行政不服審査法vs行政事件訴訟法|2法の徹底比較
審査請求と取消訴訟の違いを条文で徹底比較。判断者・審理の対象(違法と不当)・期間・費用・執行停止・教示制度の差を表で整理し、自由選択主義と審査請求前置、どちらを選ぶかの判断フローまで解説します。
結論:審査請求と取消訴訟の違いは「誰が判断し、何を争えるか」
先に結論だけをまとめます。審査請求(行政不服審査法)は行政庁が判断し、違法だけでなく「不当」まで争える。取消訴訟(行政事件訴訟法)は裁判所が判断し、争えるのは「違法」だけ。 この一点が両制度の決定的な違いです。費用は審査請求が無料、訴訟は印紙代等が必要。期間は審査請求が知った日の翌日から3月、取消訴訟が知った日から6月。どちらを先にするかは原則として自由(自由選択主義)ですが、個別の法律で審査請求前置が定められている処分だけは例外です。
つまり、「裁量の使い方が納得できない(=違法とまではいえないが妥当でない)」という不満をぶつけられるのは審査請求だけです。裁判所は裁量権の逸脱・濫用という「違法」のレベルに達していなければ手を出せません(行訴法30条)。逆に、行政庁自身の判断では公正さに不安がある、法解釈を確定させたいという場面では取消訴訟が向きます。以下、この違いがどこから生まれ、手続のどこに現れるのかを条文に即して徹底比較します。
はじめに:行政救済法の全体像を把握する
行政書士試験の行政法分野において、行政不服審査法と行政事件訴訟法は最重要科目の一つです。この2つの法律は、いずれも違法・不当な行政活動から国民の権利利益を救済するための制度を定めたものですが、制度の仕組みや手続の詳細は大きく異なります。
試験では、両法の相違点を正確に理解しているかを問う問題が繰り返し出題されています。たとえば、「審査請求期間」と「出訴期間」の違い、「書面審理主義」と「口頭弁論主義」の違い、「事情裁決」と「事情判決」の違いなど、似て非なる制度を混同しないことが合格の鍵を握ります。逆にいえば、この比較軸を一度体系化してしまえば、行審法・行訴法の択一問題の多くは「どちらの制度の話をしているか」を判別するだけで正誤が判定できるようになります。
行政救済法の全体像を整理すると、国民が行政活動に不服がある場合の救済手段は大きく3つに分けられます。第一に、行政庁に対して不服を申し立てる「行政不服申立て」(行政不服審査法)。第二に、裁判所に対して訴訟を提起する「行政事件訴訟」(行政事件訴訟法)。第三に、違法な行政活動によって生じた損害の賠償や損失の補償を求める「国家補償」(国家賠償法・損失補償)です。
このうち、第一の不服申立てと第二の行政訴訟は、いずれも「行政活動そのものを是正する」ことを目的とする点で共通します。一方、第三の国家補償は「すでに生じた損害をお金で填補する」点で性格が異なります。本記事では、性格が近く混同されやすい行政不服審査法と行政事件訴訟法の2法に焦点を当て、判断者 → 審理の対象 → 期間 → 手続 → 執行停止 → 教示という順で徹底的に整理します。最後に大きな比較表と、どちらを選ぶかの判断フローも掲載しますので、試験直前の確認にもご活用ください。
救済手段の位置づけマップ
両法の立ち位置を一枚で押さえると、以下のように整理できます。
この表からも分かるとおり、行審法と行訴法の最大の違いは「誰が判断するか(行政庁か裁判所か)」にあります。この一点を出発点に据えると、後述する審理方式・審査範囲・裁決判決の差異がすべて論理的に導かれます。
制度の目的と性格の違い|行審法には目的規定があり行訴法にはない
行政不服審査法の目的
行政不服審査法は、行政庁に対する不服申立ての制度を定めた法律です。同法1条1項は、その目的を次のように規定しています。
この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。
――行政不服審査法1条1項
ここで重要なキーワードは「簡易迅速」と「公正な手続」です。行政不服審査法の制度は、裁判所による訴訟よりも簡易かつ迅速に国民の権利利益を救済することを目指しています。訴訟には弁護士費用や長期間の審理が伴いますが、審査請求は原則として書面で行うことができ、費用もかかりません。
また、「行政の適正な運営の確保」という目的も見逃せません。行政不服審査法は、国民の権利救済のみならず、行政の自己統制機能としての役割も担っています。この「行政の自己統制」という性格こそが、後述する「不当性も審査できる」という行審法独自の特徴を支える根拠になっています。行政庁が自らの判断を見直す制度だからこそ、法的な違法性にとどまらず、政策的な当不当(裁量の妥当性)にまで踏み込んだ是正が許されるのです。
なお、現行の目的規定に「公正な手続」という文言が加わったのは、2014年(平成26年)の全部改正によるものである点も押さえておきましょう。旧法(昭和37年制定)には「公正」の文言がなく、行政庁が自ら審理することの公正性に対する批判が改正の背景にありました。
行政事件訴訟法の目的
行政事件訴訟法は、行政事件に関する訴訟手続について定めた法律です。同法1条は次のように規定しています。
行政事件訴訟については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。
――行政事件訴訟法1条(この法律の趣旨)
行政事件訴訟法自体には目的規定がありませんが、裁判所による司法審査を通じて行政活動の適法性を統制し、国民の権利利益を救済することがその制度趣旨です。裁判所という独立した第三者機関が審理を行うため、行政庁自身が審理を行う行政不服審査法と比較して、より慎重で公正な法的判断が期待できます。
行訴法1条が示すのは「一般法・特別法の関係」です。すなわち、個別の法律(地方自治法の住民訴訟、公職選挙法の選挙訴訟など)に特別の定めがある場合はそちらが優先し、それ以外は行訴法が適用されるという建付けです。さらに行訴法7条は、「行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による」と定めており、行訴法→民訴法という二段構えの補充関係になっています。この「行訴法に定めがなければ民訴法による」という構造は、後述する口頭弁論主義の根拠でもあり、試験でも頻出です。
行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。
――行政事件訴訟法7条
両者の関係
行政不服審査法と行政事件訴訟法は、いずれも行政救済法の柱をなすものですが、その性格は異なります。行政不服審査法は「行政内部における簡易迅速な救済手段」であり、行政事件訴訟法は「裁判所による慎重な法的判断に基づく救済手段」です。両者は対立するものではなく、国民の権利救済を多層的に保障するための制度として相互に補完しあう関係にあります。
この補完関係を制度的に支えているのが、後述する自由選択主義(行訴法8条)です。国民は、まず簡易迅速な審査請求でスピーディな救済を求めることも、最初から裁判所の慎重な判断を求めて取消訴訟を提起することもできます。両制度が並立し、国民がその時々の事情に応じて選べることこそが、日本の行政救済システムの基本設計なのです。
出題ポイント:目的規定の比較
- 行審法には目的規定(1条1項)があるが、行訴法には目的規定がない。
- 行審法のキーワードは「簡易迅速」「公正」「行政の適正な運営の確保」。
- 行訴法1条は一般法であることを宣言し、7条で民訴法の補充適用を定める。
- 「行政の適正な運営の確保(=行政の自己統制)」は行審法だけの目的であり、ここから「不当性審査」が導かれる、という論理の流れを押さえる。
判断者と審理の対象の違い|「不当」を争えるのは審査請求だけ
審理する機関の違い
行政不服審査法における審査請求は、処分庁の最上級行政庁(処分庁に上級行政庁がない場合は処分庁自身)が審査庁となります(行審法4条)。審査庁が指名する審理員が審理手続を行い(行審法9条1項)、行政不服審査会等への諮問を経て(行審法43条)、審査庁が裁決を行います。
一方、行政事件訴訟法における取消訴訟は、裁判所が審理を行います。管轄については、行訴法12条1項が「被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又は処分若しくは裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所」と定めており、この2つは優劣なく並列です(どちらにも提起できます)。加えて、事案の処理に当たった下級行政機関の所在地の裁判所(同条3項)や、国等を被告とする場合の特定管轄裁判所=原告の普通裁判籍所在地を管轄する高等裁判所の所在地の地方裁判所(同条4項)にも提起できます。
この違いは極めて重要です。行政不服審査法では行政機関が自ら審理を行うため、行政の専門的知見を活かした判断が期待できる反面、公正性の面で懸念が生じます。この懸念に対応するため、2014年の行政不服審査法全部改正で審理員制度と行政不服審査会への諮問制度が導入されました。
審査庁の決定ルール(行審法4条)
審査庁が誰になるかは行審法4条が定めており、択一で問われやすいので整理しておきます。原則は「処分庁等に上級行政庁がある場合はその最上級行政庁」です。
ポイントは、「上級行政庁がなければ処分庁自身が審査庁になる」という点です。つまり、行審法は必ずしも「上位機関が審査する」制度ではなく、処分庁自身が見直すケースもあるということを押さえておきましょう。
審理員と行政不服審査会の役割
2014年改正で導入された審理員制度・諮問制度は、行政の自己審査の公正性を担保するための二重のチェック機構です。
- 審理員:審査庁に所属する職員のうち、審査請求に係る処分に関与していない者が指名され(行審法9条)、中立的な立場で審理を主宰し、審理終了後に「審理員意見書」を作成して審査庁に提出します(行審法42条)。
- 行政不服審査会等:審査庁は、原則として裁決前に第三者機関である行政不服審査会等に諮問しなければなりません(行審法43条1項)。ただし、審査請求人が諮問を希望しない場合や、審理員意見書どおりに認容する場合など、一定の例外では諮問が不要です。
この二段階のチェックにより、「行政が自分で審理する」ことの構造的な弱点を補っているわけです。試験では「審理員意見書を作成するのは審査庁である」といった主語のすり替え(正しくは審理員)が狙われます。
書面審理主義と口頭弁論主義
行政不服審査法における審査請求は、原則として書面審理主義が採用されています。審査請求は書面を提出して行い(行審法19条1項)、審理手続も書面で進行します。ただし、審査請求人の申立てがあった場合には、審理員は口頭で意見を述べる機会を与えなければなりません(行審法31条1項)。この口頭意見陳述において、申立人は処分庁等に対して質問を発することができます(行審法31条5項)。
行政事件訴訟法における取消訴訟は、民事訴訟法の規定が準用されるため(行訴法7条)、口頭弁論主義が採用されています。裁判所での審理は公開の法廷において口頭弁論で行われ、当事者双方が主張・立証を行います。この方式は、書面審理と比較して手続に時間とコストがかかりますが、より慎重かつ公正な審理が期待できます。
ここで注意したいのは、行審法の「書面審理主義」は「口頭意見陳述を一切認めない」という意味ではない点です。審査請求人が申し立てれば、審理員は必ず口頭意見陳述の機会を与えなければなりません(「与えることができる」ではなく「与えなければならない」=義務)。試験では「行審法では口頭による意見陳述は一切認められていない」という誤った選択肢が頻出するので注意しましょう。
審理における違法と不当の審査範囲
審理する機関の違いに関連して、審査範囲の違いも重要です。行政不服審査法では、処分の「違法」のみならず「不当」も審査の対象となります。行政庁が自ら審理を行うため、裁量の当不当にまで踏み込んだ判断が可能です。
一方、行政事件訴訟法における司法審査では、原則として処分の「違法」のみが審査の対象となり、処分の「不当」(裁量の当不当)は審査の対象となりません。裁判所は司法権の担い手として法的判断を行う機関であり、行政庁の裁量判断の当否にまで立ち入ることは、権力分立の観点から原則として許されないためです。ただし、裁量権の逸脱・濫用がある場合には、違法として取り消すことができます(行訴法30条)。
行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。
――行政事件訴訟法30条
この「違法」と「不当」の境界は、行政法全体の最重要論点の一つです。図式化すると、裁量権の逸脱・濫用に至れば「違法」となり裁判所も取り消せますが、逸脱・濫用には至らない裁量権の行使の妥当性の問題(=単なる「不当」)は、裁判所では争えず、審査請求でのみ争えるということになります。
関連判例:裁量審査の枠組み
裁量処分の司法審査について、判例は以下のような判断枠組みを示しています。
公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定することができるのであり、その判断は、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである。
――最判昭和52年12月20日(神戸税関事件)の判旨の要約
神戸税関事件は、懲戒処分の裁量審査について「社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の逸脱・濫用と認められる場合に限り違法となる」という、いわゆる社会観念審査の枠組みを示した代表的判例です。この判例が示すように、裁判所は裁量処分について「妥当か否か」ではなく「逸脱・濫用に至る違法があるか否か」のみを審査します。これに対し、審査請求であれば「妥当か否か(不当か否か)」も審査できるわけです。両者の審査範囲の違いを具体的にイメージするうえで重要な判例です。
審理手続の流れを比較|審理員・行政不服審査会 vs 訴訟手続
「誰が判断するか」の違いは、手続の流れそのものの違いとして現れます。審査請求と取消訴訟が、申立てから結論までどう進むのかを並べて見てみましょう。
審査請求の流れ(行審法)
処分(+教示:行審法82条1項)
↓
審査請求書の提出(19条1項/原則書面)
※ 知った日の翌日から3月以内(18条1項)
↓
審査庁が審理員を指名(9条1項)
※ 処分に関与した者は指名できない(9条2項1号)
↓
審理手続(原則書面)
├ 弁明書・反論書・意見書の提出
├ 口頭意見陳述(31条1項/申立てがあれば必ず機会を与える)
│ └ 処分庁等への質問権(31条5項)
└ 物件の提出要求・検証・審理関係人への質問 など
↓
審理手続の終結 → 審理員意見書の作成・提出(42条)
↓
行政不服審査会等への諮問(43条1項/例外あり)
↓
答申を受けて審査庁が裁決
(却下45条1項/棄却45条2項/事情裁決45条3項/認容46条1項)
ポイントは3つです。第一に、審理を主宰するのは審査庁ではなく審理員であること。第二に、審理終結後に審理員意見書が作られ、審査庁に提出されること(行審法42条)。第三に、審査庁は審理員意見書の提出を受けたら、原則として行政不服審査会等に諮問しなければならないこと(43条1項)。
諮問が不要となる例外は行審法43条1項各号に列挙されています。試験で問われやすいのは、④審査請求人が諮問を希望しない旨の申出をした場合(参加人が反対していない場合に限る)、⑥審査請求が不適法で却下する場合、⑦処分の全部を取り消すなど審査請求人を全部救済する場合(反対意見が出ていない場合に限る)です。「救済してもらえるのに、わざわざ第三者機関のチェックを挟む必要はない」「門前払いなら諮問しても意味がない」という発想で覚えると忘れません。
審理員・行政不服審査会の制度そのものは、行政不服審査法の審理員と審査会|改正の要点整理でさらに詳しく解説しています。
取消訴訟の流れ(行訴法)
処分(+教示:行訴法46条1項)
↓
訴えの提起(被告は国または公共団体=11条1項)
※ 知った日から6月以内(14条1項)
※ 管轄は被告の普通裁判籍地 or 処分庁の所在地(12条1項)
↓
訴訟要件の審査(処分性・原告適格・訴えの利益・出訴期間・被告適格)
└ 欠ければ却下判決(門前払い)
↓
本案審理(公開の法廷での口頭弁論/民訴法の例による=7条)
├ 主張・立証、釈明処分の特則(23条の2)
└ 必要に応じ執行停止の申立て(25条2項)
↓
判決
(却下/棄却/事情判決31条1項/認容=取消判決)
↓
取消判決の効力:形成力・拘束力(33条)・第三者効(32条1項)
こちらの特徴は、第一関門が「訴訟要件」であることです。処分性・原告適格・狭義の訴えの利益といったハードルを越えられなければ、中身を判断してもらえないまま却下されます。審査請求にも「不適法なら却下」(行審法45条1項)はありますが、行訴法の訴訟要件は判例が積み重なった精密な体系になっており、実務上の壁ははるかに高くなります。
手続比較の要点
「審理員意見書を作るのは誰か」「諮問先はどこか」は、主語をすり替えた選択肢が定番です。審理員意見書=審理員が作成(42条)、諮問=審査庁が行政不服審査会等に対して行う(43条1項)と、行為者とセットで覚えてください。
争える対象の違い|処分性の広さと訴訟類型の多さ
行政不服審査法の対象
行政不服審査法の対象は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」と「法令に基づく申請に対する不作為」です(行審法1条2項、3条)。
ここでいう「処分」の範囲は、行政事件訴訟法における「処分」よりも広いと解されています。行政事件訴訟法の処分性が認められるためには、「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」(最判昭和39年10月29日)という厳格な要件が求められます。これに対し、行政不服審査法は簡易迅速な救済を目的としているため、処分の範囲がやや広く解釈される傾向にあります。
重要判例:処分性の定式(大田区ごみ焼却場事件)
行訴法の「処分」概念を定義した基礎判例として、必ず押さえるべきものがあります。
行政庁の処分とは、…公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。
――最判昭和39年10月29日(大田区ごみ焼却場設置事件)
事案:東京都大田区がごみ焼却場を設置する計画を立て、その設置行為等の取消しが争われた事案です。
判旨:上記のとおり、抗告訴訟の対象となる「処分」とは、公権力の主体が行う行為で、直接国民の権利義務を形成・確定する法律上の効果を持つものに限られるとし、本件の焼却場設置行為は処分にあたらないとしました。
意義:この「公権力性+直接具体的な法的効果」という二要素の定式は、現在に至るまで処分性判断の出発点とされています。行政指導や内部的行為、一般的・抽象的な行為(条例の制定など)は原則として処分性が否定されます。行訴法ではこの厳格な処分性が訴訟要件(門前払いの基準)として機能する一方、行審法ではより緩やかに不服申立ての対象が認められやすい、というのが両法の対象範囲の違いの核心です。
行政事件訴訟法の対象
行政事件訴訟法は、行政不服審査法よりも多様な訴訟類型を定めています。行政事件訴訟の類型は以下の4つに大別されます。
第一に、抗告訴訟です。処分の取消しの訴え、裁決の取消しの訴え、無効等確認の訴え、不作為の違法確認の訴え、義務付けの訴え、差止めの訴えが含まれます(行訴法3条)。
第二に、当事者訴訟です。形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟(公法上の法律関係に関する確認の訴え等)があります(行訴法4条)。
第三に、民衆訴訟です。選挙訴訟や住民訴訟が典型例です(行訴法5条)。
第四に、機関訴訟です。国の機関相互間や地方公共団体の機関相互間の訴訟です(行訴法6条)。
このように、行政事件訴訟法は処分に対する不服申立てにとどまらず、公法上の法律関係全般を対象とする訴訟類型を備えている点で、行政不服審査法よりも対象範囲が広い側面もあります。
抗告訴訟6類型の整理
抗告訴訟は択一で頻出なので、6類型を一覧で押さえておきましょう。
このうち、義務付けの訴え・差止めの訴えは2004年(平成16年)の行訴法改正で法定された比較的新しい類型です。改正前は「無名抗告訴訟」として解釈上認められるかが争われていましたが、改正により明文化されました。一方、行審法側にはこのような多様な類型はなく、争い方は「処分に対する審査請求等」と「不作為に対する審査請求」に大別されます。
対象の比較まとめ
両法の対象を整理すると、個別の処分に対する不服申立ての場面では行政不服審査法のほうが処分概念が広く、救済の間口が広いといえます。一方、訴訟類型全体でみると、行政事件訴訟法は当事者訴訟や民衆訴訟など、処分以外の行政活動についても争う手段を提供しています。
整理すると、「個別処分を争う入口の広さ」では行審法、「争える行政活動の幅(訴訟類型の多様さ)」では行訴法、という棲み分けになります。この「間口は行審法が広く、守備範囲は行訴法が広い」という非対称性が、対象範囲の論点の本質です。
審査請求期間と出訴期間の違い|3月と6月、起算点の落とし穴
審査請求期間(行政不服審査法)
行政不服審査法における審査請求期間は、以下の2つの期間制限があります。
主観的審査請求期間:処分があったことを知った日の翌日から起算して3月以内(行審法18条1項)。正当な理由があるときは、この期間を経過した後でも審査請求をすることができます。
客観的審査請求期間:処分があった日の翌日から起算して1年以内(行審法18条2項)。正当な理由があるときは、この期間を経過した後でも審査請求をすることができます。
条文には括弧書きがあり、その処分について再調査の請求をしたときは、再調査の請求についての決定があったことを知った日の翌日から起算して1月が主観的期間になります(18条1項括弧書き)。客観的期間も同様に、再調査の請求をしたときは「決定があった日の翌日から1年」に読み替わります(同条2項括弧書き)。再調査の請求を経由したケースだけ「3月」が「1月」に変わる、という一段深い知識です。
なお、審査請求書を郵便または信書便で提出した場合、送付に要した日数は審査請求期間に算入されません(同条3項)。差出日で判断される、いわゆる発信主義的な扱いです。
起算点にも注意が必要です。行政不服審査法では、いずれも条文が明文で「翌日から起算して」と定めています。この明文があるのが行審法の特徴です。
出訴期間(行政事件訴訟法)
行政事件訴訟法における取消訴訟の出訴期間は、以下の2つの期間制限があります。
主観的出訴期間:処分又は裁決があったことを知った日から6月以内(行訴法14条1項)。正当な理由があるときは、この期間を経過した後でも訴えを提起することができます。
客観的出訴期間:処分又は裁決の日から1年を経過したときは、提起することができない(行訴法14条2項)。正当な理由があるときは、この限りではありません。
ここで重要な違いは条文上の起算点の書き方です。行政事件訴訟法14条1項・2項は「知つた日から」「処分又は裁決の日から」と規定しており、行政不服審査法18条のような「翌日から起算して」という文言がありません。実際の計算では初日不算入の原則により翌日から数えることになりますが、条文の文言としては行審法にだけ「翌日から起算して」があるという点が、条文素読型の出題で狙われます。
もう一つ、実務上きわめて重要な規定が行訴法14条3項です。
処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
――行政事件訴訟法14条3項
つまり、審査請求をした人については、出訴期間の起算点が「処分」から「裁決」にスライドします。審査請求をしている間に処分から6月が過ぎても、裁決を知った日から6月あるので取消訴訟を提起できます。「先に審査請求すると訴訟の期限が切れてしまうのでは」という不安を解消する規定であり、自由選択主義を実質的に機能させる裏付けにもなっています。
期間比較のポイント
両法の期間を比較すると、主観的期間は行審法が3月、行訴法が6月です。客観的期間は、いずれも1年ですが、行審法は「翌日から1年以内」、行訴法は「日から1年を経過したとき」と表現が異なります。
審査請求の期間が取消訴訟よりも短い理由は、行政不服審査法が簡易迅速な救済を目的としているためです。不服があれば速やかに審査請求をすべきであり、長期間放置した後に審査請求を認めると、行政の安定性が損なわれるためです。
期間制限・関連手続の早見表
期間まわりは数字の入れ替えが頻出です。再審査請求・再調査の請求の期間も含めて一覧化しておきましょう。
このうち、再審査請求の主観的期間が「1月」である点はうっかり間違えやすいので注意です。審査請求・再調査の請求は3月、再審査請求だけは1月(原裁決を知った日の翌日から起算)と覚えましょう。加えて、審査請求でも再調査の請求を経由した場合は「1月」に短縮される点を押さえれば、期間の論点はほぼ完成です。なお、いずれの期間も「正当な理由」があれば徒過後の申立て・提起が許容される点は共通です(行審法18条1項・2項各ただし書、行訴法14条1項〜3項各ただし書)。
よくある誤解:「審査請求期間が過ぎたら取消訴訟もできない」?
これは誤りです。審査請求期間(3月)が経過しても、出訴期間(6月)が残っていれば取消訴訟を直接提起することは可能です。自由選択主義の下では両者の期間は独立しており、「審査請求の道は閉ざされたが訴訟の道は残っている」という状況が生じ得ます。逆に審査請求前置が定められた処分では、審査請求期間を徒過すると訴訟提起も実質的に困難になる場面があるため、前置の有無で結論が変わる点に注意が必要です。
行政不服審査法における審査請求の主観的請求期間は、処分があったことを知った日の翌日から6月以内である。○か×か。
自由選択主義と審査請求前置主義|どちらを先にすべきか
「審査請求してからでないと裁判できないのか」は、実務でも受験でも最初に確認すべき論点です。結論は、原則は自由選択主義(どちらを先にしても、同時でもよい)、例外として個別の法律が審査請求前置を定めている場合だけ順番が縛られる、です。
自由選択主義の原則
行政庁の処分に不服がある場合、国民は審査請求と取消訴訟のいずれを先に行うかを自由に選択できます。これを「自由選択主義」といいます。行政事件訴訟法8条1項本文は、「処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない」と規定しています。
処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。
――行政事件訴訟法8条1項
自由選択主義の下では、以下のような選択が可能です。
- 審査請求をせずに直接取消訴訟を提起する
- 先に審査請求を行い、裁決を待ってから取消訴訟を提起する
- 審査請求と取消訴訟を同時に行う
いずれの方法も適法であり、国民の権利救済の選択肢を広く保障する趣旨です。
審査請求前置の例外
自由選択主義の例外として、個別の法律で審査請求前置主義が定められている場合があります。審査請求前置主義とは、取消訴訟を提起する前に、必ず審査請求を経なければならないとする制度です。
行政事件訴訟法8条1項ただし書は、「法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない」と規定しています。
審査請求前置が定められている例としては、国税通則法115条(国税に関する処分)、生活保護法69条(生活保護に関する処分)などがあります。
なお、2014年の行審法全部改正に伴う関係法律の整備により、不服申立前置を要する規定が大幅に整理・縮小された点も背景知識として押さえておくとよいでしょう。かつては多数の法律で前置が定められていましたが、原則自由選択・前置は限定的という現在の建付けへと整理されました。
前置主義が緩和される場合(行訴法8条2項)
審査請求前置が定められている場合でも、審査請求から一定期間裁決がないなどの事情があれば、裁決を経ずに取消訴訟を提起できます。行訴法8条2項は、以下のいずれかに該当するときは裁決を経ないで取消訴訟を提起できると定めています。
- 審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき
- 処分・処分の執行・手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき
- その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき
「審査請求から3か月で裁決がなければ前置を満たさなくても出訴できる」という3か月の数字は択一で問われます。前置主義は国民に過度の負担を強いるものであってはならない、という趣旨から設けられた緩和規定です。
裁決主義
審査請求前置に関連して、裁決主義についても押さえておく必要があります。裁決主義とは、原処分ではなく裁決のみを訴訟の対象とする制度です。通常は原処分主義(行訴法10条2項参照)が採られており、取消訴訟では原処分の違法を主張できますが、裁決主義が採用されている場合は、裁決の取消しの訴えのみが提起できます。
処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。
――行政事件訴訟法10条2項
この10条2項が「原処分主義」の根拠条文です。すなわち、原処分の違法は原処分の取消訴訟で主張すべきであり、裁決取消訴訟では「裁決固有の違法(審理手続の瑕疵など)」しか主張できません。これに対し、裁決主義は個別法で定められる例外的な制度であり、電波法96条の2などがその例です。試験対策としては、原処分主義が原則であり、裁決主義は個別法で定められた例外であるという点を押さえておけば十分です。
出題ポイント:8条・10条まわりの混同に注意
- 原則は自由選択主義(行訴法8条1項本文)。前置は法律に定めがある場合の例外。
- 前置でも、審査請求から3か月裁決がなければ出訴可(8条2項1号)。
- 原則は原処分主義(10条2項)。裁決取消訴訟では裁決固有の違法のみ主張できる。
- 裁決主義は個別法(電波法など)の例外。
裁決と判決の違い|変更できるのは審査庁だけ
行政不服審査法における裁決の種類
行政不服審査法における裁決の種類は以下のとおりです。
却下裁決:審査請求が不適法である場合に、本案の審理に入らずに退ける裁決です(行審法45条1項、49条1項)。審査請求期間の徒過や、処分性がない行為に対する審査請求などが該当します。
棄却裁決:審査請求に理由がない場合(処分が違法・不当でない場合)に行われる裁決です(行審法45条2項、49条2項)。
認容裁決:審査請求に理由がある場合に行われる裁決です。処分についての審査請求が理由がある場合、審査庁は裁決で当該処分の全部もしくは一部を取り消し、又はこれを変更します(行審法46条1項本文)。ここで重要なのは、行政不服審査法では「変更」裁決も可能である点です。
処分(事実上の行為を除く。…)についての審査請求が理由がある場合(前条第三項の規定の適用がある場合を除く。)には、審査庁は、裁決で、当該処分の全部若しくは一部を取り消し、又はこれを変更する。ただし、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない場合には、当該処分を変更することはできない。
――行政不服審査法46条1項
ただし書に注意してください。変更ができるのは、審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁自身である場合に限られます。第三者機関型の審査庁(上級行政庁でも処分庁でもない審査庁)は、取り消すことはできても変更まではできません。また、いずれの場合も審査請求人の不利益に変更することはできません(不利益変更の禁止、行審法48条)。
事情裁決:処分が違法又は不当であるにもかかわらず、これを取り消し、又は撤廃することにより公の利益に著しい障害を生ずる場合に、審査請求を棄却する裁決です(行審法45条3項)。この場合、審査庁は裁決の主文で当該処分が違法又は不当であることを宣言しなければなりません。条文の文言が「取り消し、又は撤廃」である点(「変更」ではない)は、条文素読の精度を問う出題で狙われます。「撤廃」は事実上の行為に対応する語です。
行政事件訴訟法における判決の種類
行政事件訴訟法における取消訴訟の判決の種類は以下のとおりです。
却下判決:訴えが不適法である場合に、本案の審理に入らずに退ける判決です。訴訟要件(処分性、原告適格、訴えの利益、出訴期間等)を欠く場合に行われます。
棄却判決:原告の請求に理由がない場合(処分が違法でない場合)に行われる判決です。
認容判決(取消判決):原告の請求に理由がある場合に行われる判決です。裁判所は処分又は裁決を取り消します。ここで重要なのは、行政事件訴訟法では取消判決のみが認められ、「変更」判決は認められない点です。裁判所が行政庁の処分を変更することは、司法権による行政権への過度の介入となるため、権力分立の観点から許されません。
事情判決:処分又は裁決が違法であるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合に、原告の請求を棄却する判決です(行訴法31条1項)。この場合、判決の主文で処分又は裁決が違法であることを宣言しなければなりません。事情判決は、行審法の事情裁決と対応する制度ですが、行訴法の事情判決は処分が「違法」の場合のみを対象とし、「不当」の場合は含まれない点に注意が必要です。
取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において…原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。
――行政事件訴訟法31条1項
事情裁決と事情判決の比較
「似て非なる制度」の典型が事情裁決と事情判決です。違いを表で押さえます。
共通点は「本来は取り消すべきだが、公益への著しい障害を避けるためあえて棄却し、主文で違法(不当)を宣言する」という構造です。違いは、行審法は不当も対象に含むのに対し、行訴法は違法のみを対象とする点。これは「審理の対象(違法+不当 vs 違法のみ)」の違いがそのまま反映されたものです。
取消判決の効力
取消訴訟の認容判決(取消判決)には、以下の効力があります。
形成力:取消判決によって処分は遡及的に効力を失います。
拘束力:取消判決は、その事件について処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束します(行訴法33条1項)。これにより、行政庁は同一事情の下で同一の処分を繰り返すことが禁止されます。
第三者効(対世効):取消判決は第三者に対しても効力を有します(行訴法32条1項)。通常の民事訴訟の判決効は当事者間にしか及びませんが、取消判決は行政処分という公権力の行使に関するものであるため、対世的な効力が認められています。
処分又は裁決を取り消す判決は、第三者に対しても効力を有する。
――行政事件訴訟法32条1項
処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
――行政事件訴訟法33条1項
拘束力の具体的内容(申請拒否の場合)
拘束力の重要な現れとして、申請を拒否する処分が取り消された場合、処分庁は判決の趣旨に従って改めて申請に対する処分をしなければなりません(行訴法33条2項)。これを「再処分義務(やり直し義務)」といいます。単に処分が取り消されて終わりではなく、行政庁には積極的に判決の趣旨に沿った対応をする義務が生じる、という点が拘束力の実質です。択一では「取消判決には拘束力があり、行政庁は同一の理由・同一事情で同じ処分を繰り返せない」「申請拒否処分が取り消されたら改めて処分し直す義務がある」という形で問われます。
行審法の認容裁決の効力との比較
行審法の認容裁決にも拘束力があります(行審法52条1項)。一方で、行審法の裁決には行訴法32条のような明文の「第三者効(対世効)」の規定はありません。この「第三者効は行訴法の取消判決にはあるが、行審法の裁決には(明文規定が)ない」という対比は、後掲の比較表でも要注意ポイントです。
教示制度の違い|行審法82条・83条と行訴法46条
行政不服審査法の教示制度
行政不服審査法82条1項は、行政庁が不服申立てをすることができる処分をする場合に、処分の相手方に対して、①当該処分につき不服申立てをすることができる旨、②不服申立てをすべき行政庁、③不服申立てをすることができる期間を書面で教示しなければならないと規定しています。ただし、当該処分を口頭でする場合は教示義務がありません(82条1項ただし書)。
行政庁は、審査請求若しくは再調査の請求又は他の法令に基づく不服申立て(…)をすることができる処分をする場合には、処分の相手方に対し、当該処分につき不服申立てをすることができる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。
――行政不服審査法82条1項
「処分を書面でしたときに教示する」のではなく、「教示を書面でしなければならない(口頭処分のときは不要)」という条文構造です。細かい点ですが、条文の読み取りを問う問題ではここが差になります。
さらに82条2項は、利害関係人から求められたときの教示義務を定めます。処分の相手方でなくても、利害関係人が「この処分は不服申立てができるのか、どこに、いつまでにするのか」を尋ねてきたら、行政庁は教示しなければなりません。その者が書面での教示を求めたときは、書面で行う必要があります(82条3項)。
教示の誤り・教示しなかった場合の救済
行審法は、教示制度の実効性を担保するため、誤った教示・教示の懈怠に対する救済を細かく定めています。択一頻出なので整理します。
ポイントは2つです。第一に、誤った教示・不教示があっても、その不利益を国民に負わせないよう提出先のリカバリーが用意されていること。第二に、みなしの効果は「送付された時点」ではなく「初めから」正しい行政庁に審査請求がされたものとみなすという遡及的な扱いだという点です。審査請求期間との関係で結論が変わるため、「送付時にされたものとみなす」という誤りの選択肢に引っかからないようにしましょう。
行政事件訴訟法の教示制度
行政事件訴訟法46条1項は、行政庁が取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合には、当該処分又は裁決の相手方に対し、次の3つを書面で教示しなければならないと規定しています。ただし、当該処分を口頭でする場合は教示不要である点は行審法と同じです。
行政庁は、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合には、当該処分又は裁決の相手方に対し、次に掲げる事項を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。
一 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者
二 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間
三 法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、その旨
――行政事件訴訟法46条1項
加えて、裁決主義(裁決に対してのみ取消訴訟を提起できる旨の法律の定め)がある場合には、その旨も書面で教示しなければなりません(行訴法46条2項)。さらに、形式的当事者訴訟を提起できる処分・裁決をする場合には、被告とすべき者と出訴期間を教示する義務があります(同条3項)。46条は「取消訴訟だけの教示規定」ではない、という点は見落としやすいので押さえておきましょう。
行訴法の教示制度は2004年(平成16年)の行訴法改正で新設されたものであり、それ以前は取消訴訟に関する教示義務はありませんでした。
教示制度の比較ポイント
両法の教示制度を比較すると、まず教示すべき事項が違います。行審法は「どこに(審査庁)・いつまでに(審査請求期間)」を教えるのに対し、行訴法は「誰を被告に(被告適格)・いつまでに(出訴期間)」を教えます。行審法は宛先が行政庁、行訴法は被告が国・公共団体(行訴法11条1項)なので、教示すべき情報の中身が変わるわけです。
次に決定的な違いが誤教示・不教示への救済規定の有無です。行審法には22条・83条という具体的な救済条文がありますが、行訴法には対応する明文規定がありません。出訴期間を誤って教示された場合は、行訴法14条1項・2項ただし書の「正当な理由」で救済を図ることになります。
このように、行審法のほうが教示制度が手厚く、誤りへの救済規定まで整っています。これも「国民にとって簡易迅速・利用しやすい制度」を志向する行審法の性格の表れといえます。教示制度そのものをさらに詳しく確認したい方は、行政不服審査法の教示制度|誤教示の効果も解説もあわせてご覧ください。
行政事件訴訟法における取消訴訟の認容判決では、裁判所は処分を取り消すだけでなく、変更することもできる。○か×か。
執行停止の違い|行審法25条と行訴法25条を条文で比較
両法の比較でもっとも細かく問われるのが執行停止です。条番号がどちらも25条であるうえ、要件の一部だけが共通し一部が異なるという、出題者にとって理想的な素材だからです。ここは条文の文言レベルで押さえてください。
処分の取消しを争っても、争っている間に処分の効力が発生し続けると、救済が間に合わなくなることがあります。営業停止処分を争っている間に停止期間が満了してしまえば、勝っても意味がありません。そこで、暫定的に効力を止める仕組みが執行停止です。
共通する出発点:執行不停止の原則
行審法・行訴法のいずれも「執行不停止の原則」を採用しています。審査請求・取消訴訟を提起しても、それだけでは処分の効力・執行・手続の続行は妨げられません。
審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
――行政不服審査法25条1項
処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
――行政事件訴訟法25条1項
主語が「審査請求」か「処分の取消しの訴えの提起」かの違いだけで、条文の構造はほぼ同一です。不服申立てや訴訟提起のたびに行政が止まると行政運営が滞るため、停止は例外という建付けになっています。
違い①:誰の判断で止められるか(職権停止の可否)
もっとも大きな違いがここです。行審法には職権による執行停止がありますが、行訴法にはありません。
行審法25条2項は、「処分庁の上級行政庁又は処分庁である審査庁」は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより又は職権で執行停止をとることができると定めます。一方、同条3項は、「処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない審査庁」(=第三者機関型の審査庁)については、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聴取した上で執行停止ができるとし、職権を認めていません。さらに、この場合は「処分の効力・執行・手続の続行の全部又は一部の停止」以外の措置はとれません(同項ただし書)。
処分庁の上級行政庁又は処分庁である審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより又は職権で、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止その他の措置(以下「執行停止」という。)をとることができる。
――行政不服審査法25条2項
行訴法25条2項には職権の文言がなく、「裁判所は、申立てにより、決定をもつて」執行停止をすることができると定めています。裁判所は当事者が求めていないのに自ら処分を止めることはできません。
押さえ方:職権停止ができるのは「上級行政庁である審査庁」または「処分庁である審査庁」だけ。第三者機関型の審査庁も裁判所も、申立てが必要。この三段構えで整理すると、「行審法なら常に職権停止できる」という雑な理解による失点を防げます。
違い②:どこまで止められるか(措置の範囲)
行審法25条2項の「その他の措置」という文言に注目してください。上級行政庁・処分庁である審査庁は、効力の停止・執行の停止・手続の続行の停止だけでなく、それ以外の積極的な措置もとることができます。監督権を持つ立場だからこそ可能な、行審法特有の広がりです。
対して裁判所は、行訴法25条2項が列挙する「処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止」に限られます。裁判所は行政に代わって積極的な措置を命じることはできません。第三者機関型の審査庁も、前述のとおり停止以外の措置はとれません(行審法25条3項ただし書)。
違い③:「重大な損害」要件の位置づけ
両法とも「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」という要件を用いますが、条文上の効き方が違います。
行審法25条4項は、申立てがあった場合において、処分・執行・手続の続行により生ずる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は執行停止をしなければならない(義務)と定めます。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、または本案について理由がないとみえるときは、この限りではありません。これが「必要的(義務的)執行停止」です。
行訴法25条2項は、同じく「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に裁判所が執行停止をすることができる(裁量)と定めます。そして、消極要件(公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ/本案について理由がないとみえるとき)は独立した4項に置かれ、これらに該当するときは執行停止を「することができない」とされています。
なお、「重大な損害を生ずるか否か」の判断にあたって損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するという考慮要素の規定は、行審法25条5項と行訴法25条3項にまったく同じ文言で置かれています。ここは共通点として押さえましょう。
違い④:効力の停止の補充性
「処分の効力の停止」は、より軽い手段で目的を達せられるなら選べない、という補充性のルールも両法にあります。行審法25条6項は「処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、することができない」、行訴法25条2項ただし書は「処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない」と定めます。趣旨は同じで、効力停止は最後の手段ということです。
違い⑤:内閣総理大臣の異議(行訴法のみ)
行訴法27条は、執行停止の申立てがあった場合、および執行停止の決定があった後においても、内閣総理大臣が裁判所に対して異議を述べることができると定めます。異議には理由を付さなければならず(27条2項)、その理由では処分の効力を存続等しなければ公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を示すものとされます(同条3項)。
決定的なのが4項です。異議があったときは、裁判所は執行停止をすることができず、すでに執行停止の決定をしているときはこれを取り消さなければなりません。裁判所に裁量の余地はありません。歯止めとして、内閣総理大臣はやむを得ない場合でなければ異議を述べてはならず、異議を述べたときは次の常会で国会に報告しなければならないとされています(同条6項)。
行審法には内閣総理大臣の異議に相当する制度はありません。 そもそも判断者が行政庁である以上、行政の側から止める仕組みを別途置く必要がないからです。
執行停止の比較表
執行停止のほか、仮の義務付け・仮の差止めまで含めた「仮の救済」の全体像は、仮の救済制度|執行停止・仮の義務付け・仮の差止めを比較で詳しく整理しています。
行政事件訴訟法上、裁判所は、当事者の申立てがなくても職権で執行停止の決定をすることができる。○か×か。
不作為に対する救済の違い|審査請求と義務付け訴訟
申請をしたのに行政庁が何もしてくれない(不作為)場合の争い方も、両法で大きく異なります。
行審法:不作為についての審査請求
行審法では、法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らの処分もされない場合、不作為についての審査請求ができます(行審法3条)。認容されると、審査庁は不作為が違法・不当である旨を宣言し、一定の処分をすべきものと認めるときは、当該処分をすべき旨を命じる(上級行政庁の場合)などの措置をとります(行審法49条3項)。
行訴法:不作為の違法確認+義務付け訴訟
行訴法では、不作為の違法確認の訴え(行訴法3条5項)に加え、申請型の義務付けの訴え(行訴法3条6項2号、37条の3)を提起できます。
- 不作為の違法確認の訴え:不作為が違法であることを確認するにとどまり、「処分せよ」とまでは命じられない。
- 申請型義務付け訴訟:裁判所が行政庁に対し「一定の処分をせよ」と命じることができ、より実効的。通常、不作為の違法確認訴訟や拒否処分の取消訴訟と併合提起する必要がある。
行訴法の義務付け訴訟は、不作為の違法確認では「違法だ」と確認されるだけで処分が出るとは限らないという限界を補うために2004年改正で新設されたものです。「より踏み込んだ実効的救済が必要なら義務付け訴訟」という流れを押さえましょう。
どちらを選ぶべきか|判断フローチャート
制度の違いが分かったところで、「では実際にどちらを使うのか」を整理します。まず実務目線のフローです。
処分に不服がある
│
▼
┌─ その法律に審査請求前置の定めがあるか?
│ (行訴法8条1項ただし書)
│
├─ ある ──► まず審査請求
│ ├ 3か月経っても裁決が出ない
│ ├ 著しい損害を避ける緊急の必要がある
│ ├ その他正当な理由がある
│ │ └► いずれかに当たれば裁決を待たず出訴可(8条2項)
│ └ 裁決が出た → なお不服なら取消訴訟
│
└─ ない ──► 自由選択。次の基準で選ぶ
│
├─ 「違法とまではいえないが妥当でない」
│ (裁量の使い方への不満)
│ └► 審査請求しかない(不当は訴訟で争えない)
│
├─ 費用をかけたくない/早く結論がほしい
│ └► 審査請求(無料・簡易迅速)
│
├─ 処分を「取り消す」だけでなく
│ 「もっと軽い処分に変えてほしい」
│ └► 審査請求(変更裁決が可能/行審法46条1項)
│
├─ 法解釈を確定させたい/
│ 行政庁の判断が信用できない
│ └► 取消訴訟(第三者たる裁判所の判断)
│
└─ 処分を止めないと取り返しがつかない
├ 審査請求 → 執行停止(行審法25条2〜4項)
└ 取消訴訟 → 執行停止(行訴法25条2項)
※ 内閣総理大臣の異議があれば停止不可(27条4項)
実務的には、まず審査請求を試し、それでも救われなければ取消訴訟へという順序が合理的な場面が多くなります。無料で、代理人に弁護士以外を立てることもでき、しかも不当性まで主張できるからです。審査請求をしても出訴期間は失われません。行訴法14条3項により、審査請求をした者については、裁決があったことを知った日から6月/裁決の日から1年という別枠の出訴期間が働くためです。「審査請求している間に6月が過ぎて訴えられなくなる」という心配は不要、という点は実務でも試験でも重要です。
一方、受験対策としてのフローはもっと単純です。
問題文を読む
│
├─ 主語は「審査庁」「審理員」「裁決」か? → 行審法の話
│ └ 不当も審査対象/変更可/職権停止あり/3月
│
└─ 主語は「裁判所」「判決」「原告・被告」か? → 行訴法の話
└ 違法のみ/取消しのみ/申立てが必要/6月
│
▼
数字・主語・「できる/しなければならない」を照合して正誤判定
行政法の択一は、この「どちらの制度の話か」を最初に判別するだけで、選択肢の半分は処理できます。制度を混ぜて記述してくる選択肢こそが典型的な誤り肢だからです。
記述式で問われたときの答え方
記述式では、「Xは、誰に対し、どのような手段をとることができるか。40字程度で記述しなさい」という形で、両制度の選択が問われることがあります。答案の骨格は次の3点セットです。
- 誰に対して(審査庁=○○を相手に/○○を被告として)
- どの手段を(審査請求/処分の取消しの訴え)
- 何を求めて(処分の取消し/変更/執行停止)
たとえば「処分の効力を暫定的に止めたい」という設問なら、「Yを被告として処分の取消しの訴えを提起し、あわせて執行停止の申立てをする」という組み立てになります。手段の名称を条文どおりに書けるかどうかが得点差になるため、「取消訴訟」ではなく「処分の取消しの訴え」(行訴法3条2項の法文上の名称)と書ける精度を目指しましょう。書き方の型は行政法の記述式の書き方|出題パターン別40字テンプレで詳しく扱っています。
2法の徹底比較表
ここまでの比較ポイントを一覧表に整理します。試験直前の確認にご活用ください。
項目は「読者が知りたい順」=判断者 → 審理の対象 → 期間 → 費用 → 執行停止 → 教示の順に並べています。上から6行だけ覚えれば、この論点の8割は取れます。
この比較表の各項目は、択一式で直接出題される頻出ポイントです。特に、②審理の対象(違法+不当 vs 違法のみ)、③④期間の数字(3月/翌日起算 vs 6月/知った日から)、⑥執行停止の職権と内閣総理大臣の異議、⑫認容の効果(取消し+変更 vs 取消しのみ)、⑯第三者効は、確実に暗記しておく必要があります。
試験出題ポイントと攻略法
択一式での出題パターン
行政不服審査法と行政事件訴訟法の比較問題は、択一式で毎年のように出題されています。主な出題パターンは以下の3つです。
パターン1:期間の比較
「審査請求は処分を知った日の翌日から6月以内にしなければならない」といった、期間の数字を入れ替えた選択肢が出されます。行審法は3月、行訴法は6月という数字を正確に覚えておくことが必要です。
パターン2:審理方式の比較
「行政不服審査法における審査請求は口頭弁論主義が採用されている」といった、審理方式を入れ替えた選択肢が出されます。行審法は書面審理主義、行訴法は口頭弁論主義です。
パターン3:裁決・判決の効力の比較
「取消訴訟の認容判決により、裁判所は処分を変更することができる」といった選択肢が出されます。変更裁決は行審法のみで認められ、行訴法では取消しのみです。
ひっかけの型を5つに分類する
この論点の誤り肢は、作り方が5パターンしかありません。型を知っていれば、初見の選択肢でも「これはあの型だな」と当たりを付けられます。
型1:制度の入れ替え(Aの特徴をBの説明として書く)
もっとも多い型です。行審法だけの特徴(不当性審査・変更裁決・職権による執行停止・利害関係人への教示)を行訴法の説明に紛れ込ませる、あるいはその逆をやります。
- 「取消訴訟では処分の不当性も審査できる」→ 誤り。違法性のみ(行訴法30条の反対解釈)。
- 「裁判所は処分を変更する判決をすることができる」→ 誤り。取消しのみ。
- 「行政不服審査法にも内閣総理大臣の異議の制度がある」→ 誤り。行訴法27条だけ。
- 「取消判決と同様、認容裁決にも第三者効の明文規定がある」→ 誤り。行訴法32条1項に対応する条文は行審法にない。
型2:数字のすり替え
期間は必ず狙われます。3月・6月・1年・1月・3か月(前置の緩和)という数字を、互いに入れ替えてきます。
- 「審査請求は処分を知った日の翌日から6月以内」→ 誤り。3月(行審法18条1項)。
- 「再審査請求は原裁決を知った日の翌日から3月以内」→ 誤り。1月(行審法62条1項)。
- 「取消訴訟は処分を知った日の翌日から6月以内」→ 起算点が誤り。条文上は「知つた日から」(行訴法14条1項)。
型3:主語のすり替え(行為者の入れ替え)
誰がその行為をするのかを取り違えさせる型です。
- 「審理員意見書を作成するのは行政不服審査会である」→ 誤り。審理員(行審法42条1項)。
- 「行政不服審査会に諮問するのは審理員である」→ 誤り。審査庁(同43条1項)。
- 「処分庁が誤って教示した場合、審査請求人が自ら正しい審査庁に出し直さなければならない」→ 誤り。教示された行政庁が送付する(同22条1項)。
型4:「できる」と「しなければならない」のすり替え(裁量と義務の入れ替え)
条文の語尾を変える、地味だが正答率を下げる型です。
- 「口頭意見陳述の申立てがあった場合、審理員は機会を与えることができる」→ 誤り。「与えなければならない」(行審法31条1項)。
- 「行審法上、重大な損害を避けるため緊急の必要があるときも、審査庁は執行停止をするかどうかを裁量で決められる」→ 誤り。「しなければならない」(同25条4項)。
- 「内閣総理大臣の異議があっても、裁判所は相当と認めれば執行停止を維持できる」→ 誤り。「取り消さなければならない」(行訴法27条4項)。
型5:原則と例外のすり替え
原則を例外として、例外を原則として述べる型です。
- 「取消訴訟を提起するには、原則としてまず審査請求を経なければならない」→ 誤り。原則は自由選択(行訴法8条1項本文)。
- 「審査請求前置が定められている場合、裁決を経なければ一切出訴できない」→ 誤り。3か月経過等で出訴可(同8条2項)。
- 「裁決取消訴訟では原処分の違法を主張できる」→ 誤り。原処分主義(同10条2項)。裁決固有の違法のみ。
- 「審査庁はいかなる場合でも処分を変更できる」→ 誤り。上級行政庁・処分庁でない審査庁は変更不可(行審法46条1項ただし書)。
- 「審査庁は常に職権で執行停止ができる」→ 誤り。職権が認められるのは上級行政庁・処分庁である審査庁のみ(同25条2項・3項)。
これらは、本記事の比較表の各項目を「どちらの制度の話か/主語は誰か/数字は正しいか/義務か裁量か/原則か例外か」の5点でチェックすれば確実に判別できます。行政法全体の頻出度から優先順位を確認したい方は、行政法の頻出論点ランキング|効率的な攻略法を解説もあわせてどうぞ。
記述式での出題可能性
記述式では、行政不服審査法と行政事件訴訟法のそれぞれの手続の要件や効果を40字程度で記述する問題が出題される可能性があります。特に、取消訴訟の出訴期間や審査請求期間、執行停止の要件、義務付け訴訟の要件などを正確に記述できるよう準備しておきましょう。たとえば「自由選択主義とは何か」「原処分主義とは何か」「事情判決とは何か」を、根拠条文を意識して40字でまとめる練習が有効です。
効率的な学習法
この2法の比較学習で最も効率的な方法は、上記の比較表を自分で作成することです。テキストの記述をそのまま暗記するのではなく、自分の手で表を作成する過程で、対応する制度の共通点と相違点を体系的に整理できます。
また、過去問を解く際には、各選択肢がどちらの法律について述べているのかを意識しながら解答することが重要です。選択肢の文言を注意深く読み、「審査請求」なのか「取消訴訟」なのか、「審査庁」なのか「裁判所」なのかを常に確認する習慣をつけましょう。
よくある誤解の総整理
行政不服審査法の審査請求では処分の違法性のみが審査の対象となり、不当性は審査の対象とならない。○か×か。
行政事件訴訟法では、審査請求前置主義が定められている処分であっても、審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないときは、裁決を経ないで取消訴訟を提起することができる。○か×か。
まとめ
本記事では、審査請求と取消訴訟の違いを、判断者・審理の対象・期間・費用・執行停止・教示制度という順に条文で比較し、自由選択主義と審査請求前置、どちらを選ぶかの判断フローまで整理しました。要点を5つにまとめます。
- 「誰が判断するか」がすべての出発点:行審法は行政庁(審査庁・審理員)、行訴法は裁判所。ここから審理方式(書面審理主義 vs 口頭弁論主義)、審理の対象(違法+不当 vs 違法のみ)、裁決判決の差異(変更可 vs 取消しのみ)が論理的に導かれる。
- 「不当」を争えるのは審査請求だけ:裁判所は裁量権の逸脱・濫用という違法のレベルに達しなければ取り消せない(行訴法30条)。この一点が制度選択の実質的な決め手になる。
- 期間と効力の数字を正確に覚える:主観的期間は行審法3月(翌日起算)・行訴法6月(知った日から)、再審査請求と再調査経由の審査請求のみ1月。審査請求をした者は裁決基準の出訴期間に切り替わる(行訴法14条3項)。前置でも3か月で出訴可(同8条2項)。
- 執行停止は条番号まで同じで中身が違う:職権停止と義務的停止は行審法25条(それも上級行政庁・処分庁である審査庁のみ)、内閣総理大臣の異議は行訴法27条。裁判所は申立てがなければ動けない。
- 似て非なる制度をセットで対比:事情裁決(違法「又は不当」・行審法45条3項)と事情判決(違法のみ・行訴法31条1項)、原処分主義と裁決主義、教示の誤りへの救済の有無など、ペアで覚えると混同を防げる。
両法の違いを正確に理解することは、行政法の得点力を大きく左右します。本記事の比較表を活用して、確実に得点できるようにしましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 審査請求と取消訴訟は同時にできますか?
はい、同時に行うことができます。自由選択主義(行訴法8条1項)の下では、審査請求と取消訴訟のいずれを先に行うかは国民の自由であり、両方を同時に進行させることも認められています。ただし、個別法で審査請求前置が定められている場合は、審査請求を経てから取消訴訟を提起する必要があります(ただし行訴法8条2項の緩和規定あり)。
Q2. 審査請求と取消訴訟で結論が矛盾する場合はどうなりますか?
審査請求で棄却裁決がなされた後に取消訴訟を提起し、裁判所が取消判決を下した場合、裁判所の判決が優先します。司法権の最終的な判断権を有するのは裁判所であり(憲法76条1項)、行政庁の裁決よりも裁判所の判決が優越します。
Q3. 行政不服審査法の2014年改正で何が変わりましたか?
2014年の全部改正で、審理員制度の導入(審理の公正性向上)、行政不服審査会への諮問制度の新設(第三者機関によるチェック)、審査請求への一元化(異議申立ての廃止)、審査請求期間の延長(60日→3月)などが行われました。これにより、公正性と簡易迅速性のバランスが改善されています。あわせて、関係法律の整備により審査請求前置を要する規定が大幅に整理・縮小された点も重要です。
Q4. 執行停止の要件は両法で異なりますか?
はい、異なります。行政不服審査法では、処分庁の上級行政庁または処分庁である審査庁に限り、審査請求人の申立てによるほか職権でも執行停止ができます(行審法25条2項)。上級行政庁でも処分庁でもない審査庁は、申立てにより、処分庁の意見を聴取したうえで停止できるだけで、職権では行えず、停止以外の措置もとれません(同条3項)。さらに、重大な損害を避けるため緊急の必要があると認めるときは、審査庁は執行停止をしなければなりません(同条4項=義務的執行停止)。
一方、行政事件訴訟法では、裁判所は申立てにより執行停止をすることが「できる」とされており(行訴法25条2項)、職権による停止は認められていません。加えて、内閣総理大臣の異議があれば裁判所は執行停止ができず、すでにしているときは取り消さなければなりません(行訴法27条4項)。「職権停止と義務的停止は行審法、内閣総理大臣の異議は行訴法」とセットで覚えるのが効率的です。
Q5. 不作為に対する争い方は両法でどう違いますか?
行政不服審査法では、法令に基づく申請に対して相当の期間内に何らの処分もなされない場合に、不作為についての審査請求ができます(行審法3条)。行政事件訴訟法では、不作為の違法確認の訴え(行訴法3条5項)のほか、義務付けの訴え(行訴法3条6項2号、申請型義務付け訴訟)を提起することもできます。義務付け訴訟では、裁判所が行政庁に対して処分をすべき旨を命じることができるため、より実効的な救済が期待できます。
Q6. 「原処分主義」と「裁決主義」の違いは何ですか?
原処分主義(行訴法10条2項)は、原処分の違法は原処分の取消訴訟で主張し、裁決取消訴訟では裁決固有の違法(審理手続の瑕疵など)しか主張できないとする原則です。これが日本の取消訴訟の建前です。これに対し裁決主義は、個別法(電波法など)で例外的に採用される制度で、原処分ではなく裁決のみが取消訴訟の対象となります。試験では「原則は原処分主義、裁決主義は個別法の例外」と押さえれば十分です。なお、裁決主義が採られている場合、行政庁は処分をするときに「法律にその定めがある旨」を書面で教示しなければなりません(行訴法46条2項)。
Q7. 審査請求と取消訴訟では、争える「違法」の中身も違うのですか?
「違法」という枠自体は共通です。違うのは、その外側にある「不当」まで扱えるかどうかです。審査請求では、裁量権の逸脱・濫用に至らない裁量行使の妥当性(=不当)まで審査庁が判断できます。取消訴訟では、裁判所は裁量権の範囲を超え、またはその濫用があった場合に限って取り消せるにとどまります(行訴法30条)。
イメージとしては、裁量の当否を「妥当 → やや不適切 → 著しく妥当を欠く」という帯で考えると分かりやすいでしょう。真ん中の「やや不適切」の領域は、審査庁なら取消し・変更ができるのに、裁判所は手を出せない領域です。この帯の右端に達したときだけ「社会観念上著しく妥当を欠き裁量権の逸脱・濫用にあたる=違法」となり、裁判所も取り消せるようになります(最判昭和52年12月20日・神戸税関事件)。
Q8. 審査請求をしている間に出訴期間が過ぎてしまいませんか?
過ぎません。行訴法14条3項が手当てをしています。処分について審査請求ができる場合(または行政庁が誤って審査請求ができる旨を教示した場合)に審査請求をしたときは、その審査請求をした者については、裁決があったことを知った日から6月/裁決の日から1年という別枠の出訴期間が適用されます。1項・2項の「処分を知った日から6月」に代わる期間として働くため、審査請求に時間がかかっても取消訴訟の道は閉ざされません。「まず審査請求してみる」という選択が実務上とりやすいのは、この規定があるからです。
Q9. 審査請求ができるのに、いきなり訴訟を起こしても却下されませんか?
されません。行訴法8条1項本文が「当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない」と明記しているためです。審査請求ができることは、取消訴訟の妨げにはなりません。却下されるのは、①その法律に審査請求前置の定めがあり(8条1項ただし書)、②かつ8条2項の緩和事由(3か月経過・緊急の必要・正当な理由)にも当たらないのに裁決を経ずに訴えた場合に限られます。
Q10. 費用は実際どのくらい違いますか?
審査請求には申立てに要する手数料の定めがなく、実質無料で利用できます。代理人も弁護士に限られません。これに対し取消訴訟は、訴額に応じた手数料(収入印紙)と郵便切手の予納が必要で、弁護士に依頼すれば別途費用がかかります。「簡易迅速かつ公正な手続の下で広く不服申立てをすることができるようにする」という行審法1条1項の目的が、費用面にも表れているわけです。試験でも「審査請求は無料、訴訟は有料」という対比で問われることがあります。
Q11. 不服申立ての種類は審査請求だけですか?
いいえ。行審法には、審査請求のほかに再調査の請求と再審査請求があります。いずれも法律に定めがある場合にのみ利用できる例外的な手続です。期間は、再調査の請求が処分を知った日の翌日から3月/処分の日の翌日から1年(行審法54条1項・2項)、再審査請求が原裁決を知った日の翌日から1月/原裁決の日の翌日から1年(同62条1項・2項)です。再審査請求だけが「1月」である点が、期間の暗記で最後まで残る弱点になりがちです。
Q12. 行政指導に不服がある場合、審査請求や取消訴訟はできますか?
原則としてどちらも難しい、というのが基本の答えです。行政指導は相手方の任意の協力を前提とする非権力的な行為であり、「公権力の行使に当たる行為」にも「処分」にも当たらないのが原則だからです。ただし、法律の要件に適合しない行政指導については、行政手続法36条の2の中止等の求めという別の仕組みが用意されています。詳しくは行政指導の限界と救済|中止等の求めを解説をご覧ください。なお、判例上、実質的に処分性が認められて取消訴訟の対象となった行政指導(医療法上の病院開設中止勧告に関する最判平成17年7月15日)もあり、例外の存在は押さえておきましょう。
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