プライバシー権と自己決定権|13条の判例を整理
憲法13条の幸福追求権から導かれる「新しい人権」を体系整理。プライバシー権・自己情報コントロール権・自己決定権の関係と、京都府学連事件・前科照会事件・住基ネット訴訟・輸血拒否事件の判旨を事案から正確に解説します。
目次
結論|13条は幸福追求権を保障し、そこから「新しい人権」が導かれる
憲法13条は、前段で「個人の尊重」を、後段で「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」(幸福追求権)を保障しています。この幸福追求権は、14条以下に個別に列挙されていない権利を基礎づける包括的な権利であり、ここから導かれる権利の総称が「新しい人権」です。代表例がプライバシー権と自己決定権です。
ただし、条文に「プライバシー権」「自己決定権」と書かれているわけではありません。これらは13条の解釈によって導かれた権利です。そして最高裁は、こうした権利をしばしば「みだりに〜されない自由」という消極的・防御的な言い回しで承認してきました。京都府学連事件の「みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由」、住基ネット訴訟の「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」がその典型です。
さらに注意すべきは、権利・自由を承認することと、その制約を違憲とすることは別だという点です。上の2件はいずれも自由を認めながら、結論は合憲でした。この「認めたが合憲」という組合せが、13条分野で最も狙われる出題ポイントです。
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
――日本国憲法13条
はじめに|憲法13条が守る「個人の尊厳」
憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される」と定め、生命・自由・幸福追求に対する国民の権利を保障しています。この「幸福追求権」は、憲法に明文で列挙されていない「新しい人権」の根拠となる包括的な権利として、極めて重要な条文です。
行政書士試験では、プライバシー権や自己決定権に関する判例が繰り返し出題されています。本記事では、幸福追求権の法的性格から各判例の要旨まで、体系的に整理していきます。とくに憲法13条は、出題範囲が一見広く見えますが、押さえるべきリーディングケースの数は限られており、判例の「認められた権利の具体的表現」と「合憲・違憲の結論」をセットで暗記すれば確実な得点源になります。
なお、13条には前段の「個人の尊重」と後段の「生命、自由及び幸福追求に対する権利」という2つの部分があります。前段が憲法全体の価値の根源を示す原理的規定であるのに対し、後段が具体的な権利を導く根拠規定であると整理されることが多い点も、最初に意識しておきましょう。
憲法全体の学習順序や配点戦略から確認したい方は、憲法の全体像と学習戦略もあわせて参照してください。
憲法13条の構造と「公共の福祉」
前段と後段の役割
憲法13条は前段で「個人の尊重」を宣言し、後段で「生命、自由及び幸福追求に対する権利」を保障しています。前段の「個人の尊重」は、すべての人間を等しくかけがえのない存在として扱うという、日本国憲法の人権保障全体を貫く根本原理です。後段の幸福追求権は、この個人の尊重原理を具体的な権利のかたちで表現したものと位置づけられます。
| 部分 | 条文の文言 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 前段 | すべて国民は、個人として尊重される | 人権保障全体を貫く根本原理(個人主義) |
| 後段 | 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利 | 具体的な権利を導く根拠規定(幸福追求権) |
「公共の福祉に反しない限り」の意味
13条後段は「公共の福祉に反しない限り」という留保を付しています。ここでいう公共の福祉は、人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理(内在的制約)と理解するのが通説です。13条の公共の福祉は、12条・22条1項・29条2項の公共の福祉とともに、人権制約の根拠条文として位置づけられます。
新しい人権は条文上の制約根拠を明示していないため、その制約の可否は最終的に13条の「公共の福祉」を通じて判断されることになります。プライバシー権や肖像権をめぐる判例が、権利・自由を認めつつ「証拠保全の必要性」「行政目的」「比較衡量」によって制約を正当化してきたのは、この内在的制約の発想によるものです。
幸福追求権の法的性格
幸福追求権とは何か
憲法13条後段の「幸福追求権」は、憲法14条以下で個別に保障されている人権のほかに、憲法に明文のない新しい人権を基礎づける包括的な権利です。最高裁判所も、13条を根拠として具体的な権利を認める立場をとっています。
幸福追求権と個別的人権(14条以下)の関係については、両者は一般法と特別法の関係に立つと説明されます。すなわち、ある問題が個別的人権規定でカバーされる場合にはその規定が優先的に適用され、個別規定で捉えきれない領域について幸福追求権が補充的に適用されると理解されています。この「補充的保障説」の理解は、なぜ新しい人権が次々と13条から導かれるのかを説明する鍵になります。
たとえば、宗教上の理由による行為の制約が問題となる場面では、まず20条(信教の自由)が適用され、13条の出番はありません。表現内容の規制なら21条が優先します。13条が前面に出るのは、既存のどの条文でも受け止めきれない新しい侵害類型が現れたときだ、と押さえておくと判断が速くなります。
幸福追求権の法的性格については、学説上二つの対立する見解があります。
一般的自由説
一般的自由説は、幸福追求権を「あらゆる生活領域に関する行為の自由」を広く保障するものと捉えます。この説によれば、髪型の自由、喫煙の自由、散歩の自由といった、日常生活上のさまざまな行為の自由も幸福追求権によって保護されることになります。
一般的自由説の長所は、保護範囲が広いため、国家による不当な干渉から個人を広く守ることができる点にあります。一方、あまりに広い範囲の自由を憲法上の権利として認めると、権利のインフレーション(権利の価値が薄まること)が生じるという批判があります。「散歩の自由も憲法上の人権」となれば、およそあらゆる行政規制が人権制約として憲法問題化し、かえって人権の切り札としての重みが失われる、という指摘です。
人格的利益説(通説)
人格的利益説は、幸福追求権によって保護されるのは「個人の人格的生存に不可欠な利益」に限られるとする見解です。この説は通説的見解とされており、人格の核心に関わる利益のみを憲法上の権利として保護することで、権利のインフレーションを防ぐことができます。
人格的利益説の立場からは、プライバシー権、自己決定権、肖像権、名誉権などが幸福追求権の具体的な内容として認められます。一方、単なる趣味や嗜好に関する自由は、憲法上の権利としては保護されないことになります。
両説の比較整理
| 項目 | 一般的自由説 | 人格的利益説(通説) |
|---|---|---|
| 保護範囲 | あらゆる生活領域の行為の自由 | 人格的生存に不可欠な利益に限定 |
| 保護の考え方 | 国家の干渉から広く自由を守る | 人格の核心に関わる利益に絞って強く守る |
| 髪型・喫煙等の自由 | 憲法上の権利として保護される | 原則として保護されない(法律上の利益にとどまる) |
| 長所 | 自由の保護範囲が広い | 権利のインフレーションを防げる |
| 短所・批判 | 権利のインフレーションを招く | 何が「人格的生存に不可欠」か不明確 |
| 保護されない場合の帰結 | ほぼ生じない | 13条の保護外=立法裁量の問題になる |
人格的利益説に対しても、「人格的生存に不可欠」という基準が抽象的で、結局は保護対象の選別が解釈者の価値判断に委ねられてしまうという批判が向けられます。両説の対立は、保護範囲の「広さ」と「価値の高さ」のどちらを重視するかの違いとして整理しておくと理解しやすいでしょう。
試験対策のポイント
行政書士試験では、「一般的自由説」と「人格的利益説」の違いを正確に理解しているかが問われます。それぞれの説の特徴と批判点を押さえておきましょう。とくに、新しい人権が「13条を根拠とすること」「個別的人権規定が優先し13条は補充的に働くこと」は、択一の正誤判断で問われやすい基本知識です。
「新しい人権」の導き方|13条から権利を導く作法
新しい人権とは何か
新しい人権とは、憲法制定時には想定されていなかった社会状況の変化(情報化・環境破壊・医療技術の発展など)に対応するため、13条の幸福追求権を根拠として主張される権利の総称です。プライバシー権、自己決定権、肖像権、名誉権、環境権、平和的生存権、日照権、嫌煙権などが議論されてきました。
ここで重要なのは、「主張された権利」と「最高裁が憲法上の権利として承認した権利」は区別されるという点です。学説や訴訟で主張された権利のすべてが判例上認められているわけではありません。
導出の3ステップ
新しい人権の議論は、次の3段階で進むと整理すると見通しがよくなります。試験の選択肢も、この3段階のどこかを入れ替えて作られています。
| ステップ | 問い | 判断の中身 |
|---|---|---|
| ① 根拠 | どの条文から導くか | 個別的人権規定が使えなければ13条後段(幸福追求権) |
| ② 保護範囲 | その利益は憲法上の権利といえるか | 人格的生存に不可欠な利益か(人格的利益説)/広く行為の自由か(一般的自由説) |
| ③ 制約の可否 | その制約は許されるか | 公共の福祉(内在的制約)のもとで、必要性・相当性や比較衡量により判断 |
②で権利が認められても、③で制約が合憲とされることは珍しくありません。むしろ13条の主要判例は、②を肯定しつつ③で合憲としたものが多数派です。ここを混同しないことが最大の得点ポイントになります。
無制限に権利が認められるわけではない
13条は「何でも人権にできる魔法の条文」ではありません。最高裁は、新しい人権の承認にはきわめて慎重です。実際、環境権や平和的生存権は訴訟で繰り返し主張されてきましたが、最高裁が正面から憲法上の具体的権利として承認したとはいえません。
また、13条から権利を導くとしても、最高裁の言い回しは「憲法13条により保障される」と言い切る場合と、「憲法13条の趣旨に照らし」保護されるという緩やかな表現にとどめる場合があります。京都府学連事件や指紋押捺拒否事件は後者の言い回しを用いており、この微妙な差も判旨を正確に読むうえでの手がかりになります。
判例上の扱いの整理
| 権利 | 判例・最高裁の態度 |
|---|---|
| プライバシー権(私生活をみだりに公開されない) | 「宴のあと」事件(下級審)で承認。最高裁も関連する自由・利益を承認 |
| みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由 | 京都府学連事件で13条の趣旨に照らし承認 |
| 前科等をみだりに公開されない利益 | 前科照会事件で「法律上の保護に値する利益」として承認 |
| 個人情報をみだりに第三者に開示・公表されない自由 | 住基ネット訴訟で13条により保障されるものとして承認 |
| みだりに指紋押捺を強制されない自由 | 指紋押捺拒否事件で13条の趣旨に照らし承認 |
| 名誉権 | 北方ジャーナル事件等で人格権として承認 |
| 環境権 | 最高裁は正面から憲法上の権利として承認していない |
| 平和的生存権 | 最高裁は憲法上の具体的権利性を一般に認めていない |
このように、新しい人権の領域では「主張されたが最高裁は正面から認めていない権利(環境権など)」が出題の引っかけポイントになります。「13条を根拠に環境権が判例上認められている」といった選択肢は誤りであることが多い点に注意してください。名誉権と表現の自由が衝突する場面については、北方ジャーナル事件の記事で事前差止めの要件を確認しておくと理解が立体的になります。
プライバシー権の展開|「公開されない権利」から「コントロールする権利」へ
プライバシー権の2つの側面
プライバシー権は、もともとアメリカで「一人で放っておいてもらう権利(the right to be let alone)」として提唱されたものです。日本では、私生活上の情報をみだりに公開されない権利として発展してきました。
プライバシー権は、以下の2つの側面を持つとされています。
- 消極的把握: 私生活上の情報をみだりに公開されない権利(古典的プライバシー権)
- 積極的把握: 自己に関する情報をコントロールする権利(自己情報コントロール権)
古典的プライバシー権は、私生活の平穏を乱されない「一人で放っておいてもらう権利」を中心とする受動的・防御的な構成です。これに対し、高度情報化社会の到来によって、行政機関や企業が大量の個人情報を収集・蓄積・利用するようになると、単に「公開されない」だけでは個人の保護として不十分になりました。そこで、自己の情報がどのように収集・利用されるかを本人が能動的に関与・統制できるとする「自己情報コントロール権」としての再構成が有力に主張されるようになったのです。
| 観点 | 消極的把握(古典的) | 積極的把握(自己情報コントロール権) |
|---|---|---|
| 中核 | 一人で放っておいてもらう | 自己の情報の流れに関与する |
| 想定する侵害 | 私生活の暴露・公表 | 収集・蓄積・利用・結合(プロファイリング) |
| 権利の内容 | 公表の差止め・損害賠償 | 開示・訂正・利用停止の請求 |
| 判例の態度 | 「みだりに公開されない」として承認 | 最高裁は正面から採用していない |
| 実定法での具体化 | 民法上の不法行為(名誉・プライバシー) | 個人情報保護法の開示・訂正・利用停止請求権 |
消極的把握の出発点|「宴のあと」事件(東京地判昭和39年9月28日)
日本でプライバシー権が初めて法的に認められた画期的な判決が、「宴のあと」事件です。
この事件は、作家の三島由紀夫が小説「宴のあと」において、元外務大臣の有田八郎の私生活をモデルにして描いたことが、プライバシーの侵害にあたるとして争われたものです。
東京地裁は、プライバシー権を「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と定義し、その侵害が成立するための要件として以下の3点を示しました。
- 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることが公開されたこと
- 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合に公開を欲しないであろうと認められること
- 一般の人々に未だ知られていないこと
この判決は下級審判決ではありますが、日本におけるプライバシー権の出発点として、その後の判例・学説に大きな影響を与えました。
プライバシー侵害の3要件(整理表)
| 要件 | 内容 | キーワード |
|---|---|---|
| ① 私事性 | 私生活上の事実(らしく受け取られるおそれのある事柄)であること | 私生活上の事実 |
| ② 秘匿性 | 一般人の感受性を基準に、本人の立場で公開を欲しないと認められること | 公開を欲しない |
| ③ 非公知性 | 一般の人々に未だ知られていない事柄であること | 未だ知られていない |
この3要件はそのまま出題されることがあるため、「私事性・秘匿性・非公知性」の3点を順序立てて覚えておくと有効です。なお、本件で問題となったのは私人(作家・出版)による侵害であり、私人間効力(間接適用説)の文脈で民法の不法行為が問題となった事案である点も押さえておきましょう。東京地裁の判決であって、最高裁判決ではありません。
積極的把握への展開の道筋
消極的把握から積極的把握への展開は、次のような判例の流れとして眺めると理解しやすくなります。
| 段階 | 判例 | 問題となった侵害 | 権利の捉え方 |
|---|---|---|---|
| 1 | 「宴のあと」事件(東京地判昭39.9.28) | 小説による私生活の暴露 | 私生活をみだりに公開されない権利 |
| 2 | 前科照会事件(最判昭56.4.14) | 行政機関から第三者への前科の漏えい | みだりに公開されない法律上の保護に値する利益 |
| 3 | 「逆転」事件(最判平6.2.8) | ノンフィクションでの実名・前科の公表 | みだりに公表されないことにつき法的保護に値する利益 |
| 4 | 早稲田大学名簿事件(最判平15.9.12) | 名簿の無断提供(情報の「流通」) | プライバシーに係る情報として法的保護の対象 |
| 5 | 住基ネット訴訟(最判平20.3.6) | 行政による情報の一元的管理の危険 | みだりに第三者に開示・公表されない自由(13条) |
段階が進むにつれ、問題の中心が「暴露されたかどうか」から「誰にどう渡り、どう結合されるか」へと移っているのが分かります。これが自己情報コントロール権の発想です。ただし、最高裁はこの流れを受けてもなお、「自己情報コントロール権」という語を正面から採用してはいない、という点が最重要の注意事項です。
早稲田大学名簿事件(最判平成15年9月12日)
大学が講演会の参加者名簿(学籍番号・氏名・住所・電話番号)を、参加者の同意を得ずに警察に提出したことが争われた事件です。最高裁は、これらの情報は他人にみだりに開示されることを望まない性質のものであり、プライバシーに係る情報として法的保護の対象となるとしたうえで、参加者の同意を得る手続を執ることなく警察に開示した大学の行為は、参加者のプライバシーを侵害する不法行為を構成すると判断しました。
学籍番号や住所といった、それ自体は秘匿性がさほど高くない情報であっても、本人の意に反する流通からは保護されうる、という点が重要です。住基ネット訴訟が「秘匿性の程度の高くない情報」であることを合憲の理由の一つに挙げたのと対比すると、両者の判断枠組みの違い(私人間の不法行為か、制度の合憲性か)が浮かび上がります。
「石に泳ぐ魚」事件(最判平成14年9月24日)
モデル小説によって私生活上の事実や名誉が侵害されたとして、出版の差止めが求められた事件です。最高裁は、人格的価値の侵害の程度や、侵害行為が明らかに予想され回復困難な損害が生じるおそれがあることなどを考慮し、小説の出版等の差止めを認めた原審の判断を是認しました。表現の自由との調整のなかで、事前の差止めという強い救済が認められた例として押さえておきましょう。
「忘れられる権利」をめぐる状況
インターネット上に残る過去の情報の削除を求める議論は、しばしば「忘れられる権利」と呼ばれます。もっとも、日本の最高裁がこの語を用いて権利を承認したという事実はありません。
最決平成29年1月31日は、検索事業者に対して検索結果の削除を求めた事案について、当該事実の性質および内容、検索結果が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、記事等の目的や意義、記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、記事等において当該事実を記載する必要性など、諸事情を比較衡量して判断すべきであるとし、「その事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」に削除を求めることができる、という枠組みを示しました。
ここでの判断枠組みは比較衡量であり、しかも削除が認められるのは公表されない利益の優越が「明らかな場合」という限定が付されています。「最高裁が忘れられる権利を認めた」という選択肢は誤りとして扱うのが安全です。
個人情報保護法制との関係
プライバシー権は憲法上の権利として判例で認められてきましたが、その具体的な保護は、個人情報保護法をはじめとする法律によって実現されています。
個人情報保護法は、個人情報の取扱いに関するルールを定め、個人の権利利益の保護と個人情報の有用性のバランスを図っています。行政書士試験では、憲法上のプライバシー権と個人情報保護法制の関係について問われることもあるため、両者の関連を理解しておくことが重要です。個人情報保護法は近年、行政機関・独立行政法人・民間事業者を横断的に規律する形へと一本化される改正が行われており、一般知識(情報通信・個人情報保護)分野でも頻出のテーマです。
学説上の自己情報コントロール権は、憲法解釈としては最高裁に採用されていないものの、法律のレベルでは開示・訂正・利用停止の請求権として具体化されている、と整理しておくと両分野がつながります。詳しくは個人情報保護法の基礎および行政機関の個人情報保護を参照してください。
主要判例①|京都府学連事件(最大判昭和44年12月24日)
事案
デモ行進の参加者が、許可条件や法令に違反する行進の状況を証拠として残すため、警察官に無許可・無承諾で写真撮影されました。撮影に抗議した参加者が警察官に傷害を負わせたとして起訴され、その前提として令状も本人の承諾もない写真撮影が憲法13条・35条に反しないかが争われました。
判旨
最高裁は、憲法13条は国民の私生活上の自由が警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているとしたうえで、次のように述べました。
個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する。
――最大判昭和44年12月24日(京都府学連事件)の趣旨
そして、警察官が正当な理由もないのに個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し許されないとしました。
ただし、この自由も無制限ではなく、次の要件を満たす場合には、本人の承諾がなく裁判官の令状がなくても警察官による写真撮影が許容されるとしました。
撮影が許容される3要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 現行犯性 | 現に犯罪が行われ、または行われたのち間がないと認められる場合であること |
| ② 必要性・緊急性 | 証拠保全の必要性および緊急性があること |
| ③ 相当性 | 撮影の方法が一般的に許容される限度を超えない相当なものであること |
意義と「肖像権」という語の扱い
本件は、13条を根拠に私生活上の自由が公権力に対して保護されることを最高裁が明示した、新しい人権のリーディングケースです。
ここで慎重に扱うべきなのが「肖像権」という言葉です。判決は、みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由を認めるにあたって、「これを肖像権と称するかどうかは別として」という趣旨の留保を置いたとされています。つまり、最高裁が「肖像権」という権利名を正面から採用・確立したと言い切るのは正確ではありません。試験対策としては、判旨の言い回しである「みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由」で記憶するのが安全です。教科書や問題集の見出しが「肖像権」となっていても、判旨の文言はこの表現である、と切り分けておきましょう。
もう一点、結論は被告人の上告棄却=当該撮影を適法とするものであり、自由を認めたうえで制約を許容した典型例です。「自由を認めた=違憲」ではありません。
自動速度監視装置事件(最判昭和61年2月14日)
自動速度監視装置(いわゆるオービス)による写真撮影の合憲性が問われた事件です。最高裁は、速度違反車両の自動撮影を行う装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質・態様からいって緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるとして、憲法13条に違反しないと判断しました。
同乗者の容ぼうがあわせて撮影される結果になっても、それは速度違反者の容ぼうを撮影する際にやむを得ず付随的に撮影されるものであるとして、合憲性を肯定しています。京都府学連事件で示された撮影の許容要件が、機械による自動撮影の場面でも適用された例として理解しておきましょう。
京都府学連事件(最大判昭和44年12月24日)において、最高裁は、何人もその承諾なしにみだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するとしたが、現に犯罪が行われている場合などで証拠保全の必要性・緊急性があり、方法が相当なときは、令状がなくても警察官による写真撮影が許容されるとした。○か×か。
主要判例②|前科照会事件(最判昭和56年4月14日)
事案
弁護士会が、弁護士法に基づく照会の制度を用いて、京都市中京区長に対し、ある人物の前科および犯罪経歴の照会を行いました。区長がこれに応じて前科等を回答したため、その人物が、前科を漏らされたことによって損害を被ったとして、国家賠償を求めた事件です。
判旨
最高裁は、次の趣旨を述べました。
前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する。
――最判昭和56年4月14日(前科照会事件)の趣旨
そのうえで、市区町村長は、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないとし、本件において、照会の必要性の有無・程度を確かめることなく漫然と前科等のすべてを回答した区長の行為は、公権力の違法な行使にあたると判断しました。
意義|「憲法上の権利」ではなく「法律上の保護に値する利益」
この判例で最も試験に出るのが、認められたのが何かという点です。最高裁が用いた表現は「みだりに公開されないという法律上の保護に値する利益」であり、「憲法13条によって保障される権利」と正面から構成したわけではありません。国家賠償法1条1項の違法性判断の枠内で、保護に値する利益の侵害として処理されています。
したがって、「前科照会事件で最高裁は前科をみだりに公開されない憲法上の権利を認めた」という選択肢は、誤りとして扱うのが正確です。住基ネット訴訟が「憲法13条は……自由を有する」と明言したのと対照的であり、この差は意識して覚えておく価値があります。
なお、本判決には、プライバシーの権利という観点から論じた裁判官の補足意見が付されていますが、補足意見は法廷意見ではありません。「最高裁が〜と判示した」という形の選択肢で補足意見の内容が混ぜられることがあるため注意しましょう。
「逆転」事件(最判平成6年2月8日)との違い
ノンフィクション「逆転」事件では、事件から相当期間が経過した後に、ノンフィクション作品で前科にあたる事実を実名で公表されたことがプライバシーの侵害にあたるかが争われました。最高裁は、有罪判決を受け服役したという事実は人の名誉・信用に直接にかかわる事項であるから、みだりにその事実を公表されないことにつき法的保護に値する利益を有するとしました。
ただし、その者のその後の生活状況、事件それ自体の歴史的・社会的意義、その者の社会的活動およびその影響力、著作物の目的・性格などを考慮し、公表されない法的利益と公表する理由とを比較衡量して判断するとし、本件では公表されない利益が優越するとして、不法行為の成立を認めました。
| 比較項目 | 前科照会事件(最判昭56.4.14) | 「逆転」事件(最判平6.2.8) |
|---|---|---|
| 誰が漏らしたか | 区長(公権力の行使) | 著作者(私人) |
| 訴訟の性質 | 国家賠償請求 | 民法上の不法行為に基づく損害賠償請求 |
| 認められた利益 | みだりに公開されない法律上の保護に値する利益 | みだりに公表されないことにつき法的保護に値する利益 |
| 結論 | 漫然と回答した区長の行為は公権力の違法な行使 | 実名公表は不法行為にあたる |
前科に関する判例は複数あるため、どちらが公権力の話でどちらが私人の話かを取り違えないよう整理しておきましょう。
主要判例③|住基ネット訴訟(最判平成20年3月6日)
事案
住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)により、本人確認情報(氏名・住所・生年月日・性別の4情報+住民票コードおよびこれらの変更情報)が管理・利用・提供されることが、憲法13条の保障するプライバシー権等を侵害するとして、住民が住民票コードの削除等を求めた事件です。
判旨
最高裁は、まず権利の存在について次のように述べました。
憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有する。
――最判平成20年3月6日(住基ネット訴訟)の趣旨
そのうえで、住基ネットについては合憲と判断しました。
合憲判断の理由(整理)
| 観点 | 最高裁の判断 |
|---|---|
| 対象情報の性質 | 本人確認情報は個人の内面に関わる秘匿性の高い情報ではない |
| 利用目的 | 法令に基づき正当な行政目的の範囲内で利用されている |
| 漏えいの危険 | システム上の欠陥等により、法令等の根拠に基づかず又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示・公表される具体的な危険は生じていない |
| データマッチングの危険 | 法令上の根拠なく個人情報が一元的に管理される具体的危険はない |
最高裁は、行政機関が個人情報を一元的に管理できる仕組み(いわゆるマスターキー)が存在し、それによってプロファイリングがされる「具体的な危険」があるかどうかを重視しました。本件ではその具体的危険が認められないとして合憲とされた点が結論を分ける核心です。
意義|自己情報コントロール権との距離
住基ネット訴訟における最高裁の判断は、「みだりに第三者に開示又は公表されない自由」という消極的・防御的な定式を用いており、自己情報コントロール権という概念を正面から採用してはいません。もっとも、個人情報の保護に憲法13条による一定の保障を認めた点で、きわめて重要な判例です。
ここは試験で頻出の論点です。学説上は自己情報コントロール権が有力に主張されていますが、最高裁判例はあくまで消極的な定式にとどめており、自己情報コントロール権という積極的権利を正面から承認したわけではないという「学説と判例のズレ」を正確に押さえてください。「住基ネット判決が自己情報コントロール権を認めた」という選択肢は誤りです。
また、本判決は権利を認めつつ制度は合憲とした典型例でもあります。「13条違反として住基ネットを違憲とした」という選択肢も当然に誤りです。
住基ネット訴訟(最判平成20年3月6日)において、最高裁は住基ネットによる本人確認情報の管理・利用について「自己情報コントロール権の侵害」として違憲と判断した。○か×か。
主要判例④|エホバの証人輸血拒否事件(最判平成12年2月29日)
事案
宗教上の信念から輸血を伴う医療行為を拒否する意思を明確にしていた患者が、手術を受けました。医師らは、輸血以外に救命手段がない事態に至れば輸血する、という方針を採っていましたが、その方針を患者に説明しないまま手術を行い、実際に輸血をしました。患者側が、説明を受けずに輸血されたことについて損害賠償を求めた事件です。
判旨
最高裁は、次の趣旨を述べました。
患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。
――最判平成12年2月29日(エホバの証人輸血拒否事件)の趣旨
そのうえで、医師らが、輸血する可能性があるという方針を説明して、手術を受けるか否かを患者自身の意思決定に委ねるべきであったのに、これを怠って手術を行い輸血したことは、患者が意思決定をする権利を奪ったものであり、人格権を侵害するとして、不法行為に基づく損害賠償責任を認めました。
意義|「自己決定権」という語は用いられていない
この判例で最重要の注意点が2つあります。
第一に、最高裁が認めたのは「輸血を拒否する権利」そのものではなく、「輸血を伴う医療行為を受けるか否かについて意思決定をする権利」です。医師が輸血を強行したこと自体ではなく、説明を怠って意思決定の機会を奪ったことが違法とされた、という構造を正確に押さえましょう。
第二に、本判決は「自己決定権」という語を明示的には用いておらず、「人格権の一内容」として構成しています。学説上は自己決定権の代表的判例として扱われますが、判旨の文言はあくまで人格権です。また、本件は私人(医師・病院側)と患者の間の民事事件であり、憲法13条違反として憲法判断がされた事案ではない点も、あわせて意識しておくとよいでしょう。
試験では「最高裁は輸血拒否事件で自己決定権を憲法上の権利として認めた」という形でひっかけが作られます。最高裁が用いた表現は「意思決定をする権利」「人格権の一内容」である、と正確に記憶しましょう。
輸血拒否事件(最判平成12年2月29日)において、最高裁は「宗教上の信念に基づいて輸血を拒否する権利」を人格権の一内容として認め、医師の不法行為責任を肯定した。○か×か。
自己決定権|及ぶ範囲とその限界
自己決定権とは
自己決定権とは、個人が自分の生き方や生活のあり方について、公権力から干渉されることなく自ら決定することができる権利をいいます。幸福追求権(憲法13条)から導かれる権利の一つとして位置づけられています。
学説上、自己決定権の対象は概ね次の4つの領域に分けて議論されます。
| 領域 | 具体例 | 判例・学説の状況 |
|---|---|---|
| 自己の生命・身体の処分 | 輸血拒否、治療の拒否、終末期医療 | 輸血拒否事件は「意思決定をする権利」を人格権として承認 |
| リプロダクション(生殖) | 妊娠・出産、避妊、不妊手術 | 生殖不能要件を違憲とした決定がある(後述) |
| 家族の形成・維持 | 結婚、離婚、氏の選択 | 夫婦同氏制について13条違反ではないとされた |
| ライフスタイル | 服装、髪型、飲酒・喫煙 | 憲法上の権利としての保護には慎重(一般的自由説と人格的利益説の対立点) |
これらのうち、最高裁が正面から「憲法上の自己決定権」として承認したといえる例は限られています。学説上は広く自己決定権の問題として議論されますが、判例では人格権・人格的利益として保護を図る構成がとられることが多い点に注意が必要です。
生命・身体の処分に関わる決定
輸血拒否事件が示したのは、医療におけるインフォームド・コンセントの憲法的・私法的な基礎です。ここで守られているのは「決定の内容」ではなく「決定する機会」である、という点が本質です。医療者が正しいと考える治療方針であっても、患者本人が判断する前提となる情報を与えなければ、結果の当否とは別に違法となりうる、という構造になっています。
他方、安楽死・尊厳死のように「死ぬ権利」まで自己決定権に含まれるかについては、最高裁が正面から判断した例があるとはいえません。この領域は、確信をもって断定できる判例準則が乏しいことを前提に、論点として存在することを知っておくにとどめるのが安全です。
生殖に関する決定
最大決令和5年10月25日は、性同一性障害者の性別の取扱いの変更の審判を受けるための要件のうち、生殖腺がないことまたは生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあることを求める要件について、自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由が憲法13条によって保障されることを前提に、当該要件は憲法13条に違反し無効であると判断しました。
13条から導かれる自由を根拠に法律の規定が違憲・無効とされた例であり、13条が「認めるが合憲」のパターンばかりではないことを示す近時の重要判例です。違憲判断の全体像を整理したい方は違憲判決の一覧もあわせて確認してください。
家族の形成に関する決定
最大判平成27年12月16日は、夫婦が婚姻の際に夫または妻の氏を称すると定める民法の規定について、氏の変更を強制されない自由が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえないとして、憲法13条に違反しないと判断しました。
「氏に関する人格的利益」の存在自体は認めつつ、それを憲法上の権利にまで高めることには慎重な姿勢を示した判断であり、13条から権利を導くことの限界を示す例として理解できます。
ライフスタイルに関する決定と限界
服装・髪型・嗜好といった領域は、一般的自由説と人格的利益説の対立が最も鮮明に表れる場面です。
喫煙については、最大判昭和45年9月16日が、未決拘禁者に対する喫煙禁止の規定について、喫煙の自由が憲法13条の保障する基本的人権に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではないとし、拘禁の目的や制限の必要性等を考慮して合憲としました。「含まれるとしても」という仮定的な言い回しにとどめている点が特徴で、最高裁が喫煙の自由を憲法上の人権として正面から確定したものとは読めません。
このように、自己決定権が及ぶ範囲は、①人格的生存にどれだけ深く関わるか、②制約の目的と手段がどれだけ合理的か、という2つの軸で判断されます。「自己決定権だから何でも通る」という発想は判例の実像から遠く、むしろ人格の核心に近づくほど保護が厚くなるという傾斜構造として理解しておきましょう。
その他の13条関連判例
指紋押捺拒否事件(最判平成7年12月15日)
外国人登録法に基づく指紋押捺制度の合憲性が争われた事件です。最高裁は、「何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由」を有するとし、この自由は国民の私生活上の自由の一つとして憲法13条の趣旨に照らし保障されると判示しました。
ただし、指紋押捺制度は外国人の公正な管理に資する目的に基づくものであり、その必要性と相当性が認められるとして、合憲と判断しました。
この判決のポイントは2つあります。第一に、指紋という情報の性質について、性質上万人不同・終生不変であり、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活や私事に関する情報が読み取られるおそれがある、として保護の必要性を認めたことです。第二に、本判決が「何人も」という表現を用い、当該自由が外国人にも保障されることを前提としている点です。権利の性質上、外国人にも及ぶ人権の例として、外国人の人権享有主体性の論点とあわせて出題されることがあります。
GPS捜査事件(最大判平成29年3月15日)
GPS(全地球測位システム)端末を車両に密かに取り付けて位置情報を継続的に取得する捜査手法の適法性が争われた事件です。最高裁は、GPS捜査が個人の行動を継続的・網羅的に把握することを必然的に伴い、個人のプライバシーを侵害し得るものであって、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、令状がなければ行うことのできない強制の処分にあたるとしました。そのうえで、現行の令状の類型では対応しきれない面があり、立法的な措置が望ましいことにも言及しています。
ここで注意したいのは、本判決が主として憲法35条(住居・書類・所持品について侵入・捜索・押収を受けることのない権利)の文脈で論じられた判断であるという点です。プライバシー保護の判例として並べて理解することは有益ですが、「13条を根拠に令状主義を導いた判例」と単純化しないよう気をつけましょう。容ぼう撮影の各判例が「相当な方法」であれば令状なしでも許容される場面を認めたのに対し、GPS捜査は原則として令状を要する強制処分と位置づけられた点で、保護の度合いが対照的です。
GPS捜査事件(最大判平成29年3月15日)において、最高裁は、令状を取得せずに行われたGPS捜査も任意処分の範囲内であり適法であると判断した。○か×か。
判例の体系的整理
判例一覧(13条関連)
プライバシー権・自己決定権を中心に、13条に関連する主要判例を整理すると以下のとおりです。
| 判例 | 年月日 | 認められた権利・利益 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 「宴のあと」事件 | 東京地判昭和39年9月28日 | 私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利 | プライバシー侵害を認定 |
| 京都府学連事件 | 最大判昭和44年12月24日 | みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由 | 当該撮影は許容(合憲) |
| 喫煙禁止事件 | 最大判昭和45年9月16日 | 喫煙の自由(含まれるとしても無制限ではない) | 拘禁施設での禁止は合憲 |
| 前科照会事件 | 最判昭和56年4月14日 | 前科等をみだりに公開されない法律上の保護に値する利益 | 漫然とした回答は公権力の違法な行使 |
| 自動速度監視装置事件 | 最判昭和61年2月14日 | (容ぼうを撮影されない自由の制約) | 撮影は合憲 |
| 「逆転」事件 | 最判平成6年2月8日 | 前科等をみだりに公表されない法的保護に値する利益 | 実名公表は不法行為 |
| 指紋押捺拒否事件 | 最判平成7年12月15日 | みだりに指紋の押なつを強制されない自由 | 制度は合憲 |
| 輸血拒否事件 | 最判平成12年2月29日 | 意思決定をする権利(人格権の一内容) | 人格権侵害を認定 |
| 「石に泳ぐ魚」事件 | 最判平成14年9月24日 | 名誉・プライバシー等の人格的利益 | 出版差止めを認めた原審を是認 |
| 早稲田大学名簿事件 | 最判平成15年9月12日 | プライバシーに係る情報としての法的保護 | 無断提供は不法行為 |
| 住基ネット訴訟 | 最判平成20年3月6日 | 個人情報をみだりに第三者に開示・公表されない自由 | 住基ネットは合憲 |
| 夫婦同氏制訴訟 | 最大判平成27年12月16日 | 氏の変更を強制されない自由は憲法上の権利とはいえない | 13条に違反しない |
| 検索結果削除仮処分事件 | 最決平成29年1月31日 | 公表されない法的利益(比較衡量) | 優越が明らかとはいえず削除認めず |
| GPS捜査事件 | 最大判平成29年3月15日 | (主として憲法35条の問題) | 令状なき捜査は違法 |
| 性同一性障害特例法違憲決定 | 最大決令和5年10月25日 | 自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由 | 生殖腺に関する要件は13条違反 |
「権利を認めたが合憲」のパターンに注意
13条の判例を学習するうえで最大の落とし穴が、「権利・自由は承認したが、制約は合憲」というパターンです。京都府学連事件・指紋押捺拒否事件・住基ネット訴訟は、いずれも私生活上の自由(またはそれに準じる利益)を13条(の趣旨)に照らして承認しつつ、結論としては制約や制度を合憲としています。
「自由を認めた=違憲判決」と短絡してしまうと正誤判断を誤ります。「権利・自由の承認」と「制約の合憲性」は別個の判断であることを徹底して意識してください。侵害・違法の結論となったのは、私人間または国賠の事案である「宴のあと」事件・前科照会事件・「逆転」事件・輸血拒否事件・早稲田大学名簿事件、強制処分性を認めたGPS捜査事件、そして法律の規定を違憲とした性同一性障害特例法違憲決定です。
「憲法上の権利」か「法律上の利益」かの区別
もう一つの軸が、最高裁が何のレベルで保護を認めたか、です。
| レベル | 表現の例 | 該当判例 |
|---|---|---|
| 憲法13条により保障される自由 | 「憲法13条は……自由を有する」 | 住基ネット訴訟、性同一性障害特例法違憲決定 |
| 13条の趣旨に照らして保護される自由 | 「憲法13条の趣旨に照らし」 | 京都府学連事件、指紋押捺拒否事件 |
| 法律上の保護に値する利益 | 「法律上の保護に値する利益」 | 前科照会事件 |
| 人格権の一内容 | 「人格権の一内容として尊重される」 | 輸血拒否事件 |
このレベルの違いが、そのまま選択肢の正誤を分けます。丸暗記ではなく、「最高裁がどの言葉を選んだか」を意識して読む癖をつけましょう。
学習のポイント
判例を学習する際は、以下の点に注意しましょう。
- 権利の根拠条文: 多くは憲法13条(の趣旨)を根拠としているが、GPS捜査事件は主として35条の問題である
- 認められた権利の具体的内容: 各判例で認められた権利・自由の表現を正確に覚える
- 結論: 権利を認めたうえで合憲としたのか、違憲・違法としたのかを区別する
- 違憲審査基準: どのような基準(必要性・相当性、比較衡量など)で合憲性を判断したかを理解する
- 裁判所の審級: 「宴のあと」事件は東京地裁(下級審)、それ以外の主要判例は最高裁である点を区別する
出題ポイントとひっかけの型
過去問で問われやすい角度
行政書士試験の憲法では、13条関連は次のような角度で問われてきました。
- 各判例で「認められた権利・自由の文言」と「合憲・違憲の結論」を入れ替える正誤問題
- 判決を下した裁判所(地裁か最高裁か)の取り違え
- 自己情報コントロール権を最高裁が承認したか否か
- 輸血拒否事件で認められたのが「拒否する権利」か「意思決定をする権利(人格権)」か
- 環境権・平和的生存権など、主張はされたが最高裁が正面から認めていない権利の扱い
- 前科照会事件で認められたのが憲法上の権利か法律上の利益か
ひっかけの型①|「明文で規定されている」型
最も基本的なひっかけが、明文の有無をすり替える型です。
誤りの例:「プライバシー権は、憲法13条において明文で規定されている」
憲法13条の文言は「個人として尊重される」「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」であり、プライバシー権も自己決定権も条文に書かれていません。これらは13条の解釈により導かれた「新しい人権」です。同様に、「肖像権」「自己情報コントロール権」「知る権利」「環境権」も憲法に明文はありません。
なお、明文がないことは保障されないことを意味しません。「明文はないが13条を根拠に判例上承認されている」という段階の区別が本問の核心です。
ひっかけの型②|権利名のすり替え型
最高裁が実際に用いた言い回しを、より一般的な権利名に置き換える型です。
| すり替えられやすい表現 | 判旨の正確な表現 |
|---|---|
| 肖像権を認めた(京都府学連事件) | みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由(「肖像権と称するかどうかは別として」の留保あり) |
| 自己情報コントロール権を認めた(住基ネット訴訟) | 個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由 |
| 自己決定権を認めた(輸血拒否事件) | 意思決定をする権利を人格権の一内容として尊重 |
| 忘れられる権利を認めた(検索結果削除事件) | 公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に削除を求めうる |
ひっかけの型③|結論の逆転型
「自由を認めた」という前半が正しいために、後半の結論の誤りを見落とさせる型です。京都府学連事件・指紋押捺拒否事件・住基ネット訴訟は、いずれも結論は合憲です。前半だけを読んで○を付けないよう、必ず結論まで確認しましょう。
ひっかけの型④|主体・審級の取り違え型
「宴のあと」事件を最高裁判決とする、前科照会事件と「逆転」事件を混同する、といった型です。誰が誰の情報を、どういう手続で漏らしたのかを事案レベルで押さえておけば防げます。
よくある誤解の整理
| よくある誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| プライバシー権は13条に明文で規定されている | 明文はなく、13条の解釈から導かれる新しい人権である |
| 「宴のあと」事件は最高裁判決である | 東京地裁の下級審判決である |
| 住基ネット判決は自己情報コントロール権を認めた | 「みだりに開示・公表されない自由」を認めたにとどまる |
| 輸血拒否事件は「輸血を拒否する権利」を認めた | 「意思決定をする権利」を人格権の一内容として認めた |
| 京都府学連事件は写真撮影を一律に違憲とした | 一定要件のもとで令状なし撮影を許容した |
| 京都府学連事件は「肖像権」を確立した | 「肖像権と称するかどうかは別として」と留保している |
| 前科照会事件は憲法上の権利を認めた | 「法律上の保護に値する利益」として構成した |
| 環境権は判例上13条で承認されている | 最高裁は正面から憲法上の権利として承認していない |
| 指紋押捺拒否事件は制度を違憲とした | 自由を認めつつ制度自体は合憲とした |
| 最高裁は「忘れられる権利」を承認した | その語を用いず、比較衡量の枠組みで判断している |
これらは選択肢の正誤を分ける典型的な論点です。表の左右を入れ替えた形で出題されることが多いため、対比で覚えておくと得点に直結します。
「宴のあと」事件において、最高裁判所は「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」としてプライバシー権を初めて認めた。○か×か。
前科照会事件(最判昭和56年4月14日)において、最高裁は、前科等をみだりに公開されない利益を憲法13条により保障される権利であると明示し、区長の回答行為を違法とした。○か×か。
まとめ|13条の判例を得点源にしよう
憲法13条の幸福追求権は、プライバシー権や自己決定権といった「新しい人権」の根拠条文として、行政書士試験において出題頻度の高い分野です。
本記事の内容を整理すると、以下のポイントが重要です。
- 幸福追求権の法的性格: 通説は人格的利益説であり、人格的生存に不可欠な利益を保護する。個別的人権規定が優先し、13条は補充的に働く
- 新しい人権の導き方: ①根拠(13条)→②保護範囲(人格的利益か)→③制約の可否(公共の福祉)の3段階。②を肯定しても③で合憲となることが多い
- プライバシー権: 消極的把握(公開されない権利)から積極的把握(自己情報コントロール権)へ展開したが、最高裁は後者を正面から採用していない。3要件は私事性・秘匿性・非公知性
- 「宴のあと」事件: 東京地裁がプライバシー権を初めて法的に認めた(最高裁ではない)
- 京都府学連事件: みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由を承認しつつ、3要件を満たす撮影は許容。「肖像権」の語には留保がある
- 前科照会事件: 「法律上の保護に値する利益」として構成。憲法上の権利と断定した判示ではない
- 住基ネット訴訟: 個人情報をみだりに開示・公表されない自由を13条により承認しつつ、住基ネットは合憲
- 輸血拒否事件: 「意思決定をする権利」を人格権の一内容として認定(「拒否する権利」でも「自己決定権」でもない)
- 自己決定権: 生命・身体、生殖、家族形成、ライフスタイルの各領域で議論。人格の核心に近いほど保護は厚い
これらの判例は、「認められた権利の具体的表現」と「結論(合憲か違憲か)」をセットで覚えることが、試験での正答率を高める鍵となります。とくに「権利・自由は認めたが制約は合憲」というパターンと、裁判所の審級(地裁か最高裁か)の区別を徹底しましょう。
人権分野の理解をさらに深めたい方は、あわせて次の記事も参照してください。
FAQ|憲法13条とプライバシー権のよくある疑問
Q1. プライバシー権は憲法に明文で規定されていますか?
規定されていません。憲法13条が定めるのは「個人として尊重される」ことと「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」であり、プライバシー権という語は出てきません。プライバシー権は、この幸福追求権の解釈によって導かれた「新しい人権」です。同様に、自己決定権・肖像権・知る権利・環境権も憲法に明文はありません。「明文で規定されている」という選択肢は誤りと判断してください。
Q2. 「新しい人権」はどこまで認められるのですか?
無制限ではありません。通説である人格的利益説は、13条によって保護されるのを「個人の人格的生存に不可欠な利益」に限定します。実際、最高裁が正面から承認した権利・自由は、みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由、みだりに指紋の押なつを強制されない自由、個人情報をみだりに第三者に開示・公表されない自由など、限られています。環境権や平和的生存権は、主張はされてきましたが、最高裁が憲法上の具体的権利として正面から承認したとはいえません。
Q3. 京都府学連事件で最高裁は「肖像権」を認めたのですか?
判旨が認めたのは「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由」です。判決は「これを肖像権と称するかどうかは別として」という趣旨の留保を置いたとされており、「肖像権」という権利名を正面から確立したと言い切るのは正確ではありません。テキストの見出しが「肖像権」となっていても、判旨の言い回しで記憶しておくのが安全です。
Q4. 前科照会事件で認められたのは憲法上の権利ですか?
いいえ。最高裁は「前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と述べており、憲法13条により保障される権利であると正面から構成したものではありません。結論としては、照会の必要性等を確かめずに漫然と回答した区長の行為が公権力の違法な行使にあたるとされました。「憲法13条によって保障される自由を有する」と明言した住基ネット訴訟との違いを意識しましょう。
Q5. 住基ネット訴訟は自己情報コントロール権を認めたのですか?
認めていません。最高裁が述べたのは「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」という消極的・防御的な定式です。学説上有力な自己情報コントロール権という積極的な権利構成を正面から採用したものではありません。また結論も、本人確認情報の秘匿性が高くないこと、法令の根拠に基づかない開示の具体的危険がないことなどから、合憲とされています。
Q6. 輸血拒否事件は「自己決定権」を認めた判例ですか?
判旨は「自己決定権」という語を用いていません。最高裁が認めたのは、「輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない」というものです。また、認められたのは「輸血を拒否する権利」そのものではなく、説明を受けて手術を受けるかどうかを判断する機会に関する権利であり、その機会を奪った点が違法とされました。学説上は自己決定権の代表例として扱われますが、判旨の文言との区別が試験では問われます。
Q7. 「忘れられる権利」は日本の最高裁で認められていますか?
「忘れられる権利」という語を用いて権利を承認した最高裁の判断はありません。最決平成29年1月31日は、検索結果の削除について、事実の性質・内容、伝達される範囲と被害の程度、その者の社会的地位や影響力、記事等の目的や意義、掲載時の社会的状況とその後の変化などを比較衡量し、「その事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」に削除を求めることができる、という枠組みを示しました。比較衡量であること、そして「明らかな場合」という限定が付いていることが要点です。
Q8. 13条と個人情報保護法はどういう関係にありますか?
憲法13条は、公権力に対して「個人情報をみだりに第三者に開示・公表されない自由」を保障する土台です。これに対し、個人情報保護法は、行政機関・独立行政法人・民間事業者を横断的に規律し、利用目的の特定や第三者提供の制限、開示・訂正・利用停止の請求権などを具体的に定めています。憲法解釈としては採用されていない自己情報コントロール権的な発想が、法律のレベルでは請求権として具体化されている、と整理すると両分野がつながります。
演習で定着させる
憲法の判例問題では、13条から導かれる各権利の判例上の位置づけが問われます。判旨を要約で覚えていると、結論は合っていても理由づけを入れ替えた肢に引っかかります。行政書士ブートラボの肢別演習では、判例の理由づけ部分を狙った肢を一問一答形式で確認できるので、関連判例をまとめて解くと判断の軸が安定します。