行政不服審査法の全体像|行政書士試験の重要論点を整理
行政不服審査法の全体像を体系的に解説。審査請求の手続き、審理員制度、行政不服審査会、再調査の請求、教示制度など、行政書士試験で頻出の論点を整理します。
目次
行政不服審査法は、行政書士試験の行政法科目において行政手続法と並ぶ最重要法律の一つです。択一式では毎年2〜3問が出題され、審査請求の手続き・審理員制度・裁決の種類・教示制度など、幅広い論点から問われます。2014年(平成26年)に全部改正された現行法の全体像を体系的に整理しましょう。
この記事では、まず行政不服審査法の目的・基本原則を押さえ、続いて不服申立ての3類型(審査請求・再調査の請求・再審査請求)、審査請求の手続きの流れ、審理員制度と行政不服審査会、裁決の種類、教示制度、そして行政事件訴訟法との比較までを、条文と試験での出題角度に沿って解説します。条文番号と「翌日から起算」などの細かい言い回しが本試験の正誤を分けるため、引用部分は原文の言葉づかいに注意して読み込んでください。
行政不服審査法の目的と基本原則
行政不服審査法は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関して、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定める法律です。
この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。
― 行政不服審査法 第1条1項
1条の重要キーワード
| キーワード | 内容 | 試験での出題ポイント |
|---|---|---|
| 違法又は不当 | 審査の対象範囲 | 行政事件訴訟法では「違法」のみが対象だが、行政不服審査法では「不当」も対象となる |
| 簡易迅速かつ公正 | 手続の基本理念 | 2014年改正前は「簡易迅速」のみだったが、改正で「公正」が追加された |
| 国民の権利利益の救済 | 主観的目的 | 国民の個別的な権利利益を救済する主観的争訟としての性格 |
| 行政の適正な運営の確保 | 客観的目的 | 行政の自己統制機能も有する |
行政不服審査法の3つの基本原則
行政不服審査法は、以下の3つの基本原則を有しています。
- 一般概括主義(一般法としての性格): 処分に対する不服申立てについて一般的に適用される法律である。個別法に特別の定めがある場合は個別法が優先する
- 書面審理主義: 審理は原則として書面により行われる(口頭意見陳述の機会はあるが、基本は書面審理)
- 自由選択主義: 行政不服申立てと取消訴訟のいずれを先に提起するかは、原則として申立人の自由な選択に委ねられている
一般概括主義と適用除外
行政不服審査法は「一般概括主義」を採用しています。これは、不服申立ての対象を個別に列挙するのではなく、原則としてすべての処分を不服申立ての対象とし、例外的に対象外となるものを定めるという立法形式です。取消訴訟が原則として処分性を有する行為を広く対象とするのと同様の発想であり、国民の救済の間口を広く取る趣旨です。
もっとも、すべての行為が審査請求の対象となるわけではありません。行政不服審査法7条1項は、地方公共団体の機関がする処分のうち根拠が条例に基づくもの以外の一定の処分、国会・裁判所の処分、刑事事件に関する手続としての処分、学校・刑事施設等における教育・矯正等の目的を達成するためにされる処分などを、適用除外として列挙しています。これらは制度の性質や別の救済手続が用意されていることから、一般法たる行政不服審査法の対象から外されているものです。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 原則 | 処分・不作為を広く不服申立ての対象とする(一般概括主義) |
| 適用除外の例 | 国会・裁判所の処分、刑事事件に関する処分、学校・刑事施設等での教育・矯正目的の処分など(7条1項) |
| 試験での角度 | 「列挙されたもののみ対象」とする選択肢は誤り。一般概括主義であることを問う |
行政不服審査法は、行政庁の違法な処分のみを対象とし、不当な処分は対象としていない。○か×か。
不服申立ての種類
2014年改正により、不服申立ての種類は大幅に簡素化されました。改正前は「異議申立て」「審査請求」「再審査請求」の3類型がありましたが、改正後は審査請求に一元化されました。
改正前後の比較
| 改正前(旧法) | 改正後(現行法) |
|---|---|
| 異議申立て | 廃止(再調査の請求に再編) |
| 審査請求 | 審査請求(原則的な不服申立て) |
| 再審査請求 | 再審査請求(法律に特別の定めがある場合のみ) |
| ― | 再調査の請求(法律に特別の定めがある場合のみ、新設) |
現行法における不服申立ての体系
現行の行政不服審査法では、不服申立ての種類は以下のとおりです。
- 審査請求(2条・4条): 不服申立ての原則的な手段。処分庁の最上級行政庁に対して行う
- 再調査の請求(5条): 法律に特別の定めがある場合に限り、処分庁に対して行う。大量処分を迅速に見直すための簡易な手続
- 再審査請求(6条): 法律に特別の定めがある場合に限り、審査請求の裁決に不服がある者が行う
3類型の比較整理表
3つの不服申立ては、「誰に対して」「いつでもできるのか」「審理員や行政不服審査会の手続が関わるか」という点で性質が異なります。本試験では、特に「再調査の請求・再審査請求は法律に特別の定めがある場合のみできる」という限定がひっかけとして頻出します。審査請求が原則・他は例外という大枠を最初に固定しておきましょう。
| 種類 | 申立先 | 要否 | 主な目的 |
|---|---|---|---|
| 審査請求 | 原則として最上級行政庁 | 原則として常にできる | 不服申立ての中核手続 |
| 再調査の請求 | 処分庁 | 法律に特別の定めがある場合のみ | 大量処分の簡易迅速な見直し |
| 再審査請求 | 法律で定める行政庁 | 法律に特別の定めがある場合のみ | 審査請求の裁決後の更なる救済 |
審査請求の対象
審査請求は、処分についての審査請求と不作為についての審査請求の2つに大別されます。
処分についての審査請求(2条)
行政庁の処分に不服がある者は、第四条及び第五条第二項の定めるところにより、審査請求をすることができる。
― 行政不服審査法 第2条
不作為についての審査請求(3条)
法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者は、当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず、行政庁の不作為(法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないことをいう。以下同じ。)がある場合には、次条の定めるところにより、当該不作為についての審査請求をすることができる。
― 行政不服審査法 第3条
審査請求の対象に関する重要ポイント
| 項目 | 処分についての審査請求 | 不作為についての審査請求 |
|---|---|---|
| 申立人 | 処分に不服がある者 | 申請をした者 |
| 対象 | 行政庁の処分 | 行政庁の不作為 |
| 要件 | 処分があったこと | 申請から相当の期間が経過したこと |
不作為についての審査請求では、申立人は「法令に基づき申請をした者」に限られる点が重要です。法令に基づかない要望や陳情に対して応答がない場合は、ここでいう「不作為」には当たりません。また、不作為についての審査請求には後述のとおり審査請求期間の制限がなく、不作為状態が続いている限りいつでも申し立てられます。
審査請求をすべき行政庁(4条)
審査請求は、原則として処分庁等の最上級行政庁に対して行います。ただし、以下の場合は異なります。
| 処分庁等 | 審査請求先 |
|---|---|
| 主任の大臣又は宮内庁長官若しくは内閣府設置法に規定する庁の長 | 当該処分庁等(上級行政庁がないため) |
| 宮内庁長官又は庁の長が処分庁等の上級行政庁 | 宮内庁長官又は庁の長 |
| 主任の大臣が処分庁等の上級行政庁 | 当該主任の大臣 |
| 上級行政庁がない場合 | 当該処分庁等 |
| 法律に特別の定めがある場合 | その定める行政庁 |
ここでのポイントは、上級行政庁がある場合は「最上級行政庁」に審査請求する一方、上級行政庁がない大臣等の処分については「当該処分庁等」自身に審査請求するという構造です。審査請求は原則として処分庁とは別の行政庁が判断する仕組みですが、上級行政庁が存在しない場合には処分庁自身が審査庁となる点を押さえておきましょう。
審査請求の手続き
審査請求書の提出(19条)
審査請求は、審査請求書を提出して行わなければなりません(19条1項)。口頭での審査請求は原則として認められませんが、他の法律又は条例に口頭ですることができる旨の定めがある場合は、口頭で行うことも可能です(20条)。
審査請求書には、以下の事項を記載する必要があります。
処分についての審査請求の場合(19条2項):
- 審査請求人の氏名又は名称及び住所又は居所
- 審査請求に係る処分の内容
- 審査請求に係る処分があったことを知った年月日
- 審査請求の趣旨及び理由
- 処分庁の教示の有無及びその内容
- 審査請求の年月日
審査請求期間(18条)
審査請求には期間制限があり、この期間を徒過すると審査請求が不適法として却下されます。
| 区分 | 期間 | 起算日 |
|---|---|---|
| 主観的審査請求期間 | 3か月以内 | 処分があったことを知った日の翌日から |
| 客観的審査請求期間 | 1年以内 | 処分があった日の翌日から |
処分についての審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して三月(当該処分について再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定があったことを知った日の翌日から起算して一月)を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
― 行政不服審査法 第18条1項
注意点:
- 主観的期間は「知った日の翌日から3か月」であり、「3か月以内」ではない(初日不算入の原則)
- 客観的期間は「処分があった日の翌日から1年」である
- いずれの期間も「正当な理由」があるときは例外が認められる
- 不作為についての審査請求には審査請求期間の制限はない
審査請求手続の流れ(審査請求から裁決まで)
審査請求がなされてから裁決に至るまでの流れを押さえると、審理員制度や行政不服審査会への諮問が「どの段階で」登場するかが整理できます。本試験では手続の前後関係そのものが問われることがあるため、次の順序を骨格として記憶しておきましょう。
| 段階 | 主な担い手 | 内容 |
|---|---|---|
| 1. 審査請求 | 審査請求人 | 審査請求書を審査庁等に提出(19条) |
| 2. 審理員の指名 | 審査庁 | 所属職員から審理員を指名(9条) |
| 3. 弁明書・反論書 | 処分庁・審査請求人 | 審理員を介して主張・証拠を提出(29条・30条) |
| 4. 審理手続 | 審理員 | 口頭意見陳述、証拠書類等の提出、質問など(31条〜36条) |
| 5. 審理手続の終結・意見書 | 審理員 | 審理を終結し審理員意見書を審査庁へ提出(41条・42条) |
| 6. 諮問 | 審査庁 | 原則として行政不服審査会等へ諮問(43条) |
| 7. 答申 | 行政不服審査会等 | 審査庁へ答申 |
| 8. 裁決 | 審査庁 | 審理員意見書と答申を踏まえ裁決(44条以下) |
標準審理期間と執行停止
2014年改正では、簡易迅速性をより実効的にするための仕組みも整備されました。審査庁となるべき行政庁は、審査請求がその事務所に到達してから裁決をするまでに通常要すべき標準的な期間(標準審理期間)を定めるよう努めるものとされ、これを定めたときは事務所への備付け等により公にしておかなければなりません(16条)。標準審理期間の設定自体は努力義務である点が出題ポイントです。
また、審査請求は原則として処分の効力・執行・手続の続行を妨げない(執行不停止の原則)一方で、審査庁は必要があると認める場合に職権又は申立てにより執行停止をすることができます(25条)。処分庁の上級行政庁又は処分庁が審査庁である場合には、職権による執行停止も可能です。執行不停止が原則であり、執行停止が例外であるという関係は、行政事件訴訟法における執行停止と同様の発想として整理しておくとよいでしょう。
審理員制度
審理員制度は、2014年改正で新設された制度であり、審理の公正性を確保するための重要な仕組みです。
審理員の選任(9条)
審査庁は、審査庁に所属する職員のうちから第三十一条から第三十六条までに規定する審理手続を行う者を指名するとともに、その旨を審査請求人及び処分庁等に通知しなければならない。
― 行政不服審査法 第9条1項
審理員となることができない者(9条2項)
審理の公正性を確保するため、以下の者は審理員となることができません。
- 審査請求に係る処分若しくはその不作為に係る処分に関与した者又はこれらの処分若しくは不作為に係る再調査の請求についての決定に関与した者
- 審査請求人
- 審査請求人の配偶者、四親等内の親族又は同居の親族
- 審査請求人の代理人
- 審査請求人についての後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人
- その他政令で定める者
審理員が行う審理手続
審理員は、以下の審理手続を主宰します。
| 手続 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 口頭意見陳述 | 31条 | 審査請求人又は参加人の申立てがあった場合に実施 |
| 証拠書類等の提出 | 32条 | 審査請求人又は参加人による証拠書類等の提出 |
| 物件の提出要求 | 33条 | 審理員による処分庁等への物件提出要求 |
| 審理関係人への質問 | 36条 | 審理員による審理関係人への質問 |
| 審理手続の終結 | 41条 | 審理員による審理手続の終結 |
| 審理員意見書 | 42条 | 審理員が審査庁に提出する意見書 |
審理員制度の例外(9条1項ただし書)
以下の場合は、審理員の指名を要しません。
- 審査庁が内閣府設置法に規定する委員会若しくはこれに置かれる委員会又は地方自治法に規定する委員会若しくは委員である場合
- 条例に基づく処分について条例に特別の定めがある場合
- その他政令で定める場合
審理員制度の趣旨と「処分関与者の排除」
審理員制度の核心は、処分に関与した職員を審理の主宰から切り離すことで、いわば「自分の処分を自分で審理する」状態を防ぎ、審理の公正性・中立性を担保する点にあります。改正前は審査の手続を主宰する独立した者の制度がなく、処分に関与した部署が事実上審理に関与しうる構造への批判がありました。
ここで注意したいのは、審理員はあくまで「審査庁に所属する職員」から指名される点です。第三者である行政不服審査会とは異なり、審理員自体は審査庁の内部の者です。つまり審理員制度は「内部における手続の公正化」、行政不服審査会への諮問は「外部の第三者によるチェック」という二段構えで公正性を確保しています。この役割分担を取り違えると、選択肢の正誤を誤りやすいので注意しましょう。
口頭意見陳述の特徴
審理は書面審理主義が原則ですが、審査請求人又は参加人の申立てがあったときは、審理員は口頭意見陳述の機会を与えなければなりません(31条1項)。この口頭意見陳述は、すべての審理関係人を招集して行われ、申立人は審理員の許可を得て処分庁等に対し質問を発することができます(31条5項)。書面審理を補完しつつ、当事者に直接意見を述べさせる手続として、口頭意見陳述の存在と「申立てがあれば原則として機会を与えなければならない」という点はよく問われます。
審理員は、審査請求に係る処分に関与した者であっても、審査庁が特に必要と認めた場合には審理員に指名することができる。○か×か。
行政不服審査会への諮問
審査庁は、審理員意見書の提出を受けた後、原則として行政不服審査会等に諮問しなければなりません(43条1項)。これは審理の客観性・公正性を外部の第三者機関によって担保する仕組みです。
行政不服審査会の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設置根拠 | 行政不服審査法67条 |
| 設置場所 | 総務省に設置 |
| 委員数 | 9人 |
| 任期 | 3年(再任可) |
| 任命権者 | 両議院の同意を得て、総務大臣が任命 |
国の行政庁が審査庁となる場合は総務省の行政不服審査会に諮問しますが、地方公共団体の場合は条例に基づき設置される第三者機関(行政不服審査会等)に諮問します。諮問先が「審査庁の属する団体に応じて異なる」点も、制度の枠組みとして理解しておくと混乱を避けられます。
諮問が不要な場合(43条1項各号)
以下の場合は、行政不服審査会等への諮問が不要です。
- 審査請求人が諮問を希望しない旨を表明している場合
- 審査請求が不適法であり却下する場合
- 審査請求に係る処分を全部取り消し又は撤廃する場合等(審査請求に係る事実上の行為の全部を撤廃すべき旨を命じ又は撤廃する場合を含む)
- 審理員意見書に記載された審理員の意見を相当と認める場合で、審査請求人・参加人がそれぞれ審査庁の裁決の内容に同意している場合
- 法律に諮問を要しない旨の定めがある場合
諮問不要の場面を整理すると、「審査請求人にとって不利益がない結論(全部認容など)」や「審査請求人自身が諮問を望んでいない場合」「そもそも審理に立ち入らない却下の場合」など、第三者によるチェックを重ねる実益が乏しい類型であることが分かります。諮問は「審査請求人の権利利益を損なう方向の裁決」を慎重にするための手続であるという趣旨から逆算すると、各号を覚えやすくなります。
裁決の種類
審査庁は、審理員意見書及び行政不服審査会等の答申を踏まえて裁決を行います。裁決には以下の種類があります。
処分についての審査請求に対する裁決
| 裁決の種類 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 却下裁決 | 審査請求が不適法である場合 | 45条1項 |
| 棄却裁決 | 審査請求に理由がない場合 | 45条2項 |
| 認容裁決 | 審査請求に理由がある場合(処分の全部又は一部の取消し、撤廃) | 46条 |
| 事情裁決 | 処分が違法又は不当であるが、取消し等が公の利益に著しい障害を生ずる場合に棄却する | 45条3項 |
事情裁決の要件と効果
事情裁決は、処分が違法又は不当であっても、取消し等が公の利益に著しい障害を生ずる場合に例外的に行われる裁決です。
審査請求に係る処分が違法又は不当ではあるが、これを取り消し、又は撤廃することにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、審査請求人の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮した上、処分を取り消し、又は撤廃することが公共の福祉に適合しないと認めるときは、審査庁は、裁決で、当該審査請求を棄却することができる。この場合には、審査庁は、裁決の主文で、当該処分が違法又は不当であることを宣言しなければならない。
― 行政不服審査法 第45条第3項
事情裁決では、裁決の主文で処分が違法又は不当であることを宣言しなければなりません。
事情裁決は、行政事件訴訟法における事情判決(行政事件訴訟法31条)に対応する制度です。両者を比較すると、行政事件訴訟法の事情判決は「違法」であることを宣言するのに対し、行政不服審査法の事情裁決は「違法又は不当」であることを宣言する点が異なります。これは、行政不服審査法が不当性まで審査対象とすることの帰結であり、両制度の対応関係と相違点はセットで押さえておきましょう。
認容裁決における変更裁決
処分についての審査請求に理由がある場合、審査庁は処分の全部又は一部を取り消すほか、処分を変更することもできます(46条1項)。ただし、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない場合には、処分を変更することはできません。また、審査請求人の不利益に処分を変更すること(不利益変更)は禁止されています(48条)。「不利益変更の禁止」は審査請求人の救済制度であることから導かれる重要な原則であり、出題例も多い論点です。
不作為についての審査請求に対する裁決
| 裁決の種類 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 却下裁決 | 審査請求が不適法である場合 | 49条1項 |
| 棄却裁決 | 不作為が違法又は不当でない場合 | 49条2項 |
| 認容裁決 | 不作為が違法又は不当である場合(一定の処分をすべき旨を命じる等) | 49条3項 |
裁決の効力
裁決は、関係行政庁を拘束します(52条1項)。すなわち、申請に基づく処分が裁決で取り消された場合、処分庁はその裁決の趣旨に従い改めて申請に対する処分をしなければなりません。この拘束力は、行政事件訴訟法における取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条)に対応する効力です。また、裁決は審査請求人その他の関係人に送達された時点で効力を生じます(51条1項)。裁決には不可変更力(一度行った裁決を審査庁自ら取り消し・変更できない効力)が認められると一般に解されており、争訟裁断行為としての性質から導かれる点も理解しておきましょう。
再調査の請求
再調査の請求は、大量の処分を迅速に見直す必要がある場合に設けられた簡易な手続です。
再調査の請求の要件
行政庁の処分につき処分庁以外の行政庁に対して審査請求をすることができる場合において、法律に再調査の請求をすることができる旨の定めがあるときは、当該処分に不服がある者は、処分庁に対して再調査の請求をすることができる。
― 行政不服審査法 第5条1項
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 処分庁以外の行政庁に審査請求できる処分 |
| 要件 | 法律に特別の定めがある場合のみ |
| 請求先 | 処分庁 |
| 審査請求との関係 | 再調査の請求をしても審査請求は可能(5条2項) |
| 請求期間 | 処分があったことを知った日の翌日から3か月以内 |
再調査の請求は処分庁が自ら処分を見直す簡易な手続であるため、審理員の指名や行政不服審査会への諮問の手続は予定されていません。この「審理員・諮問が不要」という点は、審査請求との大きな違いとして問われやすいポイントです。なお、再調査の請求についての処分庁の判断は「裁決」ではなく「決定」と呼ばれます(59条等)。審査請求は「裁決」、再調査の請求は「決定」という名称の違いも正確に押さえておきましょう。
再調査の請求と審査請求の関係
再調査の請求をした場合でも、審査請求をすることが可能です。ただし、再調査の請求をした後に審査請求をする場合は、再調査の請求についての決定を経た後でなければなりません。もっとも、再調査の請求をした日の翌日から起算して3か月を経過しても決定がない場合等は、決定を経ずに審査請求をすることができます(5条2項ただし書)。
ここで重要なのは、再調査の請求ができる処分であっても、それを経ずに直接審査請求をすることもできるという点です(5条1項本文の構造)。再調査の請求は審査請求の前置として義務づけられているわけではなく、不服のある者は再調査の請求と審査請求のいずれかを選択できます。「再調査の請求を必ず経なければ審査請求ができない」という選択肢は誤りです。
再審査請求
再審査請求は、審査請求の裁決に不服がある者が、法律に再審査請求をすることができる旨の定めがある場合に限り、さらに不服を申し立てる手続です(6条)。再審査請求は、原裁決(審査請求についての裁決)又は当該処分を対象として行うことができます。再審査請求についても、再調査の請求と同様、「法律に特別の定めがある場合のみ」できるという限定が重要です。
| 項目 | 再調査の請求 | 再審査請求 |
|---|---|---|
| 位置づけ | 審査請求の前に行いうる簡易手続 | 審査請求の裁決後に行う手続 |
| 要否 | 法律に特別の定めがある場合のみ | 法律に特別の定めがある場合のみ |
| 申立先 | 処分庁 | 法律で定める行政庁 |
| 判断の名称 | 決定 | 裁決 |
教示制度
教示制度は、不服申立ての機会を実質的に保障するための重要な制度です。
審査請求の教示(82条)
行政庁は、審査請求若しくは再調査の請求又は他の法令に基づく不服申立て(以下この条において「不服申立て」と総称する。)をすることができる処分をする場合には、処分の相手方に対し、当該処分につき不服申立てをすることができる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。
― 行政不服審査法 第82条1項
教示制度の重要ポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 教示義務の発生 | 不服申立てをすることができる処分をする場合 |
| 教示の相手方 | 処分の相手方 |
| 教示の内容 | 不服申立てができる旨、不服申立てをすべき行政庁、不服申立てができる期間 |
| 教示の方式 | 書面による教示が原則 |
| 例外 | 処分を口頭でする場合は書面による教示は不要 |
| 利害関係人からの求め | 利害関係人から教示を求められた場合も教示義務あり(82条2項) |
教示をしなかった場合の救済(83条)
行政庁が教示をしなかった場合、処分に不服がある者は、当該処分庁に不服申立書を提出することができます。この場合、処分庁は速やかに不服申立書を適切な審査庁に送付し、その旨を不服申立人に通知しなければなりません。
誤った教示をした場合の救済
教示制度には、教示をしなかった場合だけでなく、誤った教示をした場合の救済も用意されています。例えば、審査請求をすべき行政庁を誤って教示した場合に、その教示に従って誤った行政庁に審査請求書が提出されたときは、当該行政庁は速やかに正しい審査庁に送付し、その旨を審査請求人に通知しなければなりません(22条)。この場合、初めから正しい審査庁に審査請求がされたものとみなされ、審査請求人が教示を信頼したことによって期間徒過などの不利益を受けないよう配慮されています。誤った教示の救済まで含めて「教示を信頼した者を保護する」という制度趣旨を理解しておきましょう。
| 場面 | 救済の概要 | 条文 |
|---|---|---|
| 教示をしなかった | 処分庁に不服申立書を提出できる | 83条 |
| 審査庁を誤って教示した | 正しい審査庁に送付、初めから適法な審査請求とみなす | 22条 |
| 再調査の請求ができる旨を教示しなかった等 | 各規定により救済 | 22条等 |
行政事件訴訟法との関係(自由選択主義)
行政不服審査法と行政事件訴訟法の関係は、自由選択主義が原則です。
自由選択主義とは
処分に不服がある者は、行政不服申立て(審査請求)と取消訴訟のいずれを先に提起するかを自由に選択できます。つまり、審査請求を経ずに直接取消訴訟を提起することも、審査請求を経てから取消訴訟を提起することも可能です。
処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。
― 行政事件訴訟法 第8条1項本文
審査請求前置主義(例外)
ただし、個別の法律に審査請求前置の定めがある場合は、審査請求に対する裁決を経た後でなければ取消訴訟を提起できません(行政事件訴訟法8条1項ただし書)。
審査請求前置が定められている例:
- 国税通則法に基づく処分(国税不服審判所への審査請求を経る必要)
- 生活保護法に基づく処分
- 労働者災害補償保険法に基づく処分
ただし、審査請求前置が定められている場合でも、以下のときは裁決を経ずに取消訴訟を提起できます(行政事件訴訟法8条2項)。
- 審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき
- 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき
- その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき
行政不服審査法と行政事件訴訟法の比較
| 項目 | 行政不服審査法(審査請求) | 行政事件訴訟法(取消訴訟) |
|---|---|---|
| 審査対象 | 違法又は不当 | 違法のみ |
| 判断主体 | 審査庁(行政機関) | 裁判所 |
| 申立期間 | 知った日の翌日から3か月 | 知った日から6か月 |
| 客観的期間 | 処分の日の翌日から1年 | 処分の日から1年 |
| 審理方式 | 書面審理主義(原則) | 口頭弁論主義 |
| 費用 | 無料 | 訴訟費用が必要 |
| 結論の名称 | 裁決 | 判決 |
審査請求前置主義は、かつては多数の個別法に置かれていましたが、2014年改正に伴う関係法律の整備により、不服申立前置を廃止・縮小する見直しが行われました。その結果、現在では自由選択主義が原則であることがより明確になっています。ただし、国税・社会保険関係など、大量・専門的な処分について審査請求前置が残されている分野があるため、「前置が定められている例」は典型例として押さえておきましょう。
行政不服審査法による審査請求の主観的審査請求期間は、処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月である。○か×か。
再調査の請求は、すべての処分について、処分に不服がある者がいつでも行うことができる。○か×か。
試験での出題ポイント
行政不服審査法に関する問題は、以下のパターンで出題されます。
条文知識として暗記すべき事項
- 1条の目的規定: 「簡易迅速かつ公正」「違法又は不当」「国民の権利利益の救済」「行政の適正な運営の確保」の4つのキーワード
- 審査請求期間: 主観的期間3か月、客観的期間1年
- 審理員制度: 審理員の選任方法、除斥事由
- 裁決の種類: 却下・棄却・認容の区別、事情裁決の要件
- 教示制度: 書面による教示義務、教示すべき内容
頻出のひっかけパターン
| ひっかけ | 正解 |
|---|---|
| 審査請求期間は知った日から3か月 | 知った日の翌日から3か月(18条1項) |
| 再調査の請求はいつでもできる | 法律に特別の定めがある場合のみ(5条1項) |
| 行政不服審査法では違法のみ審査できる | 違法又は不当が審査対象(1条1項) |
| 審理員は審査請求人が選任する | 審査庁が所属職員から指名する(9条1項) |
| 行政不服審査会への諮問は常に必要 | 諮問不要の場合がある(43条1項各号) |
| 審査請求は不利益にも変更できる | 不利益変更は禁止(48条) |
| 再調査の請求の判断は「裁決」 | 再調査の請求は「決定」、審査請求は「裁決」 |
| 標準審理期間の設定は法的義務 | 設定は努力義務(16条) |
よくある誤解の整理
- 「審理員=外部の第三者」という誤解: 審理員は審査庁に所属する職員から指名されます。外部の第三者によるチェックは行政不服審査会の役割です。両者を混同しないようにしましょう。
- 「審査請求を必ず経てから訴訟」という誤解: 原則は自由選択主義であり、審査請求を経ずに直接取消訴訟を提起できます。前置が必要なのは個別法に定めがある例外的な場合だけです。
- 「不作為の審査請求にも期間制限がある」という誤解: 不作為についての審査請求には期間制限がなく、不作為状態が続く限り申し立てられます。期間制限があるのは処分についての審査請求です。
- 「執行停止が原則」という誤解: 審査請求があっても処分の効力等は妨げられない執行不停止が原則で、執行停止は例外です。
関連論点と他制度との接続
行政不服審査法は単独で完結する制度ではなく、行政手続法・行政事件訴訟法と密接に関連します。処分の段階では行政手続法が適正手続を担保し(理由の提示・聴聞など)、処分後の救済段階で行政不服審査法による審査請求と行政事件訴訟法による取消訴訟が用意される、という時間軸での役割分担を意識すると、行政法全体の体系が見通しやすくなります。
特に、教示制度(行政不服審査法)と理由の提示(行政手続法)、事情裁決(行政不服審査法)と事情判決(行政事件訴訟法)、裁決の拘束力と取消判決の拘束力といった「対応する制度のペア」は、相違点とともに横断的に整理しておくと、比較問題に強くなります。
関連する論点は、次の記事もあわせて確認してください。
- 行政手続法の全体像|行政書士試験の頻出論点を整理/処分・申請・聴聞など適正手続の基本を解説
- 行政事件訴訟法の全体像|抗告訴訟と取消訴訟の要点を整理/出訴期間・原告適格・執行停止を解説
- 行政行為の種類と効力|行政書士試験の基礎を体系的に整理/公定力・不可争力などを解説
まとめ
行政不服審査法の全体像に関する重要ポイントを整理します。
- 目的: 簡易迅速かつ公正な手続の下で国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保すること。審査対象は「違法又は不当」
- 不服申立ての種類: 審査請求が原則。再調査の請求・再審査請求は法律に特別の定めがある場合のみ。再調査の請求の判断は「決定」、審査請求・再審査請求は「裁決」
- 審査請求期間: 主観的期間は知った日の翌日から3か月、客観的期間は処分の日の翌日から1年。不作為の審査請求には期間制限なし
- 手続の流れ: 審査請求 → 審理員の指名 → 弁明書・反論書 → 審理手続 → 審理員意見書 → 諮問 → 答申 → 裁決という順序を骨格として記憶する
- 審理員制度: 2014年改正で新設。審査庁が所属職員から指名。処分関与者等は審理員になれない(内部の手続公正化)
- 行政不服審査会: 審理員意見書の提出後に原則として諮問。第三者機関による審理の客観性確保。諮問不要の場合あり
- 裁決の種類: 却下・棄却・認容が基本。事情裁決は公の利益に著しい障害が生ずる場合の例外的処理。不利益変更は禁止
- 教示制度: 不服申立てできる処分をする際は書面による教示義務あり。教示をしなかった場合・誤った教示をした場合の救済も整備
- 自由選択主義: 審査請求と取消訴訟は原則として自由に選択可能。個別法で審査請求前置が定められる場合あり
行政不服審査法は、2014年の全部改正により審理員制度や行政不服審査会など新たな制度が導入されました。改正の趣旨を踏まえた出題が増加しているため、旧法との違いも含めて正確に理解しておくことが重要です。条文の細かい言い回し(「翌日から起算」「努力義務」「決定と裁決」など)が正誤を分けるため、引用条文の言葉づかいまで意識して仕上げておきましょう。