この法律は、公布の日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 第二条並びに附則第七条、第八条、第十六条、第二十一条から第二十四条まで、第二十九条、第三十一条、第三十三条、第三十五条及び第三十七条の規定 平成二十年一月三十一日までの間において政令で定める日
二 第四条並びに附則第十四条、第十五条、第十七条、第二十五条から第二十八条まで、第三十条、第三十二条、第三十四条、第三十六条及び第三十八条の規定 平成二十年四月三十日までの間において政令で定める日
この条文の過去問 39肢
結論:この肢は「正しい」。判決は、直接の法律上の根拠がないことを認めたうえで、それでも違法ではないと述べているからです。
判決は冒頭で「食中毒事故が起こった場合、その発生原因を特定して公表することに関して、直接これを定めた法律の規定が存在しないのは原告の指摘するとおりである」と明言し、末尾でも「これを許容する法律上の直接の根拠がないからといって、それだけで直ちに法治主義違反の違法の問題が生じるとはいえない」と繰り返しています。つまり、根拠規定が存在しないという事実認識は判決も原告と共有しており、争点は「根拠がないことが違法をもたらすか」という評価の部分にあったのです。したがって、肢の記述は判決の内容に反しません。
理由づけとして重要なのは、判決が食品衛生法1条を引用した趣旨です。判決当時の1条は「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、公衆衛生の向上及び増進に寄与すること」を目的として掲げていました(現行の1条は「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ること」を目的と定めています)が、これは公表という具体的活動を授権する規定ではなく、厚生省・厚生大臣の所管事務の範囲を画する手がかりとして引かれているにすぎません。判決は、目的規定を根拠に公表権限が授権されていると構成したのではなく、あくまで所掌事務の範囲内であることを確認したうえで、侵害留保説の立場から作用法上の根拠は不要と結論づけたのです。
ひっかけポイントは、判決が食品衛生法1条に言及していることをもって「食品衛生法に根拠がある、との立場だ」と早合点してしまうことです。目的規定は組織・作用の方向性を示すものであって、個別の権限を授権する規定ではありません。この区別は、行政法総論でいう組織規範・根拠規範(授権規範)・規制規範の三分類の理解に直結します。所掌事務を定める組織規範があるだけでは侵害的活動はできず、別途根拠規範が必要になる、という基本を確認しておきましょう。
結論:この肢は「誤り」。判決の結論と正面から食い違っており、これが「判決の内容に明らかに反しているもの」として正解になります。
判決は、本件公表について「国民の権利を制限し、義務を課すことを目的としてなされたものではなく、またそのような効果も存しない」と認定したうえで、「これを許容する法律上の直接の根拠がないからといって、それだけで直ちに法治主義違反の違法の問題が生じるとはいえない」と述べています。すなわち、法律上の直接の根拠は不要という立場です。ところが肢5は「法律上の直接の根拠が必要であるとの立場がとられている」と述べており、結論が真逆です。
さらに肢5は、根拠が必要である理由として「現実には特定の国民に重大な不利益をもたらす事実上の効果を有する」ことを挙げますが、判決はまさにその点を否定しています。判決は「またそのような効果も存しない」と、権利制限・義務賦課の効果そのものがないと認定しているのですから、肢の前提事実の捉え方も判決と異なります。目的の面でも効果の面でも判決の認定に反しており、二重に「明らかに反している」といえます。
ひっかけポイントは、肢5の記述が学説上はそれなりに説得力のある主張だという点です。公表は、対象となった事業者にとって売上の急減や信用失墜という深刻な打撃をもたらすことがあり、実質的に見れば侵害作用と変わらないから法律の根拠を要すべきだ、という批判は現に有力に主張されています。本問はあくまで「この判決の内容に反しているか」を問うているのですから、自分が妥当と考える学説ではなく、判決文が何を述べているかだけを基準に判断しなければなりません。判決文型の問題では、①結論はどちらか、②理由づけの筋道はどうか、③留保・例外はどこまで認めているか、を本文から拾い出し、選択肢と一対一で照合する読み方が有効です。なお、本件公表の後、消費者への情報提供と事業者の名誉・信用の調整は立法上も課題とされ続けており、判決の結論に対する批判が根強いことも押さえておくとよいでしょう。
結論:この肢は「誤り」。判例は、課税処分について明白性を欠く場合でも無効となりうることを認めています。
最判昭和48年4月26日(民集27巻3号629頁)は、他人名義でされた不動産譲渡について、実際には所得を得ていない者に対して課税処分がされた事案において、「課税処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれである場合、および徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である」と判示しました。明白性を要件として要求せず、重大な瑕疵と例外的事情があれば無効となることを認めたものです。
理由づけの核心は、重大明白説において明白性が要求される趣旨にあります。明白性は、処分を有効なものと信頼して行動した第三者の取引の安全や、法的安定性を保護するために要求されるものです。ところが課税処分は、課税庁と納税者との二当事者間で完結し、その有効性を信頼して法律関係に入る第三者は原則として想定されません。そうであれば、明白性を厳格に要求する必要は乏しく、瑕疵が重大で、しかも出訴期間の徒過を理由に不利益を甘受させるのが著しく不当な事情がある場合には、無効を認めてよいというわけです。この考え方は明白性補充要件説と呼ばれます。
ひっかけポイントは、この判例が重大明白説そのものを放棄したわけではないことです。原則は依然として重大かつ明白な瑕疵であり、課税処分のように第三者保護の要請が働かない類型について例外的に明白性を緩和したものと理解されています。肢は「例外は一切ない」という趣旨で言い切っている点で判例に反します。なお、重大な瑕疵といえない単なる法令解釈の誤りや事実認定の誤りにとどまる場合は、取消事由となるにすぎず、審査請求期間・出訴期間を徒過すれば争えなくなる点も併せて確認しておきましょう。
結論:この肢は「誤り」。判例は、授益的処分の撤回について、撤回自体の明文の根拠規定は不要としています。
最判昭和63年6月17日(いわゆる菊田医師事件)は、実子あっせん行為を行った医師について、医師会が旧優生保護法(現在の母体保護法)上の指定医師の指定を撤回した事案です。最高裁は、指定医師の指定の撤回によって被る不利益を考慮しても、なおその指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じたというべきであるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定の権限を付与されている医師会は、その権限において指定を撤回することができるとしました。すなわち、授権規定に基づいて処分をする権限が与えられている以上、その権限の中に、公益上の必要が生じた場合に処分を撤回する権限も含まれると解されるのです。肢はこの結論と正面から反します。
理由づけを整理すると、撤回とは、瑕疵なく成立した行政行為について、その後に生じた事情を理由として、将来に向かって効力を失わせる行為をいいます(職権取消しが成立時の瑕疵を理由に原則として遡及的に効力を失わせるのと対比されます)。撤回の必要が生じる事情をあらかじめすべて立法で列挙するのは困難であり、公益適合性を維持するための権限は処分権限に内在すると考えるのが合理的です。
ひっかけポイントは二つあります。第一に、根拠が不要だからといって自由に撤回できるわけではなく、相手方が受ける不利益と撤回によって守られる公益とを比較衡量し、公益上の必要が相手方の不利益を上回る場合に限って許されます。菊田医師事件の判旨も、この衡量を経たうえで撤回を適法としています。第二に、相手方に帰責事由がないのに撤回によって既得の財産的利益が失われる場合には、損失補償が必要となることがあります(最判昭和49年2月5日・東京都中央卸売市場用地事件は、行政財産の使用許可の撤回につき、使用権自体に内在する制約から補償を要しない場合があるとしつつ、補償を要する場合のあることを前提としています)。
結論:この肢は「誤り」。随意契約の手続に関し必要な事項を定めるのは条例ではなく政令です。
地方自治法234条6項は「競争入札に加わろうとする者に必要な資格、競争入札における公告又は指名の方法、随意契約及びせり売りの手続その他契約の締結の方法に関し必要な事項は、政令でこれを定める」と規定しています。随意契約の手続はこの中に明示的に含まれており、地方自治法施行令167条の2などがその内容を定めています。肢は法定の委任先を「条例」とすり替えたもので、典型的な条文すり替え型の誤りです。
理由づけとしては、契約締結手続の公正性・統一性の確保が挙げられます。契約の相手方選定は公金の支出に直結し、また団体をまたいで事業者が参加するものですから、団体ごとに手続がばらばらでは事業者の予見可能性が損なわれ、公正な競争も確保できません。そこで、全国一律の基準を政令で定める建て付けが採られているのです。
ひっかけポイントは、条例が登場する場面との区別です。地方自治法96条1項5号は、議会の議決を要する契約について「その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約」としており、ここでは政令の基準に従って条例が具体的な範囲を定めます。また、同項6号・8号など財産の取得処分等についても条例で定める場面があります。さらに、少額随意契約の限度額については施行令別表第五が上限を示し、その範囲内で各団体の規則が定めることになっています。「政令で定める」「条例で定める」「規則で定める」の三者を条文ごとに正確に押さえておくことが、地方自治法の財務会計分野を得点源にする近道です。なお、随意契約が政令の定める要件を欠くのに締結された場合であっても、判例は、私法上の効力については、締結が違法であることを相手方が知りまたは知りうべきであったなど特段の事情がない限り直ちに無効とはならない、という趣旨の判断を示しており(最判昭和62年5月19日)、住民訴訟の場面で問題となる点も押さえておきましょう。
結論:この肢は「誤り」。「かつ指名競争入札による場合に限られる」という限定が法にはありません。
地方自治法96条1項5号は、普通地方公共団体の議会が議決しなければならない事項として「その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結すること」を掲げています。前段部分、すなわち種類および金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約であることは肢の記述どおりですが、条文はそれ以上に契約締結方法による限定を置いていません。一般競争入札であれ、指名競争入札であれ、随意契約であれ、せり売りであれ、条例で定める種類・金額に該当すれば議会の議決が必要です。
具体的な基準は地方自治法施行令121条の2の2第1項および別表第三が定めており、工事または製造の請負について、都道府県は予定価格5億円以上、指定都市は3億円以上、市は1億5000万円以上、町村は5000万円以上という金額を基準としています。各団体はこの基準に従って条例で具体的な範囲を定めます。
理由づけは、議会による民主的統制です。多額の公金支出を伴う重要な契約について、執行機関の判断だけで確定させるのではなく、住民の代表機関である議会の同意を得させることで、財政運営の適正を担保しようとするものです。この趣旨からすれば、どの方法で相手方を選んだかによって議決の要否が変わる理由はなく、むしろ競争性の乏しい随意契約こそ議会の統制が必要ともいえます。肢の限定が不自然であることは、趣旨から考えても見抜けるはずです。
ひっかけポイントとして、議決を要する契約について議決を経ずに締結した場合の効力の問題があります。この場合の契約は原則として無効と解されており、議会の議決は契約の効力要件と位置づけられます。また、96条1項8号は「政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得又は処分」も議決事項としており、契約の締結(5号)と財産の取得・処分(8号)とで別々の号が用意されている点にも注意しましょう。さらに、234条5項は、契約書または契約内容を記録した電磁的記録を作成する場合には、長またはその委任を受けた者が相手方とともに記名押印または電子署名をしなければ契約は確定しない旨を定めており、議決とは別の確定要件である点も区別して押さえてください。
結論:この肢は「誤り」。口頭による弁明を認めるかどうかを決めるのは行政庁であって、当事者の求めがあれば必ず口頭にしなければならないわけではありません。
行政手続法29条1項は「弁明は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、弁明を記載した書面(以下「弁明書」という。)を提出してするものとする」と定めています。条文の主語に注目してください。口頭ですることを「認め」るのは行政庁であり、当事者に口頭弁明を請求する権利は与えられていません。行政庁が認めれば口頭でできる、という裁量的な仕組みです。肢は「当事者から求めがあったときは……与えなければならない」と義務づけている点で、条文と食い違います。
なお29条2項は、当事者は弁明をするときは証拠書類等を提出することができる旨を定めており、書面主義といっても証拠の提出は可能です。また30条は、弁明書の提出期限までに相当の期間をおいて、予定される不利益処分の内容および根拠となる法令の条項、不利益処分の原因となる事実、弁明書の提出先および提出期限を書面により通知しなければならないと定めています。
他方、聴聞については20条以下が期日における審理の方式を定め、当事者または参加人は、聴聞の期日に出頭して意見を述べ、証拠書類等を提出し、主宰者の許可を得て行政庁の職員に対し質問を発することができるとされています(20条2項)。当事者が出頭に代えて陳述書および証拠書類等を提出することも認められています(21条1項)。つまり、聴聞は口頭審理を原則としつつ書面による対応も可能、弁明は書面を原則としつつ行政庁が認めれば口頭も可能、という非対称な作りになっています。
ひっかけポイントは、「原則と例外」の切替権限が誰にあるかを問う出題パターンです。行政手続法では、当事者の権利として明文で認められているもの(代理人選任、証拠書類等の提出、聴聞における文書閲覧)と、行政庁や主宰者の判断に委ねられているもの(口頭弁明の許否、参加人の参加の許可、聴聞の続行期日の指定)とがはっきり分かれています。条文の語尾が「できる」「認めたとき」なのか「しなければならない」なのかを意識して読む習慣をつけましょう。
結論:この肢は「誤り」。聴聞については、利害関係人が手続に参加する制度が明文で設けられています。
行政手続法17条1項は、主宰者は、必要があると認めるときは、当事者以外の者であって当該不利益処分の根拠となる法令に照らし当該不利益処分につき利害関係を有するものと認められる者(関係人)に対し、当該聴聞に関する手続に参加することを求め、又は当該聴聞に関する手続に参加することを許可することができると定めています。参加を認められた関係人は「参加人」と呼ばれ、17条2項により代理人を選任することができる(同条3項が16条2項から4項までを準用)ほか、20条2項により聴聞の期日に出頭して意見を述べ、証拠書類等を提出し、主宰者の許可を得て行政庁の職員に質問を発することができます。したがって「いずれの場合についても認められていない」という肢の記述は、聴聞について明白に誤りです。
他方、弁明の機会の付与については、31条の準用範囲に17条が含まれていないため、参加人の制度はありません。この点だけを取り出せば肢の記述と合致しますが、肢は「いずれの場合についても」と両手続をまとめて否定しているため、全体として誤りとなります。
理由づけとして、聴聞は口頭審理により事実関係を掘り下げる手続であり、処分の名あて人以外にも影響が及ぶ場面(例えば、施設の設置許可の取消しにおける近隣住民や、資格停止処分における取引先など)が想定されます。そうした者の意見を審理に反映させることで、判断の的確性が高まります。これに対し、弁明の機会の付与は簡易・迅速な手続として設計されているため、第三者を関与させる仕組みは置かれていません。
ひっかけポイントは、参加の主導権が主宰者にあることです。関係人の側に参加を請求する権利が保障されているわけではなく、主宰者が「必要があると認めるとき」に参加を求めまたは許可する、という構造です。また、18条1項の文書閲覧権が認められる参加人は「当該不利益処分がされた場合に自己の利益を害されることとなる参加人」に限られており、参加人であれば当然に閲覧できるわけではない点も、細かいながら狙われやすい部分です。
結論:この肢は「誤り」。文書閲覧が認められるのは聴聞だけであり、しかも「すべての文書」を無条件に閲覧できるわけでもありません。
行政手続法18条1項は「当事者及び当該不利益処分がされた場合に自己の利益を害されることとなる参加人(以下「当事者等」という。)は、聴聞の通知があった時から聴聞が終結する時までの間、行政庁に対し、当該事案についてした調査の結果に係る調書その他の当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができる。この場合において、行政庁は、第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ、その閲覧を拒むことができない」と定めています。
この条文から、肢の誤りは三点あることが分かります。第一に、閲覧が認められるのは聴聞についてであり、31条の準用範囲に18条が含まれていない以上、弁明の機会の付与では文書閲覧を求めることができません。第二に、閲覧の対象は「当該不利益処分の原因となる事実を証する資料」であって、当該事案に関する行政庁の保有文書すべてではありません。行政庁内部の検討経過を記した文書などは、原因事実を証する資料に当たらない限り対象外です。第三に、行政庁は、第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときには閲覧を拒むことができます。たとえば通報者の氏名が記載された資料などがこれに当たりえます。
手続の時的範囲にも注意が必要です。閲覧を求めることができるのは、聴聞の通知があった時から聴聞が終結する時までの間に限られます。処分がされた後に文書を見たい場合は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律や個人情報保護法に基づく開示請求、あるいは行政不服審査法38条の審査請求人等による提出書類等の閲覧・交付請求といった別の制度によることになります。
ひっかけポイントとして、18条2項が、当事者等は聴聞の期日における審理の進行に応じて必要となった資料の閲覧を更に求めることができる旨を定めており、閲覧の機会が一回限りではないことも押さえておきましょう。もっとも、認められているのはあくまで聴聞の枠内であり、弁明の機会の付与に閲覧権が及ばないという基本構造に変わりはありません。「弁明に準用されるのは15条3項・4項と16条だけ」という一点を覚えておけば、この肢は即座に切れます。
結論:この肢は「正しい」。
行政不服審査法64条3項は「再審査請求に係る原裁決(審査請求を却下し、又は棄却したものに限る。)が違法又は不当である場合において、当該審査請求に係る処分が違法又は不当のいずれでもないときは、再審査庁は、裁決で、当該再審査請求を棄却する」と定めています。本肢は、原処分を棄却した原裁決が違法であるものの、原処分自体は違法でも不当でもないという場面を設定しており、まさに64条3項が適用される事案です。したがって再審査庁は裁決で再審査請求を棄却することになり、本肢は条文どおりで正しい記述です。
理由づけを説明します。再審査請求は、原裁決と原処分のいずれをも対象とすることができます(6条2項)。ここで、原裁決の理由づけに誤りがあるなどして原裁決だけを取り上げれば違法といえる場合であっても、大もとの原処分に違法も不当もないのであれば、原裁決を取り消して審理をやり直させても、結局は同じ結論(棄却)にたどり着きます。それでは手続を空転させるだけで、国民の権利利益の救済にも行政の適正な運営の確保にも資しません(1条1項参照)。そこで、実体的な結論に影響しない原裁決の瑕疵については、あえて取消しをせず再審査請求を棄却することにしたのが64条3項です。行政上の不服申立てが結論の妥当性を重視する制度であることの表れといえます。
関連知識として、条文の括弧書が「審査請求を却下し、又は棄却したものに限る」と限定している点に注意してください。原裁決が審査請求を認容したものである場合には、そもそも本項の想定する場面ではありません。また、64条4項は事情裁決を定めており、原裁決等が違法または不当ではあるが、これを取り消し・撤廃することにより公の利益に著しい障害を生ずる場合には、諸事情を考慮したうえで再審査請求を棄却することができ、その場合には裁決の主文で当該原裁決等が違法または不当であることを宣言しなければならないとされています。64条3項の棄却と4項の事情裁決は、いずれも「違法なのに棄却」という点で似ていますが、主文での違法宣言が必要か否かで明確に区別されます。
ひっかけポイントは、「原裁決が違法なら当然に取り消される」と思い込ませる出題です。認容裁決について定める65条1項も「前条第三項に規定する場合及び同条第四項の規定の適用がある場合を除く」と明記しており、64条3項・4項が認容の例外であることが条文構造から読み取れます。
結論:この肢は「誤り」。
行政不服審査法6条2項は「再審査請求は、原裁決……又は当該処分(以下「原裁決等」という。)を対象として、前項の法律に定める行政庁に対してするものとする」と定めています。再審査請求の請求先である再審査庁は、再審査請求ができる旨を定めた個別法が指定する行政庁であって、行政不服審査会ではありません。したがって本肢は誤りです。
理由づけとして、行政不服審査会の性格を正確に押さえましょう。行政不服審査会は総務省に置かれる機関で(67条1項)、審査庁からの諮問を受けて審査請求の審理の適正を第三者の立場からチェックする諮問機関です。43条1項により、審査庁は原則として審理員意見書の提出を受けたときに行政不服審査会等に諮問しなければならず、審査会は調査審議のうえ答申をします。しかし審査会自身が裁決や決定をする権限をもつわけではなく、裁決をするのはあくまで審査庁です。裁決権限をもたない諮問機関に再審査請求を申し立てるという構成は、制度上あり得ません。
実際に再審査請求が法定されている例をみると、労働者災害補償保険法に基づく保険給付に関する処分については、労働者災害補償保険審査官の決定に不服がある者が労働保険審査会に再審査請求をするというように、個別法が第三者機関的な審査会を再審査庁として指定しています。ここでの「審査会」は個別法が設けた再審査庁であって、行政不服審査法上の行政不服審査会とは別物です。用語が似ているために混同を誘う出題がされますので、しっかり区別してください。
ひっかけポイントを整理します。第一に、行政不服審査会は「諮問先」であって「請求先」ではありません。第二に、地方公共団体には、行政不服審査法81条1項により、執行機関の附属機関として行政不服審査会に相当する機関が置かれ(同条2項により、条例で定めるところにより事件ごとに置くこととすることもできます)、諮問先が国と地方で異なります。第三に、審査庁が行政不服審査会等への諮問を要しない場合として、43条1項各号(審議会等の議を経て処分がされた場合、審査請求人が諮問を希望しない旨の申出をしている場合、審査請求が不適法で却下する場合、全部認容する場合など)が定められており、諮問が常に必須ではない点も頻出です。なお、再審査請求については66条1項が第2章の規定を準用する際に第4節(43条)を除外しており、再審査請求では行政不服審査会等への諮問手続は行われません。
結論:この肢は「誤り」。
行政不服審査法6条2項は「再審査請求は、原裁決……又は当該処分(以下「原裁決等」という。)を対象として、前項の法律に定める行政庁に対してするものとする」と定めています。条文が「又は」で並列している以上、再審査請求人は原裁決を対象とすることも、原処分を対象とすることも選択できます。「当該裁決を対象として行わなければならない」と限定する本肢は誤りです。
理由づけとして、この選択制が置かれた意味を考えましょう。再審査請求人が本当に争いたいのは、多くの場合、自分に不利益をもたらした原処分そのものです。ところが原裁決しか争えないとすると、原処分の違法・不当を直接主張できず、原裁決の判断過程の瑕疵だけを問題にせざるを得なくなり、救済の実効性が損なわれます。そこで法は、原裁決と原処分のいずれをも再審査請求の対象とすることを認め、あわせて両者を「原裁決等」という共通の語でくくって、却下・棄却・認容の各規定(64条・65条)を組み立てているのです。
重要な対比として、取消訴訟における原処分主義(行政事件訴訟法10条2項)を思い出してください。処分の取消しの訴えと裁決の取消しの訴えの双方を提起できる場合、裁決取消訴訟においては処分の違法を理由として取消しを求めることができないとされ、原処分の違法は原処分取消訴訟で主張しなければなりません。これに対し再審査請求では、そのような主張制限は置かれておらず、対象自体を選べる建て付けになっています。訴訟の原処分主義と再審査請求の対象選択とを混同しないようにしましょう。
ひっかけポイントは「〜しなければならない」という言い切りです。行政不服審査法6条2項は選択を認める規定ですから、対象を一方に固定する記述はすべて誤りになります。また、本肢は「審査請求の裁決が既になされている場合には」と条件を付けていますが、そもそも再審査請求は審査請求の裁決に不服がある者がするものですから(6条1項)、裁決がされていることは再審査請求の当然の前提であり、この条件付けは実質的な意味をもちません。こうした一見もっともらしい限定表現に惑わされず、条文の「又は」を思い出せるかが勝負どころです。
結論:この肢は「誤り」。
行政不服審査法62条1項は「再審査請求は、原裁決があったことを知った日の翌日から起算して一月を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」と定め、同条2項は「再審査請求は、原裁決があった日の翌日から起算して一年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」と定めています。いずれも基準となるのは原裁決であって、原処分ではありません。本肢は基準を取り違えており、誤りです。
理由づけを述べます。再審査請求は、審査請求の裁決に不服がある者が、その裁決を受けてから起こす不服申立てです(6条1項)。原処分の日を基準にしてしまうと、審査請求の審理に時間がかかった場合、裁決が出た時点で既に再審査請求期間が満了していたという不合理が生じかねません。不服申立ての機会を実質的に保障するため、直前の判断である原裁決を起算点とするのが当然の帰結なのです。なお、再審査請求は原処分を対象として行うこともできますが(6条2項)、その場合でも期間の起算点は原裁決である点に注意してください。対象の選択と期間の起算点は別問題です。
数字の整理をしておきましょう。審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月、処分があった日の翌日から起算して1年(18条1項・2項)。再調査の請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月、処分があった日の翌日から起算して1年(54条1項・2項)。これに対し再審査請求は、原裁決があったことを知った日の翌日から起算して1か月、原裁決があった日の翌日から起算して1年(62条1項・2項)です。主観的期間が再審査請求だけ1か月と短い点が最大のポイントで、ここを3か月と改変する肢が繰り返し出題されます。既に一度は行政庁の判断を経ているため、早期の法的安定を図る趣旨で短縮されていると理解しておくとよいでしょう。
ひっかけポイントとして、いずれの期間もただし書により「正当な理由があるとき」は徒過が救済されること、および期間はすべて「翌日から起算して」で初日不算入であることを押さえてください。さらに、行政事件訴訟法14条の出訴期間(知った日から6か月・処分または裁決の日から1年)との数字の違いも、まとめて対比しておくと安全です。
結論:この肢は「誤り」。
行政事件訴訟法において出訴期間を定めているのは14条ですが、同条は取消訴訟について定める規定であり、38条1項は取消訴訟に関する規定のうち一定のものを他の抗告訴訟に準用するにあたり、14条を準用の対象としていません。したがって不作為の違法確認の訴えには出訴期間の定めはなく、「申請をした日から6箇月を経過したときは提起することができない」とする本肢は誤りです。
理由づけを述べます。不作為の違法確認の訴えとは、行政庁が法令に基づく申請に対し相当の期間内に何らかの処分または裁決をすべきであるにもかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟です(3条5項)。ここで争われているのは、処分がされたという一回的な出来事ではなく、処分がされないという状態が継続していることです。違法状態が現に継続している以上、いつから期間を数えるべきかを特定できませんし、期間を区切って出訴を封じれば、行政庁は放置し続けるほど得をするという不合理な結果になります。継続的違法状態を争う訴訟に出訴期間になじまないというのが、出訴期間が定められていない理由です。
他方、不作為の違法確認の訴えにも訴訟要件はあります。37条は「不作為の違法確認の訴えは、処分又は裁決についての申請をした者に限り、提起することができる」と定めており、原告適格が法令に基づく申請をした者に限定されています。単に処分を期待しているだけの第三者は提起できません。また、3条5項の「相当の期間」が経過していることも要件となり、これを欠けば訴えは却下されます。出訴期間はないが、申請者であることと相当の期間の経過が必要、という整理をしてください。
ひっかけポイントとして、行政不服審査法の不作為についての審査請求にも審査請求期間の定めがない点を押さえましょう。同法18条は「処分についての審査請求」の期間を定めるものであり、不作為についての審査請求には適用されません。不作為を争う手段は、訴訟でも不服申立てでも期間制限がないというのが原則です。ただし、いずれも「相当の期間の経過」が要件となり、経過前の審査請求は不適法として却下されます(同法49条1項)。「期間制限がない=いつでも直ちに提起できる」ではない点に注意してください。
結論:この肢は「誤り」。
行政事件訴訟法38条1項は、取消訴訟に関する規定のうち一部を抗告訴訟一般に準用していますが、出訴期間を定める14条は準用の対象に含まれていません。したがって義務付けの訴えについて出訴期間の定めはなく、本肢は誤りです。そもそも「処分または裁決がされるべきことを知った日」という起算点は行政事件訴訟法のどこにも登場しない造語であり、この点からも誤りと判断できます。
理由づけを説明します。義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべきであるにもかかわらずこれがされない場合に、その処分をすべき旨を命ずることを求める訴訟です(3条6項)。争いの対象は処分がされていないという継続的な状態ですから、不作為の違法確認の訴えと同様、出訴期間になじみません。
もっとも、義務付けの訴えには独自の訴訟要件が課されています。非申請型(直接型)義務付け訴訟については、37条の2第1項が、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつその損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り提起できるとし、同条3項が法律上の利益を有する者に原告適格を限定しています。申請型義務付け訴訟については、37条の3第1項が、申請に対して相当の期間内に何らの処分もされないこと(1号)、または申請を却下・棄却する処分がされ、それが取り消されるべきものであり、もしくは無効・不存在であること(2号)を要件とし、同条3項により、1号の場合は不作為の違法確認の訴え、2号の場合は取消訴訟または無効等確認の訴えを併合して提起しなければならないとしています。
ここが重要なひっかけポイントです。申請型義務付け訴訟のうち37条の3第1項2号の類型では、併合提起が義務づけられる取消訴訟について14条の出訴期間が適用されます。したがって、拒否処分があったことを知った日から6か月を経過してしまえば、併合すべき取消訴訟が不適法となり、結果として義務付けの訴えも不適法になります。義務付けの訴えそのものに出訴期間の定めはないが、併合提起される取消訴訟を通じて事実上期間の制約を受ける場合がある、という二段構えの理解をしておくと、応用問題にも対応できます。
結論:この肢は「誤り」。
差止めの訴えについて、行政事件訴訟法は出訴期間を定めていません。出訴期間を定める14条は取消訴訟に関する規定であり、38条1項による抗告訴訟への準用の対象にも含まれていないからです。したがって「知った日から6箇月を経過したときは提起することができない」とする本肢は誤りです。
理由づけを述べます。差止めの訴えとは、行政庁が一定の処分または裁決をすべきでないにもかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分または裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟です(3条7項)。ここで争われるのは、これから行われようとしている処分であり、いまだ処分は存在していません。処分が存在しない以上、処分を基準とする出訴期間を観念することはできません。むしろ差止訴訟の場面では、処分がされてしまう前に訴えを提起しなければ意味がないため、時間的制約は事実上、事前救済としての必要性の側から働きます。
差止めの訴えの訴訟要件は37条の4に定められています。第1項は、一定の処分または裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り提起できるとし、ただし書でその損害を避けるため他に適当な方法があるときは提起できないとしています(補充性)。第2項は、重大な損害を生ずるおそれの判断において、損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質および程度ならびに処分または裁決の内容および性質をも勘案するものとしています。第3項は、法律上の利益を有する者に原告適格を限定しています。さらに、処分がされる蓋然性が必要であること(3条7項の「されようとしている」)も訴訟要件として重要です。
関連判例として、最判平成24年2月9日(国歌斉唱義務不存在確認等請求事件・いわゆる予防訴訟)は、公立学校の教職員に対する懲戒処分の差止めが求められた事案で、免職以外の懲戒処分(停職・減給・戒告)については処分がされる蓋然性を認めたうえ、反復継続的かつ累積加重的にされる処分による損害は事後的な取消訴訟等では容易に救済されないとして重大な損害の要件を肯定し、差止めの訴えを適法としました(免職処分の差止めを求める訴えは、処分がされる蓋然性を欠き不適法)。もっとも本案については、職務命令は違憲・違法とはいえないなどとして差止請求自体は棄却されています。差止訴訟の訴訟要件の充足を最高裁が初めて具体的に判断した重要判例です。
ひっかけポイントは、抗告訴訟のうち出訴期間の定めがあるのは取消訴訟だけだという原則です。無効等確認の訴え、不作為の違法確認の訴え、義務付けの訴え、差止めの訴えには出訴期間がありません。無効等確認の訴えに出訴期間がないのは、無効な処分は当初から効力を生じず、期間の経過によって有効になることがないからです。この整理を押さえれば、選択肢3・4・5をまとめて切ることができます。
結論:この肢は「誤り」。
根拠となるのは行政事件訴訟法37条の3第3項2号です。申請型義務付け訴訟のうち、申請に対して拒否処分または申請を排斥する裁決がされた場合の類型(同条1項2号、いわゆる拒否処分型)については、「当該処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え」を併合して提起しなければならない、と定められています。条文が「取消訴訟又は無効等確認の訴え」と明示して選択肢を用意している以上、無効確認訴訟と併合提起することも当然に認められます。したがって、無効確認訴訟との併合提起を否定する本肢は条文に真正面から反し、誤りです。
理由づけとしては、拒否処分がすでに存在する状態で義務付け判決を得ても、その拒否処分が有効なまま残っていては行政庁は二重の判断を強いられ、法律関係が矛盾してしまいます。そこで法は、拒否処分の効力を排除する訴訟(取消訴訟または無効等確認訴訟)を必ずセットで提起させ、両者を同一手続で審理・判決させることにしました(37条の3第4項は弁論・裁判の分離禁止を定めています)。ここで、取消訴訟には出訴期間の制限(14条)があるため、出訴期間を徒過してしまった申請者は取消訴訟を使えません。しかし拒否処分に無効事由(重大かつ明白な瑕疵)がある場合まで救済の道を閉ざすのは不当ですから、無効等確認訴訟との併合提起という受け皿が用意されているのです。この趣旨を押さえておけば、本肢の誤りは条文を暗記していなくても判断できます。
ひっかけポイントとして、申請型義務付け訴訟のもう一つの類型である不作為型(37条の3第1項1号。申請に対して相当の期間内に何らの処分もされない場合)では、併合提起すべき相手方は「不作為の違法確認の訴え」です(同条3項1号)。拒否処分型と不作為型で併合すべき訴訟が異なる点は頻出です。また、この併合提起は訴訟要件ですから、これを欠く義務付け訴訟は不適法として却下されます。さらに、非申請型義務付け訴訟(37条の2)にはそもそも併合提起の要求はなく、代わりに「重大な損害を生ずるおそれ」と「補充性」という厳格な要件が課される、という対比も整理しておきましょう。
結論:この肢は「誤り」。
根拠は行政事件訴訟法37条の5第1項です。同項は「義務付けの訴えの提起があった場合において、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもって、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることができる」と規定しています。冒頭の「義務付けの訴えの提起があった場合において」という文言が示すとおり、仮の義務付けは本案である義務付け訴訟が係属していることを前提とする付随的な仮の救済制度であり、これを単独で申し立てることはできません。「償うことのできない損害」「緊急の必要」という要件だけを取り出して単独申立てを認める本肢は誤りです。
理由づけとしては、仮の義務付けが民事保全法上の仮処分に対応する行政訴訟固有の仮の救済であることを押さえてください。仮の救済はあくまで本案判決までの暫定的な地位を定めるものですから、本案訴訟の存在が論理的前提になります。執行停止(25条2項)が取消訴訟の提起を前提とするのと同じ構造です。実際、仮の義務付けは、生活保護の申請却下に対する仮の義務付け、保育所入所の仮の義務付けなど、判決を待っていては回復不能な事態が生じる場面で活用されてきましたが、いずれも本案の義務付け訴訟とともに申し立てられています。
ひっかけポイントは要件の水準です。執行停止の要件が「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」(25条2項)であるのに対し、仮の義務付け・仮の差止めは「償うことのできない損害」を要求しており、より厳格です。行政庁がまだしていない処分を裁判所が仮に命じるという強い介入だからです。さらに「本案について理由があるとみえるとき」という積極的な疎明が必要である点、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは認められない点(37条の5第3項)、内閣総理大臣の異議の規定が準用される点(同条4項)も併せて整理しておきましょう。
結論:この肢は「誤り」。
「重大な損害を生ずるおそれ」という要件は、非申請型義務付け訴訟(直接型義務付け訴訟)についてのみ定められたものです。行政事件訴訟法37条の2第1項は、法令に基づく申請権のない者が提起する義務付け訴訟について、「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」に限り提起できると定めています。これに対し、申請型義務付け訴訟の要件を定める37条の3第1項には、このような損害要件は置かれていません。したがって、申請型・非申請型のいずれも重大な損害要件を要するとする本肢は誤りです。
理由づけは両類型の構造の違いにあります。申請型は、法令に基づく申請権を有する者が、申請したのに応答がない(不作為型)、または拒否された(拒否処分型)という場合に用いるものです。この場合、申請者にはそもそも適法な応答を受ける法律上の地位があり、しかも不作為の違法確認訴訟や取消訴訟という別訴を併合提起しなければならない(37条の3第3項)という縛りがかかりますから、濫訴の危険は小さく、あえて重大な損害という関門を設ける必要がありません。一方、非申請型は、規制権限の発動を求める周辺住民のように、申請権を持たない第三者が行政庁の第一次判断を飛び越して発動を求める場面ですから、原告適格(37条の2第3項・4項、9条2項準用)に加えて、重大な損害と補充性という絞りがかけられているのです。
ひっかけポイントは、まず本肢前段の「行政庁の判断を待たず」という理由づけ自体が不正確であること。申請型では行政庁の不作為または拒否処分という第一次判断の機会を経ていますし、非申請型でも裁判所は行政庁の裁量を審査したうえで、裁量権の逸脱濫用が認められる場合などに義務付けを命じます(37条の2第5項、37条の3第5項)。次に、「重大な損害」の判断にあたっては損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質・程度、処分の内容・性質をも勘案する(37条の2第2項)という条文も要チェックです。この「重大な損害」は差止め訴訟(37条の4)にも共通する要件であり、非申請型義務付け訴訟と差止め訴訟をセットで覚えると効率的です。
結論:この肢は「正しい」。
国家行政組織法11条は、「各省大臣は、主任の行政事務について、法律又は政令の制定、改正又は廃止を必要と認めるときは、案をそなえて、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めなければならない」と規定しています。この肢は、この条文をほぼそのまま述べたものであり、正しい記述です。
条文のポイントを分解しておきましょう。第一に、主体は「各省大臣」です。第二に、対象は「主任の行政事務について」、すなわち自らが分担管理する行政事務についてです。第三に、対象となる法形式は「法律又は政令」であり、省令は含まれません。省令は各省大臣が自ら発することができる(同法12条1項)ため、閣議を求める必要がないからです。第四に、手続は「案をそなえて、内閣総理大臣に提出して、閣議を求める」ことであり、そして第五に、これは「求めることができる」という裁量的な規定ではなく、「求めなければならない」という義務規定として書かれています。
理由づけは、内閣の一体性と合議制にあります。日本国憲法66条3項は、内閣が行政権の行使について国会に対し連帯して責任を負うと定め、内閣法4条1項は「内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする」と定めています。法律案の国会提出や政令の制定は内閣としての意思決定である以上、一人の大臣が単独で決めることはできず、必ず閣議という合議の場に載せなければなりません。そのために、担当大臣が案を作成して内閣総理大臣に提出し、閣議を求めるという手順が法定されているわけです。閣議の主宰者は内閣総理大臣であり(内閣法4条2項)、案件の提出先が内閣総理大臣とされているのもこのためです。
関連知識として、内閣法4条3項が「各大臣は、案件の如何を問わず、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めることができる」と定めている点を押さえてください。こちらは、自分の主任の事務に限らずどんな案件についても閣議を求めることができるという、大臣一般の権能を定めた「できる」規定です。国家行政組織法11条の「しなければならない」規定と、内閣法4条3項の「できる」規定は、対象範囲も語尾も異なりますので、両方を並べて整理しておくと、本試験でどちらを問われても迷いません。なお、閣議の議決方法について法律に明文はありませんが、慣行として全員一致によることが定着している点も、あわせて覚えておくとよいでしょう。
結論:この肢は「誤り」。
国家行政組織法12条1項は、「各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、それぞれその機関の命令として省令を発することができる」と規定しています。この肢は、最後の「省令」を「規則その他の特別の命令」に差し替えたものです。各省大臣が発する命令の形式は省令であって、規則ではありませんから、記述は誤りです。
「規則その他の特別の命令」を発するのは誰かというと、同法13条1項が「各委員会及び各庁の長官は、別に法律の定めるところにより、政令及び省令以外の規則その他の特別の命令を自ら発することができる」と定めています。すなわち、公正取引委員会規則、国家公安委員会規則、人事院規則(人事院については国家公務員法に基づく)といった委員会規則や、庁の長官が発する命令がこれに当たります。省大臣は省令、委員会・庁の長官は規則、という主体と形式の対応関係が本問の急所です。
条文の他の部分は正確に写されています。「法律若しくは政令を施行するため」に発する省令が執行命令、「法律若しくは政令の特別の委任に基づいて」発する省令が委任命令に当たります。日本国憲法41条が国会を唯一の立法機関としている以上、行政機関が国民の権利義務に関わる規範を定めるには法律の委任が必要であり、この二類型に限定されているわけです。なお、同法12条3項は「省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない」と定めており、委任の必要性を明文で確認しています。
ひっかけポイントとして、命令の種類を階層で整理しておきましょう。内閣が制定するのが政令(憲法73条6号、内閣法11条)、内閣総理大臣が内閣府の長として発するのが内閣府令(内閣府法7条3項)、各省大臣が発するのが省令(国家行政組織法12条1項)、委員会および庁の長官が発するのが規則その他の特別の命令(同法13条1項)です。さらに、内閣法11条も「政令には、法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない」と定めており、12条3項と同趣旨です。名称の入替えは行政組織法分野で最頻出のひっかけですから、条文の主語と目的語をセットで暗記するのが最短ルートです。
結論:この肢は「誤り」。執行停止の決定は口頭弁論を経ないですることができ、口頭弁論が必須ではありません。
根拠条文は行政事件訴訟法25条5項・6項です。5項は「第2項の決定は、疎明に基づいてする」と定めており、この点は肢の前半のとおりで正しい記述です。しかし6項は「第2項の決定は、口頭弁論を経ないですることができる。ただし、あらかじめ、当事者の意見をきかなければならない」と定めています。したがって、口頭弁論を経て行わなければならないとする後半が誤りです。
理由づけ。執行停止は、本案判決を待っていては回復できない損害が生じてしまう場合に、暫定的に処分の効力等を止める仮の救済制度です。迅速性が生命であるため、証明ではなく疎明(一応確からしいと裁判官に思わせる程度の立証)で足りるとされ、審理方式も必要的口頭弁論の原則(民事訴訟法87条1項)を外して、書面審理や審尋によることが認められています。他方で、執行停止は行政庁の判断を一時的に覆す効果を持ち、行政の相手方や公益に与える影響が小さくないため、あらかじめ当事者の意見を聴くことが必要的とされているのです。実務上は審尋期日を開いて当事者の意見を聴取する扱いが一般的です。
ひっかけポイント。「疎明で足りる」「口頭弁論は不要」「ただし当事者の意見聴取は必要」という3点セットで押さえてください。また、執行停止の申立てに対する決定に対しては即時抗告ができますが(25条7項)、その即時抗告には決定の執行を停止する効力はありません(同条8項)。さらに、執行停止の決定が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更したときは、裁判所は相手方の申立てにより決定をもって執行停止の決定を取り消すことができます(26条1項)。仮の義務付け・仮の差止めについても、25条5項から8項までの規定が準用されています(37条の5第4項)。
結論:この肢は「誤り」。執行停止は申立てによってのみ行われ、裁判所が職権ですることはできません。
根拠条文は行政事件訴訟法25条2項です。同項は、処分の取消しの訴えの提起があった場合において、処分、処分の執行または手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は「申立てにより」、決定をもって、処分の効力、処分の執行または手続の続行の全部または一部の停止をすることができると定めています。条文が明示的に申立てを要件としている以上、職権による執行停止は認められません。
理由づけ。執行停止は、原告の権利利益を暫定的に保全するための制度であり、その必要性や緊急性を最もよく知るのは当事者本人です。仮の救済を求めるかどうかは当事者の処分権に委ねるのが相当であり、民事保全における保全命令が申立てによってのみ発せられるのと同じ発想です。したがって、裁判所が原告の意思と無関係に処分の効力を止めることは予定されていません。
ひっかけポイント。行政事件訴訟法には、職権証拠調べ(24条)や、被告を誤った訴えにおける被告の変更の許可(15条)など、裁判所の後見的な関与を認める規定があるため、執行停止も職権でできると誤解しやすいところです。しかし、職権証拠調べはあくまで証拠の取調べに関するものであり、しかも証拠調べの結果については当事者の意見を聴かなければなりません。仮の救済の発動そのものは、必ず当事者の申立てが必要です。同様に、仮の義務付け・仮の差止めも「申立てにより」とされています(37条の5第1項・2項)。また、執行停止の申立ては本案の訴えが係属していることを前提とし、本案が取り下げられれば執行停止の決定も効力を失う点も押さえておきましょう。
結論:この肢は「誤り」。要件は「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」であり、「償うことができない損害」ではありません。
根拠条文は行政事件訴訟法25条2項です。同項は、処分、処分の執行または手続の続行により生ずる「重大な損害」を避けるため緊急の必要があるときに執行停止をすることができると定めています。「償うことのできない損害」という文言は、平成16年改正前の旧規定で用いられていたもので、現行法では要件が緩和されています。旧法下では金銭賠償によって回復し得る損害は原則として執行停止の要件を満たさないと厳格に解される傾向があり、仮の救済が機能不全に陥っているとの批判が強かったため、改正により「重大な損害」に改められました。
理由づけと関連条文。25条3項は、裁判所は重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質および程度ならびに処分の内容および性質をも勘案するものとすると定めています。これは、金銭賠償の可能性だけで機械的に切り捨てるのではなく、処分の性質等も含めて総合判断すべきことを明らかにした規定です。
ひっかけポイント。現行法で「償うことのできない損害」を要件とするのは、仮の義務付けおよび仮の差止めです(37条の5第1項・2項)。これらは、本案判決前に行政庁に処分を義務付けたり差し止めたりするもので、執行停止よりも強力な効果を持つため、要件が加重されています。さらに、仮の義務付け・仮の差止めでは「本案について理由があるとみえるとき」という積極要件も課されており、執行停止の消極要件(本案について理由がないとみえるときはできない、25条4項)との違いが頻出です。「重大な損害」と「償うことのできない損害」、どちらの制度の要件かを正確に区別してください。
結論:この肢は「誤り」。本案の勝訴見込みは、執行停止の積極的要件ではなく消極的要件として定められています。
根拠条文は行政事件訴訟法25条4項です。同項は「執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない」と定めています。すなわち、本案について理由が「ないとみえる」ことが積極的に認められる場合に執行停止が封じられるという構造であり、申立人の側が本案で勝訴しそうであることを積極的に示さなければならないわけではありません。この肢は積極要件と消極要件を入れ替えたひっかけです。
理由づけ。執行停止は本案審理の前段階における暫定的な措置であり、この段階で本案の勝敗を実質的に審理させるのは制度趣旨に反します。そこで、明らかに勝ち目のない請求について仮の救済を与えるのは不合理であるという限度で、本案の理由を消極要件として位置づけたのです。要件を整理すると、積極要件は①本案訴訟の係属、②処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があること、消極要件は③公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと、④本案について理由がないとみえないこと、となります。積極要件は申立人が疎明し、消極要件は行政庁側が主張・疎明するのが基本的な役割分担です。
ひっかけポイント。仮の義務付け・仮の差止めでは、「本案について理由があるとみえるとき」が明文の積極要件とされています(37条の5第1項・2項)。執行停止は現状を維持する消極的な措置であるのに対し、仮の義務付け等は本案判決前に行政庁を積極的に動かす措置であるため、要件が厳しくなっているのです。また、執行停止の決定に対しては内閣総理大臣の異議の制度があり、異議があったときは裁判所は執行停止をすることができず、すでにした執行停止は取り消さなければなりません(27条4項)。
結論:この肢は「正しい」。
根拠は行政事件訴訟法11条6項です。同項は「処分又は裁決をした行政庁は、当該処分又は裁決に係る第一項の規定による国又は公共団体を被告とする訴訟について、裁判上の一切の行為をする権限を有する」と定めています。本肢はこれと同旨であり、正しい記述です。
理由づけを整理します。平成16年改正で被告が行政庁から国・公共団体に切り替わった結果、形式的には、国を代表するのは法務大臣(国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律1条)、地方公共団体を代表するのは長(地方自治法147条)ということになります。しかし、処分の経緯や理由、根拠法令の運用実態を最もよく知っているのは、実際に処分をした行政庁です。訴訟追行を代表者側に一元化してしまうと、かえって審理が非効率になります。そこで法は、被告適格こそ行政主体に移したものの、実際の訴訟追行権限は処分庁に残すという設計をとりました。これが11条6項の趣旨です。「裁判上の一切の行為」ですから、答弁書の提出、主張・立証、和解、上訴の提起なども含まれます。
関連知識として、被告となった国・公共団体は、訴訟提起後、遅滞なく裁判所に対して処分庁・裁決庁を明らかにしなければならず(11条5項)、原告も訴状に処分庁・裁決庁を記載するものとされています(11条4項)。これは、訴訟追行を担う行政庁を早期に特定するための仕組みです。
ひっかけポイントは、この権限が及ぶ範囲です。11条6項は「第一項の規定による国又は公共団体を被告とする訴訟について」と書かれており、11条2項によって行政庁自身が被告となる場合は、そもそも当該行政庁が当事者そのものですから、6項の出番はありません。また、11条6項は取消訴訟の規定ですが、38条1項により無効等確認訴訟・不作為の違法確認訴訟・義務付け訴訟・差止訴訟にも準用されます。抗告訴訟一般に妥当する仕組みだと理解しておいてください。
結論:この肢は「誤り」。本問は「誤っているもの」を選ぶ問題ですから、これが正解肢です。
根拠は行政事件訴訟法11条1項2号です。同号は、裁決の取消しの訴えについて、被告は「当該裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体」であると定めています。つまり、裁決庁が国または公共団体に所属している場合には、被告となるのは裁決庁そのものではなく、その所属する行政主体です。本肢は「国または公共団体に所属する場合であっても、当該裁決の取消訴訟において被告となる」としており、11条1項2号と正面から矛盾します。
理由づけとしては、肢1で見たとおり、平成16年改正が処分庁主義から行政主体主義へ転換したことが決定的です。この転換は、処分の取消訴訟だけでなく裁決の取消訴訟にも等しく及びます。11条1項は1号で処分の取消しの訴え、2号で裁決の取消しの訴えを並べて規定しており、両者を区別していません。したがって、たとえば国土交通大臣がした裁決を争う場合の被告は国、都道府県知事がした裁決を争う場合の被告は当該都道府県となります。行政不服審査法上の審査庁が行政委員会や審議会型の機関であっても、それが国・公共団体に所属する限り結論は同じです。
ひっかけポイントは、「裁決だけは特別扱いされるのではないか」という思い込みです。裁決は審査請求に対する判断であり、処分とは性質が違うように見えるため、裁決庁自身が被告になると錯覚しやすいのですが、被告適格のルールに処分・裁決の区別はありません。裁決について特別扱いされているのは、被告適格ではなく、①原処分主義(10条2項。裁決取消訴訟では原処分の違法を主張できない)と、②処分の取消しの訴えを裁決の取消しの訴えに併合して提起する場合の特例(20条。被告の同意が不要とされ、出訴期間の遵守は裁決取消訴訟の提起時を基準に扱われる)の場面です。この二つを被告適格の話と混線させないでください。
なお、裁決庁が国・公共団体に所属しない場合には、肢1で見た11条2項が適用され、裁決庁自身が被告となります。本肢が誤りとされるのは、あくまで「所属する場合であっても」と言い切っている点にあります。
結論:この肢は「正しい」。
根拠は行政事件訴訟法37条の2第5項および37条の3第5項です。非申請型(直接型)義務付け訴訟について、37条の2第5項は、訴訟要件を満たし、かつ「その義務付けの訴えに係る処分につき、行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき」は、裁判所は「その処分をすべき旨を命ずる判決をする」と定めています。申請型義務付け訴訟についても37条の3第5項が同旨を定めています。本肢は、訴えに理由があると認められるときに、当該処分の権限を有する行政庁に対して処分を命ずる判決がされる、という趣旨を述べたものであり、正しい記述です。
理由づけとして重要なのは、義務付け判決が「行政庁に対する作為命令」であるという点です。取消訴訟の認容判決は、処分の効力を遡って失わせる形成判決ですが、義務付け判決は、行政庁に一定の処分をすべき義務を宣言し命ずる給付判決的な性格をもちます。平成16年改正で法定される以前は、司法権が行政権に対して積極的な作為を命じることは権力分立に反しないかが激しく争われ、いわゆる無名抗告訴訟として厳格な要件(一義的明白性など)のもとでしか認められないとされていました。改正法は、この論点に立法的な決着をつけ、本案勝訴要件として「法令の規定から明らか」または「裁量権の逸脱・濫用」という基準を明文化したのです。
ひっかけポイントは、判決の名宛人と被告の関係です。被告となるのは原則として国または公共団体(38条1項による11条の準用)ですが、判決主文で処分を命じられるのは処分権限を有する行政庁です。「被告=行政主体」「命令の名宛人=行政庁」というねじれを整理しておきましょう。
もう一点、37条の3第5項の申請型では、併合提起した取消訴訟等に理由があること(同項)も要件となります。非申請型の「重大な損害」「補充性」(37条の2第1項)と混同しないよう、二つの類型の要件を対比して覚えてください。
結論:この肢は「正しい」。
根拠は行政事件訴訟法45条1項および同項が準用する23条1項です。45条1項は「私法上の法律関係に関する訴訟において、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無が争われている場合には、第二十三条第一項及び第二項並びに第三十九条の規定を準用する」と定め、23条1項は「裁判所は、処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させることが必要であると認めるときは、当事者若しくはその行政庁の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その行政庁を訴訟に参加させることができる」と規定しています。本肢はこの準用関係を述べたもので、正しい記述です。
ここで問題になっているのは、いわゆる「争点訴訟」です。争点訴訟とは、訴訟の形式そのものは民事訴訟(私法上の法律関係に関する訴訟)でありながら、その前提問題として行政処分の存否や効力の有無が争点になっている訴訟をいいます。典型例は、土地収用の裁決が無効であることを前提に、起業者に対して所有権に基づく土地の明渡しや登記の抹消を求める訴えです。この場合、公定力の議論との関係で、処分が無効であれば取消訴訟を経ずに民事訴訟の中で無効を主張できるとされます。
理由づけとして、争点訴訟は当事者が私人同士であっても、判断の前提に行政処分の適法性が横たわっています。処分の内容や運用実態を知る行政庁を審理に関与させたほうが、事実解明にとって有益です。そこで法は、抗告訴訟の行政庁参加の仕組みを争点訴訟にも及ぼしました。あわせて、行政庁に訴訟の係属を通知する制度(39条)も準用されます。
ひっかけポイントは二つあります。第一に、争点訴訟は「抗告訴訟」でも「当事者訴訟」でもなく、あくまで民事訴訟である点。行政事件訴訟法上の訴訟類型を問う問題では、45条は類型の外にある特則だと理解してください。第二に、参加させられるのは「処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁」であり、しかも参加の手続は「決定」によります。職権でもできる点が民事訴訟法の補助参加と異なる特徴です。
結論:この肢は「正しい」。本問は「正しいもの」を選ぶ問題ですから、これが正解肢です。
根拠は行政事件訴訟法23条1項です。同項は「裁判所は、処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させることが必要であると認めるときは、当事者若しくはその行政庁の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その行政庁を訴訟に参加させることができる」と定めています。条文が「又は職権で」と明記しているとおり、当事者や当該行政庁の申立てがなくても、裁判所の判断だけで参加させることができます。本肢はこれと合致します。
理由づけとして、行政事件訴訟は、私人間の紛争解決にとどまらず、行政の適法性のコントロールという公益的な側面をもっています。処分庁以外の行政庁が、協議・同意・意見聴取・上級庁としての指揮などの形で処分の形成に関与していることは珍しくありません。そうした行政庁を審理に引き込み、資料と説明を得ることが適正な判断につながります。だからこそ、当事者の意思に委ねきらず、裁判所の職権発動を認めているのです。同じ発想は、職権証拠調べ(24条)にも現れています。
なお、参加させる旨の決定をするには、あらかじめ当事者および当該行政庁の意見をきかなければなりません(23条2項)。参加した行政庁には、民事訴訟法45条1項・2項(補助参加人の訴訟行為)の規定が準用されます(23条3項)。
ひっかけポイントは、22条の第三者の訴訟参加との違いです。第三者参加(22条1項)も職権でできますが、こちらは「訴訟の結果により権利を害される第三者」が対象で、参加人には民事訴訟法40条1項から3項(必要的共同訴訟人)の規定が準用され(22条4項)、行政庁参加より強い地位が与えられます。そして、第三者参加には、判決の第三者効(32条1項)と、参加できなかった第三者の再審の訴え(34条)が結びついています。「行政庁参加=補助参加類似、第三者参加=共同訴訟的参加類似」という対比で押さえてください。
23条は38条1項により他の抗告訴訟にも、41条1項により当事者訴訟にも準用され、さらに45条1項により争点訴訟にも準用されます(争点訴訟に準用されるのは23条1項・2項です)。
結論:この肢は「誤り」。
根拠は行政事件訴訟法24条です。同条本文は「裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、証拠調べをすることができる」と定めるだけで、証拠調べの対象を訴訟要件に関する事項に限定していません。ただし書は「その証拠調べの結果について、当事者の意見をきかなければならない」と定めるにとどまります。したがって、本案(処分の適法性)に関する事実についても職権証拠調べは可能であり、対象を訴訟要件に限るとする本肢は誤りです。
理由づけを説明します。取消訴訟には民事訴訟法が原則として準用されますから(7条)、弁論主義が基本です。しかし、行政処分の適法性の判断は公益に直結し、原告と行政主体との間には資料や情報の量に大きな格差があります。当事者が提出した資料だけでは事案の解明が不十分になりかねないため、法は弁論主義を補充するものとして職権証拠調べを認めました。あくまで「補充」ですから、裁判所は当事者が主張していない事実そのものを勝手に判決の基礎にできるわけではありません。
ここが最大のひっかけポイントです。行政事件訴訟法24条が認めるのは「職権証拠調べ」であって「職権探知」ではありません。職権探知主義とは、当事者が主張しない事実まで裁判所が自ら収集して裁判の基礎にできる建前で、人事訴訟法20条などに例があります。行政事件訴訟法はここまで踏み込んでおらず、主張については弁論主義が維持されると解されています。本試験では「職権探知主義が採用されている」という肢が繰り返し出題され、いずれも誤りとされてきました。
もう一点、24条ただし書の「当事者の意見をきかなければならない」は義務規定です。不意打ちを防ぐための手続保障であり、「意見をきくことができる」といった任意的な書き換えも典型的な誤り肢です。なお24条は38条1項・41条1項・45条4項により、他の抗告訴訟や当事者訴訟、争点訴訟にも準用されます。
結論:この肢は「誤り」。
本肢の事案は、申請に対して拒否処分がされた者が処分の義務付けを求める場面ですから、行政事件訴訟法37条の3が定める「申請型義務付け訴訟」に当たります(同条1項2号)。そして37条の3第3項2号は、申請型義務付け訴訟は「当該処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認訴訟」を併合して提起しなければならないと定めています。すなわち、拒否処分を受けた者は、拒否処分の取消訴訟(または無効等確認訴訟)と義務付け訴訟をセットで提起する必要があり、義務付け訴訟だけを単独で提起することはできません。本肢は誤りです。
理由づけです。拒否処分がすでに存在している以上、その処分を取り消すか無効と確認しない限り、行政庁が申請を拒んだという法的状態は残り続けます。義務付け判決だけを出しても、拒否処分と義務付け判決が併存する矛盾が生じます。そこで法は、拒否処分の効力を除去する訴訟と、積極的な処分を命じる訴訟を必ず併合させ、その弁論および裁判は分離しないでしなければならないものとしました(37条の3第4項)。申請に対して何の応答もない不作為型の場合には、取り消すべき処分がないため、不作為の違法確認訴訟を併合提起することになります(同条3項1号)。
最大のひっかけポイントは、本肢が持ち出す「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」という文言です。これは義務付け訴訟の本体要件ではなく、執行停止(25条2項)の要件の文言です。似た表現として、仮の義務付け(37条の5第1項)は「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」を、非申請型義務付け訴訟は「重大な損害を生ずるおそれ」(37条の2第1項)を要件としており、いずれとも異なります。緊急性があれば単独提起が許される、という規定はどこにもありません。急ぐのであれば、併合提起したうえで仮の義務付けを申し立てるのが正しい手順です。
整理すると、非申請型(37条の2)は①重大な損害を生ずるおそれ、②他に適当な方法がないこと(補充性)、③法律上の利益を有する者であることが訴訟要件。申請型(37条の3)は①法令に基づく申請をした者であること、②不作為または拒否処分等の存在、③関連訴訟の併合提起が訴訟要件です。この対比を確実にしておきましょう。
結論:この肢の組合せは「誤り」。アとイが判決の文言と合いません。
本問の素材は、国家賠償法2条1項の解釈について先例的な地位を占める最判昭和45年8月20日(高知落石事件)です。判決は、国道上の山側斜面から落石があり通行中の者が死亡した事故につき、道路管理者である県の責任を認めました。
空欄アについて。判決は「営造物の設置または管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」と述べています。したがってアには「通常有すべき安全性」が入り、「過渡的な安全性」は誤りです。「過渡的な安全性」という語は、河川管理の瑕疵が争われた最判昭和59年1月26日(大東水害訴訟)で用いられた表現です。同判決は、未改修河川または改修途上の河川については、諸制約のもとで一般に施行されてきた治水事業の過程における改修の段階に対応する「過渡的な安全性」をもって足りるとしました。道路のような人工公物と、もともと危険を内包する自然公物である河川とでは瑕疵の判断基準が異なる、というのが判例の枠組みであり、本問の道路事故に「過渡的な安全性」を当てはめるのは誤りです。
空欄イについて。判決は、賠償責任について「その過失の存在を必要としない」と明言しています。すなわち国家賠償法2条1項の責任は無過失責任です。「重過失」ではありません。同法1条1項の責任が公務員の故意・過失を要件とする過失責任であるのと対照的で、この違いは条文レベルで確認できます。
空欄ウの「予算措置」、空欄エの「回避可能性」はいずれも判決の文言と一致しており、この二つは正しい語句です。
ひっかけポイントは、「無過失責任なのに重過失を要求する」という組合せの不自然さに気づけるかどうかです。国家賠償法2条1項の条文には過失の文字がまったく登場しません。条文の文言から責任の性質を確認する習慣をつけておけば、イは即座に切れます。
結論:この肢は「誤り」。
議会の招集権者は原則として長です(地方自治法101条1項)。議長については、同条2項が「議長は、議会運営委員会の議決を経て、当該普通地方公共団体の長に対し、会議に付議すべき事件を示して臨時会の招集を請求することができる」と定めています。すなわち議長にできるのは、議会運営委員会の議決を経たうえで長に招集を「請求」することであって、いきなり自ら臨時会を招集することではありません。本肢は「議長も、議会運営委員会の議決を経て、自ら臨時会を招集することができる」としており、この点で誤りです。
もっとも、議長がまったく招集できないわけではありません。101条5項は、2項の請求があった日から20日以内に長が臨時会を招集しないときは、1項の規定にかかわらず、議長が臨時会を招集することができると定めています。つまり議長の招集権は、長への請求を前置し、かつ長が20日以内に応じないという条件が満たされた場合に初めて発動する補充的なものです。本肢はこの前提条件を丸ごと落としているわけです。
理由づけとして、地方自治法は長と議会が相互に牽制し合う二元代表制を採用しています。招集権を長に集中させると、長にとって不都合な議案の審議を封じることができてしまうため、平成18年改正で議長の招集請求権が、平成24年改正で議長・請求議員による招集権が順次整備されました。本肢はその立法の経緯を踏まえた出題です。
ひっかけポイントは「議会運営委員会の議決」という文言です。この要件が付いているのは101条2項の議長の請求だけであり、3項の議員による請求(議員の定数の4分の1以上)には不要です。要件の付け替えは頻出の作問パターンなので、条文の主語と要件をセットで記憶してください。なお、招集の告示は、都道府県および市は開会の日の7日前、町村は3日前までにしなければなりません(101条7項本文。緊急を要する場合は例外)。
結論:この肢は「誤り」。
前段は正しい記述です。地方自治法101条3項は「議員の定数の四分の一以上の者は、当該普通地方公共団体の長に対し、会議に付議すべき事件を示して臨時会の招集を請求することができる」と定めています。本肢の「法定数以上の議員により、長に対して臨時会の招集を請求することができる」という部分は、この規定に対応します。
誤りは後段です。同条4項は「前二項の規定による請求があつたときは、当該普通地方公共団体の長は、請求のあつた日から二十日以内に臨時会を招集しなければならない」と明記しています。したがって、招集の時期について地方自治法は「請求の日から20日以内」という明確な定めを置いており、「特段の定めを置いていない」とする本肢は条文に反します。
さらに、長がこの義務を果たさない場合の手当ても用意されています。101条6項は、3項の請求があった日から20日以内に長が臨時会を招集しないときは、議長は、請求をした者の申出に基づき、当該申出のあった日から都道府県および市では10日以内、町村では6日以内に臨時会を招集しなければならないと定めています。議長からの請求(2項)に長が応じない場合の5項(この場合は議長が招集「できる」)と対になる規定です。
理由づけとして、招集請求権を認めながら招集の期限を定めなければ、長が請求を放置することで実質的に議会を開かせないことが可能になってしまいます。20日以内という期限と、期限徒過の場合の議長による招集という二段構えは、少数派議員の審議要求を実効化するための仕組みです。地方議会の実務では、長と議会が対立する局面でこの規定が現実に使われています。
ひっかけポイントは、「地方自治法は特段の定めを置いていない」「条例に委ねられている」といった、条文の存在自体を否定するタイプの表現です。この形の肢は誤りであることが圧倒的に多いと考えて、該当条文を思い出す作業に入ってください。あわせて、請求に必要な議員数が「定数の4分の1以上」であること、条例で定める定数ではなく法定の割合であることも確認しておきましょう。
結論:この肢は「正しい」。
根拠は地方自治法244条の2第1項です。同項は「普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない」と定めています。本肢はこれと同旨であり、正しい記述です。
理由づけとして、公の施設は住民が日常的に利用するものであり、その設置の可否、利用の条件、使用料の額、利用の制限といった事項は住民の権利義務に直接影響します。住民代表機関である議会の議決を経た条例で定めさせることによって、住民の意思を反映させ、行政の恣意を防ごうという趣旨です。長の規則ではなく条例によるという点に、この規定の眼目があります。なお「法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるもの」の例としては、学校教育法に基づく学校、道路法に基づく道路、河川法に基づく河川など、個別法が設置・管理の基準を定めているものが挙げられます。
さらに、公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて、これを廃止し、または長期かつ独占的な利用をさせようとするときは、議会において出席議員の3分の2以上の者の同意という特別多数決が必要とされています(244条の2第2項)。通常の条例が過半数で足りるのと比べて加重されており、重要施設の処分に慎重を期す趣旨です。
ひっかけポイントは二つあります。第一に、「設置」だけでなく「管理に関する事項」も条例事項であるという点。条文は両方を並べています。第二に、244条の2第2項の特別多数決について、「廃止」と「長期かつ独占的な利用」の二つが対象であること、要件が「出席議員の3分の2以上の同意」であること、そして対象施設は「条例で定める特に重要な公の施設」に限られることです。数字と対象範囲を入れ替える作問が定番なので、正確に記憶してください。
結論:この肢は「誤り」。本問は「誤っているもの」を選ぶ問題ですから、これが正解肢です。
根拠は地方自治法244条の2第3項です。同項は「普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体であつて当該普通地方公共団体が指定するもの(以下本条及び第二百四十四条の四において「指定管理者」という。)に、当該公の施設の管理を行わせることができる」と定めています。指定管理者に管理を行わせるための根拠は「条例」であり、「長の定める規則」ではありません。本肢はこの点を誤っています。
理由づけとしては、肢2で述べたところと同じです。公の施設の管理に関する事項は住民の利用条件に直結するため、条例事項とされています(244条の2第1項)。誰に管理を委ねるか、どのような基準で指定するか、管理の基準や業務の範囲をどうするかといった事柄は、まさに管理に関する事項の中核であり、議会の関与なしに長限りで決められるものではありません。実務上も、各団体は「公の施設に係る指定管理者の指定手続等に関する条例」といった一般条例と、個別施設の設置管理条例の両方を整備しています。
なお、指定管理者制度は平成15年の地方自治法改正で導入されたものです。それ以前は「管理委託制度」があり、管理の委託先は公共団体・公共的団体・地方公共団体の出資法人等に限定されていました。改正により、民間企業やNPO法人を含む「法人その他の団体」に広く門戸が開かれた一方で、指定の手続や議会の関与、事後的な監督の仕組みが法定されました。ここでいう「指定」は、私法上の委託契約ではなく、管理権限を委ねる行政処分と解されています。
ひっかけポイントは、「条例」と「規則」の入れ替えです。地方自治法の分野では、住民の権利義務に関わる事項が条例事項とされ、長の内部的な事務処理や執行細目が規則事項とされるという役割分担があります(14条、15条)。迷ったら「住民の権利義務に関わるか」を基準に判断してください。また、指定管理者は個々の利用申請に対する許可という行政処分を行うことができますが、使用料の強制徴収、過料の賦課、不服申立てに対する裁決といった権限は委ねることができないとされている点も押さえておきましょう。
結論:この肢は「正しい」。
根拠条文は地方自治法196条3項です。同項は、監査委員は当該地方公共団体の常勤の職員および短時間勤務職員と兼ねることができない旨を明文で定めています。したがって、普通地方公共団体の常勤の職員が監査委員を兼務することはできず、本肢の記述はそのとおりです。
理由づけは、監査委員という機関の性格から考えると腑に落ちます。監査委員は、長から独立した執行機関の一つとして置かれる必置機関であり(138条の4第1項、195条1項)、当該団体の財務に関する事務の執行および経営に係る事業の管理を監査し、必要があると認めるときは行政事務一般にも監査を及ぼすことができます(199条1項・2項)。監査の対象となるのは、まさに長の補助機関である職員が日々行っている事務執行そのものです。その職員自身が監査委員を兼ねてしまえば、自分で自分の仕事を検証する「自己監査」となり、監査の独立性・客観性が制度の根本から失われます。地方自治法が兼職を明文で禁じているのは、この独立性を制度的に担保するためです。
関連知識として、監査委員の身分上の制限は兼職禁止だけではありません。198条の2は、監査委員が当該団体の長または副知事・副市町村長と親子、夫婦または兄弟姉妹の関係にあるときは監査委員となることができず、就職後にその関係が生じたときはその職を失うと定めています。また、監査委員は原則として各委員が独立して権限を行使する独任制の機関ですが、監査の結果に関する報告の決定や決算審査の意見の決定などは合議によることとされています。
ひっかけポイントは「常勤の職員」という語です。ここでいう常勤の職員とは、長の下で日常の事務を担当する職員のことであり、監査委員自身が常勤であるかどうかとはまったく別の話です。都道府県および政令で定める市では、識見を有する者のうちから選任される監査委員のうち少なくとも1人は常勤としなければなりません(196条5項)。「常勤の監査委員は置ける/置かなければならない」ことと「常勤職員は監査委員を兼ねられない」こととを混同しないでください。
結論:この肢は「誤り」。
原則と例外が逆になっています。地方自治法196条1項は、監査委員は、普通地方公共団体の長が、議会の同意を得て、人格が高潔で財務管理・事業の経営管理その他行政運営に関し優れた識見を有する者(識見を有する者)および議員のうちから選任すると定め、そのただし書で「条例で議員のうちから監査委員を選任しないことができる」としています。つまり、法律上の原則はあくまで議員のうちからも監査委員を選任することであり、これを置かない選択をするために条例が必要なのです。本肢は「条例に特に定めのない限り議員は監査委員となることができない」としており、原則と例外を取り違えています。
この規律は平成29年の地方自治法改正(平成30年4月1日施行)によって現在の形になりました。改正前は議員のうちから選任する監査委員(いわゆる議選監査委員)を必ず置かなければなりませんでしたが、監査の独立性・専門性を高める観点から、条例により議選監査委員を置かないことを選択できるようになりました。改正後も「置かないことを条例で選択する」という建て付けである点は変わっていませんので、2026年時点でも本肢は誤りのままです。
関連知識として、196条6項は、議員のうちから選任する監査委員の数を、都道府県および政令で定める市にあっては2人または1人、その他の市および町村にあっては1人と定めています。また任期は、識見を有する者から選任された監査委員が4年、議員から選任された監査委員は議員の任期によります(197条)。
ひっかけポイントは「条例に特に定めのない限り」という限定句です。行政書士試験では、このように原則・例外をひっくり返す作り方が非常に多用されます。地方自治法の条文で「ただし、条例で……ことができる」と書かれている場合、条例がなければ本文の原則がそのまま働く、という読み方を徹底してください。