(公開 2025/12/10) / キャリア

行政書士と司法書士の違い|どっちを目指すべき?

行政書士と司法書士の違いを業務範囲・試験難易度・年収・将来性の観点から徹底比較。ダブルライセンスのメリットや自分に合った資格の選び方まで、両資格の違いがわかる完全ガイドです。

結論|違いは「登記ができるかどうか」の一点に集約する

行政書士と司法書士の決定的な違いは、登記申請の代理ができるかどうかです。 不動産登記・商業登記の申請代理は司法書士の独占業務であり(司法書士法3条1項1号)、行政書士はこれを行えません。逆に、建設業許可や在留資格申請といった官公署への許認可申請書類の作成・提出代理は行政書士の領域です(行政書士法1条の3、1条の4)。両者はともに「書類作成の専門家」ですが、書類の提出先が「役所」なのか「法務局・裁判所」なのかで守備範囲が分かれています。試験難易度は司法書士のほうが明確に上で、令和7年度の合格率は行政書士14.54%に対し司法書士は約5.2%でした。

まず、迷っている人が最初に押さえるべき違いを一枚の表にまとめます。

行政書士司法書士ひとことで言うと官公署への許認可手続の専門家登記と裁判手続書類の専門家主な提出先都道府県・市区町村・国の行政機関法務局・裁判所根拠法行政書士法(昭和26年法律第4号)司法書士法(昭和25年法律第197号)業務の根拠条文1条の3、1条の43条1項各号登記申請の代理できないできる(独占業務)許認可申請の代理できる(独占業務)できない裁判所提出書類の作成できないできる訴訟代理できない簡裁・140万円以下のみ(認定司法書士)合格率(令和7年度)14.54%約5.2%試験時間3時間午前2時間+午後3時間学習時間の目安600〜1,000時間2,000〜3,000時間受験資格なしなし

<small>合格率の出典:行政書士は一般財団法人行政書士試験研究センター「令和7年度行政書士試験実施結果の概要」、司法書士は法務省「令和7年度司法書士試験の最終結果について」(受験者14,418人/合格者751人から算出)。学習時間は各予備校が示す一般的な目安であり、公的な統計ではありません。</small>

30秒で決める1行診断

こう思っているなら向いているのは「不動産や会社の名義変更に携わりたい」司法書士「外国人支援や建設業のサポートをしたい」行政書士「まず1〜2年で法律系の資格を1つ取りたい」行政書士「3年かけてでも高い専門性を持ちたい」司法書士「相続を丸ごと引き受けたい」最終的には両方(まず行政書士から)「今の仕事を続けながら勉強したい」行政書士

「行政書士と司法書士って何が違うの?」「どっちを目指すべき?」という疑問は、法律系資格を検討している方に非常に多い悩みです。どちらも法律系の国家資格であり、書類作成の専門家という点では共通しています。しかし業務範囲、試験の難易度、収入構造、キャリアパスには明確な差があります。

この記事では、まず条文レベルで業務範囲の線引きを確定させ、そのうえで試験・年収・キャリアを公式データに基づいて比較します。ネット上には出典不明の数字が多く出回っているため、本記事では公表元をたどれる数字だけを扱い、根拠のない推測は「目安」と明示して区別します。

業務範囲の違いを条文で確定させる

行政書士と司法書士の最も根本的な違いは、業務範囲にあります。ここは記事によって説明がぶれやすい部分なので、両方の根拠条文を原文で確認しながら整理します。業際(ぎょうさい=士業間の業務範囲の境界)の理解を誤ると、実務では非弁・非司の問題に直結するため、資格選びの段階で正確に押さえておく価値があります。

行政書士の業務は行政書士法1条の3・1条の4に書かれている

行政書士の業務を定めているのは、行政書士法1条の3(業務)と1条の4です。

行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(中略)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
― 行政書士法 第1条の3第1項

この一文が、行政書士の業務のすべての出発点です。ここから「行政書士が作成できる3種類の書類」が導かれます。

書類の類型意味具体例官公署に提出する書類国・地方公共団体などに提出する書類建設業許可申請書、風俗営業許可申請書、産業廃棄物収集運搬業許可申請書、在留資格関係申請書、農地転用許可申請書、自動車登録申請書権利義務に関する書類権利の発生・存続・変更・消滅の効果を生じさせる意思表示を内容とする書類遺産分割協議書、各種契約書、示談書、内容証明郵便、定款、離婚協議書事実証明に関する書類社会生活に交渉を有する事項を証明する書類議事録、会計帳簿、財務諸表、相続関係説明図、実地調査に基づく図面類

そして1条の4が、書類作成に付随する代理・相談の業務を定めています。

行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(中略)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(中略)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。
二 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。
三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。
― 行政書士法 第1条の4第1項

条文を読むと、1条の4の代理権が「前条の規定により行政書士が作成することができる書類」に紐づいていることがわかります。つまり行政書士の代理権は、自分が作成できる書類の範囲を超えません。ここが司法書士の登記代理権との構造的な違いです。

なお、2号の不服申立ての代理は「特定行政書士」に限られます

前項第二号に掲げる業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(以下「特定行政書士」という。)に限り、行うことができる。
― 行政書士法 第1条の4第2項

条文番号に注意:行政書士法は2026年1月1日施行の改正で条文がシフトしました。旧1条の2(業務)は新1条の3に、旧1条の3(代理等)は新1条の4に移り、新設された1条の2は「職責」の規定になっています。古い解説サイトや改正前のテキストは旧番号のままのことがあるため、条文を引くときは必ず現行法を確認してください。

行政書士が扱える書類は1万種類を超えるとも言われますが、これは公的に確定した数ではなく、許認可の種類の多さを表す通称です。実際、日本行政書士会連合会の報酬額統計調査は約480業務を調査対象としており、これだけでも業務の幅広さがうかがえます。

司法書士の業務は司法書士法3条1項1号〜8号に列挙されている

司法書士の業務は、司法書士法3条1項が号ごとに列挙する形で定められています。

司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(中略)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
三 法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること。
四 裁判所若しくは検察庁に提出する書類若しくは電磁的記録又は筆界特定の手続(中略)において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。
五 前各号の事務について相談に応ずること。
― 司法書士法 第3条1項1号〜5号

この1号〜5号が司法書士の中核業務です。さらに6号〜8号が、簡易裁判所での代理などを定めています。

号業務の内容1号登記・供託手続の代理(不動産登記、商業登記、供託)2号法務局・地方法務局に提出する書類の作成3号登記・供託に関する審査請求手続の代理4号裁判所・検察庁に提出する書類の作成、筆界特定手続の書類作成5号1号〜4号の事務についての相談6号簡易裁判所における訴訟等の手続の代理(訴額140万円以下)7号140万円以下の民事紛争についての相談・仲裁・裁判外の和解の代理8号一定額以下の筆界特定手続の相談・代理

1号の「登記に関する手続について代理すること」が、司法書士を司法書士たらしめている条文です。相続登記も、会社設立登記も、住宅ローンの抵当権設定登記も、すべてここに含まれます。行政書士法1条の3・1条の4を何度読んでも、登記申請の代理は出てきません。これが「登記ができるかどうか」という違いの条文上の根拠です。

なお6号〜8号(簡裁訴訟代理等関係業務)は、司法書士なら誰でもできるわけではありません。

前項第六号から第八号までに規定する業務(以下「簡裁訴訟代理等関係業務」という。)は、次のいずれにも該当する司法書士に限り、行うことができる。
一 簡裁訴訟代理等関係業務について法務省令で定める法人が実施する研修であつて法務大臣が指定するものの課程を修了した者であること。
二 前号に規定する者の申請に基づき法務大臣が簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必要な能力を有すると認定した者であること。
三 司法書士会の会員であること。
― 司法書士法 第3条2項

この3要件をすべて満たした司法書士が、いわゆる認定司法書士です。

独占業務を守る罰則条文まで見ると、線引きの重さがわかる

行政書士・司法書士のいずれも、資格のない者がその業務を報酬を得て行うことを禁じ、罰則を置いています。「独占業務」という言葉の実質は、この2組の条文です。

行政書士司法書士禁止規定行政書士法19条1項司法書士法73条1項対象業務1条の3に規定する業務3条1項1号〜5号に規定する業務罰則規定行政書士法21条の2司法書士法78条1項法定刑1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
― 行政書士法 第19条1項

司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
― 司法書士法 第73条1項

読み比べると、条文の作りが少し違うことに気づきます。行政書士法19条1項は「報酬を得て、業として」を要件にしているのに対し、司法書士法73条1項は報酬の有無を条文上の要件にしていません(司法書士会への入会を前提としている点も特徴です)。また、両法とも「他の法律に別段の定めがある場合」を除外しており、この一句が士業間の業際を調整する役割を果たしています。行政書士法1条の3第2項も「その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない」と定めており、登記は司法書士法が、税務代理は税理士法が、訴訟代理は弁護士法が、それぞれ先に押さえているという構造です。

出題ポイント:行政書士試験の基礎知識科目では、令和6年度から「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」が明示的に出題範囲に入りました。1条の3と1条の4の書き分け、特定行政書士の要件(1条の4第2項)、19条の業務制限は、そのまま出題されうる基本論点です。詳しくは行政書士法の基礎知識で解説しています。

確認問題

行政書士は、依頼者から報酬を得て、相続を原因とする不動産の所有権移転登記の申請を代理することができる。

○ 正しい × 誤り
解説
登記に関する手続についての代理は、司法書士法3条1項1号が定める司法書士の業務です。行政書士の業務を定める行政書士法1条の3・1条の4に登記申請の代理は含まれておらず、また同法1条の3第2項は「他の法律において制限されているもの」については業務を行えないと定めています。行政書士が相続の場面で担えるのは、遺産分割協議書(権利義務に関する書類)の作成や相続関係説明図(事実証明に関する書類)の作成までで、登記申請そのものは司法書士の領域です。

業務範囲の比較表

条文を踏まえて、実務でよくある依頼を一覧にすると次のようになります。

項目行政書士司法書士主な提出先行政機関(役所)法務局・裁判所許認可申請できるできない不動産登記できないできる商業登記できないできる遺産分割協議書の作成できるできる会社の定款作成できるできる契約書作成できるできる裁判書類の作成できないできる簡裁代理(認定)できないできる(認定司法書士)成年後見限定的できる在留資格申請の取次できる(届出済)できない建設業許可申請できるできない自動車登録できるできない供託手続の代理できないできる登記に関する審査請求の代理できないできる許認可に関する審査請求の代理できる(特定行政書士)できない筆界特定手続の書類作成できないできる

表の「成年後見」欄について補足します。成年後見人には資格要件がなく、家庭裁判所が事案に応じて選任するため、行政書士が成年後見人等に選任されること自体はあります。ただし実数には大きな差があります。最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和6年1月〜12月)」によれば、親族以外が成年後見人等に選任された34,245件の内訳は、司法書士11,875件(34.7%)、弁護士8,794件(25.7%)、社会福祉士6,873件(20.1%)に対し、行政書士は1,759件(5.1%)でした。「行政書士はできない」のではなく「専門職後見人の主流ではない」というのが正確な理解です。

業務が重なる分野と重ならない分野

重なる分野(どちらでも対応可能)

  • 遺産分割協議書の作成
  • 会社設立時の定款作成
  • 各種契約書の作成
  • 相続人調査(戸籍収集)

行政書士にしかできない業務

  • 各種許認可申請(建設業許可、風俗営業許可、産廃許可など)
  • 在留資格申請の取次(申請取次行政書士)
  • 自動車登録
  • 農地転用許可申請

司法書士にしかできない業務

  • 不動産登記(相続登記、売買による所有権移転登記など)
  • 商業登記(会社設立登記、役員変更登記など)
  • 裁判所への提出書類の作成
  • 簡易裁判所での訴訟代理(認定司法書士)
  • 供託手続の代理

業際でよくある4つの誤解

業務範囲の話は、断片的な情報だけだと誤解が生まれやすい領域です。読者からの質問が多いポイントを整理しておきます。

誤解1「行政書士は登記の書類なら作れる」

作れません。登記申請書やその添付書面のうち法務局に提出するものは、司法書士法3条1項1号・2号の領域です。ただし、遺産分割協議書のように「登記の添付書面としても使われるが、それ自体は権利義務に関する書類である」文書は、行政書士も作成できます。ここが混同の元です。境界は「その書類が誰のためのどんな効果を持つ文書か」であって、「登記で使うかどうか」ではありません。

誤解2「司法書士は許認可申請もできる」

司法書士法3条1項に許認可申請の代理は含まれていません。建設業許可も飲食店営業許可も在留資格申請も、司法書士の業務ではありません。会社設立の場面で司法書士が定款を作成するのは、それが登記申請の添付書面として必要だからであり、許認可一般に手を広げられるわけではありません。

誤解3「司法書士なら訴訟の代理は何でもできる」

できません。認定司法書士でも、簡易裁判所における訴額140万円以下の事件に限られます(司法書士法3条1項6号、2項)。地方裁判所の訴訟代理は弁護士の領域です。

誤解4「行政書士は法律相談ができる」

行政書士が応じられる相談は、行政書士法1条の4第1項4号のとおり「行政書士が作成することができる書類の作成について」の相談です。個別の紛争についての法律相談は、弁護士法72条が禁じる法律事務に該当しうるため、1条の4第1項1号も括弧書きで明示的に除外しています。この点は司法書士も同じ構造で、司法書士法3条1項5号の相談も1号〜4号の事務に紐づいています。

相続の場面で両者はどう分担するのか

「行政書士と司法書士の違い」が最も具体的に見えるのが相続です。ひとつの相続案件のなかで、担当者が途中で切り替わるからです。2024年4月1日から相続登記が義務化され(不動産登記法76条の2)、相続の相談は今後さらに増えていく分野でもあります。

相続手続のタイムラインと担当資格

段階手続主に担当する資格根拠1戸籍謄本等の収集・相続人調査行政書士・司法書士事実証明に関する書類の作成に付随/司法書士法3条1項各号に付随2相続関係説明図の作成行政書士・司法書士事実証明に関する書類3相続財産の調査・財産目録の作成行政書士・司法書士事実証明に関する書類4遺産分割協議書の作成行政書士・司法書士権利義務に関する書類(行書法1条の3第1項)5相続登記(不動産の名義変更)司法書士のみ司法書士法3条1項1号6預貯金の解約・名義変更の書類行政書士・司法書士権利義務に関する書類7自動車の移転登録行政書士官公署に提出する書類8相続放棄申述書の作成司法書士のみ裁判所に提出する書類(司書法3条1項4号)9相続税の申告税理士のみ税理士法2条10相続人間で争いが生じた場合弁護士のみ弁護士法3条

この表が、相続における業際の全体像です。4番と5番の間に、行政書士と司法書士を分ける線があります。 遺産分割協議書は行政書士でも作成できるが、それを使って行う相続登記は司法書士でなければできない。多くの実務家がここで他士業と連携する理由です。

不動産が絡まない相続(預貯金と自動車のみ、など)であれば行政書士だけで完結することもあります。逆に、不動産の名義変更が中心の相続では、司法書士が入り口から出口まで担当することが多くなります。「どちらが上」ではなく、案件の中身によって主役が変わるというのが実像です。

公式統計で見る相続案件の報酬水準

依頼者側から見ると、費用感の違いも気になるところです。両士業とも公式の報酬アンケートを公表しているので、そこから拾ってみます。

業務資格平均額有効回答数出典遺産分割協議書の作成行政書士69,752円705件日行連・令和7年度報酬額統計調査相続人及び相続財産の調査行政書士61,722円443件同上遺言書の起案及び作成指導行政書士76,855円459件同上所有権移転登記(相続)司法書士74,888円1,109件日司連・報酬に関するアンケート相続放棄申述の申立て書類の作成司法書士40,892円752件同上

<small>出典:日本行政書士会連合会「令和7年度報酬額統計調査の結果」(令和8年1月実施、消費税を含み立替金を含まない)、日本司法書士会連合会「報酬に関するアンケート」(令和6年3月実施、消費税込み)。司法書士の相続登記は「土地1筆・建物1棟(固定資産評価額の合計1,000万円)、法定相続人3名のうち1名が単独相続、戸籍謄本等5通の交付請求と登記原因証明情報の作成を含む」という設問条件での金額です。</small>

注目したいのは、1件あたりの単価は思ったほど大きく違わないことです。よく「司法書士のほうが報酬単価が高い」と言われますが、少なくとも相続の代表的な業務では同じレンジに収まっています。年収の差が生まれる要因は単価そのものよりも、案件の発生頻度・紹介ルート・不動産取引という安定需要の有無にあります。この点は後の年収の章で改めて掘り下げます。

「代理」の射程はどこまで違うのか

業務範囲の話でもうひとつ整理しておきたいのが、代理権の範囲です。ここを理解すると、両資格の性格の違いがはっきりします。

認定司法書士の140万円ラインは裁判所法33条に由来する

「訴額140万円以下」という数字は、司法書士法の条文には直接書かれていません。司法書士法3条1項6号イは「訴訟の目的の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの」という書き方をしており、その裁判所法をたどると次のように定められています。

簡易裁判所は、次の事項について第一審の裁判権を有する。
一 訴訟の目的の価額が百四十万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)
― 裁判所法 第33条1項1号

つまり140万円という額は簡易裁判所の事物管轄の上限であり、認定司法書士の代理権はその範囲に貼りついています。将来この額が改正されれば、司法書士の代理権も自動的に連動する構造です。

特定行政書士の代理権は「不服申立て」に及ぶ

一方の行政書士にも、研修を修了することで拡張される代理権があります。特定行政書士の制度です。

認定司法書士特定行政書士根拠条文司法書士法3条1項6号〜8号、3条2項行政書士法1条の4第1項2号、同条2項拡張される業務簡易裁判所での訴訟代理等許認可等に関する審査請求・再調査の請求・再審査請求の代理取得の要件法務大臣指定の研修修了+法務大臣の認定+司法書士会会員日行連の会則で定める研修の課程を修了相手方裁判所(司法)行政庁(行政)

両者は「争う場所」が違います。 認定司法書士は裁判所で争い、特定行政書士は行政庁に対して不服を申し立てます。行政書士が自ら作成した許認可申請が不許可になったとき、その処分を争う入り口までは特定行政書士が担えるという設計です。行政不服審査法の知識が実務に直結する場面であり、行政書士試験で行政不服審査法の配点が厚いことの実務的な裏づけでもあります。

弁護士法72条という共通の天井

どちらの資格にも共通する制約が、弁護士法72条です。報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を取り扱うことは、弁護士でない者には原則として認められません。行政書士法1条の4第1項1号が括弧書きで「弁護士法第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く」と明記しているのは、この天井を条文上で確認したものです。

相続で相続人同士が争い始めた瞬間、行政書士も司法書士も手を引いて弁護士につなぐ——実務ではこの判断が非常に重要になります。資格選びの段階では細部まで覚える必要はありませんが、どの資格にも「ここから先は自分の仕事ではない」という線があることは知っておいてください。

確認問題

特定行政書士は、自らが作成した許認可申請が不許可となった場合、その処分に対する審査請求の手続について代理することができる。

○ 正しい × 誤り
解説
行政書士法1条の4第1項2号は、行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等の不服申立て手続の代理を業務として定めています。ただし同条2項により、この業務は日本行政書士会連合会が会則で定める研修の課程を修了した行政書士(特定行政書士)に限られます。訴訟代理ではなく行政庁に対する不服申立ての代理である点が、認定司法書士の簡裁訴訟代理権との違いです。

試験難易度の比較

両資格の試験を難易度の観点から比較します。ここで扱う数字は、行政書士試験については一般財団法人行政書士試験研究センター、司法書士試験については法務省が公表している公式データに基づいています。

試験の基本データ

項目行政書士試験司法書士試験受験資格なし(年齢・学歴・国籍を問わない)なし試験時期11月第2日曜(年1回)筆記7月・口述10月(年1回)試験時間午後1時〜4時の3時間午前2時間+午後3時間出題形式択一式(5肢択一・多肢選択)+記述式多肢択一式+記述式+口述満点300点筆記350点出題数60問午前35問・午後35問+記述2問合格判定絶対評価(基準点方式)事実上の相対評価合格率(令和7年度)14.54%約5.2%受験手数料10,400円8,000円(収入印紙)学習時間の目安600〜1,000時間2,000〜3,000時間合格までの期間の目安1〜2年2〜4年

<small>受験資格・試験日程・受験手数料・出題形式は行政書士試験研究センター「試験の概要」および法務省の司法書士試験案内による。学習時間と合格までの期間は各予備校が示す一般的な目安であり、公的統計ではありません。</small>

行政書士試験の配点と合格基準(令和6年度から科目が変わった点に注意)

行政書士試験は絶対評価の試験です。合格基準点に達した受験者は、その年の受験者の中での順位に関係なく全員が合格します。行政書士試験研究センターが公表する令和7年度の合否判定基準は次のとおりです。

試験科目出題形式出題数満点法令等5肢択一式40問160点法令等多肢選択式3問24点法令等記述式3問60点法令等 小計46問244点基礎知識5肢択一式14問56点合計60問300点

配点は5肢択一式が1問4点、多肢選択式が1問8点(空欄1つにつき2点)、記述式が1問20点です。合格基準点は次の3要件をすべて満たすこととされています。

  1. 法令等科目の得点が122点以上
  2. 基礎知識科目の得点が24点以上
  3. 試験全体の得点が180点以上

ここで注意したいのが科目名の変更です。令和6年度試験から、旧「一般知識等」は「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」に変わりました。 出題範囲は「一般知識、行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令、情報通信・個人情報保護、文章理解」とされ、行政書士法そのものが出題範囲に明記されたのが大きな変更点です。古い教材や比較記事は「一般知識等」のままになっていることがあるので、受験する年度の公式情報を必ず確認してください。

法令等科目の中身は憲法・行政法・民法・商法および基礎法学で、なかでも行政法の配点が突出して高いのが行政書士試験の設計です。行政法を得点源にできるかどうかが合否を左右します。詳しい配点戦略は行政書士試験の配点と合格基準で解説しています。

司法書士試験の配点と基準点

司法書士試験は、条文上は絶対評価の形をとりつつ、基準点と合格点が毎年変動する事実上の相対評価です。法務省が公表した令和7年度の結果を見ると、その厳しさがよくわかります。

項目令和7年度の数値筆記試験日令和7年7月6日口述試験日令和7年10月14日受験者数14,418人合格者数751人(男528人・女223人)筆記試験合格点満点350点中255.0点以上午前の部の基準点105点中78点午後の部(択一式)の基準点105点中72点記述式の基準点140点中70.0点合格者の平均年齢42.05歳(最低17歳・最高74歳)

<small>出典:法務省「令和7年度司法書士試験の最終結果について」。合格率は受験者数14,418人・合格者数751人から算出した約5.2%です。</small>

司法書士試験の構造で押さえるべきは3つの基準点(足切り)です。午前の択一、午後の択一、記述式のいずれか1つでも基準点に届かなければ、総合点がどれだけ高くてもその時点で不合格になります。しかも令和7年度の合格点は350点中255.0点、率にすると約72.9%です。行政書士試験の6割(180点/300点)と比べると、要求される精度がまったく違うことがわかります。

科目は次のように分かれています。

部出題形式科目午前の部多肢択一式35問(105点)憲法、民法、刑法、商法(会社法)午後の部多肢択一式35問(105点)民事訴訟法、民事保全法、民事執行法、司法書士法、供託法、不動産登記法、商業登記法午後の部記述式2問(140点)不動産登記、商業登記

司法書士試験の最大の難関は記述式です。不動産登記と商業登記の記述式は、与えられた事実関係から申請すべき登記を判断し、申請書の形にまとめる実務そのもののような問題で、多くの受験生がここでつまずきます。記述式の満点が140点と全体の4割を占めており、択一だけで押し切ることはできません。

合格率の10年推移(公式データ)

行政書士試験研究センターが公表している「最近10年間における行政書士試験結果の推移」は次のとおりです。

年度受験申込者数受験者数合格者数合格率令和7年度63,845人50,163人7,292人14.54%令和6年度59,832人47,785人6,165人12.90%令和5年度59,460人46,991人6,571人13.98%令和4年度60,479人47,850人5,802人12.13%令和3年度61,869人47,870人5,353人11.18%令和2年度54,847人41,681人4,470人10.72%令和元年度52,386人39,821人4,571人11.48%平成30年度50,926人39,105人4,968人12.70%平成29年度52,214人40,449人6,360人15.72%平成28年度53,456人41,053人4,084人9.95%

<small>出典:一般財団法人行政書士試験研究センター「最近10年間における行政書士試験結果の推移」</small>

行政書士試験の合格率が9.95%〜15.72%の幅で動いていることがわかります。絶対評価なので、問題が易しければ合格率は上がり、難しければ下がります。令和7年度は申込者が前年比6.71%増、合格者が18.28%増と大きく伸び、合格率も14.54%まで上昇しました。合格者の平均得点は197点でした。

一方の司法書士試験は、直近の令和7年度で受験者14,418人に対し合格者751人。合格率は約5.2%で、長年おおむね4〜5%台で推移しています。 絶対評価の行政書士試験と違い、合格者数が大きくは動かない設計になっているためです。年度による変動幅は行政書士試験よりはるかに小さくなります。

行政書士試験の合格率の読み方は行政書士試験の合格率推移分析で詳しく扱っています。

難易度のまとめ

観点行政書士司法書士合格率10〜14%4〜5%必要勉強時間600〜1000時間2000〜3000時間試験の性質絶対評価相対評価科目数少ない多い記述式の難度中程度非常に高い総合的な難易度中〜やや難難〜非常に難

数字で並べると、司法書士試験のほうが明確に高い壁です。ただし「何倍難しい」という表現には注意してください。難易度を定量的に比較する公的な指標は存在せず、合格率の比だけで難しさが決まるわけでもありません。行政書士試験と司法書士試験では受験者層も違えば、要求される得点率も違います(180点/300点=60%と、255点/350点=約72.9%)。「合格率で約3倍、学習時間の目安で約3倍の開きがある」という事実の記述にとどめるのが誠実でしょう。

学習時間の差は「暗記量の差」として現れる

学習時間の目安(行政書士600〜1,000時間、司法書士2,000〜3,000時間)は予備校が経験則として示している数字で、公的な統計ではありません。それでも約3倍という開きには構造的な理由があります。

差が生まれる要因内容科目数司法書士は不動産登記法・商業登記法・民事訴訟法・民事執行法・民事保全法・供託法・刑法が追加される手続法の比重登記手続と民事手続は暗記量が大きく、条文・先例・書式まで押さえる必要がある記述式の性質行政書士の記述式は40字程度の記述3問。司法書士の記述式は登記申請書1式を組み立てる要求される精度行政書士は6割で合格。司法書士は約7割強かつ3つの基準点をすべてクリア併願の可否行政書士は働きながらの受験が一般的。司法書士は学習量から専念する受験生も多い

一方で、民法・憲法・商法(会社法)は両試験で重なります。行政書士試験の学習で民法の基礎ができていれば、司法書士試験の学習でゼロから始める必要はありません。この重複が、後述する「行政書士から司法書士へのステップアップ」の現実的な根拠になります。

学習時間の考え方は行政書士試験の平均勉強時間でも掘り下げています。

「絶対評価」と「相対評価」の違いは戦略の違いになる

見落とされがちですが、この2つの試験は合否の決まり方が違うため、取るべき戦略も変わります

行政書士試験(絶対評価)の戦略

180点という目標が最初から固定されています。だから「どの科目で何点取るか」を先に設計し、そのとおりに積み上げれば合格できます。他人と競う必要はなく、満点を狙う必要もありません。捨てる論点を決められるのが絶対評価の強みです。

司法書士試験(相対評価)の戦略

合格点が事前にわかりません。上位約5%に入る必要があるため、「多くの受験生が正解する問題を落とさない」ことが最優先になります。基準点を1つでも割れば即不合格という構造上、苦手科目を作れません。全科目を高い水準でそろえる必要があり、これが学習時間を押し上げます。

目標点を決めて逆算できるかどうかは、資格選びにおいて意外に大きな違いです。仕事や家庭と両立しながら学習計画を立てたい人にとって、行政書士試験の絶対評価という性質は大きなメリットになります。

確認問題

行政書士試験は相対評価の試験であり、上位10%程度が合格する仕組みである。

○ 正しい × 誤り
解説
行政書士試験は絶対評価の試験です。300点満点中180点以上(60%以上)を得点し、かつ法令等科目122点以上・基礎知識科目24点以上という各科目の基準点をクリアすれば合格できます(行政書士試験研究センター「令和7年度行政書士試験合否判定基準」)。合格率は結果として直近10年で9.95%〜15.72%の幅に収まっていますが、これは合格基準点を超えた受験者の割合であり、上位何%という相対評価ではありません。なお令和6年度試験から「一般知識等」科目は「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」に名称・範囲が変更されています。

年収・報酬の違いを「確認できる数字」だけで比較する

年収の比較は、この手の記事で最も数字が荒れる部分です。最初に前提をはっきりさせておきます。

前提|行政書士・司法書士の「平均年収」を示す公的統計は存在しない

厚生労働省の賃金構造基本統計調査には、行政書士・司法書士を単独で切り出した職種区分がありません。両士業とも大半が個人事業主または法人経営者であり、給与所得者を対象とする統計に乗ってこないためです。日本行政書士会連合会・日本司法書士会連合会も、会員の平均年収を公式に発表していません。

つまり、ネット上で見かける「行政書士の平均年収◯◯万円」という数字は、求人サイトの掲載給与や民間アンケートの集計値であり、資格者全体を代表するものではありません。本記事では、この点を明示したうえで、確認できる一次資料である両連合会の公式報酬統計を軸に比較します。

公式報酬統計で見る業務単価の比較

日本行政書士会連合会は「令和7年度報酬額統計調査の結果」(令和8年1月実施)を、日本司法書士会連合会は「報酬に関するアンケート」(令和6年3月実施)を、それぞれ公式サイトで公表しています。同種の業務を並べると次のようになります。

行政書士の代表的な業務(日行連・令和7年度報酬額統計調査)

業務平均額最頻値回答者数建設業許可申請(法人・新規)知事151,341円165,000円512人建設業許可申請(個人・新規)知事132,040円110,000円373人建設業許可申請(法人・更新)知事82,408円55,000円767人在留資格認定証明書交付申請(就労資格)120,174円110,000円194人在留資格認定証明書交付申請(経営・管理)207,563円220,000円103人会社設立手続106,371円110,000円287人遺産分割協議書の作成69,752円55,000円705人遺言書の起案及び作成指導76,855円50,000円459人内容証明郵便作成26,960円33,000円179人

司法書士の代表的な業務(日司連・報酬に関するアンケート)

業務平均額有効回答数所有権移転登記(相続)74,888円1,109件所有権移転登記(売買)56,678円1,082件会社設立登記107,887円932件役員変更登記33,009円1,009件抵当権抹消登記17,470円1,090件相続放棄申述の申立て書類の作成40,892円752件貸付金100万円の貸金返還請求訴訟(着手金)68,253円186件

<small>出典:日本行政書士会連合会「令和7年度報酬額統計調査の結果」、日本司法書士会連合会「報酬に関するアンケート」(令和6年3月実施)。いずれも消費税を含む金額。設問の前提条件は各公表資料に記載されています。</small>

この2つの表から読み取れることは、通説とは少し違います。

発見1|会社設立の単価はほぼ同じ

行政書士の「会社設立手続」が平均106,371円、司法書士の「会社設立登記」が平均107,887円。ほぼ同水準です。両者を分けているのは金額ではなく担当する工程で、行政書士が定款作成と認証まで、司法書士が定款から登記申請まで担うという違いです。依頼者から見れば、片方に頼めばもう片方も必要になる場面がある——これがダブルライセンスの動機になります。

発見2|相続の単価も同レンジ

遺産分割協議書の作成(行政書士・平均69,752円)と相続登記(司法書士・平均74,888円)も近い水準です。「司法書士のほうが単価が高い」という通説は、少なくともこれらの主要業務には当てはまりません。

発見3|単価が高いのは専門特化した領域

行政書士側で目立って高いのは在留資格(経営・管理)の平均207,563円や建設業許可(法人・新規)の平均151,341円です。資格の種類より、どの専門分野を選ぶかのほうが単価への影響が大きいことがわかります。

では、収入の差はどこから生まれるのか

単価が近いのに「司法書士のほうが稼げる」と言われるのはなぜか。構造で考えると次の3点に整理できます。

要因行政書士司法書士案件の発生源自ら開拓する必要がある(許認可・相続・入管)不動産取引・金融機関・不動産会社からの継続的な紹介がある需要の安定性業種の景況や制度改正に左右されやすい不動産売買と融資がある限り登記需要は発生する案件の反復性更新業務(建設業許可の5年更新など)でリピートが作れる取引ごとに反復して発生する

司法書士の強みは、不動産取引という経済活動そのものに登記が組み込まれていることです。売買や融資が起きれば必ず登記が必要になるため、紹介ネットワークに入れれば安定的に案件が流れてきます。一方、行政書士は自分で市場を開拓する余地が大きく、それが不安定さにもなれば伸びしろにもなります。

だからこそ、年収は資格の種類ではなく「専門分野・営業力・立地・経験年数」で決まります。行政書士で年商1,000万円を超える人もいれば、司法書士で伸び悩む人もいます。資格は収入の上限を決めるものではなく、参入できる市場を決めるものだと考えるのが実態に近いでしょう。

参考|よく言われる年収レンジ(出典のない目安)

以下は、求人情報や各種アンケートでよく示される数字を整理したものです。公的統計に基づくものではないため、あくまで相場観の参考としてご覧ください。

行政書士司法書士勤務者の年収レンジ300万〜500万円400万〜600万円開業者の年収レンジ400万〜600万円500万〜800万円高収入層800万〜1,500万円1,000万〜2,000万円

いずれも幅が非常に広く、中央値と平均値も大きく乖離する分布であることが知られています。この種の数字を資格選びの決め手にするのは危険です。 行政書士の収入の実態については行政書士の年収はいくら?で、より詳しく扱っています。

コストパフォーマンスの観点

資格取得にかかる時間と費用に対する年収のリターンという観点では、一概にどちらが優れているとは言えません。

観点行政書士司法書士資格取得にかかる時間1〜2年2〜4年予備校費用の目安10万〜30万円30万〜80万円開業までの初期投資150万〜350万円200万〜400万円投資回収までの期間2〜4年3〜5年

<small>予備校費用・初期投資・回収期間はいずれも各社の受講料や開業体験談から推定した目安であり、公的統計ではありません。実際の金額は選ぶ講座や事務所の形態(自宅開業か賃貸か)で大きく変わります。</small>

行政書士は少ない投資で早くスタートできる、司法書士は投資も学習期間も大きいがその分参入障壁が高い、という特徴があります。ただし忘れてはならないのは、どちらも登録しなければ業務を行えないという点です。行政書士は日本行政書士会連合会の名簿への登録と都道府県の行政書士会への入会が、司法書士は日本司法書士会連合会の名簿への登録と司法書士会への入会が必要で、それぞれ登録免許税・登録手数料・入会金・年会費がかかります。合格はスタートラインであって、開業までにはもう一段のコストがあることは織り込んでおきましょう。詳しくは合格後の登録・開業手続きにまとめています。

ダブルライセンスという選択肢

ここまで見てきたとおり、行政書士と司法書士の業務は「隣り合っているが重ならない」関係にあります。だからこそ、両方の資格を持つ意味が生まれます。

両方持つと何が変わるのか

1. 工程の断絶がなくなる

会社設立では、定款作成(行政書士)と設立登記(司法書士)の間に担当者の切り替えが発生します。相続では、遺産分割協議書の作成(行政書士)と相続登記(司法書士)の間に同じことが起きます。両資格を持てば、依頼者から見た窓口が1つになり、工程間の伝達ロスもなくなります。前掲の報酬統計で見たとおり、会社設立の単価は行政書士側・司法書士側でほぼ同額です。つまり両方担当できれば、1案件あたりの受注額はおおむね倍になるという計算になります。

2. 相談の入口が広がる

行政書士だけなら登記の相談は他士業に回すことになります。逆に司法書士だけなら許認可の相談を受けきれません。両方あれば、どちらの入口から来た相談も自分で完結でき、機会損失が減ります。

3. 相続案件で最後まで伴走できる

相続は、行政書士と司法書士の業務が最も密に絡む分野です。戸籍収集から遺産分割協議書、相続登記、自動車の移転登録まで一気通貫で対応できるのは、依頼者にとって明確な価値になります。

取得ルートは3つ

ルート内容向いている人行政書士 → 司法書士先に行政書士を取り、実務や収入を確保しながら司法書士に挑戦早く資格を得て動き出したい人。最も一般的司法書士 → 行政書士先に司法書士を取り、その法律知識を土台に行政書士を受験学習時間を長く確保できる人同時並行両試験を並行して学習時間的・経済的な余裕がある専業受験生

民法・憲法・商法(会社法)が両試験で重なるため、どのルートでも2つ目の負担は1つ目より軽くなります。ただし司法書士試験の主戦場である不動産登記法・商業登記法は行政書士試験の範囲外なので、「行政書士に受かったから司法書士も近い」と考えるのは早計です。

ダブルライセンスの費用対効果、学習スケジュールの組み方、実際にどの順で取るべきかといった具体論は、専門記事にまとめています。行政書士×司法書士のダブルライセンス

なお、ダブルライセンスの相手は司法書士だけではありません。労務なら社会保険労務士、資産設計ならFP、不動産なら宅建士という組み合わせもあります。「登記まで自分でやりたいか」が、司法書士を選ぶかどうかの分かれ目です。

行政書士から司法書士へのステップアップは有効か

「まず行政書士を取って、そこから司法書士へ」というルートは実際に多く選ばれています。有効かどうかを、科目の重複という観点から冷静に見てみましょう。

科目の重複マップ

科目行政書士試験司法書士試験引き継げるか民法出題あり(配点大)午前の部の中心科目◎ 大きく引き継げる憲法出題あり午前の部で出題◎ 引き継げる商法・会社法出題あり午前の部で出題○ 引き継げるが司法書士は深い行政法最重要科目出題なし× 引き継げない基礎法学出題あり出題なし△ 法的思考の土台としては有効不動産登記法出題なし記述式を含む主戦場× ゼロから商業登記法出題なし記述式を含む主戦場× ゼロから民事訴訟法・民事執行法・民事保全法出題なし午後の部で出題× ゼロから供託法・司法書士法出題なし午後の部で出題× ゼロから刑法出題なし午前の部で出題× ゼロから

この表から言えること

引き継げるのは民法・憲法・商法。しかし司法書士試験の主戦場である登記法と民事手続法はゼロからです。行政書士試験で最も配点の大きい行政法は、司法書士試験では1問も出ません。

したがって、「行政書士に合格したから司法書士まではあと少し」ではありません。ただし次の3点で、ステップアップには確かな合理性があります。

  1. 民法の基礎ができている——司法書士試験の午前の部の中心は民法です。ここを学び直さずに済むのは大きい
  2. 法律文書を読む体力がついている——条文と判例を読む訓練は、そのまま次の試験に効く
  3. 資格を持った状態で挑戦できる——行政書士として開業・就業しながら学習を続けられるため、収入を絶たずに済む

逆に言えば、最初から司法書士だけを目指すと決めているなら、行政書士試験を経由する必然性は薄いとも言えます。行政法の学習時間がまるごと迂回になるからです。「行政書士としても働くつもりがあるか」が判断の分かれ目になります。

キャリア全体の設計は行政書士のキャリアパスも参考にしてください。

どちらを目指すべきか|5つの判断軸

最後に、自分にどちらの資格が合っているかを判断するためのポイントを紹介します。「難易度が低いから行政書士」「稼げそうだから司法書士」という選び方は、どちらも後悔につながりやすい選び方です。次の5つの軸で考えてみてください。

判断軸1|やりたい業務から逆算する(最優先)

最も重要な軸です。前半で見たとおり、両資格の業務は条文で明確に分かれています。自分がやりたい仕事がどちらの条文に書かれているかを確認するだけで、答えが出ることも少なくありません。

やりたいこと選ぶべき資格不動産の名義変更、会社の登記に携わりたい司法書士(司法書士法3条1項1号)建設業・飲食店・産廃などの許認可を扱いたい行政書士(行政書士法1条の3)外国人の在留資格・帰化をサポートしたい行政書士裁判所に提出する書類を作りたい司法書士(同3条1項4号)簡易裁判所で代理人として法廷に立ちたい司法書士(認定を取得)補助金・助成金の申請を支援したい行政書士契約書・遺言書の作成支援をしたいどちらでも可能成年後見を専門にしたい司法書士(実数で圧倒的)

判断軸2|確保できる学習時間から考える

学習時間の目安は行政書士600〜1,000時間、司法書士2,000〜3,000時間です。これを自分の生活に当てはめてみましょう。

1日に確保できる時間行政書士(800時間として)司法書士(2,500時間として)1時間約2年2か月約6年10か月2時間約1年1か月約3年5か月3時間約9か月約2年3か月5時間約5か月約1年4か月

フルタイムで働きながら1日2時間を確保するのが現実的な多くの社会人にとって、司法書士は3年以上の長期プロジェクトになります。この期間を走り切れるかどうかは、意志の問題というより生活設計の問題です。逆に、学生や学習に専念できる環境がある人なら、司法書士を最初から狙う選択も十分に合理的です。

判断軸3|試験の性質との相性を見る

前述のとおり、行政書士試験は絶対評価、司法書士試験は事実上の相対評価です。

  • 目標点を決めて逆算するのが得意 → 行政書士試験と相性がよい
  • 苦手科目を作らず全科目を均等に仕上げられる → 司法書士試験に耐えられる
  • 1つでも穴があると崩れるタイプ → 基準点が3つある司法書士試験は苦しくなる

司法書士試験は、午前択一・午後択一・記述式のいずれか1つでも基準点を割れば不合格です。「得意科目で苦手科目をカバーする」という戦い方ができません。 ここは相性がはっきり出る部分です。

判断軸4|開業までの時間とコストを見積もる

資格取得はゴールではなくスタートです。合格から実際に収入が立つまでの時間を含めて考えます。

行政書士司法書士合格までの目安1〜2年2〜4年合格後の実務研修任意(各会の研修制度)新人研修が体系化されている開業のハードル自宅開業も可能で低め登記実務の経験を積んでから独立する人が多い勤務という選択肢事務所勤務のほか一般企業の法務・総務でも活きる司法書士事務所・法務局周辺の需要が中心

行政書士は「合格後すぐ開業して走りながら覚える」人が比較的多く、司法書士は「事務所に勤めて登記実務を覚えてから独立する」人が多い傾向にあります。すぐに独立したいなら行政書士、腰を据えて技術を身につけたいなら司法書士という捉え方もできます。

判断軸5|10年後にどう働いていたいか

最後は長期の視点です。

  • 自分で市場を作りたい/営業や発信が苦にならない → 行政書士。業務範囲が広く、専門分野の選び方次第で市場を自分で選べます
  • 確立された需要のなかで専門技術を磨きたい → 司法書士。不動産取引という安定した需要基盤があります
  • 地域に根ざして相続や高齢者支援を担いたい → どちらでも可能だが、成年後見まで視野に入れるなら司法書士が有利
  • 企業内で法務人材として働きたい → 行政書士の知識のほうが許認可・契約の実務に直結しやすい

将来の展望については行政書士の将来性、専門分野の選び方は専門分野の選び方も参考にしてください。

行政書士が向いている人

  • 幅広い業務に興味がある人: 許認可、外国人支援、相続、契約書作成など、多様な業務に取り組みたい
  • 独立開業を目指す人: 比較的少ない投資で早く開業したい
  • 営業やマーケティングが好きな人: 自分で集客し、顧客との関係を構築していくことにやりがいを感じる
  • 短期間で資格を取得したい人: 1〜2年で資格を取得し、早くキャリアチェンジしたい
  • 外国人支援に関心がある人: 入管業務は行政書士の独自分野であり、需要も拡大中
  • 現在の仕事と並行して資格取得したい人: 勉強時間が比較的少なくて済む

司法書士が向いている人

  • 登記業務に興味がある人: 不動産取引や会社設立など、登記に関わる業務に魅力を感じる
  • 安定した収入を求める人: 不動産取引に伴う登記は安定的な需要がある
  • 裁判関連の業務に興味がある人: 簡裁代理権を活かした訴訟業務に関心がある
  • 成年後見業務に取り組みたい人: 高齢者の財産管理や身上保護に貢献したい
  • 勉強が得意で長期間の受験勉強に耐えられる人: 2〜4年の集中的な学習が必要
  • 法律の専門性を極めたい人: 登記法や民事訴訟法など、より深い法律知識を身につけたい

判断チェックリスト

以下のチェックリストで、どちらの資格が自分に合っているか確認してみましょう。

行政書士ポイント

  • 許認可(建設業、飲食店など)の分野に興味がある
  • 外国人のサポートをしたい
  • なるべく早く資格を取りたい(1〜2年以内)
  • 独立開業して自由に働きたい
  • 幅広いジャンルの仕事をしたい

司法書士ポイント

  • 不動産登記や会社登記の仕事に興味がある
  • 裁判に関する書類作成をしてみたい
  • じっくり勉強して確実な専門性を身につけたい
  • 高齢者の支援(成年後見)に関心がある
  • より高い年収を目指したい

行政書士ポイントが多い方は行政書士を、司法書士ポイントが多い方は司法書士を目指すのがおすすめです。もちろん、将来的にダブルライセンスを目指すのも素晴らしい選択です。

確認問題

司法書士は、認定を受ければ訴額に関わらず全ての民事事件において代理人として訴訟活動を行うことができる。

○ 正しい × 誤り
解説
認定司法書士が代理人として訴訟活動を行えるのは、簡易裁判所における訴額140万円以下の民事事件に限られます(司法書士法第3条第1項第6号〜第8号)。これを超える事件については、弁護士のみが代理権を持ちます。この制限は「簡裁訴訟代理等関係業務」として定められています。

まとめ

行政書士と司法書士の違いを改めて整理します。

比較項目行政書士司法書士主な業務許認可申請・権利義務書類作成登記・裁判書類作成業務の根拠条文行政書士法1条の3、1条の4司法書士法3条1項各号独占業務の中核官公署提出書類の作成(同19条1項)登記・供託手続の代理(同73条1項)合格率(令和7年度)14.54%約5.2%合格に必要な得点率60%(180点/300点)約72.9%(255点/350点)必要勉強時間の目安600〜1,000時間2,000〜3,000時間合格判定絶対評価事実上の相対評価代表的な業務単価遺産分割協議書 平均69,752円相続登記 平均74,888円将来の成長分野入管・建設業・補助金相続登記・成年後見

<small>合格率は行政書士試験研究センターおよび法務省の公表値、業務単価は日本行政書士会連合会・日本司法書士会連合会の公式報酬統計による。勉強時間は予備校が示す目安。</small>

この記事で確認した要点を3行にまとめます。

  1. 決定的な違いは登記。登記申請の代理は司法書士法3条1項1号の独占業務で、行政書士法1条の3・1条の4には登記が一切登場しない
  2. 試験の壁は司法書士のほうが明確に高い。合格率で約3倍、要求得点率でも約13ポイントの差がある
  3. 単価は思ったほど変わらない。収入差は資格の格ではなく、案件の発生源と専門分野の選び方から生まれる

どちらの資格を選ぶかは、あなたのキャリア目標、興味のある業務分野、勉強に使える時間によって決まります。重要なのは、どちらを選んでも資格取得はゴールではなくスタートだということです。資格を取った後にどう専門性を高め、依頼者に価値を提供していくかが成否を分けます。

まずは自分が本当にやりたい業務は何かを考え、その業務がどちらの法律の条文に書かれているかを確認してください。それが最も確実な選び方です。迷うようであれば、まず行政書士試験からチャレンジし、実務を経験しながらダブルライセンスを検討するという段階的なアプローチも十分に現実的です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 行政書士と司法書士、結局どちらが難しいのですか?

数字で見る限り司法書士のほうが明確に難しい試験です。令和7年度の合格率は行政書士14.54%、司法書士は受験者14,418人・合格者751人で約5.2%。合格に必要な得点率も行政書士が60%(180点/300点)なのに対し、司法書士は約72.9%(255点/350点)でした。加えて司法書士試験には午前択一・午後択一・記述式という3つの基準点があり、1つでも割れば不合格です。ただし「何倍難しい」という表現に公的な根拠はありません。

Q2. どちらのほうが稼げますか?

一概には言えません。公的な平均年収統計が存在しないため、正確な比較ができないというのが実情です。両連合会が公表する報酬統計を見ると、会社設立(行政書士106,371円/司法書士107,887円)や相続関連(遺産分割協議書69,752円/相続登記74,888円)の単価はほぼ同水準でした。収入差が生まれるのは単価よりも、不動産取引という安定需要にアクセスできる司法書士と、自分で市場を開拓する行政書士という案件の発生構造の違いによるものです。

Q3. 両方取る意味はありますか?

あります。特に会社設立と相続では、行政書士の担当工程と司法書士の担当工程が連続しているため、両方持てば1案件を最後まで担当できます。報酬統計上も会社設立の単価は両者ほぼ同額なので、単純計算で1案件あたりの受注額はおおむね倍になります。ただし学習コストは相当大きいので、費用対効果を含めた検討はダブルライセンスの記事を参照してください。

Q4. 行政書士から司法書士へステップアップできますか?

できます。実際に多い進路です。民法・憲法・商法(会社法)が両試験で重なるため、その部分は引き継げます。ただし司法書士試験の主戦場である不動産登記法・商業登記法・民事訴訟法・供託法はゼロからの学習になり、逆に行政書士試験で最も配点の大きい行政法は司法書士試験では出題されません。「あと少し」ではなく「新しい試験に挑む」つもりで臨むのが現実的です。

Q5. 行政書士は相続登記を扱えないのですか?

扱えません。登記申請の代理は司法書士法3条1項1号の業務であり、行政書士法1条の3第2項も「他の法律において制限されているもの」については業務を行えないと定めています。行政書士が相続で担えるのは、戸籍収集、相続関係説明図の作成、遺産分割協議書の作成、預貯金の名義変更書類、自動車の移転登録までです。2024年4月から相続登記が義務化されたことで、この分担を理解しておく重要性はむしろ増しています。

Q6. 司法書士は許認可申請を扱えないのですか?

扱えません。司法書士法3条1項に許認可申請の代理は含まれていません。司法書士が会社設立で定款を作成するのは、それが登記申請の添付書面として必要だからであり、建設業許可や在留資格申請といった許認可一般に及ぶわけではありません。

Q7. どちらが「上」の資格なのですか?

「上下」という捉え方自体が実態に合いません。試験の難易度は司法書士のほうが高いですが、業務範囲は重なっておらず、互いに相手の独占業務に立ち入れません。行政書士は登記ができず、司法書士は許認可申請ができない——これは優劣ではなく、担当する行政分野の違いです。実務では両者が連携して1件の案件を仕上げる場面が数多くあります。

Q8. 両方とも成年後見人になれますか?

なれます。成年後見人に資格要件はなく、家庭裁判所が事案に応じて選任します。ただし実数には差があります。最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和6年1月〜12月)」によれば、親族以外が選任された34,245件のうち司法書士は11,875件(34.7%)で最多、行政書士は1,759件(5.1%)でした。成年後見を専門にしたいなら司法書士のほうが実績の蓄積は厚いと言えます。

Q9. 独学でも合格できますか?

行政書士試験は独学での合格例が比較的多い試験です。絶対評価で目標点が明確なため、市販教材と過去問で計画を立てやすいことが理由です。司法書士試験は科目数と記述式の負担が大きく、独学の難度は上がります。行政書士試験の独学については行政書士試験の独学合格法で詳しく扱っています。

Q10. 受験資格に制限はありますか?

どちらもありません。行政書士試験は「年齢、学歴、国籍等に関係なく、どなたでも受験できます」と行政書士試験研究センターが明記しており、司法書士試験にも受験資格の制限はありません。令和7年度の行政書士試験では最年少13歳・最年長77歳の合格者が、司法書士試験では最低17歳・最高74歳の合格者が出ています。

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