行政書士の報酬設定|相場と適正価格の決め方
行政書士の報酬相場と決め方を、日本行政書士会連合会「令和7年度報酬額統計調査」の実データで解説。建設業許可・在留資格・相続・車庫証明など業務別の平均値と最頻値、報酬額の掲示義務、見積書の書き方、安値設定の失敗例まで網羅します。
結論|報酬は自由に決められる。ただし掲示義務がある
最初に結論をまとめます。
- 報酬額は行政書士が自由に決められます。 かつて存在した会の報酬額基準は廃止され、現在は各自が設定します。日本行政書士会連合会(日行連)が公表する統計は参考情報であって、従う義務はありません。
- ただし掲示は義務です。 行政書士法第10条の2第1項により、事務所の見やすい場所に「その業務に関し受ける報酬の額」を掲示しなければなりません。掲示の様式まで省令で定められています。
- 相場を調べる出発点は日行連の「報酬額統計調査」です。 5年に1度実施され、最新は令和7年度調査(令和8年1月実施)。全業務について回答者数・平均値・最小値・最大値・最頻値が公表されています。
- 単一の「平均◯万円」で考えないでください。 同じ業務でも平均値と最頻値は数万円ずれ、最大値は最小値の数十倍になることも珍しくありません。相場は「点」ではなく「幅」で捉えます。
以下、統計の実数値をもとにした業務分野別の相場一覧、掲示義務の条文、価格の決め方、見積書の実務、そして開業者が陥りやすい安値設定の失敗までを順に解説します。
はじめに|報酬設定は経営の最重要課題
行政書士として開業した後、最初にぶつかる壁の一つが「報酬をいくらに設定するか」です。2000年(平成12年)に施行された行政書士法の改正により報酬基準が撤廃され、現在は各行政書士が自由に報酬を設定できるようになりました。しかし、この「自由」が逆に悩みの種になることも少なくありません。
報酬を安く設定しすぎれば事業の継続が難しくなり、高く設定しすぎれば依頼者が離れていきます。適正な報酬を見つけることは、行政書士事務所の経営において最も重要な課題の一つです。
本記事では、日本行政書士会連合会(日行連)の報酬統計データを参考にしながら、業務別の相場一覧、報酬の決め方の具体的手法、見積書の書き方、そして値上げのタイミングまでを詳しく解説します。あわせて、開業を視野に入れている受験生のために、報酬規定に関連する行政書士法の条文や、独占禁止法・消費税といった周辺知識についても整理しました。報酬制度は実務だけでなく、行政書士試験の「業務」科目や一般知識の素材としても問われうるテーマです。
行政書士の報酬制度の基本
報酬自由化の歴史
行政書士の報酬制度は、以下のように変遷してきました。
報酬自由化により、行政書士には価格設定の自由が与えられましたが、同時に「適正な報酬とは何か」を自ら考える必要が生じました。
なぜ報酬基準は撤廃されたのか|独占禁止法との関係
報酬基準の撤廃は、行政書士だけの動きではありません。1990年代後半から2000年代初頭にかけて、税理士・司法書士・弁護士など多くの士業で報酬規程が相次いで廃止されました。この背景には、規制改革の流れと、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の考え方があります。
会(同業者団体)が一律の報酬額を定めて会員を拘束することは、事業者団体による価格カルテルに類似し、自由競争を制限するものと評価されうるためです。報酬を自由化することで、サービスの質と価格による健全な競争を促し、最終的に依頼者(消費者)の利益につながるという発想です。
現在、各都道府県の行政書士会や日行連が示す「報酬額の統計調査」は、あくまで実際に行われた報酬の実態を集計した統計情報・参考情報であって、会員を拘束する基準ではありません。「日行連の相場どおりにしなければ違反になる」という誤解はよくありますが、これは正しくありません。
報酬設定のルール(行政書士法)
報酬が自由化された後も、行政書士法には報酬に関するいくつかのルールが残っています。条文を確認しましょう。
行政書士は、その事務所の見やすい場所に、その業務に関し受ける報酬の額を掲示しなければならない。
― 行政書士法 第10条の2第1項
行政書士会及び日本行政書士会連合会は、依頼者の選択及び行政書士の業務の利便に資するため、行政書士がその業務に関し受ける報酬の額について、統計を作成し、これを公表するよう努めなければならない。
― 行政書士法 第10条の2第2項
第2項は条文の細部が誤って引用されがちな箇所です。正確には、統計を作成・公表する主体は「行政書士会及び日本行政書士会連合会」の両方であり、日行連だけではありません。また「公表することができる」という裁量規定ではなく、「公表するよう努めなければならない」という努力義務として定められています。さらに「依頼者の選択及び行政書士の業務の利便に資するため」という目的が条文上明記されている点も、この規定の性格を理解するうえで重要です。統計は「会員を縛るため」ではなく「依頼者が選べるようにするため」に公表されているのです。
報酬に関する義務は、法律だけでなく行政書士法施行規則(省令)にも定められています。実務上重要なものを整理すると次のとおりです。
ここは実務者向けの記事でも誤解が多いところなので、条文を確認しておきます。
行政書士は、依頼人の依頼しない書類(その作成に代えて電磁的記録を作成する場合における当該電磁的記録を含む。)を作成して報酬を受け、又はみだりに報酬の増加を図るような行為をしてはならない。
― 行政書士法施行規則 第3条第2項
行政書士は、依頼人から報酬を受けたときは、日本行政書士会連合会の定める様式により正副二通の領収証を作成し、正本は、これに記名し職印を押して当該依頼人に交付し、副本は、作成の日から五年間保存しなければならない。
― 行政書士法施行規則 第10条
行政書士は、その業務に関する帳簿を備え、これに事件の名称、年月日、受けた報酬の額、依頼者の住所氏名その他都道府県知事の定める事項を記載しなければならない。
― 行政書士法 第9条第1項
つまり、領収証の交付は「商慣行としての礼儀」ではなく省令上の明確な義務であり、様式・記名・職印・副本の5年保存まで指定されています。同様に、受けた報酬の額を帳簿に記載する義務も法律上のものです。報酬まわりの実務は、掲示・領収証・帳簿の3点セットで押さえてください。
なお、これらの規定は行政書士法人にも及びます。行政書士法第13条の17は、第9条から第11条まで(=帳簿の備付け・信用失墜行為の禁止・報酬額の掲示・依頼に応ずる義務)を行政書士法人に準用しています。
試験的には、「報酬基準は撤廃されたが、掲示義務は残っている」という対比が狙われやすいポイントです。あわせて、第2項が「努力義務」であること、主体が「行政書士会及び日行連」であることも、条文の細部を問う出題に備えて押さえておきましょう。
よくある誤解の整理
報酬額の掲示義務|何を・どこに・どう掲示するか
報酬が自由化された後も残った、数少ない明文の義務が掲示義務です。相場を調べる前に、まずこの義務の中身を正確に押さえておきましょう。
掲示すべき内容は「その業務に関し受ける報酬の額」
条文の文言は「その業務に関し受ける報酬の額」です。「その業務に関する報酬の額」と誤記されている解説を見かけますが、条文は「関し受ける」です。細かい差に見えますが、意味は変わります。「関し受ける」は、その行政書士が現に受け取っている(受け取ることにしている)額を指しており、一般的な相場や希望額の掲示では足りない、ということです。
したがって、掲示している額と実際に請求している額が食い違っている状態は、この義務の趣旨に反します。報酬を改定したら、掲示も同時に更新するのが正しい運用です。
掲示の場所と様式
様式が省令で「日行連の定める様式に準じた表により行う」と指定されている点は見落とされがちです。手書きのメモ書きや、料金を口頭で説明するだけでは、規則が予定している「表による掲示」にはあたりません。所属する行政書士会から様式の案内が出ているのが通常なので、登録時に必ず確認してください。
なお、行政書士法第8条は「使用人である行政書士等」を事務所設置義務の対象から除いており、第10条の2の「行政書士」も同じ括弧書きの定義が及びます。つまり、他の事務所に勤務する使用人行政書士が個人として掲示義務を負うわけではなく、義務を負うのは事務所を構える行政書士および行政書士法人です。
ウェブサイトへの掲載は掲示義務を満たすか
条文が求めているのは「その事務所の見やすい場所」への掲示です。したがって、ホームページに料金表を載せていても、事務所内に掲示していなければ条文の要求を満たしたことにはなりません。逆に言えば、事務所内に掲示していれば、ウェブサイトへの掲載自体は法律上の義務ではありません。
もっとも実務的には、ウェブサイトに料金表を載せておくメリットは大きく、問い合わせ前に依頼者が予算感を把握できるため、見積り段階での「思っていたより高い」というミスマッチを減らせます。事務所内掲示は義務として、ウェブ掲載は営業上の判断として、両方整えるのが現実的です。
掲示していないとどうなるか
行政書士法は、業務の適正な実施を確保するため、都道府県知事による監督(報告徴収・立入検査、懲戒処分)の仕組みを置いています。掲示義務違反そのものに直接の罰金刑が定められているわけではありませんが、行政書士法および同法に基づく命令に違反した場合は懲戒の対象となりうるため、「罰則がないから守らなくてよい」という理解は誤りです。
それ以上に実務的な問題として、報酬を掲示していない事務所は、依頼者から見て「いくらかかるか分からない事務所」です。掲示義務は、依頼者が費用を予測して行政書士を選べるようにするための規定であり、守ること自体が信頼につながります。
行政書士法上、報酬額の統計を作成・公表するよう努めなければならないとされているのは、日本行政書士会連合会のみである。
業務別の報酬相場一覧
出典|日行連「令和7年度報酬額統計調査」
本記事の相場表は、日本行政書士会連合会「令和7年度報酬額統計調査の結果」(令和8年1月実施) に基づいています。日行連は、行政書士法第10条の2第2項に基づき、5年に1度、全国的な報酬額統計調査を実施しており、その結果を日行連ウェブサイトの「情報公開>報酬額の統計」で公開しています。
調査結果の見方について、日行連自身が付している注記が重要です。
- 金額には消費税が含まれています。 表の数値は税込み額です。税抜きの報酬設定と比較する際は注意してください。
- 立替金は含まれていません。 許可手数料・登録免許税・証紙代・各種証明書の取得費用といった実費は別枠です。表の金額は行政書士が受け取る部分です。
- 同一業務でも取扱い内容によって差が生じます。 日行連も「同一業務でも具体的な取扱い内容等によって、行政書士の受ける報酬額には大きな差が生じます」と明記しています。
統計の読み方|平均値・最頻値・最大値は別物
この統計の価値は、単一の平均値ではなく分布が公表されている点にあります。実際のデータで確かめてみましょう。
産業廃棄物収集運搬業(積替保管を含む)は、平均値が34万円台なのに最頻値は22万円です。これは、一部の高額回答(最大300万円)が平均を押し上げているためで、「最も多い価格帯」は平均よりかなり下にあります。遺産分割協議書も同様で、平均約7万円に対して最頻値は5.5万円です。
逆に、建設業許可申請(法人・新規/知事)は平均15.1万円に対して最頻値16.5万円と、最頻値のほうが高くなっています。これは分布が15万〜20万円の帯に集中しているためで、下位の低額回答が平均を引き下げている構図です。
つまり、「平均を見るか最頻値を見るか」で結論が数万円変わります。自分の価格を決めるときは最頻値(=いちばん多い価格帯)を基準に、平均値との差から分布の偏りを読むのが実務的です。
以下、主要分野ごとに実データを掲載します。すべて令和7年度調査の数値(税込み・立替金を含まない)です。
相場表を読む前の3つの注意
- 回答者数を必ず見てください。 回答者が数名しかいない業務の平均値は、たまたま回答した数人の価格にすぎません。本記事では回答者数を併記していますので、n が小さい業務は「参考程度」と割り引いて読んでください。
- 地域差があります。 統計は全国集計であり、都市部と地方、競合の多寡によって実際の相場は動きます。最終的には自分の営業圏の同業者の公開料金を確認する必要があります。
- 案件の難易度差があります。 同じ「建設業許可申請」でも、要件充足が明白な案件と、経営業務の管理責任者の確認に何か月もかかる案件では作業量が桁違いです。相場表は「標準的な案件」の目安と考えてください。
建設業関連の報酬相場
出典: 日本行政書士会連合会「令和7年度報酬額統計調査の結果」(令和8年1月実施)。金額は消費税を含み、立替金は含みません(以下の表も同じ)。
(※)建設業許可申請(個人・新規/知事)の最小値は、公表資料上きわめて小さい値が記録されており、通常の受任価格を反映したものとは考えにくいため、ここでは最大値のみを掲載しています。
建設業許可は行政書士の代表的な業務であり、回答者数の多さ(新規・更新あわせて1,000件超)からも、いかに多くの事務所が扱っているかが分かります。注目したいのは、知事許可の新規(法人)は最頻値165,000円なのに対し、更新は最頻値55,000円と3分の1である点です。更新は添付書類が定型化しており作業量が少ないため、この差は合理的です。
一方、建設業変更届出(事業年度終了)は回答者1,029名と全業務中でも最大級で、最頻値33,000円。単価は低いものの、許可を持つ事業者は毎年必ず提出するため、件数が積み上がればストック型の収入源になります。許可を取得した事業者は、毎年の決算変更届、5年ごとの更新、公共工事を狙う場合の経営事項審査(経営状況分析+経営規模等評価)と、継続的に手続きが発生するため、一度受任すると関係が長期化しやすいのが特徴です。
経営規模等評価申請の分布は特徴的で、最頻値は55,000円ですが、回答の29.4%が「8万円以上」に集中しています。平均72,611円は、この上位帯に引っ張られた結果です。経審は工事種類数や完成工事高の規模で作業量が変わるため、一律料金ではなく規模別の料金体系にしている事務所が多いことが読み取れます。
→ 詳しい手続きは 建設業許可申請の実務|要件と必要書類の全体像、更新については 建設業許可の更新手続き|5年ごとの流れと注意点 をご覧ください。
産業廃棄物関連の報酬相場
出典: 同上。
産廃分野は、「積替保管を含むか否か」で報酬が大きく変わる典型例です。積替保管を除く収集運搬業の最頻値110,000円に対し、積替保管を含むと最頻値220,000円と倍増します。積替保管施設の要件確認や図面作成が加わるためです。
処分業(中間処理)は平均979,104円と高額ですが、回答者は20名しかいません。しかも最頻値は330,000円で、最大値は500万円です。これは「施設の規模によって100万円単位で変動する業務」を意味しており、平均値を自分の料金表にそのまま持ち込むのは危険です。この規模の案件は個別見積りが前提と考えてください。
入管業務(外国人関連)の報酬相場
出典: 同上。
入管業務は専門性が高く、報酬も比較的高額です。この表から読み取れるポイントは3つあります。
第一に、同じ在留資格の手続きでも「認定・変更・更新」で価格帯が明確に分かれています。認定証明書交付申請(新規招へい)の最頻値110,000円に対し、期間更新は55,000円と半額です。更新は既存の資料が使えるため作業量が少なく、料金体系を3段階に分けている事務所が多いことが分かります。
第二に、「経営・管理」の在留資格は他の就労資格より高い傾向が明確です。認定申請で最頻値220,000円と、就労資格の2倍。事業計画書の作成や事業所の実在性の立証など、他の資格にはない作業が加わるためです。
第三に、帰化許可申請は依頼者の属性で単価が変わります。被雇用者(会社員)の最頻値200,000円に対し、個人事業主・法人役員は最頻値300,000円。事業所得の疎明資料や納税状況の確認が必要になり、収集書類が大幅に増えるためです。日行連の統計が申請者属性で項目を分けていること自体が、実務の実態を反映しています。
なお、出入国在留管理庁への申請取次を行うには、申請取次行政書士としての届出(届出済証明書の交付)が必要で、一定の研修を修了していることが前提となります。帰化許可申請は国籍法に基づく法務局への申請であり、入管への申請とは所管が異なる点にも注意してください。
→ 在留資格の種類と要件|就労系・身分系の全体像、帰化許可申請の実務|要件と必要書類、外国人支援業務の実務|行政書士の関わり方
相続・遺言関連の報酬相場
出典: 同上。
遺産分割協議書の作成は回答者705名と、相続分野では最も扱われている業務です。最頻値55,000円、平均69,752円ですが、最小1,000円から最大1,000,000円まで1,000倍の開きがあります。これは相続人の人数、遺産の種類(不動産の筆数、金融機関の数)、遠方の戸籍収集の要否によって作業量が桁違いに変わるためで、「一律◯万円」ではなく、相続人◯名まで/不動産◯筆までを基本料金とし、超過分を加算する体系が実務的です。
遺言書の起案及び作成指導は、分布を見ると「10万円〜20万円未満」の帯が28.1%と2番目に厚く、最頻値5万円との二極化がうかがえます。公正証書遺言で公証役場との調整や証人の手配まで含むか、自筆証書遺言の文案作成にとどめるかで、含まれる作業が大きく違うためと考えられます。見積り時に「どこまでやるか」を明示することが、この業務では特に重要です。
ここで注意したいのが業務範囲(独占業務の境界)です。行政書士が作成できるのは「権利義務又は事実証明に関する書類」(行政書士法第1条の3第1項)であり、遺産分割協議書の作成はこれに含まれます。一方で、相続争いがある中での代理交渉や、家庭裁判所での調停・審判の代理は弁護士の業務であり、相続税の申告は税理士の業務、相続登記の申請代理は司法書士の業務です。報酬を提示する前提として、自分が受任できる範囲を正確に切り分けることが、業際問題を避けるうえで欠かせません。
→ 相続・遺言業務の実務|行政書士ができること、遺産分割協議書の作成実務|記載事項と注意点、他士業との連携|業際を守りながら仕事を広げる
法人設立・会社関連の報酬相場
出典: 同上。
会社設立手続は平均106,371円、最頻値110,000円と、平均と最頻値がほぼ一致する珍しい業務です。分布も「5万〜15万円未満」に75.6%が集まっており、価格帯が全国的に安定していることを示しています。逆に言えば、この帯から大きく外れた価格設定は説明が必要になります。
会社設立では、行政書士は定款の作成と電子定款の認証手続のサポートを担います。ここでも業際に注意が必要で、設立登記の申請代理は司法書士の業務です。行政書士単独で登記まで完結させることはできないため、司法書士と連携するか、依頼者本人申請をサポートする形になります。
NPO法人(特定非営利活動法人)の設立は所轄庁の認証が必要で、書類が多く期間も長いため報酬が高めです(最頻値200,000円)。ただし回答者32名と少なく、地域による差も想定されます。
→ 会社設立の実務|定款作成から登記までの流れ、NPO法人・公益法人の設立支援
自動車登録・車庫証明の報酬相場
出典: 同上。
自動車関連は、他分野とは桁が1つ違う低単価業務です。車庫証明の最頻値は5,000円、軽自動車の車庫届出は5,500円。1件あたりの利益は小さく、ディーラーや販売店から継続的にまとまった件数を受注する前提でなければ事業として成立しにくい構造です。
平均値13,428円が最頻値5,000円の2.7倍になっているのは、最大値1,414,702円のような一括受注(複数台をまとめた案件)が混じっているためと考えられます。この分野で相場を判断するときは、平均値ではなく最頻値を見るべき典型例です。
低単価であるがゆえに、この分野は業務の効率化そのものが利益率を決めます。ワンストップサービス(OSS)を使った電子申請の項目も統計に立っており、紙申請とほぼ同じ価格帯(新車新規OSSの最頻値5,500円)である点も参考になります。
→ 自動車登録・車庫証明の実務、行政書士の電子申請|デジタル化への対応
風俗営業・飲食・酒類・古物の報酬相場
出典: 同上。
風俗営業許可(風営法に基づく公安委員会への許可)は、店舗の求積図(平面図・照明配置図等)の作成や、保全対象施設との距離の調査が必要で、他の許認可にはない実測作業が入るため高単価です。1号営業の最頻値220,000円は、行政書士の許認可業務のなかでも上位に位置します。
一方、深夜酒類提供飲食店は「届出」であって「許可」ではないにもかかわらず、最頻値110,000円と決して安くありません。届出だから簡単だと考えて安値をつけると赤字になります。実際には風俗営業許可と同様に図面作成と要件調査が必要で、作業量に見合った価格設定がされていることが統計から読み取れます。
古物商許可は回答者261名と、この分野では最も一般的な業務です。最頻値55,000円、分布の50.6%が「4万円〜6万円未満」に集中しており、価格帯が明確に固まっています。
→ 風俗営業許可の実務|要件と図面作成、酒類販売業免許の実務
農地関連の報酬相場
出典: 同上。
農地関連は、条文の号数がそのまま価格差になっている分かりやすい分野です。3条(権利移動)<4条(自己転用)<5条(転用目的の権利移動)の順に高くなります。5条は転用と権利移動の両方の要件を審査するため、最も手間がかかります。
さらに重要なのが、同じ4条・5条でも「許可」と「届出」で価格が倍近く違う点です。市街化区域内の農地転用は農業委員会への届出で足りるため(農地法第4条第1項・第5条第1項の各号に基づく届出)、許可申請より作業量が少なく、統計上も最頻値50,000円と、許可の80,000円〜100,000円より明確に低くなっています。市街化区域か否かの確認が、そのまま見積り金額を左右するということです。
運送業関連の報酬相場
出典: 同上。
運送業は、行政書士の許認可業務のなかで最も単価が高い分野の一つです。一般貨物自動車運送事業の経営許可は最頻値550,000円。営業所・車庫・休憩施設それぞれの立地要件(都市計画法・農地法・建築基準法との適合)を確認し、資金計画・運行管理体制まで整える必要があり、着手から許可まで数か月を要するためです。
同時に、この分野も許可後の継続業務がセットになります。実績報告書・営業報告書は毎年提出が必要で、最頻値33,000円。増車・減車の事業計画変更届も随時発生します。高単価の新規許可と、低単価だが定期的に発生する報告業務を組み合わせることで、収益が安定する構造です。
回答者数が12名の貸切バスのように、n が小さい業務は平均値の信頼性が下がります。この規模の案件を受任する場合は、統計を参考にしつつも、実際の作業時間から自分で積算するのが確実です。
主要業務の相場サマリー(最頻値で比較)
分野をまたいで比較すると、行政書士業務の価格構造が見えてきます。最頻値(=最も多い価格帯)だけを並べたのが次の表です。
出典: 日本行政書士会連合会「令和7年度報酬額統計調査の結果」(令和8年1月実施)。
この並びから読み取れることが3つあります。
- 新規の許可申請は高く、更新・変更届は安い。 同じ分野でも新規と更新で2〜3倍の差があります。事務所の収益は「高単価の新規」と「低単価だが件数の出る継続業務」の組み合わせで作るのが基本形です。
- 要件調査や実測作業が入る業務は高い。 風俗営業(図面作成)、運送業(施設の立地要件)、経営・管理の在留資格(事業計画)など、書類を作るだけでなく調査・設計が必要な業務ほど単価が上がります。
- 定型的で件数が出る業務は5,000円〜55,000円の帯に集中する。 車庫証明、古物商、飲食店営業などがこれにあたります。この帯で勝負するなら、業務フローの標準化と受注ルートの確保が前提になります。
統計に載っていない業務の相場の調べ方
日行連の統計は約490項目をカバーしていますが、それでも載っていない業務や、載っていても回答者が数名しかいない業務があります。補助金申請支援、契約書作成、コンサルティング業務などは、その代表です。
数値が確認できない業務については、無理に「相場は◯万円です」と決めつけず、次の順序で自分の価格を組み立ててください。
重要なのは、根拠のない数字を相場として掲げないことです。依頼者に「この金額の根拠は何ですか」と聞かれたときに、統計か、自分の作業時間か、いずれかで説明できる状態にしておいてください。
→ 数字が取りにくい非定型業務については コンサルティング業務への展開、補助金・助成金申請支援の実務 もあわせてご覧ください。
報酬の幅をどう捉えるか
同じ業務でも報酬に幅があるのは、次のような要素が金額を左右するためです。
報酬の決め方|3つのアプローチ
アプローチ1: 原価計算方式
原価計算方式は、業務にかかるコスト(時間・経費)を積み上げて報酬を算出する方法です。最も合理的なアプローチと言えます。
計算の手順
- 業務にかかる時間を見積もる(調査・書類作成・申請・顧客対応など)
- 自分の時給を設定する(目標年収から逆算)
- 直接経費を加算する(交通費・郵送費・印紙代など)
- 間接経費を按分する(事務所家賃・通信費・会費など)
- 利益率を上乗せする
具体例: 建設業許可(知事・新規)の場合
この方法のメリットは、報酬額の根拠を明確に説明できることです。依頼者から「なぜこの金額なのか」と聞かれた際にも、論理的に回答できます。
積算結果を統計と突き合わせる
ここで重要なのが、積算した金額を必ず統計と照合することです。上の例で算出した約120,000円は、令和7年度統計の建設業許可申請(法人・新規/知事)の最頻値165,000円を下回っています(平均値は151,341円)。
この差をどう解釈するかが、価格設定の分かれ目です。
多くの場合、開業初期の積算が相場を下回るのは作業時間を短く見積もっているからです。初めて扱う許認可では、要件の確認、様式の理解、窓口への事前相談、補正対応に、経験者の2倍以上の時間がかかるのが普通です。積算値が統計の最頻値を大きく下回ったら、まずは自分の時間見積りを疑ってください。
目標年収から時給を逆算する
時給設定は感覚で決めず、目標年収から逆算するのが合理的です。たとえば年間で実際に売上業務に充てられる稼働時間(営業・経理・自己研鑽などを除いた時間)を年1,000時間程度と見積もると、次のような逆算ができます。
開業初期は稼働時間のうち営業・事務に取られる割合が大きいため、見かけの時給よりも実質時給は下がります。この点を織り込んで、利益率を厚めに設定するのが現実的です。
アプローチ2: 競合比較方式
地域の同業者がどのような報酬を設定しているかを調査し、それを参考にして自分の報酬を決める方法です。
調査の方法
- 同じ地域の行政書士事務所のホームページで公開されている報酬を調べる
- 日行連の報酬統計を参照する
- 行政書士会の支部活動などで同業者と情報交換する
- ポータルサイトに掲載されている報酬を比較する
なお、同業者との情報交換の際に「この地域はみんな○万円にしよう」と価格を申し合わせることは、独占禁止法上の価格カルテルに該当しうるため厳禁です。あくまで公開情報や統計を参考にして、自分で判断することが原則です。
ポジショニングの考え方
価格競争に巻き込まれると、薄利多売による疲弊や、品質低下による信用失墜のリスクが高まります。とくに開業初期は「安くすれば仕事が来る」と考えがちですが、安値で集まった顧客は次回も安い事務所へ流れやすく、継続的な関係を築きにくい傾向があります。
アプローチ3: 価値ベース方式
依頼者が受け取る「価値」に基づいて報酬を設定する方法です。最も付加価値の高い価格設定が可能です。
考え方の例
- 建設業許可がなければ受注できない工事の金額が500万円なら、その許可取得に16.5万円(統計上の最頻値)の報酬は依頼者にとって「投資対効果が高い」
- 帰化申請が不許可になった場合のリスク(時間・費用の損失)を考えれば、確実に許可を取れる専門家に20万円(被雇用者の最頻値)支払うのは合理的
- 遺産分割で揉めて調停・裁判になった場合の弁護士費用と比較すれば、遺産分割協議書の作成費5.5万円(最頻値)は安い
この方法は、依頼者にとっての「問題解決の価値」を正しく伝えることが前提となります。自分の専門性や実績を適切にアピールする必要があります。
3つのアプローチの比較
実務では、まず原価計算で下限(これ以下にすると赤字になるライン)を把握し、競合比較で市場の幅を確認し、価値ベースで上振れの余地を探る、という三段構えで決めるのが現実的です。
安く設定してしまう失敗|開業者が陥る5つのパターン
報酬設定でいちばん多い失敗は、高く付けすぎることではなく安く付けすぎることです。しかも、安値設定の弊害は数か月〜1年遅れて現れるため、渦中にいると気づきにくいという厄介さがあります。ここでは典型的な失敗パターンを挙げます。
失敗1|「実績がないから安く」で始めてしまう
開業直後にもっとも多いのがこれです。「まだ実績がないので相場の半額で」と設定し、そのまま抜け出せなくなるパターンです。
問題は2つあります。第一に、安値で集まった顧客は次回も安い事務所へ移ります。価格で選ばれた関係は価格で終わります。第二に、一度掲示した報酬額を後から2倍にするのは、既存顧客への説明が非常に難しいという点です。掲示義務がある以上、料金表は公開情報であり、値上げは必ず既存顧客の目に触れます。
現実的な対処は、基本料金は相場帯に置いたうえで、期間限定・件数限定の割引として案内することです。「初回3件まで開業記念価格」であれば、通常価格が何であるかが明示されるため、後で通常価格に戻すのが自然になります。
失敗2|補正・追加対応の時間を計算に入れていない
見積り時には「書類を作って出す時間」だけを数えがちですが、実際の作業はそこで終わりません。
とくに依頼者からの資料回収は、多くの開業者が想定の3倍の時間を使う工程です。統計の最頻値が「そんなに高いのか」と感じられるとしたら、それはこれらの見えない作業時間が織り込まれた結果だと考えてください。
失敗3|実費を報酬に含めてしまう
「総額◯万円」と提示した後で、許可手数料や証紙代を自分が負担していることに気づく、というケースです。建設業許可の知事許可(新規)のように数万円単位の手数料がかかる業務では、これだけで利益が消えます。
対処は明快で、見積書の段階から報酬と実費を必ず分けて記載することです。日行連の統計も「金額には消費税を含み、立替金は含みません」と明記しており、報酬と実費を分けるのは業界の標準的な考え方です。
失敗4|値引き交渉に反射的に応じてしまう
「もう少し安くならないか」と言われて、その場で1〜2万円下げてしまうパターンです。
一度応じると、次の案件でも同じ交渉が前提になり、紹介された次の依頼者にも「あの先生は交渉すれば下げてくれる」と伝わります。値引きは価格ではなく信頼の問題として扱ってください。
値引きを求められたときの現実的な選択肢は次のとおりです。
金額だけを下げて業務範囲を変えないという対応が、いちばん避けるべき選択です。
失敗5|「安い=依頼者のため」だと思い込む
安値設定は、短期的には依頼者に喜ばれます。しかし採算が合わない価格で受け続けると、案件1件あたりにかけられる時間が減り、確認が甘くなり、結果として補正や不許可のリスクが上がります。事務所が続かなければ、許可後のフォローも受けられません。
行政書士法施行規則第3条第2項は「みだりに報酬の増加を図るような行為」を禁じていますが、適正な対価を受け取ることまで否定しているわけではありません。むしろ、継続的に質の高い業務を提供できる体制を維持することが、依頼者の利益にかないます。
安値設定に陥っていないかのセルフチェック
→ 開業初年度の現実については 開業1年目のリアル|売上・経費・失敗談、経費の把握については 事務所の経費を確定させる|開業時にかかる費用の全体像 もあわせてご覧ください。
報酬と税務の基礎知識
報酬を設定するうえで、税金の扱いも理解しておく必要があります。受験生が一般知識として押さえておくと役立つ範囲で整理します。
消費税
行政書士の報酬は課税取引であり、原則として消費税の課税対象です。開業当初は基準期間の課税売上がないため免税事業者となるのが一般的ですが、課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になります。インボイス制度(適格請求書等保存方式)の導入により、取引先が仕入税額控除を受けられるようにするため、適格請求書発行事業者の登録を検討する事務所も増えています。
源泉徴収
依頼者が法人や個人事業主の場合、行政書士へ支払う報酬から所得税を源泉徴収する取り扱いが問題になります。
実は、行政書士の報酬は、原則として源泉徴収の対象外とされています。根拠は条文の構造にあります。
弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
― 所得税法 第204条第1項第2号
この列挙に行政書士は含まれていません。「その他これらに類する者で政令で定めるもの」を受けた所得税法施行令第320条第2項も、計理士・会計士補・企業診断員・測量士補・建築代理士・不動産鑑定士補・火災損害鑑定人・自動車等損害鑑定人・技術士補を挙げるにとどまり、行政書士は列挙されていません。だから原則として源泉徴収されないのです。
ただし、例外に注意が必要です。施行令第320条第2項は「建築代理士」について、括弧書きで次のように定めています。
建築代理士(建築代理士以外の者で建築に関する申請若しくは届出の書類を作成し、又はこれらの手続を代理することを業とするものを含む。)
― 所得税法施行令 第320条第2項
つまり、行政書士であっても、建築に関する申請・届出の書類を作成したり手続を代理したりする業務についての報酬は、この括弧書きに該当し、源泉徴収の対象となりうるということです。「行政書士だから一律に源泉徴収は不要」と説明してしまうと、この場面で誤ることになります。
実務上は、支払者側(法人の経理担当者)が「士業=源泉徴収」と機械的に処理して、報酬から10.21%を差し引いて振り込んでくるケースがあります。請求書に「源泉徴収の対象外です」と一言添えておくと、こうした行き違いを防げます。個別の判断に迷う場合は、税理士または所轄の税務署に確認してください。
見積書・請求書の実務
見積りから入金までの一連の書類は、報酬トラブルを防ぐ最大の道具です。ここでは報酬と実費の切り分け、着手金と成功報酬の考え方、立替金の処理という3つの論点を中心に整理します。
見積書に記載すべき項目
見積書には以下の項目を明記しましょう。
- 業務名: 何の業務かを明確に(例:「建設業許可申請(知事許可・一般・新規)」)
- 報酬額: 行政書士の報酬として受け取る金額
- 実費: 印紙代、証紙代、郵送費、交通費など
- 合計額: 報酬+実費の総額
- 有効期限: 見積書の有効期間(通常1か月程度)
- 業務内容の範囲: 何が含まれ、何が含まれないかを明記
- 支払条件: 着手金と残金の割合、支払期日
- 備考: 追加費用が発生する可能性がある場合の条件
「報酬」と「実費」を必ず分ける
見積書で最もトラブルになりやすいのが、報酬と実費の混同です。たとえば建設業の新規許可申請では、知事許可なら都道府県に納める許可手数料が、大臣許可なら登録免許税が別途かかります。いずれも行政庁に納める実費であって行政書士の収入ではありません(金額は許可の区分によって異なるため、申請先の最新の案内で確認してください)。両者を分けて記載しないと、依頼者は「行政書士に高額を払った」と誤解しがちです。
日行連の報酬額統計調査も「調査の金額には消費税を含み、立替金は含みません」と明記しており、報酬と立替金を分けて把握するのは業界の標準的な考え方です。統計の数値と自分の料金を比較するときも、必ず実費を除いた報酬部分どうしで比べてください。実費込みの総額と統計の数値を比べると、自分の報酬が相場より高いと誤認することになります。
立替金(実費)の実務的な扱い方
実費は、行政書士が一時的に立て替えて支払い、後で依頼者に精算するのが一般的です。処理方法には次の3パターンがあります。
金額が大きい実費(登録免許税・許可手数料など)は、事前に預かるのが安全です。立て替えたまま依頼者と連絡が取れなくなると、そのまま損失になります。
会計処理の面でも、立替金は売上ではありません。請求書上で報酬と実費を分けておくと、確定申告時に売上を過大に計上する誤りを防げます。あわせて、消費税の扱いにも注意が必要です。行政庁に納める手数料や証紙代は不課税・非課税の取引であることが多く、報酬とは課税区分が異なります。この点は税理士に確認しておくとよいでしょう。
着手金と成功報酬の設計
許認可業務では「着手金+成功報酬(許可時報酬)」という2段階の設計が広く使われています。
この設計のメリットは、依頼者のリスクを下げつつ、行政書士側の未回収リスクも抑えられる点にあります。依頼者から見れば「許可が取れなければ全額は払わない」という安心感があり、行政書士から見れば着手金で最低限の作業対価は確保できます。
一方、注意点が2つあります。
第一に、行政書士の業務は「許可が取れること」を保証するものではありません。要件を満たさない案件でも、要件調査と書類作成という作業は現に発生します。「不許可なら全額返金」という設計にすると、要件を満たさない案件を受けた場合に無報酬で作業することになります。不許可の場合でも着手金は返金しない旨を、見積書と委任契約書の双方に明記してください。
第二に、「成功」の定義を明確にすることです。「許可通知書の交付を受けた時点」なのか「申請が受理された時点」なのかで、支払時期が数か月ずれます。曖昧にしておくとトラブルの原因になります。
領収証は省令上の義務|正副2通・職印・5年保存
報酬を受領したら、領収証の作成・交付が必要です。前述のとおり、これは商慣行ではなく行政書士法施行規則第10条の義務です。
あわせて、行政書士法第9条第1項により、業務に関する帳簿に「事件の名称、年月日、受けた報酬の額、依頼者の住所氏名」等を記載する義務があり、その帳簿は関係書類とともに帳簿閉鎖の時から2年間保存しなければなりません(同条第2項)。領収証の副本5年、帳簿2年と保存期間が異なる点は、実務で混同しやすいので押さえておいてください。
見積書提示のポイント
見積書を提示する際には、金額だけでなく「何をしてもらえるのか」を依頼者が理解できるようにすることが重要です。
- 業務の流れを簡潔に説明する
- 所要期間の目安を伝える
- 依頼者側で準備してもらう書類を一覧にする
- 報酬に含まれるサービスを具体的に列挙する(相談対応、書類作成、官公署への申請代行、補正対応など)
- 追加費用が発生するケースを事前に説明する
支払い方法の設計
報酬の支払い方法は、以下のパターンが一般的です。
開業1年目は着手金50%・残金50%の方式がおすすめです。全額後払いにすると、未払いリスクが高まります。
キャンセル・着手後の取り扱い
着手後に依頼者の都合で業務が中止になった場合に備え、見積書や委任契約書に「着手後のキャンセルは着手金を返金しない」「進捗に応じて精算する」などの条項を入れておくと、後のトラブルを防げます。書類作成委任契約をきちんと書面化しておくことは、報酬請求の根拠としても重要です。
報酬の値上げ|タイミングと方法
値上げを検討すべきタイミング
以下のようなサインが出たら、報酬の値上げを検討しましょう。
- 案件の依頼が多すぎて処理しきれない
- 受任率が80%を超えている(ほぼすべての見積もりが成約)
- 同業者と比較して明らかに安い
- 業務の品質・スピードが向上した
- 特定分野での実績が十分に積み上がった
受任率が高すぎる(ほぼ100%成約する)場合は、価格が市場より安すぎる可能性が高いサインです。逆に、提示すると大半が断られる場合は、価格と提供価値のバランスが取れていないか、説明が不足している可能性があります。受任率は60〜80%程度を一つの目安とし、これを上回り続けるなら値上げの検討余地があります。
値上げの方法
値上げは慎重に行う必要がありますが、事業を成長させるためには避けて通れません。
- 新規顧客から段階的に適用: 既存顧客の報酬は据え置き、新規顧客から新料金を適用する
- サービス内容の充実とセットで実施: 「報酬は上がりましたが、サービスも向上しました」と説明できるようにする
- 年1回の見直しを習慣化: 毎年決まった時期に報酬の見直しを行う
- 事前告知: 既存顧客に対しては、2〜3か月前に告知するのが礼儀
報酬額を改定したら、事務所に掲示している報酬額表も忘れずに更新しましょう。掲示している額と実際に請求する額が食い違うと、掲示義務(行政書士法第10条の2第1項)の趣旨に反するうえ、依頼者の信頼を損ないます。
報酬設定で差をつける工夫
パッケージ料金の導入
単品の業務ではなく、関連する複数の業務をパッケージにして提供する方法です。
例: 建設業パッケージ
上の例は、統計の最頻値(新規許可165,000円、決算変更届33,000円、更新55,000円)を出発点に組んだものです。単品の合計は約38.5万円になるため、フルサポートはわずかな割引にとどめつつ、5年分の手続きを一度に確約してもらうという設計になっています。
パッケージ料金は、依頼者にとって「トータルで何がいくらかかるか」が明確になるメリットがあります。行政書士側にとっても、更新時期に他事務所へ流れるリスクを減らせる点が大きな利点です。
顧問契約の提案
スポットの案件だけでなく、継続的な顧問契約を提案することで安定収入を確保できます。
- 建設業者向け: 月額2万〜3万円で、変更届・更新手続き・各種相談に対応
- 外国人雇用企業向け: 月額3万〜5万円で、在留資格の更新・変更手続きに対応
- 中小企業向け: 月額1万〜3万円で、許認可の維持管理・各種届出に対応
顧問契約は、スポット業務の積み上げよりも収入の見通しが立てやすく、資金繰りの安定に直結します。1件あたりの単価は低くても、継続することで生涯顧客価値(その顧客から得られる累計売上)は大きくなります。
専門特化による単価向上
「何でもやります」より「この分野なら任せられる」という専門特化は、価値ベース方式での高単価を後押しします。建設業・入管・相続・産廃など、自分の強みを明確にすることで、紹介や指名が増え、価格競争から抜け出しやすくなります。
統計からも、この効果は読み取れます。たとえば在留資格の「経営・管理」(認定申請の最頻値220,000円)や、産業廃棄物処分業(中間処理)のように、扱える事務所が限られる業務ほど単価が高い傾向が明確です。逆に、車庫証明や古物商のように参入障壁の低い業務は、価格帯が全国的に固まっており、単価で差をつけるのは困難です。
どの分野に特化するかは、単なる興味の問題ではなく価格戦略そのものだということです。専門分野の選び方については、開業準備の段階から意識しておくとよいでしょう。
→ 専門分野の選び方|稼げる分野と自分に合う分野、行政書士の営業手法|受注につながる動き方
まとめ
行政書士の報酬設定は、単に「相場に合わせる」だけでは不十分です。自分の事務所の強み、地域の競合状況、依頼者にとっての価値を総合的に考慮した上で、適正な報酬を設定することが求められます。
報酬設定のポイントをまとめると以下の通りです。
- 報酬基準は2000年(平成12年)施行の改正で撤廃され自由化された。ただし掲示義務(行政書士法第10条の2第1項)は残っている
- 掲示は「その業務に関し受ける報酬の額」を、日行連の定める様式に準じた表で行う(施行規則第3条第1項)
- 相場の出発点は日行連「令和7年度報酬額統計調査」(令和8年1月実施)。5年に1度の全国調査で、税込み・立替金を含まない
- 平均値ではなく最頻値を基準に見る。同じ業務でも最小値と最大値は数十倍の開きがある
- 原価計算で下限・競合比較で市場の幅・価値ベースで上振れの3段構えで決める
- 見積書は報酬と実費を分け、着手金と成功報酬の条件・「成功」の定義を明記する
- 領収証の交付(施行規則第10条)と帳簿への報酬額記載(法第9条)は法令上の義務
- 業際(弁護士・税理士・司法書士の業務範囲)を意識し、受任できる範囲で報酬を設定する
- 安値設定は数か月遅れで効いてくる。受任率が高すぎる状態は値上げのサイン
- 事業の成長に合わせて、定期的に報酬の見直しと掲示の更新を行う
報酬は、あなたの専門性と提供する価値を数字で表したものです。自信を持って適正な報酬を設定し、それに見合う高品質なサービスを提供することが、行政書士事務所の持続的な成長につながります。
FAQ|行政書士の報酬に関するよくある質問
Q1. 相場より高い報酬を設定してもよいですか
問題ありません。報酬額は各行政書士が自由に決められ、統計はあくまで参考情報です。日行連の統計を見ても、たとえば建設業許可申請(法人・新規/知事)は最小30,000円から最大365,000円まで10倍以上の開きがあり、相場より高い事務所も低い事務所も現に存在しています。
重要なのは金額そのものより、その金額の理由を説明できるかです。専門特化による確実性、短納期対応、許可後のフォロー、多言語対応など、価格差の根拠を提示できれば、相場より高くても受任は成立します。逆に、根拠を説明できないまま高額を提示すると、見積り段階で断られます。
Q2. 値引き交渉にはどう応じるべきですか
金額だけを下げて業務範囲を変えない対応は避けてください。一度応じると次回以降も交渉が前提になり、紹介経由の依頼者にも伝わります。
現実的な選択肢は、(1) 業務範囲を減らす(書類作成までで申請は本人申請)、(2) 金額は据え置いて支払条件を調整する(分割払い)、(3) 複数件のまとめ受注を条件に単価を下げる、(4) 適正価格を説明したうえで受任しない、の4つです。
なお、行政書士法第11条は「正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」と定めていますが、これは提示した報酬に依頼者が納得しない場合まで受任を強制する趣旨ではないと解されています。無報酬や著しく不相当な報酬での受任義務まで課すものではありません。
Q3. 実費はどのように請求すればよいですか
見積書・請求書の段階から、報酬と実費(立替金)を必ず別の行に分けて記載してください。実費は行政庁等に納める費用であって行政書士の売上ではありません。日行連の統計も「立替金は含みません」と明記しています。
金額が大きい実費(登録免許税・許可手数料など)は、着手時に概算で預かるのが安全です。少額であれば立て替えて完了時に精算します。領収証や納付書の控えを添付して精算すると、依頼者の納得が得られやすくなります。
Q4. 報酬額はどこに掲示すればよいですか
事務所の見やすい場所です(行政書士法第10条の2第1項)。掲示の様式は行政書士法施行規則第3条第1項により「日本行政書士会連合会の定める様式に準じた表」と定められています。所属する行政書士会から様式の案内が出ているのが通常なので、登録時に確認してください。
ホームページへの掲載は、事務所内掲示の代わりにはなりません。条文が求めているのは「その事務所の見やすい場所」への掲示だからです。ただし、ウェブ掲載自体は営業上のメリットが大きいため、両方整えるのが実務的です。行政書士法人の事務所についても、第13条の17の準用により同じ義務が及びます。
Q5. 掲示している額と実際に請求する額が違ってもよいですか
好ましくありません。条文は「その業務に関し受ける報酬の額」の掲示を求めており、現に受け取っている額を示すことが前提です。掲示額と請求額が乖離していると、掲示義務の趣旨に反するうえ、依頼者の信頼を損ないます。
案件ごとに金額が変動する業務については、「基本報酬◯円(相続人3名まで/不動産2筆まで)、超過分は1名につき◯円加算」のように、算定方法を含めて掲示するのが現実的です。報酬を改定したときは、掲示も同時に更新してください。
Q6. 領収証は市販のもので構いませんか
行政書士法施行規則第10条は「日本行政書士会連合会の定める様式により正副二通の領収証を作成し、正本は、これに記名し職印を押して当該依頼人に交付し、副本は、作成の日から五年間保存しなければならない」と定めています。様式が指定されているため、所属会を通じて入手できる所定の領収証を使用してください。
あわせて、行政書士法第9条第1項により、業務に関する帳簿に「受けた報酬の額」を記載する義務があります。帳簿は関係書類とともに帳簿閉鎖の時から2年間の保存が必要です(同条第2項)。領収証の副本は5年、帳簿は2年と保存期間が異なる点に注意してください。
Q7. 行政書士の報酬は源泉徴収されますか
原則として源泉徴収の対象外です。所得税法第204条第1項第2号は、弁護士・司法書士・土地家屋調査士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・測量士・建築士・不動産鑑定士・技術士を列挙していますが、行政書士は含まれていません。同法施行令第320条第2項の「政令で定めるもの」にも行政書士の記載はありません。
ただし例外があります。施行令第320条第2項は「建築代理士(建築代理士以外の者で建築に関する申請若しくは届出の書類を作成し、又はこれらの手続を代理することを業とするものを含む。)」と定めており、建築に関する申請・届出の書類作成や手続代理に係る報酬は源泉徴収の対象となりうると考えられます。個別の判断は税理士または所轄税務署に確認してください。
Q8. 開業初年度はどのくらいの価格から始めるべきですか
統計の最頻値を基準に置き、そこから戦略的にどう位置取りするかを決めるのが出発点です。「実績がないから半額」という設定は、後で値上げできなくなるためおすすめしません。
どうしても初期の受注が必要な場合は、基本料金は相場帯に置いたうえで「開業記念・先着3件限定」のように期間や件数を区切った割引として案内してください。通常価格が明示されているため、後で通常価格に戻すのが自然になります。
Q9. 値上げはいつ、どのように行うべきですか
受任率が80%を超え続けているのが最も分かりやすいサインです。提示すればほぼ成約するということは、価格が市場より低い可能性が高いことを意味します。受任率60〜80%程度が一つの目安です。
方法としては、(1) 新規顧客から新料金を適用し既存顧客は据え置く、(2) サービス内容の充実とセットで実施する、(3) 既存顧客には2〜3か月前に告知する、(4) 年1回の見直しを習慣化する、という進め方が現実的です。改定したら、事務所の掲示も必ず更新してください。
Q10. 顧問契約の月額はどう決めればよいですか
年間に発生する見込み業務をスポット料金で積算し、それを12で割った額から割引くのが基本の考え方です。たとえば建設業者であれば、年1回の決算変更届(統計上の最頻値33,000円)、随時発生する変更届、5年ごとの更新(同55,000円)を年割りしたうえで、相談対応の価値を上乗せします。
顧問契約の価値は、単価の合計ではなく「いつでも聞ける」ことにあります。相談対応の範囲(回数無制限か、月◯回までか)と、顧問料に含まれない業務(新規許可申請など)を契約書で明示しておいてください。
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行政書士法では、事務所の見やすい場所に報酬額を掲示することが義務づけられている。
行政書士は、依頼人から報酬を受けたときに領収証を交付する義務を、行政書士法施行規則により負っている。
行政書士は、依頼人が依頼していない書類を作成して報酬を受けることも、報酬額が自由である以上は許される。
行政書士の報酬設定における「価値ベース方式」とは、業務にかかる時間と経費から報酬を算出する方法である。
同業者団体である行政書士会が、地域内の会員に対して一律の報酬額を定めて従わせることは、独占禁止法上問題となりうる。
法人や個人事業主が行政書士に報酬を支払う場合、その報酬は所得税の源泉徴収の対象として個別に列挙されている。