民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。
この条文の過去問 2肢
結論:この肢は「誤り」。
条例の制定行為は、一般的・抽象的な法規範を定立する立法作用であり、原則として抗告訴訟の対象となる行政処分には当たりません。「一般的に」処分に当たると述べる本肢は、原則と例外を逆転させている点で誤りです。
根拠は行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」という文言と、その解釈に関する判例法理です。処分性が認められるためには、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものであることが必要とされます(最判昭和39年10月29日・東京都ごみ焼却場設置事件)。条例は、不特定多数の者に向けて一般的・抽象的な規律を定めるものにすぎず、通常はそれ自体が特定人の権利義務を直接に変動させるわけではありません。個別の権利義務の変動は、条例に基づく個別具体的な処分によって生じるのが通常であり、その処分を捉えて争えば足りるからです。
もっとも、例外はあります。最判平成21年11月26日(横浜市保育所廃止条例事件)は、3つの市立保育所を廃止する条例について、当該条例は他に行政庁の処分を待つことなくその施行によって保育所廃止の効果を発生させ、現に入所中の児童およびその保護者という限られた特定の者に対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待しうる地位を奪う結果を生じさせるものであるとして、その制定行為は行政庁の処分と実質的に同視しうるものであり、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると判断しました。つまり、処分性が認められるのは、名宛人が限定され、条例の施行それ自体で直接具体的な法効果が生じるという例外的場合に限られるのです。
ひっかけポイントは、この例外的判例を知っているがゆえに「条例の制定行為は処分に当たる」と一般化してしまう誤りです。判例が処分性を認めたのは、あくまで特定の保育所を名指しで廃止するという、実質的に個別処分と変わらない条例についてです。同様の視点は、通達(最判昭和43年12月24日・墓地埋葬通達事件)や告示、行政計画といった一般的規律の処分性を検討する際にも共通します。「一般的抽象的規律か、特定人に対する直接具体的な法効果か」という物差しを常に当ててください。なお、この事件では上告人である児童らがすでに卒園していたため、訴えの利益は失われたと判断され、結論として上告は棄却されています。
結論:この肢は「誤り」。
地方自治法が定める直接請求の中に、議会による特定の議案の議決を阻止することを目的とする制度は存在しません。したがって、廃止条例の制定に関する議決を阻止するための直接請求という手段はありません。
地方自治法上の直接請求は、次の類型に限られます。第一に、条例の制定改廃請求です(74条)。選挙権を有する者の総数の50分の1以上の者の連署をもって、その代表者から長に対して条例の制定または改廃を請求するもので、地方税の賦課徴収、分担金・使用料・手数料の徴収に関する条例は対象外とされています。第二に、事務の監査請求です(75条)。同じく50分の1以上の連署により監査委員に監査を求めるものです。第三に、議会の解散請求(76条)、第四に、議員・長の解職請求(80条・81条)、第五に、副知事・副市町村長、選挙管理委員、監査委員、公安委員会の委員等の主要公務員の解職請求(86条)です。解散・解職請求は原則として選挙権を有する者の総数の3分の1以上(総数が40万を超える場合には要件が緩和されます)の連署が必要で、住民投票または議会の議決による決着が予定されています。
このうち唯一条例に関わる74条の請求も、あくまで「条例を制定せよ」「条例を改廃せよ」と長に対して請求する制度であり、請求を受けた長は、意見を付けてこれを議会に付議しなければならないとされているにとどまります(74条3項)。議会は付議された条例案を否決することもでき、直接請求に議決を拘束する効力はありません。まして、すでに提案されている廃止条例案の議決手続そのものを止める効力は一切ありません。
ひっかけポイントを挙げます。第一に、署名要件の数字です。条例制定改廃請求・事務監査請求は50分の1以上、解散・解職請求は3分の1以上という違いを正確に押さえてください。第二に、請求先の違いです。条例制定改廃請求は長、事務監査請求は監査委員、議会の解散請求と議員・長の解職請求は選挙管理委員会、主要公務員の解職請求は長が相手方となります。第三に、本問の事案で条例の制定を阻止しようとするならば、直接請求ではなく、条例が制定・施行された後にその制定行為の処分性を前提として抗告訴訟を提起する(最判平成21年11月26日)という道筋が問題になる、という全体の流れを理解しておきましょう。