(公開 2025/12/21) / 商法

商行為の特則と商法の基礎知識|行政書士試験対策

商法の商行為の特則を行政書士試験対策として解説。商人の意義、商行為の種類、民法との違い(連帯債務の推定、法定利率、留置権の拡張等)を比較表で整理します。

はじめに|商法は「民法との違い」が問われる

行政書士試験の商法分野は、択一式5問(20点)のうち会社法が4問、商法総則・商行為が1問という出題パターンが定着しています。商法総則・商行為からの1問は、配点こそ4点と少ないですが、出題範囲が限定されているため対策がしやすく、得点源にすることが可能です。

商法の学習で最も重要なのは、民法との違いを正確に理解することです。商法は民法の特別法であり、商取引の迅速性・安全性を確保するために、民法とは異なる特則を多数設けています。本記事では、商人の意義、商行為の種類、そして商行為の特則(民法との比較)を中心に解説します。

商法を学ぶうえで意識したいのは、「なぜ商法はわざわざ民法と違うルールを置くのか」という制度趣旨です。商取引は、(1) 同種の取引が大量・反復して行われること、(2) プロ同士(商人間)で行われることが多く高度な自己責任が前提となること、(3) スピードと決済の確実性が経済的価値を持つこと、という特徴を持ちます。民法は「対等でない当事者間の一回的な取引」も広く想定するのに対し、商法は「反復・継続するプロの取引」を前提に、迅速性・確実性・取引安全に寄せたルールを置いています。この視点を持つと、後述する諾否通知義務(509条)や報酬請求権(512条)、連帯債務の推定(511条)といった特則が、ばらばらの暗記事項ではなく「商取引の合理性」という一本の軸でつながって見えてきます。

なお、本記事で扱う条文は、特に断りがない限り現行の商法・民法(2017年改正、2020年4月1日施行を反映)を前提とします。改正で削除された条文(商事時効・商事法定利率)は後半で改正前後を対比して解説します。

商人の意義(商法4条)

商人とは

商法における「商人」の定義は以下のとおりです。

類型定義条文固有の商人自己の名をもって商行為をすることを業とする者4条1項擬制商人店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者、又は鉱業を営む者4条2項

固有の商人は、商行為を業として行う者です。「自己の名をもって」とは、法律上の効果が自己に帰属することを意味し、「業とする」とは営利の目的で反復継続して行うことを意味します。

擬制商人は、商行為を行わなくても商人とみなされる者です。たとえば、農家が直売所で自ら生産した農産物を販売する場合、農産物の販売自体は商行為(501条・502条)に該当しなくても、店舗で物品を販売する者として擬制商人となります。

固有の商人と擬制商人の関係を整理する

両者の関係は「商行為を起点に商人を決めるか、設備(外観)を起点に商人を決めるか」という発想の違いとして整理すると理解しやすくなります。

  • 固有の商人は、まず「商行為(501条・502条)にあたる行為」があり、それを業とする者を商人と扱います(行為 → 商人)。
  • 擬制商人は、行為自体は商行為にあたらないが、店舗等の設備で物品を販売する、あるいは鉱業を営む、という外形(営業形態)に着目して商人と扱います(設備 → 商人)。

なぜ擬制商人という概念が必要かというと、たとえば自己生産物(農産物・水産物)の販売は「他人から取得して転売する」わけではないため、501条1号の絶対的商行為(投機売買)に該当しません。しかし、店舗を構えて反復継続して物品を販売している以上、その実態は商人と変わりません。そこで、取引の相手方の信頼を保護し、商法のルールを及ぼすために、設備による物品販売者や鉱業者を商人とみなしているのです。擬制商人にあたれば、その者が営業のために行う行為は附属的商行為(503条)となり、商法の規定が適用されます。

商人資格の取得時期

商人資格をいつ取得するかは、開業準備行為(店舗の賃借、資金の借入れ、仕入れの準備など)の段階で商法の適用があるかという問題に関わります。判例は、営業の意思を持って準備行為に着手すれば、その時点で商人資格を取得し得るとする立場をとっています。

特定の営業を開始する目的でその準備行為をした者は、その行為により営業を開始する意思を実現したものであって、これにより商人たる資格を取得すべきものと解するのが相当である。
― 最判昭和33年6月19日

この立場によれば、開業準備のための金銭借入れなども附属的商行為となり得ます。もっとも、行政書士試験では細かい論点であるため、「準備行為の段階でも商人資格を取得し得る(判例)」という結論を押さえておけば十分です。

小商人

小商人(商法7条)とは、商人のうち営業の規模が小さいものとして法務省令で定めるものをいいます。具体的には、資本金額が50万円に満たない商人が該当します(商法施行規則3条)。小商人には商業登記・商号登記・商業帳簿に関する規定が適用されません。

なぜ小商人に登記・帳簿の規定を適用しないかというと、これらの制度はコストがかかるため、零細な営業者にまで一律に強制すると過大な負担となるからです。したがって小商人については、商号の登記(11条2項)、未成年者・後見人の登記(5条・6条)、商業登記の効力(9条)、商業帳簿(19条)、支配人の登記などの規定の適用が除外されます。一方で、商人としての地位そのものを失うわけではないため、商行為に関する特則(509条以下)などは小商人にも適用される点に注意が必要です。

商行為の種類

商法は商行為を以下の3種類に分類しています。

絶対的商行為(501条)

行為の客観的性質から、誰が行っても営利目的の有無にかかわらず当然に商行為となるものです。1回限りの行為でも商行為に該当します。

号数内容1号利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産もしくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為2号他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為3号取引所においてする取引4号手形その他の商業証券に関する行為
ポイント: 501条1号の「利益を得て譲渡する意思をもってする有償取得」は投機売買(安く仕入れて高く売る意思)を想定しています。この意思がなければ絶対的商行為には該当しません。

絶対的商行為の本質は「投機性」と「行為の客観的な営利性」にあります。たとえば1号は、転売による差益(投機購買と投機売買)を目的とする取引であり、行為自体に営利性が組み込まれています。そのため、行為者が商人であるかどうか、営業として反復するかどうかを問わず、ただ1回行っただけでも商行為となります。試験では、絶対的商行為のキーワードである「反復継続を要しない(1回でよい)」が営業的商行為との決定的な違いとして問われます。

なお、501条1号の「有償取得」には対価を支払う取得(売買等)が含まれますが、自己が生産・採取した物の販売はここに含まれません。前述のとおり、自己生産物の販売者は擬制商人として扱う余地はあっても、絶対的商行為には該当しないという整理になります。

営業的商行為(502条)

営利の目的で反復継続して(営業として)行うとき商行為となるものです。1回限りの行為では商行為に該当しません。

502条は以下の13種類を列挙しています。

号数内容1号賃貸する意思をもってする動産もしくは不動産の有償取得又は賃貸を目的とする行為2号他人のためにする製造又は加工に関する行為3号電気又はガスの供給に関する行為4号運送に関する行為5号作業又は労務の請負6号出版、印刷又は撮影に関する行為7号客の来集を目的とする場屋における取引8号両替その他の銀行取引9号保険10号寄託の引受け11号仲立ち又は取次ぎに関する行為12号商行為の代理の引受け13号信託の引受け

営業的商行為は「行為の客観的性質」ではなく「営業として(反復継続・営利目的で)行うこと」によって商行為性が与えられます。したがって、たまたま1回だけ友人の荷物を有償で運んだ程度では運送に関する行為(4号)は商行為になりませんが、運送業として継続的に営めば商行為となります。

試験対策上は、502条のすべての号を丸暗記する必要はありませんが、次の「ひっかけ」に注意が必要です。

  • 9号「保険」は営利保険のみを指し、相互保険(保険業法上の相互会社が行う保険)や社会保険は含まれないとされます。
  • 8号「両替その他の銀行取引」にいう銀行取引は、受信(預金等で資金を調達する)と与信(貸付け等で資金を運用する)の両方を行う取引を指すとされ、自己資金を貸し付けるだけの金融業(消費者金融など)は含まれないと解する見解が有力です。
  • 502条柱書のただし書により、「専ら賃金を得る目的で物を製造し、又は労務に従事する者の行為」は営業的商行為から除外されます。これは家内労働者や日雇労働者など、企業的な営業とは言えない零細な労務提供者を商法の規律から外す趣旨です。

附属的商行為(503条)

商人がその営業のためにする行為は、商行為とされます(503条1項)。また、商人の行為は、その営業のためにするものと推定されます(503条2項)。

附属的商行為は、行為自体は商行為に該当しなくても、商人がその営業のために行う限り商行為となるものです。たとえば、商人が営業のために事務用品を購入する行為は、それ自体は501条・502条の商行為に該当しませんが、503条により附属的商行為として商法の適用を受けます。

503条2項の「推定」は実務・試験の両面で重要です。商人の行為は、反証がない限り営業のためにしたもの(=附属的商行為)と推定されるため、商法の適用を主張する側は「営業のためであること」を立証する必要がありません。逆に、私生活上の行為であって商法の適用を受けないと主張する側が、「営業のためではない」ことを立証して推定を覆す必要があります。判例も、会社(商人)がその事業のためにする行為は商行為と推定され、これを争う者が反証責任を負う旨を示しています。

商行為3分類の比較

3つの分類は「商行為性がどこから生じるか」という観点で整理すると混同しません。

分類条文商行為となる根拠1回限りでも商行為か行為者が商人である必要絶対的商行為501条行為の客観的性質(投機性)なる不要営業的商行為502条営業として(反復・営利)行うことならない営業者=商人となる附属的商行為503条商人が営業のために行うことなる(営業のためなら)必要(商人の行為)
確認問題

営業的商行為(商法502条)に該当する行為は、1回限りの行為であっても商行為となる。

○ 正しい × 誤り
解説
営業的商行為(502条)は、営利の目的で反復継続して行う場合(営業として行う場合)に商行為となります。1回限りの行為では商行為に該当しません。1回限りの行為でも商行為となるのは絶対的商行為(501条)です。

一方的商行為と双方的商行為(商行為の適用範囲)

商法の特則を「誰に」適用するかも頻出の角度です。商法3条1項は、当事者の一方にとって商行為である行為(一方的商行為)については、当事者双方に商法を適用すると定めています。

当事者の一方のために商行為となる行為については、この法律をその双方に適用する。
― 商法3条1項

たとえば、商人である小売店が一般消費者に商品を売る場合、消費者にとっては商行為ではありませんが、小売店にとっては商行為であるため、その売買契約には商法が適用されます。さらに同条2項は、当事者の一方が複数いる場合、そのうち一人にとって商行為であれば全員に商法を適用するとしています。「双方とも商人でなければ商法が適用されない」と誤解しやすいため、注意が必要です。

ただし、後述する商人間に限って適用される特則(双方的商行為を要件とするもの)もあります。代表例が商事留置権(521条)で、これは「商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権」を要件とします。「商法は一方的商行為で適用されるのが原則だが、特定の特則は双方的商行為(商人間)を要件とする」という区別が、ひっかけポイントになります。

商行為の特則|民法との比較

商法は、商取引の迅速性・確実性を確保するために、民法とは異なる多数の特則を設けています。行政書士試験では、この民法との違いが頻出です。

主要な特則の比較表

項目民法商法商法の条文法定利率年3%(変動制)(民法404条)年6%(固定)→ 廃止(後述)旧514条(削除)連帯債務連帯債務は法律の規定又は当事者の意思表示による数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは連帯債務となる511条1項保証保証債務は催告の抗弁権・検索の抗弁権あり主たる債務者が商人である場合の保証は連帯保証と推定511条2項留置権目的物と被担保債権の間に牽連性が必要商人間で牽連性不要(双方が商人で、双方にとって商行為から生じた債権であれば足りる)521条契約の申込み申込みの拒絶通知がなくても契約は成立しない商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合、遅滞なく諾否通知を発しなければ承諾とみなされる509条報酬請求権特約がなければ報酬請求権なし(委任は原則無償)商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、報酬を請求できる512条多数当事者の債権の不可分性分割債権・分割債務が原則数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは各自連帯して弁済する責任511条1項利息請求権特約がなければ無利息商人間の金銭消費貸借では法定利息を請求可能513条流質契約流質契約は禁止(民法349条)商行為によって生じた債務の担保として質権を設定する場合、流質契約が許容される515条

各特則の詳細解説

連帯債務の推定(511条)

民法では、複数の債務者がいる場合の原則は分割債務ですが、商法511条1項は、数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、当然に連帯債務となることを定めています。

また、511条2項は、保証人がある場合において主たる債務が商行為によって生じたものであるとき、又は保証が商行為であるときは、主たる債務者と保証人は連帯して債務を負う(連帯保証となる)と規定しています。

試験のポイント: 民法の原則(分割債務・普通保証)が商法では修正されている(連帯債務・連帯保証)点を正確に区別しましょう。

511条をより正確に押さえるため、民法との対応を整理します。

場面民法の原則商法511条複数人が共同で債務を負担分割債務が原則(民法427条)その全員又は一人にとって商行為となる行為で負担したときは連帯債務(1項)保証普通保証(催告・検索の抗弁権あり)主たる債務が商行為で生じた、又は保証自体が商行為であれば連帯保証と扱われる(2項)

511条2項の重要なポイントは、「主たる債務者が商人である」ことが要件なのではなく、主たる債務が商行為によって生じたものであること、又は保証行為自体が商行為であることが要件である点です。比較表中の表現(「主たる債務者が商人である場合の保証は連帯保証と推定」)は典型的なイメージですが、条文の正確な要件は「主たる債務の商行為性」または「保証の商行為性」にあります。連帯保証となる結果、保証人は催告の抗弁権・検索の抗弁権(民法452条・453条)を失う点が、債権者保護として機能します。

なお、連帯保証や連帯債務そのものの基礎は民法分野でも繰り返し問われるため、横断的に整理しておくと得点効率が上がります。

商事留置権(521条)

民法上の留置権は、目的物と被担保債権との間に牽連性(個別的な関連性)が必要です。しかし、商法521条の商事留置権は、以下の要件を満たせば牽連性を要求しません。

商事留置権の要件

  1. 債権者・債務者の双方が商人であること
  2. 債権が双方の商行為から生じたものであること
  3. 弁済期が到来していること
  4. 債権者が債務者の所有する物又は有価証券を占有していること
具体例: 商人Aが商人Bとの取引で生じた売掛金を有している場合に、別の取引でBの動産を預かっているとき、民法上の留置権は認められませんが、商事留置権は認められます(牽連性不要)。

商事留置権の最大の特徴は、被担保債権と留置目的物との間の個別的牽連性が不要である点です。継続的に取引を行う商人同士では、ある取引で生じた債権を別の取引で占有した物で担保できるようにすることが、取引の安全と決済の円滑化に資するためです。

ただし、牽連性が不要となる代わりに、民法上の留置権にはない占有取得の限定が加わっています。留置の目的物は「債務者所有の物又は有価証券」であり、かつ債権者がその物を商行為によって占有するに至ったものでなければなりません。すなわち、(1) 目的物が債務者の所有物であること(民法の留置権では他人物でも成立し得るのと対比される)、(2) 占有取得が商行為に基づくこと、という制約があります。

比較項目民事留置権(民法295条)商事留置権(商法521条)牽連性(債権と物の関連)必要不要当事者限定なし双方が商人であること目的物の所有関係他人物でも可債務者の所有物に限る占有取得の原因限定なし商行為によることが必要

契約の申込みに対する諾否通知義務(509条)

商人が平常取引をする者(「平常取引関係にある者」)からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければなりません。これを怠ったときは、その商人は申込みを承諾したものとみなされます

民法にはこのような規定はなく、商取引の迅速な決済を促進するための商法独自の特則です。

ここで注意したいのは、本条が承諾とみなす(沈黙=承諾)という、民法の大原則(沈黙は意思表示ではない)を覆す強い効果を持つ点です。そのため、適用要件は厳格に定められています。

要件内容主体申込みを受けた側が商人であること相手方「平常取引をする者」(継続的取引関係にある者)からの申込みであること申込みの内容その商人の「営業の部類に属する契約」の申込みであること効果遅滞なく諾否の通知を発しなければ、承諾したものとみなされる

一見の客(平常取引関係にない者)からの申込みや、その商人の営業と無関係な契約の申込みには適用されません。「不特定多数の見知らぬ相手からの申込みでも沈黙で契約成立する」と誤解させるひっかけに注意してください。なお、商法510条は、申込みを受けた商人が承諾しない場合でも、申込みとともに送付された物品の保管義務を負うこと(受領物品の保管義務)を定めており、509条とセットで押さえておくと取りこぼしを防げます。

報酬請求権(512条)

民法上、委任契約は原則として無償であり(ただし特約で有償にできる)、報酬の特約がなければ報酬を請求できません。しかし商法512条は、商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができると定めています。

これは、商人の行為は営利を目的とするものであるから、当然に報酬を請求できるとする趣旨です。

商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
― 商法512条

民法では、委任(648条)も寄託(665条)も原則無償で、報酬請求には特約が必要です。商法512条は、商人が営業の範囲内で「他人のために行為をした」場合に、特約がなくても客観的に相当な報酬を請求できるとする点で、これを大きく修正しています。判例上、ここでの「他人のために行為をした」とは、行為の結果が他人の利益に帰属し、客観的にその他人のためにする意思をもってなされたと認められる場合を含むと解されており、明示の委任契約がなくても適用され得る点が実務的にも重要です。

商人間の金銭消費貸借における利息(513条)・立替金の利息

民法では、金銭消費貸借は特約がなければ無利息が原則です(589条)。これに対し、商法513条1項は、商人間において金銭の消費貸借をしたときは、貸主は法定利息を請求することができると定めています。また同条2項は、商人がその営業の範囲内において他人のために金銭の立替えをしたときは、その立替えの日以後の法定利息を請求できるとしています。商人間ではプロ同士の経済合理的な取引が前提となるため、利息を当然のものとして扱う趣旨です。

流質契約の許容(515条)

民法349条は、弁済期前の流質契約(弁済がないとき質物の所有権を債権者に移転させる等の契約)を禁止しています。経済的に弱い立場の債務者が、わずかな借金のために高額な質物を失う暴利行為を防ぐ趣旨です。これに対し、商法515条は、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については流質契約を許容しています。商人は自己の利益を判断できるプロであり、暴利の危険が類型的に低いと考えられるためです。

商行為の代理・委任に関する特則

代理・委任の場面にも商法の特則があり、ときおり問われます。

  • 代理の方式(504条・非顕名主義): 民法では代理は顕名(本人のためにすることを示すこと)が原則ですが、商行為の代理では、代理人が本人のためにすることを示さなくても、その行為は本人に対して効力を生じます。ただし、相手方が代理人本人のためにするものと過失なく信じたとき(本人のためにすることを知らなかったとき)は、相手方は代理人に対しても履行を請求できるとされます。
  • 本人の死亡と代理権(506条): 民法では本人の死亡により代理権は消滅するのが原則ですが(民法111条)、商行為の委任による代理権は、本人の死亡によっては消滅しません。営業の継続性を重視した特則です。

これらは細かい論点ですが、「商行為の代理は非顕名でも本人に効果帰属」「商行為の委任による代理権は本人の死亡で消滅しない」という結論だけでも押さえておくと、択一の一肢を確実に処理できます。

確認問題

商法上の商事留置権は、民法上の留置権と異なり、目的物と被担保債権との間に個別的な牽連性がなくても成立する。

○ 正しい × 誤り
解説
民法上の留置権は目的物と被担保債権との間に牽連性(個別的関連性)が必要ですが、商法521条の商事留置権は、双方が商人であり双方にとって商行為から生じた債権であれば、牽連性がなくても成立します。これは商取引の迅速性と安全性を確保するための商法独自の特則です。
確認問題

商人がその営業の範囲内において他人のために行為をした場合、報酬についての特約がなければ報酬を請求することはできない。

○ 正しい × 誤り
解説
商法512条は、商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、特約がなくても相当な報酬を請求できると定めています。報酬の特約がなければ請求できないのは民法の原則(委任は原則無償・648条)であり、商法ではこれが修正されています。

商事時効の廃止(2017年民法改正)

改正前の商事時効

改正前の商法522条は、商行為によって生じた債権の消滅時効を5年と定めていました。民法の一般的な消滅時効(改正前は10年)よりも短い期間とすることで、商取引の早期決済を促進する趣旨でした。

2017年改正による廃止

2017年(平成29年)の民法改正(2020年4月1日施行)に伴い、商法522条は削除され、商事時効の制度は廃止されました。

その理由は以下のとおりです。

改正民法は、消滅時効の期間を以下のように統一しました。

起算点期間権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)5年権利を行使することができる時(客観的起算点)10年

民法の時効期間が「知った時から5年」に統一されたため、商事時効(5年)を別途設ける必要がなくなり、商法522条は削除されました。

試験のポイント: 現行法では商事時効という特則は存在せず、商行為によって生じた債権の消滅時効も民法の一般原則(主観的起算点から5年、客観的起算点から10年)に従います。この改正は行政書士試験で問われる可能性があるため、注意が必要です。

商事法定利率の廃止

商事時効と同様に、改正前の商法514条が定めていた商事法定利率(年6%)も削除されました。

改正民法が法定利率を年3%(3年ごとに見直す変動制)と定めたため、商事法定利率を別途設ける合理性がなくなったことが理由です。

現行法では、商行為によって生じた債権の法定利率も民法404条の法定利率(年3%、変動制)が適用されます。

項目改正前改正後商事時効5年(商法522条)廃止(民法の原則に統一)商事法定利率年6%(商法514条)廃止(民法の法定利率に統一)

民法の法定利率は変動制を採用しており、施行時(2020年4月1日)は年3%とされ、その後3年ごとに一定の基準で見直されます。試験では「年3%(変動制)」と「かつての商事法定利率は年6%だった(現在は廃止)」を対比して押さえれば十分です。利率の細かい変動値を暗記する必要はありません。

確認問題

現行法では、商行為によって生じた債権の消滅時効期間は商法の規定により5年とされている。

○ 正しい × 誤り
解説
2017年民法改正(2020年施行)に伴い、商事時効を定めていた商法522条は削除されました。現行法では、商行為によって生じた債権の消滅時効も民法の一般原則に従い、権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年となります。

よくある誤解と注意点

商行為分野では、知識が曖昧なまま設問に臨むとひっかかりやすい論点がいくつかあります。代表的な誤解を整理しておきます。

  • 「商法は当事者の双方が商人でないと適用されない」は誤り。 商法3条1項により、当事者の一方にとって商行為であれば双方に商法が適用されます(一方的商行為)。「双方が商人」を要件とするのは、商事留置権(521条)など一部の特則だけです。
  • 「営業的商行為は1回でも商行為になる」は誤り。 1回でも商行為になるのは絶対的商行為(501条)。営業的商行為(502条)は営業として反復継続して行うことが要件です。
  • 「商人が私的に行った行為もすべて商行為」は誤り。 503条2項は「営業のためにする」ものと推定するにすぎず、純粋な私生活上の行為(自宅用の買い物など)は反証により商行為性が否定され得ます。
  • 「商事時効・商事法定利率はまだ商法に残っている」は誤り。 いずれも2017年改正で削除済みです。改正前の年6%・5年という数字を現行のものとして問う設問はひっかけです。
  • 「511条2項の連帯保証は主たる債務者が商人であることが要件」は不正確。 正確には、主たる債務が商行為によって生じたこと、又は保証行為が商行為であることが要件です。

試験対策のまとめ

択一式で問われるポイント

  1. 商人の意義: 固有の商人(4条1項)と擬制商人(4条2項)の区別、商人資格の取得時期(準備行為で取得し得る/最判昭和33年6月19日)
  2. 商行為の3分類: 絶対的商行為(501条)、営業的商行為(502条)、附属的商行為(503条)の区別と「1回でも商行為か」の整理
  3. 商法の適用範囲: 一方的商行為でも双方に適用(3条1項)/商事留置権は双方的商行為が要件(521条)
  4. 民法との違い: 連帯債務の推定(511条1項)、連帯保証の擬制(511条2項)、商事留置権(521条)、諾否通知義務(509条)、受領物品保管義務(510条)、報酬請求権(512条)、利息請求権(513条)、流質契約の許容(515条)、商行為の代理・委任の特則(504条・506条)
  5. 2017年改正による廃止: 商事時効(旧522条)と商事法定利率(旧514条)の削除

学習のコツ

商法の商行為分野は、民法との比較表を作成して横断的に整理するのが最も効率的な学習法です。出題の多くは「商法では民法と異なり〇〇となる」という形式ですので、両者の相違点を正確に把握することが合格への近道です。

特に、2017年改正で廃止された商事時効と商事法定利率については、「改正前はこうだったが、改正後は廃止された」という出題が考えられるため、改正の経緯も含めて押さえておきましょう。改正論点の全体像は民法改正の出題ポイント総まとめ|行政書士試験対策で、連帯債務・連帯保証の体系は連帯債務・保証・連帯保証の比較整理|改正民法対応で確認できます。

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