差止訴訟の要件と判例|行政事件訴訟法を解説
差止訴訟(行訴法3条7項・37条の4)の要件を徹底解説。「重大な損害」の判断基準、補充性要件、重要判例を整理して試験出題ポイントを押さえます。
目次
結論:差止訴訟の要件は5つ
差止訴訟(行政事件訴訟法3条7項・37条の4)を適法に提起し、かつ勝訴するために必要な要件は、次の5つです。
- ① 一定の処分又は裁決がされようとしていること(3条7項)── 行政庁がその処分をする蓋然性があること
- ② 重大な損害を生ずるおそれ(37条の4第1項本文)── 処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止を受けることでは容易に救済されないこと
- ③ 補充性(37条の4第1項ただし書)── その損害を避けるため他に適当な方法がないこと
- ④ 原告適格(37条の4第3項)── 処分をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者であること。処分の相手方以外の第三者については9条2項が準用される(37条の4第4項)
- ⑤ 本案勝訴要件(37条の4第5項)── 処分をすべきでないことが法令の規定から明らかであるか、又は処分をすることが裁量権の逸脱・濫用となること
①〜④が訴訟要件(満たさなければ却下=門前払い)、⑤が本案勝訴要件(満たさなければ棄却)です。この5つを条文番号とセットで言えるようにすることが、差止訴訟の学習の到達点になります。
以下、この5要件を1つずつ条文に即して深掘りし、義務付け訴訟との違い、仮の差止め、最高裁判例まで整理します。
差止訴訟は、行政庁が将来行おうとしている処分を事前に阻止するための訴訟類型です。2004年(平成16年)の行政事件訴訟法改正により法定化され、事後的救済である取消訴訟を補完する事前救済の手段として重要な役割を担っています。行政書士試験では、差止訴訟の訴訟要件(特に「重大な損害」と「補充性」)が頻出論点となっており、義務付け訴訟の要件との比較も頻繁に問われます。本記事では、差止訴訟の要件を条文に即して正確に解説し、重要判例と試験対策ポイントを整理します。
差止訴訟の全体像
差止訴訟の定義
この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。
― 行政事件訴訟法 第3条7項
差止訴訟は、行政庁がまだ処分をしていない段階で、その処分をしてはならないことを命じる判決を求める訴訟です。取消訴訟が「すでにされた処分の取消し」を求めるのに対し、差止訴訟は「これからされようとしている処分の禁止」を求める点で、事前救済の性格をもちます。
差止訴訟が創設された背景
差止訴訟は、義務付け訴訟と同様に2004年改正前の行政事件訴訟法には明文の規定がありませんでした。改正前も無名抗告訴訟として差止めの訴えが理論上は可能と解されていましたが、実際に認められた例はほとんどなく、国民の事前救済として機能していませんでした。
取消訴訟では、処分がされた後でなければ訴えを提起できません。しかし、たとえば営業停止処分がされてから取消訴訟を提起しても、訴訟が終結するまでの間に営業活動が停止され、回復困難な損害が生じるおそれがあります。このように、事後的な取消訴訟だけでは十分な権利救済を図ることができない場合に備えて、事前救済の手段として差止訴訟が法定化されました。
抗告訴訟の体系における位置づけ
差止訴訟は、行政事件訴訟法3条に規定する法定抗告訴訟の一つです。抗告訴訟の体系における差止訴訟の位置づけを整理すると以下のとおりです。
| 訴訟類型 | 時間軸 | 目的 |
|---|---|---|
| 取消訴訟 | 事後 | すでにされた処分の取消し |
| 無効等確認訴訟 | 事後 | 処分の無効・存否の確認 |
| 不作為の違法確認訴訟 | 現在進行 | 行政庁の不作為の違法確認 |
| 義務付け訴訟 | 事前(将来の処分を命じる) | 行政庁に処分をすべきことを命じる |
| 差止訴訟 | 事前(将来の処分を阻止) | 行政庁に処分をしてはならないことを命じる |
義務付け訴訟と差止訴訟は、いずれも2004年改正で法定化された事前救済型の訴訟です。義務付け訴訟が「処分をせよ」という積極的な命令を求めるのに対し、差止訴訟は「処分をするな」という消極的な命令を求める点で対照的です。
差止訴訟の訴訟要件
訴訟要件の全体構造
差止訴訟の訴訟要件は、行政事件訴訟法37条の4に規定されています。差止訴訟を適法に提起するためには、以下の要件を全て満たす必要があります。
| 要件 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 処分がされようとしていること | 行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらず、これがされようとしている場合(処分の蓋然性) | 3条7項 |
| 重大な損害のおそれ | 一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあること | 37条の4第1項本文 |
| 補充性 | その損害を避けるため他に適当な方法があるときは提起できない | 37条の4第1項ただし書 |
| 原告適格 | 処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者であること | 37条の4第3項 |
| (第三者の原告適格の判断) | 9条2項の考慮事項を準用 | 37条の4第4項 |
ここに、本案審理を経て請求が認容されるための本案勝訴要件(37条の4第5項)が加わります。訴訟要件と本案勝訴要件を混同すると、「要件を欠く場合の判決は却下か棄却か」を問う出題で必ず失点します。訴訟要件を欠けば却下判決、訴訟要件は満たすが本案勝訴要件を欠けば棄却判決です。
なお、37条の4第5項が「差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において」と書き起こされていることに注目してください。1項(重大な損害・補充性)と3項(原告適格)が訴訟要件であることが、本案勝訴要件の条文自体から読み取れる構造になっています。
要件1:「一定の処分又は裁決がされようとしている」こと(処分の蓋然性)
差止訴訟は、処分がされる前の段階で提起する訴訟であるため、行政庁がまさに処分をしようとしていること(処分の蓋然性)が必要です。処分がされる可能性が全くない場合や、処分の見込みが極めて漠然としている場合には、この要件を満たしません。
最高裁は、この点について「一定の処分がされようとしていること(行訴法3条7項)、すなわち、行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があることが、救済の必要性を基礎付ける前提として必要となる」と述べています(最判平成24年2月9日)。処分の蓋然性は、37条の4に明文で書かれた要件ではなく、3条7項の定義から導かれる要件である点に注意してください。
もっとも、処分が目前に迫っていることまでは要求されません。行政庁が処分をする蓋然性が認められれば足りると解されています。たとえば、行政庁が調査を開始している場合や、是正指導を行っている場合には、その後に不利益処分がされる蓋然性があるとして、この要件を満たし得ます。
逆に、蓋然性の判断は処分の種類ごとに個別に行われます。後述する最判平成24年2月9日は、同一の職務命令違反を理由とする懲戒処分の差止めを求めた事案で、戒告・減給・停職については蓋然性を認めつつ、免職処分については従来一度も行われていないことを理由に蓋然性を否定し、その部分の訴えのみを却下しました。「懲戒処分」とひとくくりにせず、求める差止めの対象を特定して蓋然性を検討する必要があるということです。
「一定の処分」の特定性
条文は「一定の処分又は裁決」と限定しています。これは、裁判所が差止判決を出す以上、何をしてはならないのかが判決主文として特定できる程度に処分が具体化されている必要があるという趣旨です。「今後一切の不利益処分をするな」といった漠然とした請求は、この特定性を欠くものとして認められません。この「一定の」という文言は、義務付け訴訟(3条6項・37条の2第1項)にも共通して用いられています。
要件2:重大な損害を生ずるおそれ
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。
― 行政事件訴訟法 第37条の4第1項本文
「重大な損害を生ずるおそれ」は、差止訴訟の最も重要な訴訟要件です。通常の損害では足りず、「重大な」損害であることが必要です。
差止訴訟が処分前の司法介入である以上、この要件は単なる損害の大小の問題ではありません。最高裁は、この要件の意味を次のように定式化しました。
行政庁が処分をする前に裁判所が事前にその適法性を判断して差止めを命ずるのは、国民の権利利益の実効的な救済及び司法と行政の権能の適切な均衡の双方の観点から、そのような判断と措置を事前に行わなければならないだけの救済の必要性がある場合であることを要するものと解される。したがって、差止めの訴えの訴訟要件としての上記「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解するのが相当である。
― 最高裁平成24年2月9日第一小法廷判決(民集66巻2号183頁)
この定式は、後の最判平成28年12月8日(厚木基地第4次訴訟)でもそのまま引用され、差止訴訟の「重大な損害」の判断基準として確立しています。ポイントは、「事後救済(取消訴訟+執行停止)で容易に救済を受けられるか」という比較の中で重大性が測られるという点です。損害額が大きいかどうかを単独で見るのではありません。
「重大な損害」の判断基準(37条の4第2項)
裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする。
― 行政事件訴訟法 第37条の4第2項
37条の4第2項は、「重大な損害」の判断にあたって考慮すべき事項を明示しています。
| 考慮要素 | 条文上の位置づけ | 内容 |
|---|---|---|
| 損害の回復の困難の程度 | 「考慮するものとし」=必須の考慮要素 | 事後的な取消訴訟等による救済では損害を回復することが困難であるかどうか(最も重要な考慮要素) |
| 損害の性質及び程度 | 「をも勘案する」=加重的な勘案要素 | 生命・身体・自由に対する侵害は金銭賠償では回復困難であり、重大な損害と認められやすい |
| 処分又は裁決の内容及び性質 | 「をも勘案する」=加重的な勘案要素 | 処分の公共性・公益性、対象や影響の範囲を考慮する |
条文の言い回しに注意してください。「損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質ををも勘案する」という2段構えになっており、中心に置かれているのは「損害の回復の困難の程度」です。多肢選択式でこの語順・語尾が入れ替えられる形の出題が想定されます。
また、条文が「処分又は裁決の内容及び性質」となっている点も細かい違いです。同じ構造をもつ非申請型義務付け訴訟の37条の2第2項は「処分の内容及び性質」であり、「又は裁決」がありません。差止訴訟は裁決も対象とする(3条7項が「処分又は裁決」と規定)ため、こちらだけ裁決が加わっているのです。
この判断基準は、執行停止の「重大な損害」(25条3項)と同様の構造です。特に「損害の回復の困難の程度」が最も重視される要素であり、金銭賠償で十分に回復できる損害であれば、差止訴訟の「重大な損害」には該当しにくいとされます。
「重大な損害」を基礎づける典型的な事情
判例・裁判例から、「重大な損害」を基礎づける事情としては次のようなものが挙げられます。
| 類型 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 反復継続性・累積加重性 | 同種の処分が繰り返され、しかも回を重ねるごとに重くなっていく | 職務命令違反を理由に戒告→減給→停職と加重される懲戒処分(最判平成24年2月9日) |
| 処分の一回性・即時完結性 | 処分が瞬時に完結してしまい、事後に取り消しても状況を解消できない | 航空機の離着陸のように、処分が実行された時点で完結する行為(最判平成28年12月8日) |
| 生命・身体・健康への侵害 | 金銭賠償では本質的に回復できない法益の侵害 | 騒音による睡眠妨害・健康被害への不安の反復継続的な蓄積 |
| 社会的信用の毀損 | 処分がされたこと自体が公表され、取引関係が断絶する | 営業停止処分の公表による取引先の離反 |
逆に、処分による損害が金銭賠償によって事後的に十分回復できるものであれば、「重大な損害」は認められにくくなります。
差止訴訟における「重大な損害」を判断するにあたっては、損害の回復の困難の程度を考慮するとともに、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案する。○か×か。
要件3:補充性の要件
補充性とは何か
ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
― 行政事件訴訟法 第37条の4第1項ただし書
差止訴訟の「補充性」とは、差止訴訟以外に損害を避けるための適当な方法がないことをいいます。他に適当な救済手段がある場合には、差止訴訟を提起することはできません。
条文の書き方に注目してください。37条の4第1項は、本文で「重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる」と積極的に定め、ただし書で「その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない」と消極的に定めるという二段構えになっています。つまり補充性は、条文上は「他に適当な方法があること」が訴え却下の方向に働く消極要件として書かれているのです。
この点は非申請型義務付け訴訟(37条の2第1項)と条文の作りが異なります。あちらは「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる」と、重大な損害と補充性の両方を積極要件として一文の中に並べて規定しています。実質的に要求される内容は同じですが、条文の構造は違います。多肢選択式の穴埋めでは、この違いがそのまま出題材料になります。
| 訴訟類型 | 条文の書き方 | 文言 |
|---|---|---|
| 差止訴訟(37条の4第1項) | 本文で重大な損害+ただし書で補充性 | 「他に適当な方法があるときは、この限りでない」 |
| 非申請型義務付け訴訟(37条の2第1項) | 重大な損害と補充性を一文で並列 | 「他に適当な方法がないときに限り、提起することができる」 |
「他に適当な方法」の具体例
「他に適当な方法」として考えられるものには、以下のようなものがあります。
| 方法 | 説明 |
|---|---|
| 取消訴訟+執行停止 | 処分がされた後に取消訴訟を提起し、併せて執行停止を申し立てることで十分な救済が得られる場合 |
| 行政不服審査 | 不服申立てにより処分の効力を停止することが可能で、十分な救済が得られる場合 |
| 民事訴訟 | 損害賠償訴訟や民事上の差止請求により救済が得られる場合 |
ただし、「他に適当な方法」は実効的な救済手段であることが求められます。理論上は他の方法がある場合でも、それが実効的な救済を提供しないのであれば、補充性の要件は満たされると解されます。たとえば、取消訴訟を提起して執行停止を申し立てることが可能であっても、処分がされること自体によって回復困難な損害(社会的信用の毀損など)が生じる場合には、事後的な取消訴訟では十分な救済とはいえず、差止訴訟の補充性が認められる余地があります。
各訴訟類型における補充性の要否
| 訴訟類型 | 補充性 | 重大な損害 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 差止訴訟 | 必要(ただし書の消極要件) | 必要 | 37条の4第1項 |
| 非申請型義務付け訴訟 | 必要(積極要件) | 必要 | 37条の2第1項 |
| 申請型義務付け訴訟 | 不要 | 不要 | 37条の3第1項 |
申請型義務付け訴訟には補充性も重大な損害も要件とされていない点に注意が必要です。これは、申請型義務付け訴訟が法令に基づく申請権の行使を前提としており、訴えの濫用のおそれが低いこと、また不作為の違法確認の訴えや取消訴訟との併合提起(37条の3第3項)が義務づけられており、そこで争訟の交通整理が図られているためです。
判例が示した補充性の判断枠組み
最判平成24年2月9日は、補充性について具体的な検討の順序を示しています。原審(高裁)は、教育委員会の通達が行政処分に当たるとしたうえで、その取消訴訟と執行停止によって救済が受けられるから補充性を欠くとして差止めの訴えを却下していました。これに対して最高裁は、次のように判断しています。
- 通達も職務命令も、教職員個人の権利義務を直接形成するものではないから抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。したがって取消訴訟・執行停止の対象にならず、それらを「他に適当な方法」とすることはできない
- 懲戒処分がされた後にその取消訴訟を提起して執行停止を受けるという方法との関係でも、(「重大な損害」で述べたとおり事後救済では容易に救済されない以上)補充性を欠くものではない
- そのほかに、懲戒処分の予防を目的とする事前救済の争訟方法として他に適当な方法があるとは解されない
つまり、「他に適当な方法」があるかどうかは、その方法が実際にこの損害を避けられるのかという実効性の観点から判断されるということです。理屈のうえで別の訴訟が観念できることと、それが「適当な方法」であることとは違います。
さらにこの判決は、補充性の要件が無名抗告訴訟の適法性を否定する方向にも働くことを示しました。同じ事案で原告らは、職務命令に基づく公的義務の不存在確認を無名抗告訴訟として求めていましたが、最高裁は「法定抗告訴訟である差止めの訴えを適法に提起することができ、その本案において公的義務の存否が判断の対象となる以上」、無名抗告訴訟としての確認の訴えは差止めの訴えとの関係で補充性を欠き不適法であるとしました。差止訴訟が法定されたことによって、それと同じ目的の無名抗告訴訟は使えなくなる、という関係です。
差止めの訴えの補充性の要件は、行政事件訴訟法37条の4第1項本文に「その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる」という形で規定されている。○か×か。
要件4:差止訴訟の原告適格
37条の4第3項の原告適格
差止訴訟の原告適格は、37条の4第3項に規定されています。
差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。
― 行政事件訴訟法 第37条の4第3項
「法律上の利益を有する者」という基準は、取消訴訟の原告適格(9条1項)と同じ文言です。処分の名宛人(相手方)については、通常は原告適格が問題になりません。最判平成24年2月9日も、在職中の教職員が自分に対する懲戒処分の差止めを求める以上、「その差止めを求める法律上の利益(行訴法37条の4第3項)が認められることは明らかである」と、ごく簡潔に判示しています。
原告適格が真に問題になるのは、処分の名宛人以外の第三者が差止めを求める場合です。たとえば、周辺住民が事業者への許可処分の差止めを求めるような場面がこれに当たります。
9条2項の準用(37条の4第4項)
前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第九条第二項の規定を準用する。
― 行政事件訴訟法 第37条の4第4項
第三者の原告適格の判断については、取消訴訟の原告適格の判断方法を定めた9条2項が準用されます。9条2項は、2004年改正で新設された規定で、次の考慮事項を定めています。
| 9条2項の考慮事項 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法令の文言のみによらない | 処分の根拠となる法令の規定の文言のみによって判断してはならない |
| 法令の趣旨及び目的 | 当該法令の趣旨・目的を考慮する。その際、目的を共通にする関係法令の趣旨・目的も参酌する |
| 考慮されるべき利益の内容及び性質 | 当該処分において考慮されるべき利益の内容・性質を考慮する。その際、法令に違反した処分がされた場合に害されることとなる利益の内容・性質、害される態様及び程度も勘案する |
9条2項の準用は、差止訴訟だけでなく、無効等確認訴訟(36条の解釈を通じて)、義務付け訴訟(37条の2第4項)にも及んでいます。「9条2項を準用する」という規定が置かれているのは、非申請型義務付け訴訟(37条の2第4項)と差止訴訟(37条の4第4項)の2つである、という形で覚えると整理しやすいでしょう。
原告適格の判断枠組みそのものについては、原告適格と訴えの利益の違い|9条の判断基準を解説で詳しく扱っています。
差止めの訴えにおける第三者の原告適格の判断については、行政事件訴訟法9条2項が準用される。○か×か。
要件5:差止訴訟の本案勝訴要件
本案勝訴要件の内容
差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする。
― 行政事件訴訟法 第37条の4第5項
訴訟要件を満たした上で、本案審理の結果、裁判所が差止判決をするための要件(本案勝訴要件)は以下の2つの場合です。
| 場合 | 内容 | 典型例 |
|---|---|---|
| 羈束処分の場合 | 行政庁がその処分をすべきでないことが法令の規定から明らかであるとき | 法定の処分要件を欠いているにもかかわらず処分がされようとしている場合 |
| 裁量処分の場合 | 行政庁がその処分をすることが裁量権の範囲を超え又はその濫用となるとき | 処分をすることが社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合 |
この本案勝訴要件は、義務付け訴訟の本案勝訴要件(37条の3第5項、37条の2第5項)と同様の構造になっています。
義務付け訴訟・差止訴訟の本案勝訴要件の共通構造
義務付け訴訟と差止訴訟の本案勝訴要件は、いずれも「法令の規定から明らか」又は「裁量権の逸脱・濫用」という2段構えになっています。
| 訴訟類型 | 条文 | 羈束処分 | 裁量処分 |
|---|---|---|---|
| 非申請型義務付け訴訟 | 37条の2第5項 | 処分をすべきことが法令から明らか | 処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用 |
| 申請型義務付け訴訟 | 37条の3第5項 | 処分をすべきことが法令から明らか | 処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用 |
| 差止訴訟 | 37条の4第5項 | 処分をすべきでないことが法令から明らか | 処分をすることが裁量権の逸脱・濫用 |
義務付け訴訟が「処分をすべきこと」を基準とするのに対し、差止訴訟は「処分をすべきでないこと」を基準とする点が異なるだけで、判断の枠組みは共通しています。
仮の差止め
仮の差止めの趣旨と要件
差止訴訟の判決が確定するまでの間に処分がされてしまうと、差止訴訟は意味を失います。このような事態に備えて、行政事件訴訟法は「仮の差止め」の制度を設けています(37条の5第2項)。
差止めの訴えの提起があった場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもって、仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること(以下この条において「仮の差止め」という。)ができる。
― 行政事件訴訟法 第37条の5第2項
仮の差止めの要件は以下のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 本案訴訟の係属 | 差止訴訟が裁判所に提起されていること |
| 償うことのできない損害 | 処分がされることにより償うことのできない損害を生ずるおそれがあること |
| 緊急の必要性 | 上記の損害を避けるため緊急の必要があること |
| 本案勝訴の蓋然性 | 本案について理由があるとみえること |
| 公共の福祉への影響 | 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと(37条の5第3項) |
仮の差止めと執行停止の比較
| 比較項目 | 仮の差止め | 執行停止 |
|---|---|---|
| 対象 | まだされていない処分 | すでにされた処分 |
| 条文 | 37条の5第2項 | 25条2項 |
| 損害要件 | 償うことのできない損害 | 重大な損害 |
| 方法 | 申立て | 申立て |
| 内閣総理大臣の異議 | あり(38条3項による準用) | あり(27条) |
仮の差止めの損害要件は「償うことのできない損害」であり、執行停止の「重大な損害」よりも厳格です。これは、仮の差止めがまだされていない処分の事前阻止であり、行政庁の第一次的判断権を侵害するおそれがあるため、より慎重な要件が設定されているためです。
差止訴訟と取消訴訟・義務付け訴訟の総合比較
3つの訴訟類型の比較
差止訴訟を取消訴訟及び義務付け訴訟と比較して整理します。
| 比較項目 | 取消訴訟 | 義務付け訴訟(非申請型) | 差止訴訟 |
|---|---|---|---|
| 条文 | 3条2項・8条〜 | 3条6項1号・37条の2 | 3条7項・37条の4 |
| 時間軸 | 事後(処分後) | 事前(処分前) | 事前(処分前) |
| 目的 | 処分の取消し | 処分をすべきことを命じる | 処分をしてはならないことを命じる |
| 重大な損害 | 不要 | 必要 | 必要 |
| 補充性 | 不要 | 必要 | 必要 |
| 出訴期間 | あり(6か月/1年) | なし | なし |
| 仮の救済 | 執行停止 | 仮の義務付け | 仮の差止め |
差止訴訟に出訴期間がない理由
取消訴訟には出訴期間(処分を知った日から6か月、処分の日から1年)の制限がありますが、差止訴訟にはこのような期間制限がありません。これは、差止訴訟が処分前の訴訟であるため、「処分があったことを知った日」という起算点を観念できないためです。
ただし、差止訴訟は「処分がされようとしている」ことが要件であるため、処分がされる蓋然性がなくなれば、訴えの利益が失われることになります。また、処分がすでにされてしまった場合には、差止訴訟ではなく取消訴訟を提起すべきことになります。
差止訴訟の補充性の要件とは、差止訴訟以外に損害を避けるための他に適当な方法がないことをいう。この要件は、申請型義務付け訴訟にも同様に求められる。○か×か。
差止訴訟の重要判例
差止訴訟に関する裁判例の動向
2004年改正後、差止訴訟に関する裁判例が蓄積されてきています。差止訴訟の訴訟要件(特に「重大な損害」と「補充性」)の判断は、事案に応じて個別具体的に行われています。
差止訴訟が実際に争われた事案としては、課税処分の差止め、営業停止処分の差止め、免許取消処分の差止めなどがあります。裁判例においては、「重大な損害」の有無について、処分がされた後に取消訴訟で争うことで十分な救済が得られるかどうかが重要な判断要素とされています。
判例が示す「重大な損害」の判断の方向性
裁判例の蓄積から、以下のような判断の方向性を読み取ることができます。
- 生命・身体・健康への侵害: 処分によって生命・身体・健康に直接的な危険が生じる場合は、「重大な損害」が認められやすい
- 社会的信用の毀損: 営業停止処分等がされること自体により取引先との関係が断絶されるなど、事後的に回復困難な損害が生じる場合には認められ得る
- 金銭で回復可能な損害: 処分による損害が金銭賠償で回復可能な場合は、「重大な損害」に該当しにくい
差止訴訟と他の訴訟類型の選択
実務上、差止訴訟を選択するかどうかは、事案の性質に応じた判断が必要です。処分がまだされていない段階で事前に阻止する必要がある場合に差止訴訟が適しますが、訴訟要件(重大な損害・補充性)のハードルが高いため、処分後の取消訴訟(+執行停止)のほうが実効的な場合もあります。
行政書士試験では、事案を読んで適切な訴訟類型を選択させる問題が出題されることがあります。差止訴訟と取消訴訟の使い分けを理解しておくことが重要です。
試験での出題ポイント
択一式での頻出論点
差止訴訟に関する択一式の出題パターンは主に以下のとおりです。
- 訴訟要件の正確な理解: 「重大な損害」「補充性」の両方が必要であることが問われる
- 「重大な損害」の判断基準: 37条の4第2項の考慮要素(損害の回復の困難の程度、損害の性質・程度、処分の内容・性質)が正確に出題される
- 義務付け訴訟との要件比較: 差止訴訟と義務付け訴訟(申請型・非申請型)の訴訟要件の異同が問われる
- 仮の差止めと執行停止の違い: 損害要件が「償うことのできない損害」か「重大な損害」かの違いが問われる
- 2004年改正で法定化された訴訟: 義務付け訴訟と差止訴訟がセットで出題されることが多い
多肢選択式での出題パターン
多肢選択式では、37条の4の条文の穴埋めが出題される可能性があります。特に以下の文言がキーワードとなります。
- 「重大な損害を生ずるおそれ」
- 「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」
- 「損害の回復の困難の程度を考慮」
- 「行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らか」
- 「裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき」
記述式での出題可能性
記述式では、事案を読んで差止訴訟の訴訟要件を論じさせる問題が想定されます。たとえば、「Aに対する処分がされようとしている場合に、Aはどのような訴訟を提起すべきか」という問いに対し、差止訴訟の訴訟要件(重大な損害・補充性)と本案勝訴要件を40字程度で簡潔に記述する必要があります。
頻出のひっかけポイント
| ひっかけ | 正解 |
|---|---|
| 差止訴訟には出訴期間の制限がある | 差止訴訟には出訴期間の制限はない |
| 差止訴訟は取消訴訟との併合提起が必要 | 併合提起は不要(単独で提起可能) |
| 仮の差止めの損害要件は「重大な損害」 | 「償うことのできない損害」であり、執行停止より厳格 |
| 差止訴訟は行政事件訴訟法制定当初から規定されていた | 2004年改正で法定化 |
| 差止訴訟の「重大な損害」の判断では損害額の多寡のみを考慮する | 損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質・程度、処分の内容・性質も勘案(37条の4第2項) |
まとめ
差止訴訟に関する重要ポイントを整理します。
- 差止訴訟は2004年改正で法定化された事前救済の訴訟類型: 行政庁がまだ処分をしていない段階で、処分をしてはならないことを命じる判決を求める。取消訴訟(事後救済)を補完する役割を担う
- 訴訟要件は「重大な損害のおそれ」と「補充性」: 「重大な損害」の判断にあたっては、損害の回復の困難の程度を中心に、損害の性質・程度、処分の内容・性質を勘案する(37条の4第2項)
- 仮の差止めは「償うことのできない損害」が要件: 執行停止の「重大な損害」よりも厳格な要件であり、行政庁の第一次的判断権への配慮から慎重な運用がされている
差止訴訟は、義務付け訴訟とセットで2004年改正の目玉として法定化された訴訟類型です。試験では、差止訴訟の訴訟要件を正確に理解するだけでなく、義務付け訴訟(特に申請型と非申請型)の要件との比較ができることが重要です。条文の構造を正確に暗記し、各訴訟類型の要件の異同を整理しておきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 差止訴訟と取消訴訟はどのように使い分けるのですか?
差止訴訟は処分がまだされていない段階で提起する事前救済の訴訟であり、取消訴訟は処分がすでにされた後に提起する事後救済の訴訟です。処分がされること自体によって回復困難な損害が生じるおそれがある場合には差止訴訟が適していますが、処分がすでにされた場合には取消訴訟(+必要に応じて執行停止)を提起することになります。
Q2. 差止訴訟の補充性要件において、取消訴訟の存在は「他に適当な方法」にあたりますか?
処分がまだされていない段階では、取消訴訟はそもそも提起できないため、取消訴訟の存在をもって差止訴訟の補充性を否定することは通常ありません。ただし、処分がされた後に取消訴訟を提起して執行停止を申し立てれば十分な救済が得られる場合には、差止訴訟の補充性が否定される可能性があります。この点は事案ごとの個別判断となります。
Q3. 差止訴訟には出訴期間の制限がないということですが、いつでも提起できるのですか?
差止訴訟には取消訴訟のような法定の出訴期間はありません。しかし、差止訴訟は「処分がされようとしている」ことが前提であるため、処分がされる蓋然性がある限りにおいて提起可能です。処分がすでにされてしまった場合には差止訴訟の対象がなくなり、取消訴訟で争うべきことになります。
Q4. 差止訴訟と仮の差止めの関係はどのようになっていますか?
仮の差止め(37条の5第2項)は、差止訴訟の本案判決が確定するまでの間の暫定的な救済手段です。差止訴訟を提起した上で、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」がある場合に申立てにより行います。仮の差止めが認められると、本案判決が確定するまでの間、行政庁は当該処分をすることができなくなります。
Q5. 差止訴訟の「重大な損害」と仮の差止めの「償うことのできない損害」はどう違いますか?
「重大な損害」(37条の4第1項)は差止訴訟の訴訟要件であり、「償うことのできない損害」(37条の5第2項)は仮の差止めの要件です。後者のほうが厳格な要件であり、単に重大であるだけでなく、金銭賠償等によっても回復できない性質の損害であることが求められます。これは、仮の差止めが本案判決前の暫定措置であるため、より慎重な判断が必要とされるためです。
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