政法科目のなかでも「投資対効果が最も高い」分野です。条文を正確に読み込み、キーワードを暗記すれば確実に得点源にできます。本記事は、まず全体像(目的・対象手続・適用範囲)を俯瞰したうえで、試験で問われる角度・よくある誤解・関連論点まで踏み込んで解説します。
行政手続法はなぜ制定されたのか(沿革と位置づけ)
行政手続法の細かい条文に入る前に、なぜこの法律が必要とされたのかという背景を押さえておくと、各条文の趣旨が理解しやすくなります。
事前手続を整備した法律
日本の行政救済法制は、伝統的に「事後救済」を中心に発展してきました。違法な行政処分を受けた国民が、後から行政不服審査法(行審法)に基づく審査請求や、行政事件訴訟法(行訴法)に基づく取消訴訟で争うという仕組みです。
しかし、いったん処分がされてしまうと、たとえ事後的に取り消されても国民が被る不利益は大きく、また訴訟には時間と費用がかかります。そこで、処分がされる「前の段階」で公正・透明な手続を保障し、不適切な処分が生じることを未然に防ごうという考え方(事前手続的統制)が重視されるようになりました。行政手続法は、この事前手続を一般法として整備した法律です。
適正手続の保障(憲法31条との関係)
行政手続法の理念的な背景には、憲法31条の適正手続(デュー・プロセス)の保障があります。憲法31条は刑事手続に関する規定ですが、判例は行政手続にもその趣旨が及び得るとしています。
憲法三十一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
― 最大判平成4年7月1日(成田新法事件)
ただし、同判決は、行政処分の相手方に事前の告知・弁解・防御の機会を与えるかどうかは、処分により制限される権利利益の内容・性質、制限の程度、達成しようとする公益の内容・程度・緊急性等を総合較量して決定されるべきであり、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではない、としました。行政手続法は、こうした適正手続の理念を立法によって具体化したものと位置づけられます。
制定と改正の歩み
行政手続法は1993年(平成5年)に制定され、1994年(平成6年)に施行されました。制定当初は「処分・行政指導・届出」の3類型に関する手続を定める法律でしたが、その後の改正で対象が拡大しています。
「命令等制定手続は2005年改正で追加された」「行政指導の中止等の求め・処分等の求めは2014年改正で追加された」という改正の経緯は、出題されることがあるため押さえておきましょう。
行政手続法の目的(1条)
行政手続法は、1993年(平成5年)に制定された法律であり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的としています。
この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
― 行政手続法 第1条1項
1条の重要キーワード
この条文には、試験で問われる重要なキーワードが複数含まれています。
「公正」と「透明性」の意味の違い
1条は「公正の確保」と「透明性の向上」という2つの目的を掲げています。両者は混同されやすいため、意味を整理しておきましょう。
- 公正の確保: 行政の判断過程が恣意的・不公平にならないようにすること。審査基準・処分基準の設定(5条・12条)、不利益処分前の聴聞・弁明の機会の付与(13条)などがこれを担保する仕組みです。
- 透明性の向上: 行政の意思決定の内容と過程が国民から見えるようにすること。1条1項括弧書きで「行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう」と条文上定義されています。理由の提示(8条・14条)、審査基準・処分基準の公にすること(5条・12条)などがこれを担保します。
この「透明性」の条文上の定義は、そのまま正誤判定の素材になります。「内容及び過程」というフレーズを正確に覚えておきましょう。
「迅速性」は目的ではない(頻出のひっかけ)
行政手続法1条が掲げる目的は「公正の確保」と「透明性の向上」の2つであり、「迅速性」は目的に含まれていません。これは試験で繰り返し出題されるひっかけポイントです。
なお、申請に対する処分の章には「標準処理期間」(6条)の規定があり、迅速な処理を促す仕組み自体は存在します。しかし、それはあくまで個別の制度であって、1条が掲げる「目的」としての文言ではない、という点を区別してください。
1条2項の意義
処分、行政指導及び届出に関する手続に関しこの法律に規定する事項について、他の法律に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。
― 行政手続法 第1条2項
行政手続法は一般法であり、個別法に特別の定めがある場合は個別法が優先適用されます。ただし、命令等を定める手続については1条2項の対象外であり、個別法に特別の定めがあっても行政手続法の規定が適用される点に注意が必要です。
ここで注意したいのは、1条2項が優先を認めるのは「他の法律に特別の定めがある場合」だという点です。条文の文言は「法律」であり、命令(政令・省令)や条例による別段の定めで行政手続法の適用を排除できるわけではありません。一般法・特別法の関係は「法律」レベルで考えるという理解が、後述する地方公共団体との関係(3条3項・46条)を整理するうえでも重要になります。
行政手続法1条1項は、行政運営における公正の確保と迅速性の向上を図ることを目的としている。○か×か。
行政手続法が対象とする4つの手続
行政手続法は、以下の4つの手続について規定しています。制定当初は処分・行政指導・届出の3本柱でしたが、2005年(平成17年)の改正により命令等制定手続が追加されました。
全体の構成
4類型の比較で全体像をつかむ
行政手続法の核心は「どの行政活動に、どのような事前手続を課しているか」です。4類型(処分は申請に対する処分と不利益処分に分かれる)を一覧で比較すると、全体像が一気に把握できます。
ここで特に試験で狙われるのが「設定が義務か努力義務か」という違いです。審査基準は設定も公開も義務(5条1項・3項)ですが、処分基準は設定も公開も努力義務(12条1項)です。両者を取り違えさせる問題が頻出するため、表で対比して覚えましょう。
処分・行政指導・届出の定義(2条)
行政手続法2条は、法律で使用される用語の定義を規定しています。試験での出題頻度が極めて高い条文です。
処分(2条2号):
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。
― 行政手続法 第2条2号
申請(2条3号):
法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
― 行政手続法 第2条3号
不利益処分(2条4号):
行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。
― 行政手続法 第2条4号
不利益処分の定義から除外されるものとして、以下が規定されています。
- 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分(イ)
- 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分(ロ)
- 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分(ハ)
- 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の根拠となる法令の規定により当該処分の要件とされている事実が発生したことを理由としてされるもの(ニ)
行政指導(2条6号):
行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
― 行政手続法 第2条6号
定義をめぐる重要な区別
2条の定義は、似た概念を区別する力が問われます。とくに次の点が頻出です。
「申請」と「届出」の違い: 申請(2条3号)は「行政庁が諾否の応答をすべきこととされているもの」であり、行政庁の応答(許可・拒否等)を予定しています。一方、届出(2条7号)は、行政庁に一定の事項を通知する行為であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているものをいい、行政庁の応答を予定していません。「諾否の応答」の有無が両者を分ける決定的なメルクマールです。
「不利益処分」から拒否処分が除外される点: 申請を拒否する処分(例: 営業許可申請に対する不許可処分)は、形式的には申請者に不利益を与えますが、2条4号ロにより不利益処分の定義から明示的に除外されています。したがって、申請の拒否処分には不利益処分の手続(聴聞・弁明の機会の付与=13条)は適用されず、「申請に対する処分」の章のルール(理由の提示=8条等)が適用されます。これは非常によく問われる論点です。
「行政機関」と「行政庁」の使い分け: 処分・不利益処分・申請の定義では主体が「行政庁」とされているのに対し、行政指導の定義では主体が「行政機関」とされています。行政指導は処分権限の有無にかかわらず行政機関が広く行いうるため、より広い概念である「行政機関」が用いられています。条文の主語の違いとして押さえておきましょう。
適用除外(3条)
行政手続法3条は、同法の規定が適用されない処分・行政指導を列挙しています。試験では、ある行為が適用除外に該当するか否かが問われます。
3条1項の適用除外(処分・行政指導に関する適用除外)
主な適用除外事項は以下のとおりです。
適用除外の趣旨を理解する
適用除外が定められている理由を理解すると、暗記の負担が軽くなります。大きく分けると次のような趣旨があります。
- 他の手続原理が働く分野: 裁判(2号)、刑事手続(5号)、審査請求等への裁決(16号)などは、それぞれ独自の手続保障(訴訟法・刑事訴訟法・行政不服審査法)が用意されているため、重ねて行政手続法を適用する必要がありません。
- 特殊な判断・関係に関わる分野: 試験・検定の結果に関する処分(11号)は専門技術的判断であり、聴聞等になじみません。公務員の身分に関する処分(14号)は特別権力関係に類する内部的関係に基づきます。学校における教育・研究上の処分(7号)も同様です。
- 政治的・国家的判断に関わる分野: 外国人の出入国・難民認定・帰化に関する処分(10号)は、国家の主権的判断に関わるため適用除外とされています。
適用除外でも「すべて除外」とは限らない
3条1項の柱書は「この法律の規定は、適用しない」としていますが、各号で除外される手続の範囲は号によって異なる場合があります。重要なのは、3条1項各号に該当する処分・行政指導には、申請に対する処分・不利益処分・行政指導の各章の規定が適用されないという効果です。たとえば公務員の懲戒処分(14号)には、聴聞・弁明の機会の付与といった不利益処分の手続規定が適用されません(ただし国家公務員法・地方公務員法など個別法に独自の手続が定められています)。
3条3項の適用除外(地方公共団体に関する適用除外)
命令等制定手続(第6章)および地方公共団体の機関がする処分等については、3条3項により適用関係が調整されています。具体的には、地方公共団体の機関が条例又は規則に基づいてする処分、地方公共団体の機関がする行政指導、地方公共団体に対する届出(条例・規則に基づくもの)、地方公共団体が定める命令等については、行政手続法第2章から第6章までの規定は適用されません。
ここから導かれる帰結として、行政手続法の制定を契機に、多くの地方公共団体が独自に「行政手続条例」を制定し、行政手続法とほぼ同内容の事前手続を条例で定めています。条例に基づく処分等に行政手続法が直接適用されない代わりに、行政手続条例がその役割を担っているのです。
なお、3条3項に関連して命令等制定手続が除外される代表例としては、次のようなものがあります。
- 法律の施行期日について定める政令
- 恩赦に関する命令
- 命令等を定める行為が処分に該当する場合(告示によるもの等)
行政手続法は、外国人の出入国に関する処分にも適用される。○か×か。
国の機関等に対する処分等の適用除外(4条)
行政手続法4条は、国の機関又は地方公共団体等に対する処分・行政指導について、行政手続法の適用を除外しています。
国の機関又は地方公共団体若しくはその機関に対する処分(これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の名あて人となるものに限る。)及び行政指導並びにこれらの機関又は団体がする届出(これらの機関又は団体がその固有の資格においてすべきこととされているものに限る。)については、この法律の規定は、適用しない。
― 行政手続法 第4条1項
「固有の資格」の意味
4条1項の「固有の資格」とは、国の機関等が一般私人が立ち得ないような立場において処分の名あて人となる場合をいいます。
具体例:
- 固有の資格に該当する例: 国有財産の管理に関する処分、地方公共団体の法定受託事務に関する処分
- 固有の資格に該当しない例: 地方公共団体が一般の事業者と同じ立場で行う建築確認申請に対する処分
固有の資格に該当しない場合は、一般私人と同様に行政手続法が適用されます。
3条と4条の適用除外の違い
3条と4条はいずれも「適用除外」を定める条文ですが、視点が異なります。混同しやすいため整理しておきましょう。
4条のポイントは、国・地方公共団体等が名あて人や届出主体であっても、それだけで適用除外になるわけではない、という点です。あくまで「固有の資格」において名あて人・届出主体となる場合に限って除外されます。一般私人と同じ立場で許認可を受ける場合などは、行政手続法が適用されます。
地方公共団体との関係(46条)
行政手続法と地方公共団体の関係は、試験で頻出のテーマです。
地方公共団体は、第三条第三項において第二章から第四章の二までの規定を適用しないこととされた処分、行政指導及び届出並びに命令等を定める行為に関する手続について、この法律の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
― 行政手続法 第46条
地方公共団体に対する行政手続法の適用関係
「行政指導」は根拠を問わず適用除外という落とし穴
地方公共団体に関する適用関係で、特に間違えやすいのが行政指導です。処分と届出については「法律に基づくものは適用あり/条例・規則に基づくものは適用なし」と根拠法令で分かれますが、行政指導については、その根拠が法律であるか条例であるかを問わず、地方公共団体の機関がするものは一律に行政手続法の適用がありません(3条3項)。
これは、行政指導が法律の根拠を要しない非権力的な行為であり、地方の自主性を尊重する必要が高いためと説明されます。「地方公共団体の機関が法律に基づいて行う行政指導には行政手続法が適用される」という記述は誤りです。ここは正誤問題で頻繁に狙われる急所なので、処分・届出と行政指導を分けて覚えてください。
整理: 地方公共団体の重要ポイント
- 地方公共団体の機関が法律に基づいて行う処分・届出には、行政手続法が直接適用される
- 地方公共団体の機関が行う行政指導は、根拠を問わず行政手続法は適用されない(3条3項)
- 地方公共団体の機関が条例・規則に基づいて行う処分・届出にも、行政手続法は適用されない(3条3項)
- 適用されない部分については、行政手続法の趣旨にのっとり必要な措置を講ずる努力義務がある(46条)
- 46条は「義務」ではなく「努力義務」(「努めなければならない」)である点に注意
命令等制定手続(意見公募手続)の概要
2005年(平成17年)の改正により追加された意見公募手続(パブリックコメント手続)は、行政手続法の4本目の柱です。
命令等の定義(2条8号)
内閣又は行政機関が定める次に掲げるものをいう。
イ 法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。)又は規則
ロ 審査基準(法律の規定により、行政機関が審査基準を定めるものに限る。)
ハ 処分基準(法律の規定により、行政機関が処分基準を定めるものに限る。)
ニ 行政指導指針(法律の規定により、行政機関が行政指導指針を定めるものに限る。)
― 行政手続法 第2条8号
意見公募手続の流れ
意見公募手続の基本的な流れは以下のとおりです。
- 案の公示(39条1項): 命令等の案及びこれに関連する資料を公示する
- 意見提出期間の設定(39条3項): 公示の日から起算して30日以上の意見提出期間を設ける
- 意見の考慮(42条): 提出された意見を十分に考慮しなければならない
- 結果の公示(43条1項): 命令等の題名、命令等の案の公示日、提出意見及びこれに対する考慮の結果等を公示する
命令等制定機関の責務(38条)
意見公募手続の前提として、命令等を定める機関には次の責務があります。
命令等を定める機関(閣議の決定により命令等が定められる場合にあっては、当該命令等の立案をする各大臣。以下「命令等制定機関」という。)は、命令等を定めるに当たっては、当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない。
― 行政手続法 第38条1項
加えて、命令等制定機関は、命令等を定めた後においても、当該命令等の規定の実施状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、必要に応じて命令等の内容について検討を加え、その適正を確保するよう努めなければならない(38条2項)とされています。
意見公募手続の重要ポイント
- 意見提出期間は30日以上が原則(39条3項)。ただし、やむを得ない理由がある場合は30日を下回る期間を定めることができる(40条1項)
- 提出された意見が命令等の案と関連のないものであっても、考慮義務は生じる
- 提出意見がなかった場合でも、その旨を公示しなければならない(43条4項)
意見公募手続が不要となる場合(39条4項)
意見公募手続には例外があり、次のような場合には手続を実施する必要がないとされています(39条4項各号の例)。
- 公益上、緊急に命令等を定める必要があるため意見公募手続を実施することが困難であるとき
- 納付すべき金銭について定める法律の制定改廃により必要となる当該金銭の額の算定の基礎となるべき金額等を定める命令等を定めようとするとき
- 予算の定めるところにより金銭の給付決定を行うために必要となる当該給付の額の算定の基礎となるべき金額等を定める命令等を定めようとするとき
- 他の行政機関が意見公募手続を実施して定めた命令等と実質的に同一の命令等を定めようとするとき
これらの例外に当たり意見公募手続を実施しなかった場合でも、命令等を定めたときはその旨等を公示しなければならない(43条5項)など、透明性を確保する仕組みが残されています。
行政手続法上、命令等を定めるに当たって行う意見公募手続では、意見提出期間は公示の日から起算して原則として30日以上でなければならない。○か×か。
よくある誤解と論点の整理
行政手続法の全体像で受験生が混同しやすいポイントを、誤りの形でまとめます。すべて「誤り」の記述なので、正しい理解とセットで押さえてください。
誤解1: 「行政契約も行政手続法の対象である」
行政手続法が対象とするのは、処分・行政指導・届出・命令等制定手続の4類型です。行政契約は対象に含まれません。1条の文言にも「処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続」とあるのみで、契約は登場しません。
誤解2: 「申請の拒否処分には聴聞・弁明の機会の付与が必要」
前述のとおり、申請の拒否処分は不利益処分の定義から除外されています(2条4号ロ)。したがって、聴聞・弁明の機会の付与(13条)は不要であり、適用されるのは「申請に対する処分」の章の規定(理由の提示=8条等)です。
誤解3: 「審査基準も処分基準も設定は努力義務」
審査基準の設定・公開は義務(5条1項・3項)、処分基準の設定・公開は努力義務(12条1項)です。両者を取り違えさせる出題が多いため、必ず区別してください。
誤解4: 「46条は地方公共団体に措置を義務付けている」
46条は「努めなければならない」とする努力義務規定であって、法的義務を課すものではありません。「義務」と言い切る記述は誤りです。
誤解5: 「1条2項により命令や条例でも行政手続法の適用を排除できる」
1条2項が個別法の優先を認めるのは「他の法律に特別の定めがある場合」です。命令(政令・省令)や条例で行政手続法の適用そのものを排除できるわけではありません。また、命令等を定める手続については1条2項の対象外であり、個別法に特別の定めがあっても行政手続法が適用されます。
試験での出題ポイント
行政手続法の全体像に関する問題は、以下のパターンで出題されます。
条文の正確な文言を問う問題
- 1条の目的規定: 「公正の確保と透明性の向上」を「迅速性」等にすり替えたひっかけ
- 透明性の定義: 「行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること」の正確な暗記
- 46条: 地方公共団体の「努力義務」を「義務」とするひっかけ
適用範囲を問う問題
- 3条の適用除外事項のうち、どれが適用除外に該当するかを問う問題
- 4条の「固有の資格」の該当性を問う問題
- 地方公共団体の条例に基づく処分に行政手続法が適用されるか否かを問う問題
- 地方公共団体の機関がする行政指導は、根拠の如何を問わず適用除外であることを問う問題
体系的理解を問う問題
- 行政手続法が対象とする手続の種類(処分・行政指導・届出・命令等制定手続)
- 2005年改正で追加された手続が何かを問う問題
- 1条2項の一般法・特別法の関係を問う問題
横断的に問われる角度
行政手続法の全体像は、単独で問われるだけでなく、行政不服審査法・行政事件訴訟法と横断的に問われることもあります。たとえば「事前手続は行政手続法、事後救済は行政不服審査法・行政事件訴訟法」という役割分担、また理由の提示(行手法8条・14条)の不備が処分の取消事由となるか(事後救済の場面)といった形で、複数の法律をまたいだ理解が求められます。
理由の提示の不備に関しては、最高裁が次のように判断しています。
行政手続法一四条一項本文が…処分の理由を名宛人に提示しなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。
― 最判平成23年6月7日(一級建築士免許取消事件)
この判決は、いかなる理由を提示すべきかは、当該処分の根拠法令の規定内容、処分基準の存否・内容・公表の有無、処分の性質・内容、原因事実の内容等を総合考慮して決定すべきとし、本件では処分の理由として処分基準の適用関係が示されておらず理由提示として不十分であるとして、処分を違法と判断しました。理由の提示が「透明性の向上」という1条の目的を具体化した制度であることを示す重要判例です。
地方公共団体の機関が条例に基づいて行う処分には、行政手続法の規定が直接適用される。○か×か。
まとめ
行政手続法の全体像に関する重要ポイントを整理します。
- 目的: 行政運営における「公正の確保」と「透明性の向上」を図り、国民の権利利益の保護に資すること(1条1項)。「迅速性」は含まれない。透明性は「内容及び過程が国民にとって明らかであること」と条文上定義される
- 対象手続: 処分(申請に対する処分・不利益処分)、行政指導、届出、命令等制定手続の4つ。命令等制定手続は2005年改正で追加。行政契約は対象外
- 一般法としての性格: 他の法律に特別の定めがある場合は個別法が優先(1条2項)。ただし命令等制定手続は対象外
- 適用除外(3条): 列挙された処分・行政指導には不適用。外国人の出入国、公務員の身分に関する処分等が代表例
- 適用除外(4条): 国・地方公共団体等が「固有の資格」において名あて人・届出主体となる処分等は不適用
- 地方公共団体との関係: 法律に基づく処分・届出には適用あり、条例・規則に基づく処分・届出には適用なし。行政指導は根拠を問わず適用なし。46条は努力義務
- 定義規定(2条): 処分、申請、不利益処分、行政指導等の定義は正確に暗記する。「申請」は諾否の応答を予定し、「届出」は予定しない
行政手続法は、条文の正確な文言が問われる科目です。特に1条、2条、3条、4条、46条は繰り返し読み込み、キーワードを正確に覚えましょう。
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