(公開 2025/12/20) / 憲法

統治機構をわかりやすく|三権分立と衆議院の優越

憲法の統治機構(国会・内閣・裁判所)を条文ベースで完全整理。三権分立の相互関係、衆議院の優越6場面の要件と期間、議院内閣制、69条解散と7条解散、司法権の限界、財政まで行政書士試験に必要な知識を網羅します。

結論|統治機構は「誰が誰を抑制するか」で覚える

統治機構とは、国の権力を国会(立法)・内閣(行政)・裁判所(司法)の三つに分け、互いに抑制させあう仕組みのことです。三権分立の目的は、権力が一箇所に集中して濫用されることを防ぎ、国民の自由を守ることにあります。

最初に、三権が互いにどんな武器を持っているかを一枚で押さえてください。統治機構の択一問題は、突き詰めればこの矢印の主体と条文番号を入れ替えて誤りを作る問題がほとんどです。

国会 ──→ 内閣  :内閣総理大臣の指名(67条)/内閣不信任決議(69条)/国政調査権(62条)
内閣 ──→ 国会  :衆議院の解散(7条3号・69条)/臨時会の召集決定(53条)/予算の提出(73条5号)
国会 ──→ 裁判所:弾劾裁判所の設置(64条)/裁判所の組織を法律で定める(76条1項)
裁判所──→ 国会  :違憲立法審査権(81条)
内閣 ──→ 裁判所:最高裁長官の指名(6条2項)/その他の裁判官の任命(79条1項・80条1項)
裁判所──→ 内閣  :命令・規則・処分に対する違憲審査(81条)
国民 ──→ 三権  :選挙(15条)/最高裁裁判官の国民審査(79条2項)/憲法改正の国民投票(96条)

ここから読み取れる要点は3つです。

  1. 国会と内閣は双方向で首を絞めあっている(不信任決議 ⇄ 解散)。これが議院内閣制の核心です。
  2. 裁判所から国会・内閣への武器は違憲審査権ただ一つ。逆に国会・内閣は裁判所の人事と組織を握っています。だからこそ裁判官の身分保障(78条)が厚く定められています。
  3. 裁判所が国会に対して人事権を持つ場面はない。「最高裁判所が国会議員を罷免する」といった選択肢は、この図を思い出せば一瞬で切れます。

行政書士試験における統治機構の問題は、人権分野のように判例の論理を問う問題よりも、条文知識の正確さを問う問題が中心です。逆に言えば、条文の数字と主体さえ正確に覚えれば、努力がそのまま点数になる分野です。本記事では、衆議院の優越から財政まで、条文に即して網羅的に整理します。

衆議院の優越|6つの場面と要件・期間の完全整理

統治分野で最も出題頻度が高いのが衆議院の優越です。ここだけで1問取れることも珍しくありません。単独で検索されるほど重要な論点なので、最初に片づけてしまいましょう。

なぜ衆議院が優越するのか

衆議院の優越が認められる理由は、衆議院のほうが国民の意思をより新鮮に反映していると考えられるからです。

比較項目衆議院参議院任期4年(45条)6年(46条)解散あり(45条ただし書)なし改選解散・任期満了ごとに全員3年ごとに半数(46条)

任期が短く、解散によって任期満了前に議員としての地位を失うこともある衆議院は、その都度、直近の民意を問い直されます。この「民意との近さ」が優越の根拠です。

衆議院の優越が認められる6つの場面

場面優越の内容要件・期間両院協議会条文法律案の議決衆議院が出席議員の3分の2以上で再可決すれば法律となる参議院が受け取り後、国会休会中の期間を除き60日以内に議決しないときは、否決したものとみなすことができる任意(衆議院が求めることを妨げない)59条2項〜4項予算の議決衆議院の議決がそのまま国会の議決となる(自然成立)参議院が受け取り後、国会休会中の期間を除き30日以内に議決しないとき必要的(開いても一致しないとき)60条2項条約の承認予算と同じ(60条2項を準用)30日以内必要的61条内閣総理大臣の指名衆議院の議決がそのまま国会の議決となる衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除き10日以内に参議院が指名の議決をしないとき必要的67条2項予算の先議権予算は先に衆議院に提出しなければならない――60条1項内閣不信任決議権衆議院のみが有する。可決されると内閣は総辞職か解散かを選ばざるを得ない10日以内に解散しなければ総辞職―69条

「3分の2の再可決」と「自然成立」はまったく別物

ここが最大の分岐点です。優越の効き方が2種類あることを絶対に混同しないでください。

型対象参議院が反対したときにどうなるか再議決型法律案のみ衆議院が改めて出席議員の3分の2以上で可決しなければ成立しない。3分の2に届かなければ廃案になる自然成立型予算・条約・首相指名衆議院の議決が当然に国会の議決となる。改めて議決する必要はなく、3分の2も不要
衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
― 日本国憲法 第59条2項

予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
― 日本国憲法 第60条2項

出題ポイント: 「予算について参議院が異なった議決をしたときは、衆議院が出席議員の3分の2以上で再議決すれば予算が成立する」という選択肢は誤りです。予算に再議決という制度はありません。これは頻出のひっかけです。

両院協議会が必要的か任意かの区別

両院協議会は、両議院の意見が食い違ったときに妥協点を探る場です。開催が必須(必要的)か、開くかどうかが衆議院の自由(任意的)かが問われます。

事項両院協議会理由予算の議決(60条2項)必要的開いても一致しないことが優越発動の要件になっている条約の承認(61条)必要的60条2項を準用内閣総理大臣の指名(67条2項)必要的同上法律案の議決(59条3項)任意的「衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない」=開かなくても再議決できる

覚え方: 「法律だけが例外」。法律案は3分の2という重い要件を課す代わりに、協議会を省略できます。予算・条約・首相指名は協議会を必ず開く代わりに、通れば自動で成立します。

日数の覚え方|10日・30日・60日

日数場面10日内閣総理大臣の指名(67条2項)/内閣不信任決議後の解散期限(69条)/緊急集会の措置に対する衆議院の同意(54条3項)30日予算(60条2項)・条約(61条)/解散後の総選挙から国会召集まで(54条1項)40日解散の日から総選挙まで(54条1項)60日法律案のみなし否決(59条4項)

語呂で押さえる: 「首相はせっかち(10日)、金と外交はひと月(30日)、法律はじっくり2か月(60日)」。数字の横断整理は行政書士試験に出る数字・期間の暗記リストにまとめてあります。

衆議院の優越が認められない事項に注意

すべての場面で衆議院が優越するわけではありません。両院がまったく対等な場面を覚えておくと、消去法が効きます。

事項扱い条文憲法改正の発議各議院の総議員の3分の2以上の賛成が必要。衆議院の優越なし96条1項国政調査権の行使各議院が独立して行使。優越の観念がない62条議院規則の制定・議員の懲罰各議院の自律権。優越なし58条2項弾劾裁判所の設置両議院の議員で組織する。優越なし64条1項条約の先議権存在しない(先議権があるのは予算だけ)60条1項の反対解釈

出題ポイント: 「条約の承認は、先に衆議院に提出しなければならない」は誤りです。先議権があるのは予算のみ。条約は参議院に先に提出することもできます。これは非常によく出るひっかけです。

確認問題

条約の承認について、参議院が衆議院の可決した議案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて60日以内に議決しない場合、衆議院の議決が国会の議決となる。

○ 正しい × 誤り
解説
条約の承認について、参議院が議決しない場合に衆議院の議決が国会の議決となるのは「30日以内」です(憲法61条による60条2項の準用)。60日以内ではありません。なお、法律案については、参議院が受け取り後60日以内に議決しないとき、衆議院は参議院がこれを否決したものとみなすことができます(59条4項)。予算と条約は30日、法律案は60日、首相指名は10日という期間の違いを正確に覚えましょう。
確認問題

予算について参議院が衆議院と異なった議決をした場合、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び議決すれば、衆議院の議決が国会の議決となる。

○ 正しい × 誤り
解説
予算に「再議決」の制度はありません。憲法60条2項により、両院協議会を開いても意見が一致しないとき、または参議院が30日以内に議決しないときは、それだけで衆議院の議決が国会の議決となります(自然成立)。出席議員の3分の2以上による再議決が必要なのは法律案(59条2項)だけです。この「再議決型」と「自然成立型」の混同は最頻出のひっかけです。

国会の地位と権限(第41条~第64条)

国会の地位

国権の最高機関(41条前段)

国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
― 日本国憲法 第41条

41条前段の「国権の最高機関」の意味については、以下の学説があります。

学説内容政治的美称説(通説)国会が主権者たる国民の代表機関であることから、政治的に最も重要な機関であるという美称にすぎない。三権分立の観点から、国会が他の機関に対して法的に優位する地位にあるわけではない統括機関説国会は他の国家機関を統括する法的な地位にある

通説は政治的美称説です。三権分立の原理のもとでは、立法・行政・司法の三権は対等であり、国会が他の二権に対して法的に優越するわけではないと解されています。統括機関説を採ると、国会が裁判所の違憲審査に服さないことになりかねず、81条と矛盾します。これが通説の理由です。

なお、国会の立法過程(法律案の提出から公布まで)や委員会中心主義については国会の権能と立法過程|衆議院の優越を整理でさらに掘り下げています。

唯一の立法機関(41条後段)

「唯一の立法機関」とは、以下の二つの原則を含みます。

原則内容例外国会中心立法の原則国の立法は国会が行う両議院の規則制定権(58条2項)、最高裁判所の規則制定権(77条1項)、地方公共団体の条例制定権(94条)国会単独立法の原則国会による立法は国会だけで完結し、他の機関の関与を要しない地方特別法の住民投票(95条)

二院制(42条・43条)

国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
― 日本国憲法 第42条

日本国憲法は二院制を採用しています。二院制の意義は、①審議を慎重にする、②多様な民意を反映する、③一院の行き過ぎを他院が抑制する、という点にあります。

項目衆議院参議院条文任期4年(解散で任期満了前に終了)6年45条・46条改選全員3年ごとに半数46条解散ありなし45条・54条議員定数法律で定める法律で定める43条2項兼職同時に両議院の議員となることはできない同左48条

両議院の議員は「全国民を代表する選挙された議員」で組織されます(43条1項)。ここでいう「代表」とは、選挙区や支持団体の代理人ではなく、全国民の利益を考えて行動する自由委任の関係を意味すると解されています(政治的代表・社会学的代表)。選挙制度の詳細は選挙制度|小選挙区制・比例代表の仕組みと過去問対策で扱っています。

会期制度と会期不継続の原則

国会は常に活動しているわけではなく、一定の期間(会期)を区切って活動します。会期には次の3種類があり、これに参議院の緊急集会が加わります。

種類召集権者時期・条件会期の長さ根拠常会(通常国会)天皇(内閣の助言と承認・7条2号)毎年1回召集(憲法52条)。1月中に召集するのが常例150日間(延長は1回まで)憲法52条、国会法2条・10条・12条臨時会(臨時国会)天皇(内閣の助言と承認)内閣が召集を決定。いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば内閣は召集を決定しなければならない両議院一致の議決で決定(延長2回まで)憲法53条、国会法11条・12条特別会(特別国会)天皇(内閣の助言と承認)衆議院の解散による総選挙の日から30日以内に召集両議院一致の議決で決定(延長2回まで)憲法54条1項、国会法11条・12条参議院の緊急集会内閣衆議院が解散されている間に、国に緊急の必要があるとき―憲法54条2項ただし書

出題ポイント: 会期の決定や延長について両議院の議決が一致しないとき、または参議院が議決しないときは、衆議院の議決したところによります(国会法13条)。臨時会だけでなく特別会も同じ扱いである点に注意してください。

会期不継続の原則と一事不再議

  • 会期不継続の原則: 会期中に議決に至らなかった案件は、後の会期に継続しません(国会法68条本文)。ただし、各議院の議決で閉会中審査に付した議案と懲罰事犯の件は継続します(同条ただし書)。これは憲法上の原則ではなく国会法上の原則です。
  • 一事不再議の原則: 同一会期中に一度議決した案件を再び審議しないという原則。現行憲法・国会法に明文はなく、議事運営上の慣行と解されています。59条2項の再議決は、この原則の憲法上の例外と位置づけられます。

参議院の緊急集会(54条2項・3項)

衆議院が解散されると参議院も同時に閉会となり(54条2項本文)、国会が機能しなくなります。この空白を埋めるのが緊急集会です。

項目内容請求権者内閣のみ(参議院議員が自ら求めることはできない)要件衆議院が解散されており、かつ国に緊急の必要があるとき権限国会の権限を暫定的に代行する。ただし憲法改正の発議や内閣総理大臣の指名はできないと解されている効力採られた措置は臨時のもの。次の国会開会の後10日以内衆議院の同意がない場合は効力を失う(54条3項)

出題ポイント: 効力を失う場合、それは将来に向かって失われるにとどまり、遡って無効になるわけではありません。また、同意を与えるのは参議院ではなく衆議院です。「参議院の緊急集会なのに衆議院が同意する」という一見ちぐはぐな構造こそが出題される理由です。なお、任期満了による総選挙の場合には緊急集会は開けません(条文が「衆議院が解散されたとき」に限定しているため)。

議院の権能|「国会」と「各議院」を区別する

統治分野で最も点差がつくのが、国会全体の権能各議院が単独で行使できる権能の区別です。

主体権能条文国会(両議院の議決が必要)法律の制定、予算の議決、条約の承認、内閣総理大臣の指名、憲法改正の発議、弾劾裁判所の設置、財政の監督59条・60条・61条・67条・96条・64条・83条各議院(単独で行使)議長その他の役員の選任、議院規則の制定、議員の懲罰、議員の資格争訟の裁判、国政調査権の行使、臨時会召集の要求、会議の公開停止(秘密会)58条1項・58条2項・55条・62条・53条・57条1項

議院自律権の内容

  • 役員選任権(58条1項): 議長その他の役員を各議院が自ら選任する。
  • 議院規則制定権(58条2項前段): 会議その他の手続および内部の規律に関する規則を定める。国会中心立法の原則の例外にあたります。
  • 議員懲罰権(58条2項後段): 院内の秩序をみだした議員を懲罰できる。除名には出席議員の3分の2以上の多数による議決が必要です。
  • 議員資格争訟の裁判権(55条): 各議院が自ら裁判する。議席を失わせるには出席議員の3分の2以上の多数が必要で、この裁判の結果に対して裁判所に出訴することはできません(司法権の限界の一場面)。

定足数と表決数

場面数条文議事を開き議決するための定足数総議員の3分の1以上の出席56条1項通常の議決出席議員の過半数(可否同数なら議長が決する)56条2項秘密会を開く出席議員の3分の2以上57条1項ただし書議員の除名出席議員の3分の2以上58条2項ただし書議員の議席を失わせる(資格争訟)出席議員の3分の2以上55条ただし書法律案の再議決出席議員の3分の2以上59条2項憲法改正の発議各議院の総議員の3分の2以上96条1項

出題ポイント: 3分の2以上の要件のうち、憲法改正の発議だけが「総議員」基準で、他はすべて「出席議員」基準です。ここは数字の入れ替えで確実に狙われます。

国政調査権(62条)の性質と限界

両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。
― 日本国憲法 第62条

国政調査権は、各議院が国政について調査を行う権能です。行政書士試験では性質論と限界の両方が問われます。

補助的権能説(通説)

学説内容帰結補助的権能説(通説)国政調査権は、立法権・予算審議権など議院に与えられた権能を実効的に行使するための補助的手段である調査の範囲は議院の権能が及ぶ範囲に限られる独立権能説41条の「国権の最高機関」から導かれる独立の権能である国政全般に無制限に及ぶ

通説は補助的権能説です。ただし議院の権能(立法・予算・行政監督)は国政のほぼ全般に及ぶため、実際の調査範囲は独立権能説と大きく変わらないと説明されます。

調査の手段と限界

調査の手段は、証人の出頭・証言の要求、記録の提出要求です(62条)。強制手段としては議院証言法に基づく罰則付きの喚問がありますが、捜索・押収・逮捕といった刑事手続上の強制処分は許されません

限界内容司法権との関係裁判官の訴訟指揮など裁判の内容の当否を調査したり、判決を批判する目的での調査は、司法権の独立を侵害するため許されない(浦和充子事件で問題化)検察権との関係起訴・不起訴の判断への政治的圧力となる調査、捜査の続行に重大な支障を及ぼす調査は許されないと解されている人権との関係思想・良心の自由(19条)やプライバシー権を侵害する調査は許されない。証人にも黙秘権の保障が及ぶ行政との関係内閣・官公署は報告・記録提出の求めに応じる義務を負うが、国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣の声明があれば提出を要しない(国会法104条)

出題ポイント: 「国政調査権に基づき、議院は令状なしに住居を捜索することができる」は誤り。国政調査権はあくまで議院の権能行使を助けるためのもので、刑事司法的な強制処分権を含みません。

国会議員の特権

特権内容条文歳費受領権法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける49条不逮捕特権法律の定める場合を除き、国会の会期中は逮捕されない。会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば会期中これを釈放しなければならない50条免責特権議院で行った演説、討論または表決について、院外で責任を問われない51条

不逮捕特権の例外は憲法ではなく国会法にある

憲法50条は「法律の定める場合を除いては」と規定するだけで、例外を自ら定めていません。具体的な例外は国会法33条にあります。

各議院の議員は、院外における現行犯罪の場合を除いては、会期中その院の許諾がなければ逮捕されない。
― 国会法 第33条

したがって例外は、①院外における現行犯罪の場合、②その議院の許諾がある場合の2つです。

出題ポイント: 「院内における現行犯」は例外ではありません。院内の秩序維持は議院自律権(議長の警察権)に委ねられているためです。「院外」の2文字を「院内」に入れ替えるのは典型的なひっかけです。また、会期中に限られるので、閉会中は特権が働きません。

免責特権の範囲

免責されるのは院外での法的責任(刑事責任・民事上の損害賠償責任・懲戒責任)です。次の点に注意してください。

  • 院内での懲罰(58条2項)は免責されない。院外で責任を問われないだけであって、所属議院からの懲罰は受けます。
  • 保護される主体は国会議員です。国務大臣が議院で発言した場合、その者が国会議員でなければ免責特権は及びません。地方議会の議員にも免責特権はありません(憲法51条は国会議員についての規定)。
  • 対象は「演説、討論又は表決」ですが、これに準ずる議員の職務行為(委員会での質疑、意見表明など)も含むと解されています。
  • 判例は、国会議員の国会質疑が個別の国民の名誉を害した場合であっても、国家賠償法1条1項の適用上、原則として国は賠償責任を負わないとしつつ、議員が違法または不当な目的をもって事実を摘示するなど職務上の義務に明白に違反した場合には例外を認めています(最判平成9年9月9日・病院長自殺事件)。国家賠償の枠組みは国家賠償法1条を徹底解説|公務員の不法行為と国の責任で詳しく整理しています。

内閣の組織と権限(第65条~第75条)

行政権の帰属(65条)

行政権は、内閣に属する。
― 日本国憲法 第65条

行政権の定義については、「法のもとに法の規制を受けながら、現実に国家目的の積極的実現をめざして行われる全体として統一性をもった継続的な形成的国家活動」(控除説・消極説)が通説です。端的には、国家作用のうち立法と司法を除いたすべての作用が行政権に含まれます。

控除説が採られる理由は、行政作用があまりに多種多様で積極的に定義しきれないこと、そして歴史的に君主の権能から立法権と司法権が分離していった過程を素直に説明できることにあります。行政作用を法律の枠内で統制する原理については法律による行政の原理|法律の留保を図解で解説を参照してください。

独立行政委員会は65条に違反しないか

人事院・公正取引委員会・国家公安委員会のように、内閣の指揮監督から独立して職権を行使する独立行政委員会が65条に反しないかが議論されます。通説は、①65条は「すべての行政権が内閣に属する」とまでは規定していない、②委員の任命権と予算を通じて内閣のコントロールが及んでいる、③職務の政治的中立性の要請が高い、といった理由から合憲と解しています。

内閣の組織(66条・68条)

項目内容条文構成首長たる内閣総理大臣とその他の国務大臣66条1項文民条項内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない66条2項国務大臣の資格過半数は国会議員の中から選ばれなければならない68条1項ただし書責任行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う66条3項訴追の同意国務大臣は在任中、内閣総理大臣の同意がなければ訴追されない(訴追の権利は害されない=時効は進行しない)75条

出題ポイント: 「国務大臣は全員が国会議員でなければならない」は誤り。過半数です。また文民条項の対象は内閣総理大臣を含むすべての国務大臣で、「内閣総理大臣のみ」とする選択肢は誤りです。

議院内閣制

日本国憲法は議院内閣制を採用しています。これは、内閣が国会(特に衆議院)の信任に基づいて存立し、国会に対して連帯して責任を負う制度です。大統領制のように行政府の長を国民が直接選ぶ制度とは対照的です。

議院内閣制の根拠となる条文は以下のとおりです。

条文内容66条3項内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ67条1項内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名される68条1項国務大臣の過半数は国会議員の中から選ばれなければならない69条衆議院で不信任の決議案が可決された場合、10日以内に衆議院が解散されない限り、内閣は総辞職しなければならない63条国務大臣は議席の有無にかかわらず議院に出席して発言でき、答弁・説明のため出席を求められたときは出席しなければならない

議院内閣制の本質論として、責任本質説(内閣が議会に対して連帯責任を負う点が本質)と均衡本質説(議会の不信任権と内閣の解散権が均衡している点が本質)の対立があります。均衡本質説は内閣の自由な解散権を導きやすく、7条解散を支持する論拠の一つとされます。議院内閣制の全体像は内閣の権能と議院内閣制|衆議院解散の論点でも扱っています。

内閣総理大臣の指名と任命

段階主体条文指名国会(国会議員の中から国会の議決で。他のすべての案件に先立って行う)67条1項任命天皇(国会の指名に基づく国事行為)6条1項国務大臣の任命内閣総理大臣(天皇が認証する・7条5号)68条1項

出題ポイント: 「指名は国会、任命は天皇」「国務大臣は内閣総理大臣が任命、天皇は認証するだけ」。主体の入れ替えは最頻出です。最高裁判所長官については内閣が指名し天皇が任命(6条2項)なので、あわせて整理しておきましょう。

内閣総理大臣の権限

内閣総理大臣は「内閣の首長」(66条1項)として、以下の重要な権限を有しています。

権限内容根拠国務大臣の任命権国務大臣を任命する。過半数は国会議員から選ぶ憲法68条1項国務大臣の罷免権任意に国務大臣を罷免することができる憲法68条2項国務大臣の訴追同意権国務大臣の在任中の訴追には内閣総理大臣の同意が必要憲法75条内閣の代表権・指揮監督権内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する憲法72条法律・政令への連署主任の国務大臣の署名に加えて連署する憲法74条閣議の主宰・発議権閣議を主宰し、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議できる内閣法4条2項処分・命令の中止権行政各部の処分または命令を中止させ、内閣の処置を待つことができる内閣法8条権限疑義の裁定権主任の大臣の間の権限疑義を閣議にかけて裁定する内閣法7条
罷免権の重要性: 内閣総理大臣は国務大臣を任意に罷免することができます(68条2項)。国会の同意や閣議の決定は不要で、内閣総理大臣の専権です。明治憲法下の内閣総理大臣が「同輩中の首席」にすぎなかったのと対照的に、この罷免権が現行憲法における首長としての地位を支えています。

判例(ロッキード事件丸紅ルート・最大判平成7年2月22日)

内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有する。
― 最大判平成7年2月22日(ロッキード事件丸紅ルート)

出題ポイント: 内閣法6条は「内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する」と定めています。判例は、閣議決定がなくても内閣の明示の意思に反しない限り指導・助言等の指示を与えられるとして、72条の指揮監督権を柔軟に解しました。「閣議決定がなければ一切の働きかけができない」とする選択肢は誤りです。

閣議

内閣の意思決定は閣議によって行われます。憲法に閣議の規定はなく、内閣法が定めています。

事項内容根拠内閣の職権行使の方法内閣がその職権を行うのは閣議による内閣法4条1項主宰者内閣総理大臣が主宰する内閣法4条2項各大臣の閣議請求権各大臣は案件のいかんを問わず、内閣総理大臣に提出して閣議を求めることができる内閣法4条3項議決方法全員一致が慣例(法律上の明文はない)慣行

出題ポイント: 閣議の全員一致は慣行であって法律上の要請ではありません。「内閣法は閣議の全員一致を定めている」という選択肢は誤りです。また、閣議で意見がまとまらない場合、内閣総理大臣は反対する大臣を罷免することで全員一致を実現できます(68条2項との連動)。

内閣の権限(73条)

内閣は、他の一般行政事務のほか、次の事務を行います。73条は「項」ではなく「号」で構成されている点に注意してください。条文引用で「73条1項」と書くのは誤りです。

号内容1号法律を誠実に執行し、国務を総理すること2号外交関係を処理すること3号条約を締結すること。ただし、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする4号法律の定める基準に従い、官吏に関する事務を掌理すること5号予算を作成して国会に提出すること6号この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、政令には特にその法律の委任がある場合を除いては罰則を設けることができない7号大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること

このほか、憲法の他の条文で内閣に与えられた権限として、天皇の国事行為に対する助言と承認(3条・7条)、最高裁判所長官の指名(6条2項)、その他の裁判官の任命(79条1項・80条1項)、臨時会の召集決定(53条)、参議院の緊急集会の請求(54条2項)、予備費の支出(87条)、決算の国会提出(90条)、財政状況の報告(91条)があります。

出題ポイント: 恩赦(大赦・特赦等)を決定するのは内閣(73条7号)で、認証するのが天皇(7条6号)です。「天皇が恩赦を決定する」は誤り。この「内閣が決定・天皇が認証」の関係は繰り返し出題されます。

政令と罰則: 政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができません(73条6号ただし書)。ここは「6号」であって「6項」ではありません。委任立法の限界については法律による行政の原理もあわせて確認してください。

内閣の総辞職

内閣が総辞職しなければならない場合は、次の3つに限られます。

場面根拠条文衆議院で不信任の決議案が可決され、または信任の決議案が否決された場合に、10日以内に衆議院が解散されなかったとき69条内閣総理大臣が欠けたとき(死亡・辞職・国会議員たる地位の喪失等)70条衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったとき70条

総辞職した内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行います(71条)。行政に空白を生じさせないための規定で、この状態の内閣を「職務執行内閣」と呼びます。

出題ポイント: ①参議院議員通常選挙の後に総辞職の義務はありません(衆議院議員総選挙後のみ)。②「内閣総理大臣が欠けたとき」であって、国務大臣が欠けても総辞職は不要です。③総辞職の起点は「総選挙のとき」ではなく「総選挙後に初めて国会の召集があったとき」です。この3点の入れ替えが典型的なひっかけです。

衆議院の解散|69条解散と7条解散

衆議院の解散は、内閣が国会に対して持つ最も強力な武器であり、議院内閣制の均衡を支える制度です。同時に、憲法の条文が正面から解散権の所在を書いていないため、学説上の論争があります。

解散権の根拠をめぐる学説

学説内容評価69条限定説69条の場合(不信任決議可決・信任決議否決)にのみ解散できる内閣の解散権を過度に狭め、均衡を欠く7条説(通説・実務)天皇の国事行為として「衆議院を解散すること」(7条3号)が定められており、内閣の助言と承認という実質的決定を通じて内閣が解散権を行使できる。69条の場合に限定されない実務が一貫して採用65条説解散は立法でも司法でもない国家作用であり、控除説により行政権に属する(=内閣が行う)学説の一つ制度説(均衡本質説)議院内閣制の本質から、内閣は自由な解散権を持つ7条説を補強

通説・実務は7条説です。天皇の国事行為はすべて内閣の助言と承認を必要とし(3条・7条柱書)、天皇には政治的決定権がない以上、実質的な解散決定権は助言と承認を行う内閣にあると考えるのが自然だからです。実際、69条によらない解散(いわゆる「7条解散」)は戦後繰り返し行われています。

解散から特別会召集までの流れ

【内閣が解散を決定(助言と承認)】
        ↓
【天皇が衆議院を解散(7条3号)】── 参議院も同時に閉会(54条2項本文)
        ↓  解散の日から40日以内(54条1項)
【衆議院議員総選挙】               ※この間に緊急の必要があれば参議院の緊急集会(54条2項ただし書)
        ↓  選挙の日から30日以内(54条1項)
【特別会の召集】
        ↓
【内閣は総辞職(70条)】→【新たな内閣総理大臣の指名(67条)】

出題ポイント: 「40日以内に総選挙、30日以内に召集」の順序と数字が問われます。「30日以内に総選挙、40日以内に召集」と入れ替えた選択肢は誤りです。

解散の効力は司法審査の対象になるか

苫米地事件(最大判昭和35年6月8日)

  • 事案: 抜き打ち解散(7条解散)によって議員の地位を失った衆議院議員が、解散は違憲無効であるとして歳費の支払いを求めた。
  • 争点: 衆議院の解散の効力について裁判所が判断できるか。
  • 判旨: 直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は、たとえそれが法律上の争訟となり有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、裁判所の審査権の外にある。その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられている。
  • 意義: 統治行為論を正面から採用した判例。なお最高裁は7条説・69条限定説のいずれが正しいかについては判断を示していません。

出題ポイント: 「最高裁は7条解散を合憲と判示した」は誤りです。最高裁は解散の効力そのものの判断を回避したのであって、7条説を採用したわけではありません。司法権の限界の全体像は司法権の範囲と限界|統治行為・部分社会の法理で詳しく整理しています。

確認問題

内閣は、衆議院で内閣不信任の決議案が可決されたときは、10日以内に衆議院を解散するか、または総辞職しなければならない。

○ 正しい × 誤り
解説
憲法69条は「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」と定めています。したがって内閣には「10日以内に解散する」か「総辞職する」かの二択しかありません。なお、信任決議案が否決された場合も同じ扱いになる点、この権限を持つのは衆議院のみで参議院にはない点(参議院の問責決議には法的拘束力がない)を押さえましょう。
確認問題

内閣総理大臣が国務大臣を罷免するには、閣議にかけてその決定を得なければならない。

○ 正しい × 誤り
解説
内閣総理大臣は国務大臣を「任意に」罷免することができます(憲法68条2項)。罷免にあたって閣議の決定は不要であり、内閣総理大臣の専権です。この強力な罷免権は内閣総理大臣の首長としての地位を支える重要な権限です。なお、国務大臣の任命についても、内閣総理大臣が独自に行うものであり、国会の同意は不要です。

裁判所と司法権(第76条~第82条)

司法権の帰属(76条1項)

すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
― 日本国憲法 第76条1項

下級裁判所として、裁判所法は高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所の4種類を定めています。どのような下級裁判所を置くかは法律に委ねられている点(=憲法が直接定めているのは最高裁判所だけ)に注意してください。

特別裁判所の禁止(76条2項)

特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
― 日本国憲法 第76条2項

特別裁判所とは、通常の裁判所の系列に属さない、特定の身分の人や特定の種類の事件についてのみ裁判権を行使する裁判所をいいます。明治憲法下の軍法会議や皇室裁判所がこれにあたります。特別裁判所を禁止する趣旨は、①法の下の平等(14条)の確保、②裁判を受ける権利(32条)の保障、③法解釈の統一にあります。

論点結論家庭裁判所は特別裁判所か特別裁判所ではない。最高裁を頂点とする通常裁判所の系列に属するため(最大判昭和31年5月30日)知的財産高等裁判所は特別裁判所か特別裁判所ではない。東京高等裁判所の特別の支部として置かれている弾劾裁判所は特別裁判所か76条2項の例外として憲法自身が64条で認めたものなので、禁止に反しない行政機関による審判前審としてなら許される(特許審判、公正取引委員会の審判、海難審判等)。ただし終審として裁判を行うことはできない(裁判所法3条2項も同旨)

出題ポイント: 「行政機関は一切裁判を行うことができない」は誤り。禁止されるのは終審としての裁判です。行政不服審査の裁決に不服があれば裁判所に出訴できるという構造がこれを担保しています(行政不服審査法vs行政事件訴訟法|2法の徹底比較)。

裁判官の独立(76条3項)

すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
― 日本国憲法 第76条3項

裁判官の独立は、公正な裁判を実現するための根本原則です。裁判官は、立法府や行政府からの干渉を受けることなく、また司法部内部(上級審や所属長官)からの干渉も受けることなく、憲法と法律にのみ従って裁判を行います。

ここにいう「良心」とは、裁判官個人の主観的・宗教的良心ではなく、裁判官としての客観的な良心(職業的良心)を意味すると解されています(通説)。個人的信条に反する法律であっても、裁判官はそれを適用する義務を負います。

裁判官の身分保障

裁判官の職権の独立を実効的に保障するため、憲法は身分と報酬の両面から手厚い保護を与えています。

罷免事由は3つだけ

罷免事由内容条文心身の故障による職務不能裁判により執務不能と決定された場合(分限裁判)78条前段公の弾劾国会が設置する弾劾裁判所の罷免判決78条前段・64条国民審査(最高裁判所裁判官のみ)投票者の多数が罷免を可とした場合79条2項・3項

出題ポイント: 「裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない」(78条後段)。懲戒は分限裁判として裁判所自身が行います。また、懲戒によって罷免することはできません(罷免事由は上の3つに限られる)。懲戒の種類は戒告と過料のみです(裁判官分限法2条)。

国民審査の仕組み(79条2項〜4項)

国民審査は、毎回の衆議院議員総選挙のたびに全裁判官が審査を受けるわけではありません。条文を正確に読んでください。

最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
― 日本国憲法 第79条2項
項目内容対象最高裁判所の裁判官のみ(下級裁判所の裁判官は対象外)時期①任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際、②その後10年を経過した後初めて行われる衆議院議員総選挙の際、以後同様効果投票者の多数が罷免を可とするとき、その裁判官は罷免される(79条3項)法的性質解職(リコール)制度と解するのが判例・通説(最大判昭和27年2月20日)

出題ポイント: ①「参議院議員通常選挙の際に行われる」は誤り(衆議院議員総選挙)。②「毎回の総選挙で審査を受ける」は誤り(10年ごと)。③「下級裁判所の裁判官も国民審査に付される」は誤り。数字と対象の入れ替えが定番です。

任期と報酬

項目最高裁判所裁判官下級裁判所裁判官任命長官は内閣が指名し天皇が任命(6条2項)、その他は内閣が任命(79条1項)最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命(80条1項)任期定めなし(法律の定める年齢で退官・79条5項)10年再任されることができる)/法律の定める年齢で退官(80条1項)報酬定期に相当額の報酬を受け、在任中これを減額することができない(79条6項)同左(80条2項)

出題ポイント: 下級裁判所裁判官の指名名簿を作るのは最高裁判所、任命するのは内閣です。「内閣が指名し最高裁が任命する」という主体の入れ替えは頻出です。また報酬の減額禁止は在任中の話であり、全裁判官に対する一律の減額(公務員全体の給与水準見直しに伴うもの)まで禁止されるかは議論があります。

弾劾裁判所(64条)

国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
― 日本国憲法 第64条1項
項目内容設置主体国会(各議院ではない)構成両議院の議員で組織する(裁判官や国民は加わらない)対象罷免の訴追を受けた裁判官(国務大臣や国会議員は対象外)訴追機関裁判官訴追委員会(弾劾裁判所とは別の機関)詳細弾劾に関する事項は法律(裁判官弾劾法)で定める(64条2項)

出題ポイント: ①設置するのは「国会」であって「各議院」ではありません(=衆議院だけで設置することはできない)。②弾劾裁判所は国会の閉会中も活動できる(会期に拘束されない)と解されています。③弾劾裁判所の判決に対して通常の裁判所に不服を申し立てることはできません。これは司法権の限界の一場面(憲法が明文で認めた例外)です。

最高裁判所の規則制定権(77条)

最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
― 日本国憲法 第77条1項
項目内容条文規則制定事項①訴訟に関する手続、②弁護士、③裁判所の内部規律、④司法事務処理に関する事項77条1項検察官最高裁判所の定める規則に従わなければならない77条2項委任最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を下級裁判所に委任できる77条3項

規則制定権は、国会中心立法の原則の例外(41条)であり、司法権の独立と裁判所の自主性を確保するための制度です。規則と法律が矛盾した場合の優劣については、法律優位説(通説)と同位説の対立があります。

出題ポイント: 「弁護士に関する事項」が規則制定事項に含まれる点、「検察官が最高裁規則に従う」点が意外に思えるため出題されます。逆に「裁判官の身分保障に関する事項」は法律事項であって規則事項ではありません。

司法権の範囲と限界

「法律上の争訟」

裁判所が審理・判断できるのは、法律上の争訟(裁判所法3条1項)に限られます。法律上の争訟とは、以下の二つの要件を満たすものです。

  1. 当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であること
  2. それが法令の適用により終局的に解決できるものであること

信仰の対象の価値や教義に関する判断(宗教上の教義に関する争い)のように、法令の適用では解決できない問題は法律上の争訟にあたりません。

司法権の限界

司法権にはいくつかの限界があります。

限界の類型内容代表判例統治行為論高度の政治性を有する国家行為は司法審査の対象外砂川事件(最大判昭34.12.16)、苫米地事件(最大判昭35.6.8)部分社会の法理自律的な団体の内部紛争は、一般市民法秩序と直接の関係がない限り司法審査の対象外富山大学事件(最判昭52.3.15)議員の資格争訟各議院が裁判する(55条)―裁判官の弾劾弾劾裁判所が裁判する(64条)―

統治行為論の判例

砂川事件(最大判昭和34年12月16日)

  • 日米安全保障条約のような高度の政治性を有する条約は、一見極めて明白に違憲無効と認められない限り、裁判所の司法審査の範囲外にある
  • 統治行為論を直接採用したわけではないが、実質的に司法審査を回避した

苫米地事件(最大判昭和35年6月8日)

  • 衆議院の解散の効力が争われた事件
  • 解散は「極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為」であり、司法審査の対象外であると判示

部分社会の法理

富山大学事件(最判昭和52年3月15日)

  • 大学の単位認定行為は、大学内部の問題であり、一般市民法秩序と直接の関係を有しないため、司法審査の対象外
  • ただし、退学処分のように一般市民としての権利に直接関わる場合は、司法審査の対象となる

違憲審査制(81条)

最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
― 日本国憲法 第81条

日本の違憲審査制について、以下の点を押さえましょう。

項目内容審査方式付随的違憲審査制(具体的な訴訟事件の解決に必要な限りで違憲審査を行う)審査権の主体最高裁判所だけでなく、下級裁判所も違憲審査権を有する「終審裁判所」の意味最高裁判所が違憲審査に関する最終的な判断権を有するという意味であり、下級裁判所の審査権を否定するものではない抽象的違憲審査認められない(警察予備隊違憲訴訟・最大判昭和27年10月8日)違憲判決の効力個別的効力説(通説)=当該事件に限って適用が排除される。法令自体が当然に失効するわけではない

警察予備隊違憲訴訟(最大判昭和27年10月8日)では、「わが裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない」と判示され、抽象的違憲審査制が否定されました。違憲審査基準や実際の違憲判決の中身は違憲審査制とは|付随的と抽象的の違い・重要判例最高裁の違憲判決一覧|行政書士試験に出る判例整理で確認してください。

裁判の公開(82条)

裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
― 日本国憲法 第82条1項

裁判の公開は、密室裁判を防ぎ、公正な裁判を国民の監視のもとで実現するための原則です。32条の裁判を受ける権利とあわせて裁判を受ける権利(32条)|裁判の公開と迅速な裁判も参照してください。

対象公開停止の可否条文対審裁判所が裁判官の全員一致で、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した場合は非公開にできる82条2項本文判決常に公開しなければならない(例外なし)82条1項政治犯罪・出版に関する犯罪・憲法第三章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審常に公開(非公開にできない)82条2項ただし書
注意: 非公開にできるのは「対審」のみであり、「判決」は常に公開です。また、政治犯罪等の対審は非公開にすることができません。「裁判官の過半数の一致で非公開にできる」も誤りで、全員一致が必要です。

出題ポイント: 判例は、82条1項の「裁判」とは純然たる訴訟事件の裁判を指すとし、家事審判のような非訟事件については公開を要しないとしています(最大決昭和35年7月6日)。「あらゆる裁判が公開されなければならない」は誤りです。

財政(第83条~第91条)|国のお金は国会が握る

財政の章は条文数が少なく、条文をそのまま覚えれば取れるコストパフォーマンスの高い分野です。にもかかわらず学習が手薄になりがちなので、ここで一気に押さえてしまいましょう。

財政民主主義(83条)

国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。
― 日本国憲法 第83条

83条は財政の章全体を貫く原則規定で、財政民主主義(財政国会中心主義)と呼ばれます。国民から集めた税をどう使うかは、国民の代表機関である国会が決めるという考え方です。以下の84条〜91条は、この原則を具体化した規定と理解すると体系が見えます。

租税法律主義(84条)

あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
― 日本国憲法 第84条

租税法律主義は、課税要件(納税義務者・課税物件・課税標準・税率)と賦課徴収の手続がすべて法律で定められなければならないという原則(課税要件法定主義)と、その定めが明確でなければならないという原則(課税要件明確主義)を含みます。

旭川市国民健康保険条例事件(最大判平成18年3月1日)

  • 争点: 市町村が行う国民健康保険の保険料に84条が直接適用されるか。
  • 判旨: 租税とは、国または地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的で、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付をいう。市町村が行う国民健康保険の保険料は、被保険者において保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものであるから、租税ではなく84条は直接適用されない。もっとも、賦課徴収の強制の度合いにおいて租税に類似する性質を有するものについては、84条の趣旨が及ぶ
  • 意義: 「租税」の定義(反対給付性がないこと)を示した重要判例。国民健康保険の形式をとる場合は租税そのものとして84条が直接適用されます。

出題ポイント: 「保険料には84条の趣旨すら及ばない」は誤り。判例は直接適用は否定しつつ趣旨は及ぶとしました。この二段構えを正確に。

国費の支出と国の債務負担(85条)

国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。
― 日本国憲法 第85条

支出だけでなく、将来の負担となる債務(借金・債務保証等)も国会の議決が必要です。「支出には議決が必要だが債務負担には不要」とする選択肢は誤りです。

予算(86条)

内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
― 日本国憲法 第86条
段階主体条文予算の作成・提出内閣(内閣の専権。国会議員には予算提出権がない)86条・73条5号先議衆議院に先に提出60条1項審議・議決国会(衆議院の優越あり)60条2項

予算の法的性格をめぐる学説

学説内容帰結予算行政説予算は国会が内閣に与える承認にすぎず、法規範性がない国会の修正権が広く認められる予算法形式説(通説)予算は法律とは異なる独自の法形式である国会の減額修正は自由だが、増額修正は予算の同一性を損なわない範囲で許される予算法律説予算も法律の一種である国会の修正権は法律案と同様に無制限

出題ポイント: 通説(予算法形式説)によれば、国会が予算を修正することは可能ですが、内閣の予算提出権を侵害するほどの大幅な増額修正は許されないと解されています。「国会は予算を一切修正できない」は誤りです。

予算と法律の不一致

予算が成立したのに執行の根拠となる法律がない場合、内閣は法律案を提出して国会の議決を求める必要があります。逆に法律はあるのに予算がない場合、内閣は補正予算や予備費で対応する義務を負います。予算と法律は別個の法形式なので、一方が成立しても他方が自動的に成立するわけではありません

予備費(87条)

予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
― 日本国憲法 第87条1項
段階手続条文予備費の設置国会の議決(=事前の承認)87条1項予備費の支出内閣の責任で行う87条1項支出後内閣は事後に国会の承諾を得なければならない87条2項

出題ポイント: ①設置は事前の議決、支出は内閣の責任、承諾は事後、という3段階の時系列が問われます。②事後の承諾が得られなくても、すでにされた支出の法的効力は失われません(内閣の政治的責任が生じるにとどまる)。緊急集会の措置(54条3項)が同意を得られなければ効力を失うのと対照的です。

皇室財産・皇室費用(88条)

すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。
― 日本国憲法 第88条

明治憲法下で皇室が独自の財産と経済的基盤を持っていたことへの反省から、皇室経済を国会の統制下に置いた規定です。

公金支出の禁止(89条)

公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
― 日本国憲法 第89条

89条は前段と後段でまったく趣旨が異なるため、分けて理解します。

部分対象趣旨前段宗教上の組織・団体政教分離原則(20条)の財政面からの担保後段公の支配に属しない慈善・教育・博愛の事業公費の濫費防止/事業の自主性確保
  • 前段については、津地鎮祭事件をわかりやすく|目的効果基準と政教分離愛媛玉串料訴訟|公金支出と政教分離原則を解説が直結します。愛媛玉串料訴訟(最大判平成9年4月2日)は、県が靖国神社等に玉串料等を公金から支出した行為を20条3項・89条に違反するとした違憲判決です。
  • 後段については、私立学校への助成金(私学助成)が89条後段に反しないかが問題となります。通説は「公の支配」を緩やかに解し、私立学校法・私立学校振興助成法による監督が及んでいれば「公の支配に属する」といえるとして合憲と説明します。

出題ポイント: 89条は財政の章にある政教分離規定です。政教分離違反の事案では20条3項と89条がセットで援用されることを覚えておくと、判例問題で選択肢を絞れます。

決算と会計検査院(90条)

国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
― 日本国憲法 第90条1項
項目内容検査主体会計検査院(内閣から独立した憲法上の機関)提出主体内閣が、検査報告とともに次の年度に国会へ提出国会の扱い決算は議決の対象ではなく審査の対象。両議院がそれぞれ独立して審査し、承認しなくても決算の効力に影響はない組織・権限法律で定める(会計検査院法・90条2項)

出題ポイント: 予算は「国会の議決」を経るのに対し、決算は「国会に提出して審査を受ける」だけで、衆議院の優越も両院協議会もありません。予算と決算の扱いの違いは頻出の対比です。会計検査院の組織・権限は憲法ではなく法律で定める点も狙われます。

財政状況の報告(91条)

内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。
― 日本国憲法 第91条

報告の相手方は「国会及び国民」の両方であって、国会だけではありません。頻度は「少なくとも毎年1回」です。

確認問題

予見し難い予算の不足に充てるために設けられた予備費の支出について、内閣が事後に国会の承諾を得られなかった場合、その支出は遡って無効となる。

○ 正しい × 誤り
解説
憲法87条2項は予備費の支出について事後に国会の承諾を得なければならないと定めていますが、承諾が得られなかった場合でも、すでにされた支出の法的効力が失われるわけではありません。内閣が政治的責任を負うにとどまります。これに対し、参議院の緊急集会で採られた措置は、次の国会開会後10日以内に衆議院の同意がなければ「将来に向かって」効力を失います(54条3項)。両者の違いを整理して覚えましょう。

三権の相互関係|権力分立の仕組み

権力分立とは、国家権力を複数の機関に分け、相互に抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)を働かせることで、権力の濫用を防ぎ国民の自由を守る仕組みです。日本国憲法は三権分立を採用しつつ、議院内閣制によって国会と内閣を接近させ、裁判所には強い独立性を与えるという設計をしています。

冒頭の図をここで表に展開しておきます。矢印の出発点と条文番号を言えるようにしてください。

国会と内閣の関係(議院内閣制)

国会→内閣(抑制)内閣→国会(抑制)内閣総理大臣の指名(67条1項)衆議院の解散(7条3号・69条)内閣不信任決議・信任決議の否決(69条)臨時会の召集決定(53条)国政調査権の行使(62条)参議院の緊急集会の請求(54条2項)法律・予算の議決による統制(59条・60条)法律案・予算の提出(72条・73条5号)条約の承認(61条・73条3号)議院への出席・発言(63条)財政の監督(83条・87条2項・90条1項)天皇の国会召集に対する助言と承認(7条2号)

注意: 内閣は国会に対し連帯して責任を負います(66条3項)。「衆議院に対してのみ責任を負う」は誤りです。不信任決議権を持つのは衆議院だけですが、責任の相手方は国会全体です。

国会と裁判所の関係

国会→裁判所(抑制)裁判所→国会(抑制)弾劾裁判所の設置による裁判官の罷免(64条)違憲立法審査権(81条)下級裁判所の設置・裁判所の組織を法律で定める(76条1項)―裁判官の報酬・弾劾に関する法律の制定(79条6項・64条2項)―司法予算の議決(83条・86条)―

注意: 裁判所が国会に対して持つ武器は違憲立法審査権ただ一つです。「最高裁判所は国会を解散できる」「裁判所が国会議員を罷免できる」といった選択肢は、この表を思い出せば即座に切れます。

内閣と裁判所の関係

内閣→裁判所(抑制)裁判所→内閣(抑制)最高裁判所長官の指名(6条2項)命令・規則・処分に対する違憲審査(81条)最高裁判所のその他の裁判官の任命(79条1項)行政事件訴訟による行政活動の統制下級裁判所裁判官の任命(最高裁の名簿による・80条1項)―

注意: 内閣は裁判所に対して人事権を持ちますが、任命後は報酬減額禁止(79条6項・80条2項)と罷免事由の限定(78条)により、裁判官の独立が守られています。人事で入り口を握らせ、出口では手を出させないという設計です。

国民と三権の関係

権力分立の頂点には主権者である国民がいます。

国民→機関手段条文国民→国会選挙(公務員の選定罷免権)15条1項・43条1項国民→裁判所最高裁判所裁判官の国民審査79条2項国民→憲法憲法改正の国民投票96条1項国民→地方公共団体長・議員の直接選挙、地方特別法の住民投票93条2項・95条

出題ポイント: 国民が内閣に対して直接行使できる手段はありません。内閣総理大臣は国民が直接選ぶのではなく、国会が指名します(間接民主制)。「国民は内閣総理大臣を直接選挙で選ぶ」という選択肢は当然誤りですが、「国民は内閣に対して直接の統制手段を持つ」という言い回しに変えられると迷いやすいので注意してください。

確認問題

日本国憲法において、違憲審査権を行使できるのは最高裁判所のみであり、下級裁判所には違憲審査権は認められていない。

○ 正しい × 誤り
解説
憲法81条は最高裁判所を違憲審査の「終審裁判所」と定めていますが、これは違憲審査に関する最終的な判断権が最高裁判所にあることを意味するにすぎず、下級裁判所の違憲審査権を否定するものではありません。通説・判例によれば、下級裁判所も具体的な訴訟事件の解決に必要な限りで違憲審査権を行使することができます。

頻出テーマの横断整理

衆議院の優越が認められる場面一覧

事項要件・期間両院協議会条文法律案の議決出席議員の3分の2以上で再可決 / 参議院が60日以内に議決しない場合は否決とみなせる任意59条予算の議決自然成立 / 参議院が30日以内に議決しない場合必要60条2項条約の承認自然成立 / 参議院が30日以内に議決しない場合必要61条内閣総理大臣の指名自然成立 / 参議院が10日以内に議決しない場合必要67条2項予算の先議権衆議院に先に提出(条約にはない)―60条1項内閣不信任決議権衆議院のみ―69条

内閣の総辞職が必要な場面一覧

場面条文補足不信任決議案可決後、10日以内に衆議院を解散しないとき69条信任決議案の否決も同様内閣総理大臣が欠けたとき70条死亡・辞職・国会議員資格の喪失等衆議院議員総選挙後の初の国会召集時70条参議院選挙後は不要

いずれの場合も、新たな内閣総理大臣が任命されるまで内閣は引き続き職務を行います(71条)。

「3分の2」が登場する場面一覧

場面母数条文議員の議席を失わせる(資格争訟)出席議員55条ただし書秘密会を開く出席議員57条1項ただし書議員の除名出席議員58条2項ただし書法律案の再議決出席議員59条2項憲法改正の発議総議員96条1項

「内閣が決定し天皇が行う」国事行為の整理

行為決定する主体天皇の関与条文内閣総理大臣の任命国会が指名任命6条1項・67条1項最高裁判所長官の任命内閣が指名任命6条2項国務大臣の任免内閣総理大臣が任免認証7条5号・68条衆議院の解散内閣が決定(助言と承認)解散7条3号恩赦内閣が決定認証73条7号・7条6号法律・政令・条約の公布―公布7条1号

出題ポイントとひっかけの型

統治機構の択一問題は、作問のパターンがきわめて限られています。誤りの作り方を知っておけば、正誤判定のスピードが劇的に上がります。詳しい解法テクニックは行政書士 択一式の「引っかけ」パターン10選と見抜き方もあわせてご覧ください。

型1|数字の入れ替え

最も多いパターンです。似た数字を入れ替えて誤りを作ります。

正しい記述ひっかけの例条約・予算は参議院が30日以内に議決しないとき「60日以内」法律案は参議院が60日以内に議決しないとき「30日以内」首相指名は参議院が10日以内に議決しないとき「30日以内」解散から40日以内に総選挙、選挙から30日以内に召集「30日以内に総選挙、40日以内に召集」臨時会の召集要求は総議員の4分の1以上「3分の1以上」「過半数」議事の定足数は総議員の3分の1以上「過半数」「4分の1以上」憲法改正の発議は各議院の総議員の3分の2以上「出席議員の3分の2以上」下級裁判所裁判官の任期は10年(再任可)「終身」「6年」「再任不可」国民審査は任命後初と10年経過後の総選挙「毎回の総選挙」「参議院通常選挙」

対策: 数字だけを抜き出したリストを作り、毎日3分だけ音読してください。横断的な数字は行政書士試験に出る数字・期間の暗記リストにまとめています。

型2|権限の主体の入れ替え

数字と並ぶ二大パターンです。「誰が」を入れ替えます。

正しい主体ひっかけの例内閣総理大臣を指名するのは国会、任命するのは天皇「国会が任命する」「天皇が指名する」国務大臣を任命・罷免するのは内閣総理大臣「内閣が閣議で決定する」「天皇が任命する」最高裁判所長官を指名するのは内閣、任命するのは天皇「最高裁が指名する」「国会が指名する」下級裁判所裁判官は最高裁が指名内閣が任命「内閣が指名し最高裁が任命」弾劾裁判所を設置するのは国会「各議院」「衆議院」「最高裁判所」予算を作成・提出するのは内閣「財務大臣」「国会」決算を検査するのは会計検査院「国会」「内閣」参議院の緊急集会を求めるのは内閣「参議院議長」「参議院議員」緊急集会の措置に同意するのは衆議院「参議院」「国会」恩赦を決定するのは内閣、認証するのが天皇「天皇が決定する」

対策: 冒頭の三権相互関係の図に戻り、矢印の向きと出発点を指でなぞりながら確認してください。

型3|「国会」と「各議院」のすり替え

国会の権能各議院の権能法律の制定、予算の議決、条約の承認、内閣総理大臣の指名、憲法改正の発議、弾劾裁判所の設置議院規則の制定、議員の懲罰、議員の資格争訟の裁判、国政調査権の行使、臨時会召集の要求、秘密会の決定

衆議院は弾劾裁判所を設置することができる」(誤り。国会が設置)、「国会は国政調査権を行使することができる」(誤り。各議院が行使)のように、主語を入れ替えるだけで誤りが作れます。

型4|「できる」と「しなければならない」の入れ替え

正しい記述ひっかけの例内閣は臨時会の召集を決定することができる(53条前段)。ただし総議員の4分の1以上の要求があれば決定しなければならない(同条後段)前段を義務、後段を裁量にする参議院が60日以内に議決しないとき、衆議院は否決したものとみなすことができる「みなされる」(自動的に否決扱いになるわけではない)裁判所は全員一致で対審を非公開にできる「非公開としなければならない」総辞職した内閣は新首相が任命されるまで職務を行う(71条・義務)「行うことができる」

型5|例外を原則にする/例外を消す

  • 「行政機関は裁判を行うことができない」→ 前審としてなら可(76条2項)。
  • 「政令には罰則を設けることができない」→ 法律の委任があれば可(73条6号ただし書)。
  • 「国会議員は会期中逮捕されない」→ 院外の現行犯と議院の許諾があれば逮捕可(国会法33条)。
  • 「裁判の対審は常に公開される」→ 全員一致で非公開にできる(82条2項本文)。ただし政治犯罪等は常に公開。

関連論点をさらに深く学ぶ

統治機構は憲法の他の論点と密接につながっています。本記事で概観をつかんだら、次の記事で個別論点を深掘りしてください。

統治機構の各論

財政・人権とのつながり

学習法・横断整理

まとめ|統治分野の学習法

学習の優先順位

  1. 最優先: 衆議院の優越(事項・要件・期間・両院協議会の要否を正確に暗記)
  2. 最優先: 内閣総理大臣の権限(任免権・罷免権・指揮監督権)と総辞職の3場面
  3. 高優先: 国会と各議院の権能の区別、定足数・表決数の数字
  4. 高優先: 司法権の限界(統治行為論・部分社会の法理)と裁判官の身分保障
  5. 高優先: 違憲審査制(付随的審査制・下級裁判所の審査権・個別的効力説)
  6. 中優先: 財政(83条〜91条。特に84条・87条・89条・90条)
  7. 中優先: 会期制度・参議院の緊急集会・国政調査権の限界
  8. 中優先: 69条解散と7条解散、裁判の公開

学習のコツ

  • 条文の数字を正確に覚える: 衆議院の優越における日数(60日・30日・10日)、再可決の要件(3分の2以上)、定足数(総議員の3分の1)等は、条文の数字を正確に暗記することが不可欠です。数字だけを抜き出した一覧を作り、毎日眺めるのが最短ルートです。
  • 「項」と「号」を区別する: 73条はで構成されており、「73条1項」という引用は誤りです。逆に59条・60条・67条はです。条文を引くときは必ず原典で確認する習慣をつけましょう。
  • 表を作って横断整理する: 国会・内閣・裁判所の権限を横断的に整理し、それぞれの関係を図や表で視覚化します。手を動かして表を再現できれば、本試験でどんな角度から聞かれても対応できます。
  • 引っかけパターンから逆算する: 「参議院選挙後にも総辞職が必要か」「条約の承認の期間は60日か30日か」「弾劾裁判所を設置するのは国会か各議院か」等、本記事の「出題ポイントとひっかけの型」を繰り返し確認してください。
  • 図の矢印で全体を思い出す: 冒頭の三権相互関係の図を白紙に再現できるようになれば、統治機構は完成です。

統治分野は条文知識が勝負を分けます。人権分野のように判例の射程を悩む必要はなく、覚えた分だけ確実に点になるのが最大の魅力です。条文を繰り返し読み込み、数字や要件を正確に暗記することで、憲法5問のうち安定して2〜3問を取れるようになります。

FAQ|統治機構のよくある疑問

Q1. 「衆議院の優越」で予算と法律案の扱いが違うのはなぜですか?

予算は会計年度内に必ず成立させなければならないという時間的制約があるためです。年度が始まっても予算が成立しなければ行政が止まってしまいます。そこで憲法は、予算・条約・首相指名について「衆議院の議決がそのまま国会の議決になる」という自然成立の仕組みを用意しました。

一方、法律案は成立しなくても直ちに国政が停止するわけではないので、参議院の意思をより尊重し、衆議院に出席議員の3分の2以上という重い要件を課しています。「急ぐものは自動成立、急がないものは重い要件」と理解すると、丸暗記から抜け出せます。

Q2. 69条解散と7条解散はどう違うのですか?

69条解散は、衆議院で内閣不信任決議案が可決された(または信任決議案が否決された)ことを受けて行う解散です。憲法69条が明文で予定している場面です。

7条解散は、不信任決議とは無関係に、内閣が自らの判断で天皇の国事行為(7条3号)に対する助言と承認を通じて行う解散です。憲法に「内閣は衆議院を解散できる」という直接の規定がないため学説上の争いがありますが、通説・実務は7条説を採り、内閣の自由な解散権を認めています。戦後の解散の大半は7条解散です。

なお、最高裁は苫米地事件(最大判昭和35年6月8日)で解散の効力を統治行為として司法審査の対象外としたため、どちらの説が正しいかを判示したわけではありません。「最高裁が7条解散を合憲と認めた」という選択肢は誤りです。

Q3. 国政調査権はどこまで調査できるのですか?

通説である補助的権能説によれば、国政調査権は議院の権能(立法・予算審議・行政監督)を実効的に行使するための手段なので、調査範囲もその権能が及ぶ範囲に限られます。ただし議院の権能は国政のほぼ全般に及ぶため、実際の調査範囲は広くなります。

限界としては、①司法権の独立を侵害する調査(裁判の内容の当否を批判する目的の調査)、②検察権に不当な圧力をかける調査、③証人の思想・良心の自由やプライバシーを侵害する調査は許されません。また手段としても、捜索・押収・逮捕といった刑事手続上の強制処分はできません。行政機関に対する記録提出要求についても、国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣の声明があれば提出を要しないとされています(国会法104条3項)。

Q4. 弾劾裁判所は特別裁判所の禁止(76条2項)に反しないのですか?

反しません。特別裁判所の禁止は憲法76条2項が定める原則ですが、弾劾裁判所は同じ憲法自身が64条で明文をもって認めた例外だからです。憲法が自ら定めた制度である以上、憲法の他の条文と矛盾するとは考えません。

弾劾裁判所については、①設置するのは国会(各議院ではない)、②構成するのは両議院の議員、③対象は裁判官のみ、④国会の閉会中も活動できる、⑤その判決に対して通常の裁判所に不服申立てはできない、という5点を押さえておけば試験対応は十分です。

Q5. 予算と決算で国会の関与のしかたはどう違いますか?

決定的に違います。

項目予算決算国会の関与議決(審議して議決する)審査(提出を受けて審査する)衆議院の優越あり(60条2項)なし先議権あり(衆議院・60条1項)なし両院協議会必要的なし事前・事後事前(会計年度の前に議決)事後(次の年度に提出)検査機関―会計検査院(90条1項)承認しない場合予算が成立しない決算の効力に影響しない(内閣の政治的責任のみ)

決算は両議院がそれぞれ独立して審査するため、一方が承認し他方が承認しないということも起こり得ます。「決算についても衆議院の優越がある」という選択肢は誤りです。

Q6. 国民審査で毎回すべての最高裁判事が審査されるわけではないのですか?

そのとおりです。憲法79条2項は、①任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際、②その後10年を経過した後初めて行われる衆議院議員総選挙の際、以後同様、と定めています。したがって、直前の総選挙で審査を受けたばかりの裁判官は、次の総選挙では審査の対象になりません。

最高裁判所裁判官の定年(法律で定める年齢)は70歳なので、実際には10年後の再審査を受ける裁判官はほとんどいません。試験対策としては、「衆議院議員総選挙の際」であること(参議院ではない)対象が最高裁判所裁判官に限られること投票者の多数が罷免を可としたときに罷免されることの3点を確実に押さえてください。

Q7. 統治機構は憲法5問のうち何問出ますか?どのくらい対策すべきですか?

年度によりますが、行政書士試験の憲法5問(多肢選択式を除く)のうち、おおむね1〜2問が統治分野から出題される傾向にあります。加えて多肢選択式でも統治分野の条文が問われることがあります。

統治は人権と違って判例の射程を悩む必要がなく、条文を覚えればそのまま得点になる分野です。学習コストに対するリターンが非常に高いので、直前期でも十分に伸ばせます。本記事の表を繰り返し確認し、条文素読の効果的なやり方で憲法41条〜91条を通しで読む習慣をつければ、統治分野は得点源になります。憲法全体の戦略は憲法の全体像と学習戦略を参照してください。

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