(公開 2026/01/05) / 民法

不法行為(709条)の要件と重要判例を徹底解説

民法709条の不法行為の要件(故意過失・権利利益侵害・損害・因果関係・責任能力)をわかりやすく解説。債務不履行との違い、使用者責任715条・工作物責任717条・共同不法行為719条などの特殊不法行為、過失相殺722条2項、消滅時効724条を判例つきで整理します。

結論|不法行為(709条)が成立する要件はこの5つ

民法709条に基づいて損害賠償を請求するには、次の要件がすべて必要です。

  1. 故意又は過失 — 加害者に注意義務違反があること
  2. 権利又は法律上保護される利益の侵害 — 違法性があること
  3. 損害の発生 — 財産的損害(積極損害・消極損害)又は精神的損害が生じたこと
  4. 因果関係 — 加害行為と損害との間に相当因果関係があること
  5. 責任能力 — 加害者が自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていたこと(712条・713条)

①〜④は被害者が立証します。⑤だけは、加害者側が「責任無能力だった」と主張・立証する抗弁の形をとります(712条・713条が「責任を負わない」と定める構造のため)。

これが不法行為の基本形です。714条〜719条の特殊不法行為は、この基本形の立証責任を被害者に有利な方向へ修正した規定群であり、消滅時効は知った時から3年/行為時から20年(生命・身体侵害は3年→5年)です。

この記事で解決できること(知りたい章へジャンプ)

知りたいこと該当章709条の要件をひとつずつ知りたい「不法行為の5つの成立要件」債務不履行との違いを整理したい「債務不履行と不法行為の違い」使用者責任・工作物責任などを比較したい「特殊な不法行為の全体像(714条〜719条)」過失相殺(722条2項)と418条の違い「過失相殺(722条2項)」時効が3年か5年か20年かを確認したい「損害賠償請求権の消滅時効」失火の場合はどうなるか「失火責任法」判例をまとめて確認したい「不法行為の重要判例」

はじめに|不法行為709条は行政書士試験の超頻出テーマ

不法行為(民法709条)は、契約関係にない当事者間でも損害賠償を請求できる重要な制度です。行政書士試験では、択一式はもちろん、記述式での出題も十分に想定されるテーマであり、毎年のように関連問題が出題されています。

本記事では、709条の一般不法行為を中心に、その5つの成立要件を一つずつ丁寧に解説し、試験で繰り返し問われてきた重要判例を体系的に整理します。特殊不法行為(使用者責任・工作物責任・動物占有者責任・共同不法行為)との関係にも触れ、横断的な理解を深めることを目指します。

不法行為の分野は、条文知識と判例知識の両方がバランスよく問われる領域です。本記事を通じて、確実に得点できる知識を身につけましょう。

この記事で押さえる出題ポイント(先に結論)

時間がない受験生のために、本記事で学ぶ最重要ポイントを先に列挙します。詳細は各章で深掘りします。

  • 709条の成立要件は5つ(①故意・過失 ②権利・利益侵害 ③損害 ④因果関係 ⑤責任能力)。すべて被害者が立証するのが原則。
  • 「権利侵害」から「違法性」へ、さらに「権利又は法律上保護される利益」へ——条文と判例の歴史的変遷が論点。
  • 因果関係は相当因果関係説。立証の程度は高度の蓋然性(ルンバール事件)。
  • 過失は客観化(抽象的過失)されている。「医療水準」も同じ発想。
  • 特殊不法行為の中で所有者の工作物責任(717条)だけが無過失責任
  • 消滅時効は3年/20年、生命・身体侵害は5年/20年(724条・724条の2)。

これらは過去問で繰り返し問われてきた角度です。各論点を「なぜそうなるのか」まで理解しておくと、未知の事例問題にも対応できます。

民法709条の条文と不法行為制度の基本構造

709条の条文

まず、不法行為の基本条文である民法709条を確認しましょう。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
― 民法 第709条

この条文から、不法行為に基づく損害賠償請求権の発生要件を読み取ることができます。不法行為制度は、違法な行為によって他人に損害を与えた者に、その損害を賠償させる制度です。契約に基づく債務不履行責任(415条)とは異なり、事前の契約関係がなくても成立する点が最大の特徴です。

条文の文言を細かく分解すると、次の要素が読み取れます。

  • 「故意又は過失によって」→ 帰責事由(要件1)
  • 「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」→ 権利・利益侵害=違法性(要件2)
  • 「これによって生じた損害」→ 損害の発生(要件3)と因果関係(要件4)
  • 「者は…責任を負う」→ 行為者が責任主体であること(責任能力の前提、要件5は712条・713条が補う)

このように、709条という1か条の文言の中に、複数の要件が凝縮されています。条文の文言と要件の対応を意識すると、知識が整理されます。

不法行為制度の趣旨と機能

不法行為制度には、主に以下の機能があるとされています。

  1. 損害填補機能: 被害者に生じた損害を金銭に評価して賠償させ、被害者を救済する
  2. 抑止機能: 違法な行為を行えば損害賠償責任を負うことを明示し、違法行為を抑止する
  3. 制裁機能: 加害者に経済的な不利益を課すことで、一種の制裁を行う

試験対策上は、不法行為が「損害の公平な分担」を理念とする制度であることを押さえておくことが重要です。この理念は、過失相殺(722条2項)や損益相殺の場面で問われることがあります。

なお、日本の不法行為法は、損害填補機能を中核に据えており、英米法にみられるような懲罰的損害賠償(punitive damages)は採用していません。外国判決の執行が問題となった事案で、最高裁は、懲罰的損害賠償を命じた部分は日本の公序に反し効力を有しないと判示しています(最判平9.7.11、萬世工業事件)。「日本では懲罰的損害賠償は認められない」という結論は、しばしば誤解されやすいポイントなので押さえておきましょう。

債務不履行と不法行為の違い|5つの決定的な相違点

不法行為責任(709条)と債務不履行責任(415条)は、どちらも「損害賠償を請求できる制度」であるため混同されがちですが、要件も効果もまったく別のルールで動いています。行政書士試験では、この違いを正面から問う組合せ問題が繰り返し出題されてきました。まず全体像を表で押さえます。

一覧比較表(この表を暗記すれば失点しない)

項目不法行為責任(709条)債務不履行責任(415条)前提となる関係契約関係は不要(見知らぬ他人同士でも成立)債権債務関係(契約等)が必要責任の根拠一般的な法益侵害の禁止約束(債務)に違反したこと立証責任被害者(債権者)が加害者の故意・過失を立証債務者が「帰責事由がないこと」を立証(415条1項ただし書)消滅時効(主観)損害及び加害者を知った時から3年(724条1号)権利を行使できることを知った時から5年(166条1項1号)消滅時効(客観)不法行為の時から20年(724条2号)権利を行使できる時から10年(166条1項2号)生命・身体侵害の特則主観3年→5年(724条の2)/客観は20年のまま客観10年→20年(167条)/主観は5年のまま過失相殺裁判所は「考慮して額を定めることができる」(722条2項・裁量的、減額のみ)裁判所は「考慮して責任及びその額を定める」(418条・必要的、免責も可)遅延損害金の起算点不法行為の時(損害発生時)から当然に遅滞(最判昭37.9.4)期限の定めがなければ履行の請求を受けた時から(412条3項)近親者の慰謝料父母・配偶者・子に固有の請求権あり(711条)規定なし相殺の制限悪意による不法行為等に基づく債権を受働債権とする相殺は禁止(509条)原則として制限なし

①立証責任の違い——ここが最も本質的

不法行為では、被害者が「加害者に故意又は過失があったこと」を積極的に主張・立証しなければなりません。加害者は黙っていても、被害者が過失を立証できなければ請求は棄却されます。

これに対し債務不履行では、415条1項本文が「債務の本旨に従った履行をしないとき」に賠償責任を認め、ただし書で「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」と定めています。つまり帰責事由の不存在は債務者側の抗弁であり、立証責任は債務者にあります。

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
― 民法 第415条1項

出題ポイント: 「立証の負担」という観点だけを見れば、被害者にとっては債務不履行構成の方が有利です。この点は請求権競合の場面でどちらを選ぶかの判断材料になります。

②消滅時効の違い——3年/20年 と 5年/10年

不法行為は724条、債務不履行(債権一般)は166条1項が規律します。数字が4つ出てくるため、次のように整理すると混乱しません。

  • 不法行為:主観3年・客観20年(724条1号・2号)
  • 債権一般:主観5年・客観10年(166条1項1号・2号)
  • 生命・身体侵害が絡むと両者とも「5年・20年」に揃う(724条の2で不法行為の3年→5年、167条で債権の10年→20年)

つまり、人身損害の事案では不法行為構成でも債務不履行構成でも時効期間は同じになります。「生命・身体侵害なら時効の長短で有利不利は生じない」という結論を押さえておきましょう。

③過失相殺の違い(722条2項 と 418条)

条文の文言そのものが違います。

被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
― 民法 第722条2項

債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
― 民法 第418条

差は2点です。第一に、722条2項は「定めることができる」(裁量的)、418条は「定める」(必要的)。第二に、722条2項は「損害賠償の額」だけ、418条は「損害賠償の責任及びその額」を対象とします。後者は責任そのものを否定する(=全部免責)余地を条文上認めているのに対し、不法行為の過失相殺は減額にとどまるとするのが通説的な理解です。

④遅延損害金の起算点の違い

不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催告を要せず、損害の発生と同時に遅滞に陥るとするのが判例です(最判昭37.9.4)。被害者は不法行為の時点からの遅延損害金を請求できます。

一方、債務不履行に基づく損害賠償債務は期限の定めのない債務として扱われ、412条3項により「履行の請求を受けた時」から遅滞となります。

債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
― 民法 第412条3項

出題ポイント: 遅延損害金だけを見れば不法行為構成の方が被害者に有利です。「立証責任は債務不履行が有利、遅延損害金は不法行為が有利」とセットで覚えます。

⑤近親者の慰謝料(711条)の有無

不法行為には711条という固有の規定があります。

他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
― 民法 第711条

債務不履行にはこれに対応する規定がありません。したがって、被害者の遺族が自分自身の精神的苦痛について賠償を求めるには、不法行為構成が使いやすいことになります。

請求権競合——どちらで請求してもよい

医療過誤や運送事故のように、契約関係と権利侵害の両方が存在する場面では、同一の事実から不法行為責任と債務不履行責任の両方が発生します。この場合の処理について、判例・通説は請求権競合説を採り、被害者はどちらの請求権も選択的に行使できるとしています。

実務では、上記の有利・不利を踏まえて構成を選択します。

観点有利なのは故意・過失の立証負担債務不履行遅延損害金の起算点不法行為消滅時効(一般の財産損害)債務不履行(主観5年)消滅時効(生命・身体侵害)差がない(ともに5年/20年)近親者固有の慰謝料不法行為(711条)

違いの覚え方

不法行為は被害者が動く、債務不履行は債務者が言い訳する」——立証責任の方向をこの一文で押さえると、残りの違い(時効・遅延損害金)は「不法行為は突然の事故だから短い時効・即時の遅滞」という発想でつながります。事故は証拠が散逸しやすいので早く決着させる(3年)、しかし被害者が加害者を知り得ないこともあるので長期の枠(20年)も置く、という制度趣旨で理解しておくと、条文の数字が記憶に定着します。

確認問題

債務不履行に基づく損害賠償請求では債務者が帰責事由のないことを立証しなければならないのに対し、不法行為に基づく損害賠償請求では被害者が加害者の故意・過失を立証しなければならない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
415条1項ただし書は「債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき」を免責事由として規定しており、帰責事由の不存在は債務者側が立証します。これに対し709条は「故意又は過失によって」を要件としているため、被害者(原告)が加害者の故意・過失を立証する必要があります。立証責任の観点では債務不履行構成の方が被害者に有利です。

不法行為の5つの成立要件

ここからが本記事の中核です。709条の成立要件を一つずつ深掘りします。まず全体像を表で押さえましょう。

要件内容条文立証責任①故意又は過失注意義務違反(過失は客観化)709条被害者②権利・利益侵害違法性。権利+法律上保護される利益709条被害者③損害の発生財産的損害・精神的損害709条・710条・711条被害者④因果関係相当因果関係。立証は高度の蓋然性709条被害者⑤責任能力責任弁識能力(あること)712条・713条(能力の不存在を加害者側が主張)

要件①〜④は被害者が積極的に立証するのが原則です。これに対し⑤の責任能力は、本人に有利な「責任無能力」を加害者側が抗弁として主張・立証するという整理になります(712条・713条が「責任を負わない」と規定する構造)。この立証構造の違いは、出題されやすい細かいポイントです。

要件1:故意又は過失

第一の要件は、加害者に故意又は過失があることです。

故意とは、自己の行為が他人の権利・利益を侵害する結果を生じさせることを認識しながら、あえてその行為を行う心理状態をいいます。

過失とは、注意義務に違反することをいいます。具体的には、結果を予見できたにもかかわらず(予見可能性)、結果を回避するための適切な措置をとらなかったこと(結果回避義務違反)です。

過失の判断については、かつては行為者の主観的な注意能力を基準とする「具体的過失」の考え方がありましたが、現在の判例・通説は、行為者の属する職業・地位・社会的立場に応じて一般的に要求される注意義務を基準とする「抽象的過失」(過失の客観化)の考え方を採っています。

特に医療過誤訴訟では、医師に求められる注意義務の水準について、「臨床医学の実践における医療水準」が基準とされています(最判平7.6.9)。

過失の客観化をもう一歩深掘りする

「過失の客観化」とは、過失を加害者個人の心理状態(内心の不注意)の問題ではなく、「客観的に要求される行為義務に違反したか」という行為義務違反の問題として捉える考え方です。これにより、過失の有無は「予見可能性を前提とした結果回避義務に違反したか」という客観的な枠組みで判断されることになります。

  • 予見可能性: その結果が生じることを予見できたか。予見できない結果については結果回避義務も生じない。
  • 結果回避義務違反: 予見できた結果を回避するために、社会的に相当な措置をとったか。

この枠組みは、公害・薬害訴訟で被害者救済を図るために発展しました。たとえば、企業活動に伴う加害については、高度の予見可能性と厳格な結果回避義務が要求される傾向があります(大阪アルカリ事件・大判大5.12.22は、化学工場の煤煙による農作物被害について、事業の性質に従い相当な設備を施していれば過失はないとしつつ、注意義務の枠組みを示したリーディングケースとして知られます)。

「医療水準」論のポイント(最判平7.6.9)

最判平7.6.9は、医師の注意義務の基準を「臨床医学の実践における医療水準」と定式化したうえで、その水準は全国一律ではなく、当該医療機関の性格・所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決まるとしました。「医療水準」と「学問としての医学水準(最先端の研究水準)」は別物であり、後者をそのまま医師に要求するものではありません。この「医療水準=医療機関ごとの相対的基準」という理解が出題ポイントです。

要件2:権利又は法律上保護される利益の侵害

第二の要件は、他人の「権利又は法律上保護される利益」を侵害したことです。

この要件の解釈は、歴史的に大きく変遷してきました。

旧民法(2004年の現代語化以前)は「他人ノ権利ヲ侵害シタル」と規定していたため、不法行為の成立には厳密な意味での「権利」の侵害が必要かどうかが問題となりました。

  • 大学湯事件(大判大14.11.28): 老舗の公衆浴場(大学湯という屋号)の営業上の利益(老舗の名声・得意先という事実上の利益)を侵害した事案で、大審院は、709条にいう「権利」を厳密な法律上の権利に限定せず、法律上保護される利益の侵害でも不法行為が成立しうるとして、権利侵害要件を緩やかに解する立場を示しました。違法性概念へ道を開いたリーディングケースです。
  • 雲右衛門事件(大判大3.7.4): 浪曲師(桃中軒雲右衛門)の浪曲レコードの無断複製が問題となった事案で、大審院は当時の著作権法の枠内で権利侵害を否定しました。「権利」を狭く解した古い判例として、大学湯事件と対比されます。

その後、判例は違法性の概念を導入し、「権利」侵害に限定せず、より広く法的保護に値する利益の侵害も不法行為を構成するとの立場に移行しました。2004年の民法現代語化により、条文上も「権利又は法律上保護される利益」と改められ、判例の立場が明文化されました。

違法性の判断枠組み(相関関係説)

通説は、違法性の有無を「被侵害利益の種類・性質」と「侵害行為の態様」との相関関係で判断します(相関関係説)。

  • 被侵害利益が強固(所有権・生命・身体など)であれば、侵害行為の態様が悪質でなくても違法性が認められやすい。
  • 被侵害利益が弱い(営業上の期待・債権など)場合は、侵害行為の態様が悪質(詐欺・脅迫・取締法規違反など)でなければ違法性が認められにくい。

この発想を理解しておくと、後述の名誉・プライバシー侵害や、第三者による債権侵害といった応用論点の処理が見通しやすくなります。

保護される「利益」の広がり

判例が不法行為の保護対象として認めてきた利益は多岐にわたります。試験で問われやすいものを挙げます。

  • 名誉: 人の社会的評価。名誉毀損は不法行為を構成し、慰謝料のほか名誉回復処分(723条)も問題となる。
  • プライバシー: 私生活上の事柄をみだりに公開されない利益(『宴のあと』事件・東京地判昭39.9.28が嚆矢とされる。最高裁レベルでも石に泳ぐ魚事件・最判平14.9.24などで保護を認める)。
  • 名誉感情・氏名権・肖像権: 肖像権について最高裁は、人にはみだりに容ぼう等を撮影されない人格的利益があると認めています(最判平17.11.10)。
  • 生活妨害(日照・騒音等): 受忍限度を超える侵害は不法行為を構成する(受忍限度論)。

これらは「権利又は法律上保護される利益」の具体例として押さえておくと、現代型の事例問題に対応できます。

要件3:損害の発生

第三の要件は、被害者に損害が発生したことです。損害がなければ賠償の問題は生じません。損害には以下の種類があります。

  • 財産的損害
  • 積極損害:治療費、修理費、葬儀費用など、現に支出した費用
  • 消極損害:逸失利益など、得べかりし利益の喪失
  • 精神的損害(慰謝料)
  • 被害者本人の精神的苦痛に対する慰謝料(710条)
  • 近親者固有の慰謝料(711条):生命侵害の場合、被害者の父母・配偶者・子は固有の慰謝料請求権を有する

判例は、711条に列挙されていない者(内縁の配偶者等)であっても、被害者との間に711条所定の者と実質的に同視しうる関係がある場合には、固有の慰謝料請求権を認めています。

損害概念と差額説

損害の捉え方について、通説・判例は差額説を採ります。すなわち、「不法行為がなかったならば存在したであろう財産状態」と「不法行為があった現実の財産状態」との差を損害と捉えます。逸失利益(消極損害)の算定も、この差額説の発想に基づきます。

慰謝料に関する頻出論点

  • 710条: 財産権が侵害された場合でも、精神的損害(慰謝料)の賠償を請求できることを明示しています。「財産侵害=財産的損害のみ」ではない点に注意。
  • 711条(近親者の慰謝料): 「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対して」固有の慰謝料を負うと規定。列挙されているのは父母・配偶者・子の3者です。
  • 711条の類推適用: 判例は、夫の弟(身体障害があり同居して被害者と長年生活していた者)について、被害者の死亡で甚大な精神的苦痛を受けたとして、711条の類推適用により固有の慰謝料を認めました(最判昭49.12.17)。内縁配偶者についても類推適用の余地が認められています。
  • 生命侵害の慰謝料請求権の相続: 被害者本人の慰謝料請求権は、被害者が請求の意思を表明しなくても、当然に相続人に承継されるとされています(最大判昭42.11.1。被害者が「残念残念」と言って死亡した事案で、意思表明の要否が争われ、最終的に当然相続が認められた)。

「711条の列挙は限定列挙か例示か」という問いは記述・択一とも問われやすく、条文上は限定的だが判例は類推適用で柔軟に救済しているという二段構えで覚えておくと得点しやすくなります。

要件4:因果関係(相当因果関係)

第四の要件は、加害行為と損害との間に因果関係があることです。

判例・通説は、相当因果関係説を採用しています。これは、当該行為からその損害が生じることが社会通念上相当といえる場合に因果関係を認めるものです。

損害賠償の範囲については、416条を類推適用するとの見解があります(大連判大15.5.22、富喜丸事件)。416条は次のとおり定めています。

債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
― 民法 第416条

すなわち、通常生ずべき損害は当然に賠償の対象となり、特別の事情によって生じた損害は、当事者がその事情を予見すべきであったときに賠償の対象となります。

条文の注意点: 416条2項は2020年4月1日施行の改正で文言が改められています。改正前は「当事者がその事情を予見し、又は予見することができたとき」という事実としての予見可能性を問う書きぶりでしたが、現行法は「予見すべきであった」という規範的評価の表現に変わりました。古い教材ではまだ旧文言のまま解説されていることがあるため、条文問題では現行の文言で覚えてください。

もっとも、不法行為における因果関係の立証は容易ではない場合があり、特に公害訴訟や薬害訴訟では、因果関係の立証方法が重要な争点となってきました。

「事実的因果関係」と「賠償範囲」を分けて理解する

因果関係の論点は、実は2つの層に分かれています。ここを混同しないことが理解のカギです。

  1. 事実的因果関係(条件関係): 「あれなければこれなし」という関係。その行為がなければその結果が生じなかったか、という事実レベルの問題。
  2. 賠償範囲の画定(保護範囲): 事実的因果関係が認められる損害のうち、どこまでを賠償させるのが公平か、という規範的な問題。ここで相当因果関係(416条類推)が機能する。

試験では、①の立証の程度を問う問題(ルンバール事件)と、②の賠償範囲を問う問題(416条類推)が別々に出題されます。両者を区別して整理しておきましょう。

立証の程度——ルンバール事件(最判昭50.10.24)

事実的因果関係の立証は、自然科学的な厳密証明までは要求されません。最高裁は次のように判示しました。

訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる。
― 最判昭和50年10月24日(ルンバール事件)

高度の蓋然性」「通常人が疑いを差し挟まない程度」というキーワードが頻出です。択一では「自然科学的証明が必要」という誤りの選択肢としてよく登場します。

公害・薬害訴訟における因果関係の緩和

公害訴訟では、被害者が科学的な因果経路を完全に立証することが極めて困難なため、判例・裁判例は立証を緩和する手法を発展させてきました。代表例が、新潟水俣病訴訟などで用いられた疫学的因果関係(統計的・疫学的なデータから蓋然性の高い因果関係を認める手法)です。また、共同不法行為(719条)の場面では、加害者不明の場合の因果関係の推定(719条1項後段)が被害者救済に資する規定として機能します。

要件5:責任能力(712条・713条)

第五の要件は、加害者に責任能力があることです。責任能力とは、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能をいいます。

  • 未成年者(712条): 自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、不法行為責任を負いません。判例上、概ね12歳前後が基準とされています。
  • 精神上の障害がある者(713条): 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、不法行為責任を負いません。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、責任を免れません(713条ただし書)。

責任能力を欠く者が不法行為をした場合、その者に代わって監督義務者が責任を負います(714条)。もっとも、監督義務者が監督義務を怠らなかったこと、又は義務を怠らなくても損害が生ずべきであったことを証明すれば免責されます(714条1項ただし書)。

責任能力をめぐる試験上の注意点

  • 責任能力は「行為能力」「意思能力」とは別概念: 行為能力(取引の場面)や意思能力(法律行為の有効要件)と混同しないこと。責任能力は不法行為に固有の概念で、年齢の画一的基準(成年・未成年)ではなく、個別具体的に判断されます。
  • 未成年者でも責任能力があれば本人が責任を負う: 12歳前後を超え責任能力があると判断されれば、未成年者本人が709条の責任を負います。この場合、714条の監督義務者責任は本来適用されません。
  • 責任能力ある未成年者の親の責任: もっとも、責任能力ある未成年者が加害した場合でも、監督義務者自身の監督義務違反と損害との間に相当因果関係があるときは、監督義務者は709条(一般不法行為)に基づき責任を負いうるとされています(最判昭49.3.22)。これは714条ではなく709条による責任構成である点が重要です。

損害賠償の方法・範囲と過失相殺

金銭賠償の原則

不法行為に基づく損害賠償は、金銭賠償が原則です。722条1項が「第四百十七条及び第四百十七条の二の規定は、不法行為による損害賠償について準用する」と定め、417条(「損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める」)を準用しているからです。

なお、722条1項が準用する417条の2は2020年施行の改正で新設された条文で、逸失利益等から中間利息を控除する場合の法定利率の基準時を「その損害賠償の請求権が生じた時点」と定めています。交通事故の逸失利益算定で使われる規定であり、「722条1項は417条だけを準用する」という古い記述は現行法では不正確です。

ただし、名誉毀損の場合には、裁判所は被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分(謝罪広告等)を命ずることができます(723条)。723条は「被害者の請求により」と定めており、裁判所が職権で命じられるわけではない点にも注意しましょう。

謝罪広告の強制が「良心の自由」(憲法19条)に反しないかが争われた事案で、最高裁は、単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度のものであれば代替執行(民事執行法による強制)も可能であり、憲法19条に反しないとしました(最大判昭31.7.4)。憲法と民法の横断論点として押さえておきましょう。

過失相殺(722条2項)

被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
― 民法 第722条2項

不法行為における過失相殺は、損害の公平な分担という不法行為制度の理念に基づくものです。債務不履行における過失相殺(418条)と比較すると、以下の違いがあります。

項目不法行為の過失相殺(722条2項)債務不履行の過失相殺(418条)裁判所の裁量「考慮して…定めることができる」(裁量的)「これを考慮して…定める」(必要的)効果減額のみ(全額免責は不可とする見解有力)減額又は免責

被害者側の過失については、判例は被害者と身分上・生活関係上一体をなすとみるべき関係にある者の過失も考慮できるとしています(最判昭51.3.25)。例えば、幼児の交通事故における親の監督上の過失がこれにあたります。

過失相殺で問われる細かい論点

  • 被害者の「能力」: 過失相殺で考慮される被害者の過失について、判例は、責任能力までは不要で、事理を弁識するに足りる能力(事理弁識能力)があれば足りるとしています(最大判昭39.6.24)。事理弁識能力は概ね5〜6歳程度で備わるとされ、責任能力(12歳前後)よりも低い水準です。「過失相殺には責任能力が必要」という選択肢は誤りです。
  • 被害者側の過失の範囲: 「身分上・生活関係上一体をなす関係」が基準。夫婦間の一方の過失は他方の被害者側の過失として考慮されますが(最判昭51.3.25の射程)、保育園の保母(被害者と一体とはいえない第三者)の過失は被害者側の過失に含まれないとされます(最判昭42.6.27)。「一体性」があるかが分水嶺です。
  • 素因減額(過失相殺の類推適用): 被害者の心因的要因や身体的特徴(疾患)が損害の拡大に寄与した場合、722条2項を類推適用して賠償額を減額できるとされます(最判昭63.4.21=心因的要因、最判平4.6.25=疾患)。ただし、被害者の身体的特徴が「疾患」とまではいえない通常の個体差(首が長い等)にとどまる場合は、原則として減額しないとされています(最判平8.10.29)。

違法性阻却事由——正当防衛と緊急避難(720条)

要件②の「権利又は法律上保護される利益の侵害」があっても、違法性が阻却されれば不法行為は成立しません。民法が明文で置いている阻却事由が720条です。

他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
2 前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。
― 民法 第720条

刑法との違いに注意が必要です。

項目民法720条刑法36条・37条正当防衛の対象「他人の不法行為」に対する防衛「急迫不正の侵害」に対する防衛第三者への加害720条1項は第三者に対する加害も含みうる(条文が加害の相手方を限定していない)対物防衛・第三者への加害は緊急避難で処理緊急避難(2項)他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合に限定危難の原因を限定せず、避難行為の対象も広い

とりわけ720条2項は、「他人のから生じた危難」を「その物を損傷して」避けた場合に限られており、刑法の緊急避難よりも著しく狭い点が繰り返し出題されています。

また、720条1項ただし書は、防衛行為をした者が免責されても、被害者はもともとの不法行為者に対して賠償請求できることを確認しています。

このほか、明文はありませんが、被害者の承諾、正当業務行為(医師の治療行為・報道など)、自力救済(極めて例外的な場合)も違法性阻却事由として議論されます。

胎児の損害賠償請求権(721条)

胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。
― 民法 第721条

民法3条1項は「私権の享有は、出生に始まる」と定めており、権利能力の始期は出生です。721条はその例外で、不法行為による損害賠償請求権については胎児を既に生まれたものとみなします。父が交通事故で死亡した場合、その時点で胎児であった子も、扶養利益の喪失や711条の慰謝料を請求できることになります。

出題ポイント: 胎児が例外的に権利能力を認められるのは、①不法行為に基づく損害賠償請求(721条)、②相続(886条)、③遺贈(965条が886条を準用)の3場面です。この3つをセットで覚えましょう。なお、886条2項は「胎児が死体で生まれたときは、適用しない」と明記しているのに対し、721条にはこれに対応する明文がありませんが、死産の場合に請求権が生じないことは当然と解されています。判例(大判昭7.10.6・阪神電鉄事件)は、胎児である間は権利能力を有せず、生きて生まれたときに遡って権利能力が認められるという停止条件説に親和的な立場を示したと理解されています。

損害賠償請求権の消滅時効(概要)

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、知った時から3年/不法行為の時から20年(生命・身体侵害は3年→5年)です。時効は独立した頻出テーマなので、次章「損害賠償請求権の消滅時効(724条・724条の2)」でまとめて扱います。

損害賠償請求権の消滅時効(724条・724条の2)

不法行為の分野で、条文の数字がそのまま出題される最頻出ポイントが消滅時効です。まず条文を正確に確認しましょう。

724条の条文

不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
― 民法 第724条

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
― 民法 第724条の2

条文の構造として重要なのは、724条の2が延長しているのは「前条第一号」=主観的起算点の3年だけである点です。20年(2号)は生命・身体侵害でも延長されません。「生命・身体侵害だから20年も延びる」という選択肢は誤りです。

①主観的起算点——「損害及び加害者を知った時」から3年

3年の時効は、被害者又はその法定代理人が「損害」と「加害者」の両方を知った時から進行します。どちらか一方しか知らない段階では起算しません。

  • 「損害を知った」: 損害の発生を現実に認識したことを要します。損害の程度・数額まで具体的に知る必要はないと解されています。
  • 「加害者を知った」: 加害者に対する賠償請求が事実上可能な程度に、加害者の氏名・住所等を認識したことをいうと解されています。
  • 継続的不法行為: 騒音・振動・地盤沈下のように損害が日々発生し続ける場合、日々発生する損害ごとに時効が進行するとされ、起算点の処理が問題になります。

②客観的起算点——「不法行為の時」から20年

被害者が損害や加害者を知らないまま長期間が経過した場合でも、不法行為の時から20年で権利は消滅します。加害行為の時と損害発生の時がずれる(潜伏期間のある疾病など)事案では、この「不法行為の時」をいつと見るかが争われ、損害の全部又は一部が発生した時を起算点とする処理が判例上採られてきました(じん肺や予防接種被害などの事案)。

③2020年改正——20年は「除斥期間」から「消滅時効」へ

改正前民法724条後段の20年について、判例は除斥期間と解していました(最判平元.12.21)。除斥期間には次の性質があります。

除斥期間(改正前の理解)消滅時効(現行法)当事者の援用不要(裁判所が職権で考慮)必要(145条)完成猶予・更新なしあり(147条以下)信義則・権利濫用による制限原則として困難可能

2020年4月1日施行の改正民法は、724条を「時効によって消滅する」と書き改め、1号(3年)も2号(20年)もともに消滅時効であることを明文化しました。これにより、20年についても完成猶予・更新の規定が働き、援用が必要になります。被害者保護を厚くする方向の改正です。

出題ポイント: 「20年は除斥期間である」という記述は、現行法のもとでは誤りです。改正の経緯とセットで押さえてください。

④生命・身体侵害の特則——3年が5年に(724条の2)

人の生命又は身体を害する不法行為については、主観的起算点が5年に延長されます。人身損害は損害の把握に時間がかかり、被害者が交渉や治療に追われて権利行使が遅れやすいことを考慮した規定です。

同時に、債務不履行側でも167条が「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権」について166条1項2号の10年を20年に読み替えています。この2つの特則により、人身損害は不法行為構成でも債務不履行構成でも「主観5年/客観20年」に統一されました。

⑤時効期間の一覧表(債務不履行との対比)

請求権の種類主観的起算点客観的起算点根拠不法行為(財産損害)損害及び加害者を知った時から3年不法行為の時から20年724条1号・2号不法行為(生命・身体侵害)同じく5年不法行為の時から20年724条の2・724条2号債権一般(債務不履行)権利行使できると知った時から5年権利行使できる時から10年166条1項1号・2号債務不履行(生命・身体侵害)5年20年166条1項1号・167条

覚え方: 「生命・身体が絡んだら、どちらのルートでも5年と20年」。この一言で4行の表が復元できます。

確認問題

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時から5年、不法行為の時から30年で時効消滅する。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
724条の2が延長しているのは724条1号の「三年間」を「五年間」に読み替える部分のみです。724条2号の客観的起算点(不法行為の時から20年)は、生命・身体侵害の場合でも延長されず20年のままです。「30年」という期間は民法上存在しません。

特殊な不法行為の全体像(714条〜719条)

709条の一般不法行為では、被害者がすべての要件を立証しなければならず、資力のない加害者しかいなければ実際には救済されません。そこで民法は714条以下に、①立証責任を転換する②責任主体を資力のある者に広げるという2つの手法で被害者保護を厚くした規定群を置いています。これが特殊不法行為です。

特殊不法行為の一覧表(要件・免責事由・責任の性質)

類型条文責任を負う者主な要件免責事由責任の性質監督義務者責任714条責任無能力者の法定監督義務者・代理監督者①責任無能力者の加害行為 ②712条・713条により本人が免責されること ③監督義務者であること監督義務を怠らなかったこと、又は義務を怠らなくても損害が生ずべきであったことの証明中間責任使用者責任715条使用者・代理監督者①使用関係 ②被用者の不法行為 ③事業の執行についてなされたこと選任及び事業の監督につき相当の注意をしたこと、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったことの証明(実務上ほぼ認められない)中間責任注文者の責任716条注文者原則として責任なし(原則不責任。注文又は指図に注文者の過失があるときのみ責任)過失責任(原則免責)工作物責任(占有者)717条1項本文土地の工作物の占有者①土地の工作物 ②設置又は保存の瑕疵 ③瑕疵による損害発生損害の発生を防止するのに必要な注意をしたことの証明中間責任工作物責任(所有者)717条1項ただし書所有者占有者が免責されたことなし無過失責任動物占有者責任718条動物の占有者・保管者①動物の占有 ②動物が他人に加えた損害動物の種類及び性質に従い相当の注意をもって管理をしたことの証明中間責任共同不法行為719条共同行為者・教唆者・幇助者①各人の行為が709条の要件を充足 ②客観的関連共同性(1項前段)—連帯責任

この表を縦に読むと、免責事由の欄が空欄なのは717条の所有者だけであることが一目でわかります。ここが試験の急所です。

監督義務者責任(714条)

前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
― 民法 第714条1項

成立の前提は「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合」、すなわち712条(責任能力のない未成年者)・713条(精神上の障害により責任弁識能力を欠く者)により本人が免責される場合です。逆にいえば、加害者に責任能力があれば714条は適用されません。この「714条は本人が責任を負わないときの受け皿」という位置づけが最重要ポイントです。

免責事由は2つ書かれています。①監督義務を怠らなかったこと、②義務を怠らなくても損害が生ずべきであったこと(因果関係の欠如)。立証責任は監督義務者側にありますが、実際に免責が認められる例は多くありません。

また、714条2項は「監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者」(代理監督者。保育士・教員など)にも同じ責任を負わせています。

責任能力ある未成年者の場合: 本人が709条の責任を負うため714条は使えませんが、監督義務者自身の監督義務違反と損害との間に相当因果関係があるときは、親権者が709条に基づいて責任を負いうるとするのが判例です(最判昭49.3.22)。「714条ではなく709条」という点が問われます。

使用者責任(715条)

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
― 民法 第715条1項

使用者責任は、被用者が事業の執行について第三者に加えた損害について、使用者が賠償責任を負うものです。詳細は関連記事「使用者責任(715条)の要件と判例を徹底解説」で解説しています。

使用者責任の要件は、(1)使用関係の存在、(2)被用者の不法行為(709条の要件充足)、(3)事業の執行について行われたことの3つです。条文上は選任・監督について相当の注意をしたことを証明すれば免責される建前ですが、実務上はほぼ免責が認められません。

  • 使用関係: 雇用契約に限らず、実質的な指揮監督関係があれば足りるとされます。名義貸しや元請・下請の関係でも認められる場合があります。
  • 事業執行性: 判例は外形標準説(外形理論)を採り、行為の外形から見て被用者の職務の範囲内に属するものと認められるかで判断します(最判昭40.11.30など)。取引的不法行為だけでなく、事実的不法行為(自動車事故など)でも職務との関連性が問われます。
  • 求償権: 715条3項は「前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない」と定めます。もっとも判例は、損害の公平な分担の見地から、求償できる範囲を信義則上相当と認められる限度に制限しています(最判昭51.7.8)。
  • 逆求償: 被用者が被害者に賠償した場合、被用者から使用者に対する逆求償も、同じく損害の公平な分担の見地から認められています(最判令2.2.28)。

なお715条2項は、使用者に代わって事業を監督する者(現場監督者等)も同じ責任を負うと定めています。

注文者の責任(716条)——「責任を負わない」規定

見落とされがちですが、716条は注文者が原則として責任を負わないことを定めた規定です。

注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。
― 民法 第716条

請負人は注文者から独立して仕事を行うため、注文者と請負人の間には715条にいう指揮監督関係がないのが通常です。そこで716条本文は注文者の免責を確認し、ただし書で「注文又は指図についての過失」がある場合にのみ責任を認めています。

出題ポイント: 「注文者は請負人の不法行為について常に責任を負う」という選択肢は誤りです。714条・715条・717条・718条が責任を加重する規定であるのに対し、716条だけが責任を否定する方向の規定である、という位置づけを押さえましょう。ただし、実質的に元請が下請を指揮監督している場合には、716条ではなく715条の使用関係が認められることがあります。

工作物責任(717条)

土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
― 民法 第717条1項

工作物責任では、占有者は中間責任(過失の推定)所有者は無過失責任を負います。占有者が免責事由を証明した場合、所有者が最終的な責任を負い、所有者には免責が認められない点が試験上の重要ポイントです。

責任を負う順序は「まず占有者→占有者が免責されたら所有者」という二段構えです。被害者はいきなり所有者に請求できるわけではなく、まず占有者が第一次的な責任主体になります。

  • 「土地の工作物」: 土地に接着して人工的に設置された物をいい、建物・塀・道路・トンネル・電柱・遊具などが含まれます。
  • 「設置又は保存の瑕疵」: その工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。設置当初からの欠陥(設置の瑕疵)でも、その後の管理不十分(保存の瑕疵)でも構いません。
  • 竹木への準用: 717条2項は「前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する」と定め、街路樹の倒木などにも同じ枠組みが及びます。
  • 求償: 717条3項により、損害の原因について他に責任を負う者(施工業者・前所有者など)があるときは、占有者又は所有者はその者に求償できます。

行政法との横断: 公の営造物の設置管理の瑕疵については、国家賠償法2条が717条とよく似た規定を置いています。ただし国賠法2条には占有者の免責規定がなく、国・公共団体は端的に無過失責任を負う点が異なります。詳しくは「国家賠償法2条と損失補償|営造物の設置管理の瑕疵」で扱っています。

動物占有者責任(718条)

動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
― 民法 第718条1項

動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負います。免責事由は「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたとき」であり、単に「注意していた」だけでは足りず、その動物の危険性に応じた管理が求められます。中間責任(過失が推定される責任)です。

占有者に代わって動物を管理する者(保管者。ペットホテル・動物病院など)も同様の責任を負います(718条2項)。動物占有者責任には、工作物の所有者責任のような無過失責任の規定はなく、すべて中間責任である点に注意しましょう。「動物の所有者」が当然に責任を負うのではなく、条文の主語は「占有者」である点も、細かいながら出題されます。

共同不法行為(719条)

数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
― 民法 第719条

共同不法行為が成立すると、各加害者は連帯して損害賠償責任を負います。被害者は、各加害者のいずれに対しても損害の全額を請求できるため、被害者の保護が図られています。

719条には3つの類型があります。

類型条文内容機能狭義の共同不法行為1項前段数人が共同の不法行為で損害を加えた場合各自が全額の連帯責任加害者不明の共同不法行為1項後段共同行為者のうち誰が加害したか不明な場合因果関係の推定(被害者は個別の因果関係を立証しなくてよい)教唆・幇助2項教唆者・幇助者共同行為者とみなす

1項前段の「共同」については、判例・通説は客観的関連共同性で足りるとし、意思の連絡(主観的共同)は不要としています。この理解により、意思を通じていない複数の工場からの排水が合わさって公害を生じさせたような事案でも、各企業に全額の連帯責任を負わせることができます。

なお、共同不法行為者の負う債務は伝統的に不真正連帯債務と説明されてきました。2020年改正で連帯債務の絶対的効力事由が整理された(弁済・相殺・更改・混同以外は相対的効力が原則)ことにより、連帯債務と不真正連帯債務の実質的な差は縮まっていますが、試験対策としては「被害者はどの加害者にも全額請求できる」という結論を押さえれば足ります。

確認問題

注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わないが、注文又は指図についてその注文者に過失があったときはこの限りでない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
民法716条の内容そのものです。請負人は注文者から独立して仕事を行うため、原則として注文者は責任を負いません(本文)。ただし、注文内容や指図自体に注文者の過失がある場合には責任を負います(ただし書)。714条・715条・717条・718条が責任を加重する規定であるのに対し、716条は責任を否定する方向の規定である点が特徴です。

失火責任法|709条を重過失に限定する特別法

不法行為の学習で見落としやすいのが、民法の外にある失火ノ責任ニ関スル法律(失火責任法、明治32年法律第40号)です。条文はわずか一文です。

民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス
― 失火ノ責任ニ関スル法律

現代語に直すと、「民法709条の規定は失火の場合には適用しない。ただし、失火者に重大な過失があったときは、この限りでない」となります。

趣旨と効果

日本は木造家屋が密集しており、いったん失火すると延焼被害が加害者の資力をはるかに超えて拡大します。そこで、軽過失にとどまる失火者を保護し、責任を重過失の場合に限定したのがこの法律です。

  • 軽過失による失火 → 709条の責任を負わない(延焼被害者は失火者に賠償請求できない)
  • 重過失による失火 → 709条の責任を負う

適用範囲——ここが出題される

失火責任法は「民法709条」を名指しで制限する法律です。そのため、適用範囲の切り分けが問われます。

場面失火責任法の適用結論一般不法行為(709条)あり重過失がなければ免責債務不履行責任なし賃借人の失火による賃借物の焼失は、軽過失でも債務不履行責任を負う監督義務者責任(714条)責任無能力者本人の重過失は不要監督義務者の監督義務違反に重過失があるかで判断されるとするのが判例(最判平7.1.24)使用者責任(715条)あり被用者に重過失があることが必要工作物責任(717条)なし709条ではなく717条の責任なので、失火責任法は適用されない

最頻出のひっかけは「債務不履行との関係」です。賃借人が失火して借家を焼失させた場合、賃借人は賃貸人に対して目的物返還義務の履行不能という債務不履行責任を負い、この場面に失火責任法は適用されません。したがって、軽過失であっても賃貸人に対する責任は免れません。「失火なら常に重過失がなければ責任なし」という記述は誤りです。

不法行為の重要判例

判例知識は不法行為分野の得点源です。事案・判旨・意義をセットで整理しましょう。

過失に関する判例

最判平7.6.9(医療水準に関する判例)

医師の注意義務の基準について、「臨床医学の実践における医療水準」によるべきとし、当該医療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきと判示しました。医療過誤における過失の判断基準として重要な判例です。

  • 事案: 未熟児網膜症をめぐる医療過誤訴訟で、医師に求められる注意義務の水準が争われた。
  • 判旨: 注意義務の基準となるべきは「臨床医学の実践における医療水準」であり、その水準は医療機関ごとの諸事情を考慮して相対的に定まる。
  • 意義: 過失(客観化された注意義務)の判断基準を医療分野で具体化したリーディングケース。

権利侵害・違法性に関する判例

大判大14.11.28(大学湯事件)

  • 事案: 老舗(屋号「大学湯」)の営業上の利益という事実上の利益の侵害が問題となった。
  • 判旨: 709条の保護対象は厳密な「権利」に限られず、法律上保護される利益の侵害でも不法行為が成立しうる。
  • 意義: 権利侵害要件を緩和し、違法性概念へ道を開いた。現行709条「法律上保護される利益」の源流。

最大判昭61.6.11(北方ジャーナル事件)

名誉権に基づく出版の事前差止めが問題となった事案で、最高裁は、表現行為に対する事前抑制は原則として許されないが、表現内容が真実でなく、又はもっぱら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときは、例外的に差止めが許されるとしました。名誉権という人格権に基づく差止請求を認めた点でも重要です(憲法21条との横断論点)。

因果関係に関する判例

最判昭50.10.24(ルンバール事件)

  • 事案: 化膿性髄膜炎で入院中の幼児に対し、医師が食事直後にルンバール(腰椎穿刺による髄液採取・薬剤注入)を実施したところ、その約15〜20分後に嘔吐・けいれん等の発作が起き、重い後遺症が残った。施術と発作との因果関係が争われた。
  • 判旨: 「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる。」
  • 意義: 因果関係の立証の程度を「高度の蓋然性」と定式化したリーディングケース。医療訴訟・公害訴訟における被害者救済の基盤となった。

出題ポイント: 「自然科学的証明が必要」「一点の疑義も許されない証明を要する」という選択肢は誤り。逆に「単なる可能性で足りる」も誤りで、あくまで「通常人が疑いを差し挟まない程度」の確信が必要です。

使用者責任に関する判例

最判昭40.11.30(外形標準説)

  • 事案: 会社の従業員が権限外で会社名義の手形を振り出すなどした行為について、会社の使用者責任が問われた。
  • 判旨: 「事業の執行について」とは、被用者の職務執行行為そのものには属しなくても、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合を含む。
  • 意義: 外形標準説(外形理論)を明示。取引の相手方の信頼を保護し、使用者責任の成立範囲を広げた。

最判昭51.7.8(使用者から被用者への求償の制限)

  • 事案: 会社の業務中に交通事故を起こした従業員に対し、被害者に賠償した会社が全額の求償を求めた。
  • 判旨: 使用者は、その事業の性格・規模、被用者の業務内容・労働条件、加害行為の態様、予防・分散についての使用者の配慮の程度等に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度においてのみ求償できる。
  • 意義: 715条3項の求償権は文言上無制限に見えるが、判例により大幅に制限されることを示した。

最判令2.2.28(逆求償の肯定)

  • 事案: 被用者が被害者に損害を賠償したうえで、使用者に対してその負担部分の支払(逆求償)を求めた。
  • 判旨: 損害の公平な分担という見地から、被用者は、使用者に対し、諸般の事情に照らし相当と認められる額について求償することができる。
  • 意義: 民法に明文のない逆求償を最高裁として初めて認めた。「求償は使用者→被用者の一方通行」という理解は誤りとなった。

過失相殺に関する判例

最判昭51.3.25(被害者側の過失)

  • 事案: 交通事故により幼児が損害を被った事案で、被害者の親(監督者)の過失を賠償額の算定において斟酌できるかが争われた。
  • 判旨: 722条2項にいう被害者の過失には、被害者と身分上ないし生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失も含まれる。
  • 意義: 「被害者側の過失」法理を定式化。夫婦の一方の過失は他方の被害者側の過失として考慮されうる一方、被害者と一体とはいえない第三者(例えば保育園の保母)の過失は含まれないとされます(最判昭42.6.27)。

最大判昭39.6.24(過失相殺と被害者の能力)

  • 事案: 8歳前後の児童が交通事故で損害を被った事案で、過失相殺をするために被害者にどの程度の能力が必要かが争われた。
  • 判旨: 過失相殺において被害者の過失を斟酌するには、被害者に事理を弁識するに足りる知能が備わっていれば足り、責任能力(行為の責任を弁識する能力)があることは必要でない。
  • 意義: 事理弁識能力(概ね5〜6歳)と責任能力(概ね12歳前後)の水準差を明確にした。「過失相殺には責任能力が必要」は誤り。

損害・慰謝料に関する判例

最大判昭42.11.1(慰謝料請求権の相続)

  • 事案: 交通事故の被害者が死亡した場合に、被害者本人の慰謝料請求権が相続の対象になるかが争われた(被害者が「残念残念」と述べて死亡した事案として知られる)。
  • 判旨: 被害者が慰謝料請求の意思を表明しなくても、慰謝料請求権は財産上の損害賠償請求権と同様に当然に相続人へ承継される
  • 意義: それ以前は請求の意思表明を要するとの立場があったが、これを否定。「意思表明がなければ相続されない」という選択肢は誤り。

最判昭49.12.17(711条の類推適用)

  • 事案: 交通事故で死亡した被害者の夫の妹(身体障害があり、長年被害者と同居して生活していた)が固有の慰謝料を請求した。
  • 判旨: 711条に列挙されていない者であっても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、711条の類推適用により固有の慰謝料を請求できる。
  • 意義: 711条の列挙(父母・配偶者・子)が硬直的に限定列挙とされることを避け、内縁配偶者等への救済の道を開いた。

最判平9.7.11(萬世工業事件・懲罰的損害賠償)

  • 事案: 米国カリフォルニア州の裁判所が命じた懲罰的損害賠償を含む外国判決について、日本での執行が求められた。
  • 判旨: 懲罰的損害賠償を命じた部分は、日本の不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則・基本理念と相容れず、日本の公の秩序に反するため効力を有しない
  • 意義: 日本の不法行為法は損害の填補を目的とし、制裁・一般予防を目的とする懲罰的損害賠償は採用していないことを明確にした。

監督義務者責任に関する判例

最判平28.3.1(認知症高齢者のJR事故事件)

認知症の高齢者が鉄道線路に立ち入り列車と衝突して死亡した事故について、鉄道会社が遺族に対して損害賠償を請求した事案です。最高裁は、法定の監督義務者に該当しない者であっても、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況等に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなど、その監護の実態と社会通念に照らして法定の監督義務者と同視しうる場合には、714条1項の法定の監督義務者に準じて責任を負う(準監督義務者)としつつ、本件では妻及び長男のいずれも法定の監督義務者に準ずべき者に当たらないとして、請求を棄却しました。

  • 意義: 高齢化社会を背景に「法定監督義務者」概念を見直し、準監督義務者の判断枠組みを示した。結論として家族の責任を否定した点も含めて押さえる。

最判昭49.3.22(責任能力ある未成年者と親の709条責任)

  • 事案: 責任能力のある未成年者が起こした加害行為について、714条が適用されない場面で親権者の責任が問えるかが争われた。
  • 判旨: 責任能力のある未成年者の行為であっても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき709条に基づく不法行為が成立する。
  • 意義: 714条の適用がない場合でも、一般不法行為(709条)による親の責任追及の道があることを示した。「714条ではなく709条」という構成の違いが出題される。

最判平7.1.24(責任無能力者の失火と監督義務者の責任)

  • 事案: 責任能力のない未成年者の火遊びにより火災が発生し、延焼被害者が監督義務者(親権者)に714条の責任を追及した。
  • 判旨: 責任無能力者の失火については、監督義務者に重大な過失がなかったときは、失火責任法により714条の責任を免れる
  • 意義: 失火責任法と特殊不法行為の関係を示した判例。714条の場面では「責任無能力者本人の重過失」ではなく「監督義務者の監督についての重過失」が基準になる点が重要。

一般不法行為と特殊不法行為の比較

試験では、一般不法行為と特殊不法行為の要件・効果の違いを正確に比較できることが求められます。以下の表で整理しましょう。

類型条文立証責任の転換免責の可否一般不法行為709条なし(被害者が立証)-監督義務者責任714条あり(過失が推定)監督義務を怠らなかったことの証明で免責可使用者責任715条あり(過失が推定)選任・監督の注意を証明(実際上は免責困難)注文者の責任716条なし(原則として責任を負わない)原則免責。注文・指図の過失があるときのみ責任工作物責任(占有者)717条あり(過失が推定)注意を尽くしたことの証明で免責可工作物責任(所有者)717条あり(無過失責任)免責不可動物占有者責任718条あり(過失が推定)相当の注意をしたことの証明で免責可共同不法行為719条因果関係の推定(1項後段)-

この表の中で、所有者の工作物責任(717条)が無過失責任であることは、試験で繰り返し問われるポイントです。「民法上の不法行為で唯一明文の無過失責任」と覚えておくと、択一の正誤判断が速くなります。

「中間責任」と「無過失責任」を取り違えない

特殊不法行為の最大のひっかけは、中間責任(過失の推定=免責の余地あり)無過失責任(免責の余地なし)の取り違えです。

  • 中間責任(免責の余地あり): 監督義務者(714条)、使用者(715条)、工作物の占有者(717条前段)、動物占有者(718条)
  • 無過失責任(免責の余地なし): 工作物の所有者(717条後段)

「使用者責任は無過失責任だ」という選択肢はよくある誤りです。条文上は選任・監督の無過失を立証すれば免責される建前であり(実務上はほぼ認められないものの)、無過失責任ではなく中間責任である点を正確に区別しましょう。

過去問で問われる典型的な角度・よくある誤解

ここでは、行政書士試験で繰り返し問われてきた切り口と、受験生が陥りやすい誤解を整理します。

頻出の出題角度

  • 立証責任の所在: 709条はすべて被害者立証。特殊不法行為は立証責任が転換される(過失の推定)。この対比は組合せ問題の定番。
  • 無過失責任はどれか: 717条所有者のみ、という結論を問う。
  • 消滅時効の年数: 3年/20年、生命・身体は5年/20年。「20年は除斥期間か消滅時効か」(→改正後は消滅時効)。
  • 因果関係の立証の程度: 自然科学的証明か高度の蓋然性か(→ルンバール事件)。
  • 過失相殺と被害者の能力: 責任能力不要・事理弁識能力で足りる。
  • 711条の主体: 父母・配偶者・子の3者。類推適用の有無。
  • 716条の方向: 注文者は原則として責任を負わない。「常に責任を負う」は誤り。
  • 失火責任法の射程: 709条には適用、債務不履行には不適用。715条では被用者の重過失、714条では監督義務者の重過失が基準。
  • 720条2項の狭さ: 民法の緊急避難は「他人の物から生じた危難を、その物を損傷して避けた場合」に限られる。刑法の緊急避難と同じ範囲だと考えると誤る。
  • 胎児(721条): 損害賠償請求権について既に生まれたものとみなされる。相続(886条)・遺贈(965条)と並ぶ例外。

よくある誤解(ここを直せば失点が減る)

  • 誤解①「過失は加害者個人の不注意の問題」 → 現在は客観化され、客観的な行為義務違反として判断される(過失の客観化)。
  • 誤解②「使用者責任は無過失責任」 → 中間責任。免責の建前あり。無過失責任は717条の所有者のみ。
  • 誤解③「過失相殺には被害者の責任能力が必要」 → 事理弁識能力で足りる(最大判昭39.6.24)。
  • 誤解④「日本でも悪質なら懲罰的損害賠償が認められる」 → 認められない(最判平9.7.11)。日本の不法行為法は損害填補が中心。
  • 誤解⑤「711条の慰謝料は父母・配偶者・子に限られ、他は一切請求できない」 → 条文上は限定的だが、判例は類推適用で内縁配偶者等にも認める余地を残す(最判昭49.12.17)。
  • 誤解⑥「責任能力ある未成年者が加害した場合、親は一切責任を負わない」 → 親自身の監督義務違反と相当因果関係があれば709条で責任を負いうる(最判昭49.3.22)。
  • 誤解⑦「20年は除斥期間だから援用がいらない」 → 2020年施行の改正で消滅時効に整理され、援用が必要・完成猶予や更新も適用される。
  • 誤解⑧「生命・身体侵害なら20年も延びる」 → 724条の2が読み替えるのは724条1号の3年→5年のみ。20年は変わらない。
  • 誤解⑨「失火なら重過失がなければどんな責任も負わない」 → 失火責任法が制限するのは709条。賃借人の失火による債務不履行責任には適用されず、軽過失でも責任を負う。
  • 誤解⑩「使用者が被害者に賠償したら、被用者に全額求償できる」 → 損害の公平な分担の見地から信義則上相当な限度に制限される(最判昭51.7.8)。逆に被用者から使用者への逆求償も認められる(最判令2.2.28)。
  • 誤解⑪「被害者本人の慰謝料請求権は、本人が請求の意思を表明していなければ相続されない」 → 当然に相続される(最大判昭42.11.1)。

記述式で問われたらどう書くか

記述式(40字程度)では、要件のキーワードを正確に盛り込むことが求められます。たとえば「Aが709条に基づき損害賠償を請求するために主張すべき要件」を問われたら、「故意又は過失、権利又は法律上保護される利益の侵害、損害の発生、加害行為との間の因果関係」を簡潔に列挙する形が基本です。判例の定式(「高度の蓋然性」「医療水準」「外形標準」「身分上・生活関係上一体」など)はキーワードでそのまま得点になるため、正確に暗記しておきましょう。

確認問題

民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求において、加害者の故意又は過失の立証責任は加害者側にある。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
一般不法行為(709条)では、故意又は過失の立証責任は被害者(請求者)側にあります。これは使用者責任(715条)や工作物責任(717条)のような特殊不法行為で立証責任が転換されている場合と対比される重要なポイントです。
確認問題

土地の工作物の設置又は保存の瑕疵によって他人に損害が生じた場合、占有者が損害発生防止のために必要な注意をしたことを証明したときは、所有者が損害賠償責任を負う。この場合、所有者は免責されることがない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
民法717条1項により、工作物の占有者が免責された場合、所有者が損害賠償責任を負います。所有者の責任は無過失責任であり、所有者には免責事由が認められません。これは民法上の不法行為で唯一の無過失責任として重要です。
確認問題

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年である。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から原則3年です(民法724条1号)。ただし、人の生命又は身体を害する不法行為の場合は5年とされています(724条の2)。
確認問題

不法行為における過失相殺(722条2項)で被害者の過失を斟酌するためには、被害者に責任能力が備わっていることが必要である。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
判例(最大判昭39.6.24)は、過失相殺で斟酌される被害者の過失について、被害者に責任能力までは不要であり、事理を弁識するに足りる能力(事理弁識能力)があれば足りるとしています。責任能力(概ね12歳前後)と事理弁識能力(概ね5〜6歳)の区別が重要です。
確認問題

不法行為の事実的因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明を要する。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
最判昭50.10.24(ルンバール事件)は、訴訟上の因果関係の立証は自然科学的証明ではなく、経験則に照らして特定の事実が結果を招来した関係を是認しうる「高度の蓋然性」の証明で足り、通常人が疑いを差し挟まない程度の確信を得られればよいとしました。

まとめ

本記事では、不法行為(民法709条)の要件と重要判例について解説しました。

要点を3つに整理します。

  1. 一般不法行為(709条)の5要件: 故意又は過失、権利又は法律上保護される利益の侵害、損害の発生、因果関係、責任能力の5つを正確に覚えること。特に、立証責任が原則として被害者側にある点が重要。
  2. 特殊不法行為との比較: 使用者責任(715条)、工作物責任(717条)、共同不法行為(719条)等との要件・効果の違いを表で整理し、立証責任の転換の有無と免責の可否(中間責任か無過失責任か)を正確に把握すること。無過失責任は717条所有者のみ。
  3. 判例知識の充実: 過失の客観化(医療水準)、因果関係の立証の程度(ルンバール事件=高度の蓋然性)、被害者側の過失(身分上・生活関係上一体)、過失相殺の能力(事理弁識能力で足りる)など、試験で繰り返し問われる判例を条文の要件と結びつけて理解すること。

さらに、次の3点を「違い」として整理しておくと得点が安定します。

  • 債務不履行との違い: 立証責任(不法行為は被害者/債務不履行は債務者)、時効(3年・20年/5年・10年、人身損害はともに5年・20年)、過失相殺(722条2項は裁量的で減額のみ/418条は必要的で免責も可)、遅延損害金(不法行為は行為時から/債務不履行は請求時から)、近親者の慰謝料(711条の有無)。
  • 消滅時効の数字: 724条の2が延ばすのは3年→5年だけ。20年は動かない。20年は改正で除斥期間から消滅時効になった。
  • 失火責任法: 制限されるのは709条のみ。債務不履行には適用されない。

不法行為は、条文・判例ともに出題範囲が広いテーマですが、本記事で解説した基本構造を押さえれば、確実に得点力を高めることができます。関連する特殊不法行為の記事もあわせて学習し、横断的な知識を身につけましょう。

FAQ(よくある質問)

Q1. 不法行為と債務不履行が競合する場合、どちらを主張すべきですか?

被害者は、不法行為と債務不履行のどちらの構成でも損害賠償を請求できます(請求権競合説、判例・通説)。実務上は、立証責任(債務不履行の方が有利)、消滅時効(一般には不法行為が3年で短い。ただし生命・身体侵害は両者とも5年)、遅延損害金(不法行為は行為時から発生で有利)などを考慮して、有利な方を選択します。試験では、両者の違いを正確に理解しているかが問われます。

Q2. 過失相殺で、被害者側の過失はどこまで考慮されますか?

判例(最判昭51.3.25)は、被害者と「身分上ないし生活関係上一体をなすとみるべき関係にある者」の過失を、被害者側の過失として考慮できるとしています。例えば、幼児の事故における父母の監督上の過失や、夫婦の一方の過失が該当します。一方、保育園の保母など被害者と一体とはいえない第三者の過失は、被害者側の過失には含まれません(最判昭42.6.27)。

Q3. 不法行為で損害賠償を請求する場合、損害額はどのように算定されますか?

損害額の算定には、差額説(不法行為がなかったならば存在したであろう財産状態と現実の財産状態との差額を損害とする考え方)が通説です。財産的損害(積極損害・消極損害)と精神的損害(慰謝料)を合算して算定します。慰謝料の額は裁判所の裁量に委ねられています。また、被害者の心因的要因や疾患が損害の拡大に寄与した場合には、722条2項の類推適用により減額(素因減額)されることがあります。

Q4. 共同不法行為の「共同」とは何を意味しますか?

判例・通説は、共同不法行為(719条1項前段)の成立には客観的関連共同性があれば足り、共同の認識(主観的共同)は不要としています。つまり、各行為者の行為が客観的にみて一体として損害を生じさせた場合には、各行為者間に意思の連絡がなくても共同不法行為が成立します。なお、誰が加害したか不明な場合でも全員が連帯責任を負う(1項後段)点や、教唆者・幇助者も共同行為者とみなされる(2項)点も押さえましょう。

Q5. 責任無能力者の監督義務者の責任はどのような場合に問題となりますか?

責任能力のない未成年者(概ね12歳未満)や精神上の障害により責任能力を欠く者が不法行為をした場合、本人は責任を負わず、代わりに監督義務者が714条に基づき責任を負います。監督義務者は、監督義務を怠らなかったことを証明すれば免責されますが、実際に免責が認められることは稀です。なお、認知症高齢者のJR事故事件(最判平28.3.1)は、法定の監督義務者に当たらなくても「準監督義務者」として714条に準じた責任を負う場合があるとする一方、本件では家族の責任を否定しました。

Q6. 過失の「客観化」とは具体的にどういうことですか?

過失を加害者個人の心理状態(内心の不注意)の問題ではなく、その職業・地位に応じて客観的に要求される行為義務(結果回避義務)に違反したか、という問題として捉える考え方です。判断枠組みは「予見可能性を前提とした結果回避義務違反」です。医療過誤における「医療水準」(最判平7.6.9)も、この客観化された注意義務を具体化したものといえます。

Q7. 債務不履行と不法行為では、結局どちらの時効が長いのですか?

一般の財産損害では債務不履行の方が長く(主観的起算点5年・166条1項1号)、不法行為は3年です(724条1号)。ただし客観的起算点は逆で、債務不履行は10年(166条1項2号)、不法行為は20年(724条2号)です。さらに、人の生命又は身体の侵害が絡む場合は、724条の2(不法行為の3年→5年)と167条(債務不履行の10年→20年)により、どちらの構成でも「主観5年・客観20年」に揃います。「どちらが長いか」は損害の種類によって答えが変わるため、表で覚えるのが確実です。

Q8. 不法行為の20年は除斥期間ですか、消滅時効ですか?

現行法では消滅時効です。改正前民法724条後段の20年について判例は除斥期間と解していましたが(最判平元.12.21)、2020年4月1日施行の改正民法724条は「次に掲げる場合には、時効によって消滅する」として1号(3年)と2号(20年)を並列に規定し、いずれも消滅時効であることを明文化しました。その結果、20年についても時効の完成猶予・更新の規定が適用され、当事者による援用が必要になります。試験では「20年は除斥期間である」という記述は誤りとして扱われます。

Q9. 使用者責任(715条)は無過失責任ですか?

無過失責任ではなく中間責任です。715条1項ただし書は「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」と免責事由を定めており、条文上は使用者が免責される余地があります。実務上この免責が認められることはほとんどありませんが、条文構造としては過失の推定(中間責任)です。民法の不法行為で明文上の無過失責任といえるのは、717条1項ただし書の工作物所有者の責任だけです。

Q10. 建物の欠陥で通行人がけがをした場合、誰に請求できますか?

まず占有者(賃借人など、その工作物を事実上支配している者)に717条1項本文で請求します。占有者が「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」ことを証明して免責された場合は、所有者が同項ただし書により責任を負い、所有者には免責事由がありません(無過失責任)。さらに、欠陥の原因が施工不良にあるなど他に責任を負う者があるときは、賠償した占有者・所有者はその者に求償できます(717条3項)。なお、被害者が709条で施工業者を直接訴えることも妨げられません。

Q11. 隣家の失火で自宅が焼けました。損害賠償を請求できますか?

原則としてできません。失火ノ責任ニ関スル法律(失火責任法)が「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス」と定め、失火者に重大な過失があった場合に限って709条の責任を認めているためです。木造家屋の密集という日本の住宅事情のもとで延焼被害が加害者の資力を超えて拡大することを考慮した規定です。ただし、これはあくまで709条の話であり、賃借人が失火して借家を焼失させた場合の賃貸人に対する債務不履行責任には適用されません。この場合、賃借人は軽過失であっても目的物返還義務の履行不能について責任を負います。

Q12. 民法の正当防衛・緊急避難(720条)は刑法と同じですか?

同じではありません。民法720条1項の正当防衛は「他人の不法行為に対し」防衛する場合を対象とし、刑法36条の「急迫不正の侵害」より限定的な文言になっています。さらに大きく違うのが2項の緊急避難で、民法は「他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合」に限定しています。人の行為から生じた危難を避けるために第三者の物を壊した、というケースは720条2項の文言には当てはまりません。刑法の緊急避難と同じ広さだと考えると誤答するため、条文の文言そのままで覚えてください。

Q13. 交通事故で夫が死亡しました。妻は自分の慰謝料も請求できますか?

できます。711条が「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない」と定めており、配偶者は固有の慰謝料請求権を有します。これに加えて、夫本人が受けた精神的苦痛に対する慰謝料請求権も相続によって承継されます(最大判昭42.11.1)。つまり、①相続した被害者本人の慰謝料と、②711条による自分自身の慰謝料の両方を請求できることになります。なお、711条に列挙されていない内縁配偶者等でも、実質的に同視しうる関係があれば類推適用により固有の慰謝料が認められる余地があります(最判昭49.12.17)。

演習で定着させる

民法でこの分野を得点源にするには、各要件の判例上の意味と、使用者責任・共同不法行為との関係を条文単位で押さえる必要があります。行政書士ブートラボでは、肢別演習で過去問を一問一答に分解して出題するほか、条文ドリルで要件の抜けを直接確認できます。民法は択一・記述の双方で問われるため、曖昧なまま残さないことが得点の安定につながります。

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