抵当権の効力と実行|物上代位・法定地上権・一括競売
民法の抵当権の効力を徹底解説。抵当権の目的物の範囲、物上代位(304条)、法定地上権(388条)、一括競売(389条)、抵当権消滅請求を整理します。
はじめに|抵当権は担保物権の最重要テーマ
抵当権は、行政書士試験の民法において最も出題頻度が高い担保物権です。択一式だけでなく記述式でも出題される可能性が高く、その効力・実行方法・関連する法理を正確に理解しておく必要があります。
本記事では、抵当権の基本的な性質から、物上代位(304条準用)、法定地上権(388条)、一括競売(389条)、抵当権消滅請求(379条〜)、そして根抵当権との比較までを網羅的に解説します。
抵当権の論点は、(1) 抵当権の効力が及ぶ「物的範囲」(370条・371条)、(2) 価値代替物への効力である「物上代位」(304条準用)、(3) 土地と建物の利用関係を調整する「法定地上権」(388条)と「一括競売」(389条)、(4) 第三取得者の保護制度(378条・379条)、(5) 根抵当権という大きな5本の柱に整理できます。本記事はこの5本の柱に沿って構成しています。最初に全体像を一覧で押さえておきましょう。
抵当権の基本的な性質
抵当権とは
抵当権とは、債務者又は第三者(物上保証人)が占有を移転しないで担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受けることができる権利です(369条1項)。
条文: 民法369条1項
「抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。」
ここで重要なのは、抵当権を設定できる者が「債務者」に限られない点です。第三者が自己の不動産を他人の債務の担保に供することができ、この者を物上保証人といいます。物上保証人は債務を負うわけではなく(人的責任なし)、自己の不動産の価値の範囲で責任を負うにとどまります(物的責任のみ)。この点は保証人と混同しやすいので注意が必要です。
なお、抵当権の目的物となるのは不動産(土地・建物)が原則ですが、地上権・永小作権にも抵当権を設定できます(369条2項)。さらに、特別法により、登記・登録制度のある動産(自動車・船舶・航空機・建設機械等)や財団(工場財団等)にも抵当権を設定できる場合があります。
抵当権の4つの性質
抵当権は、約定担保物権として以下の4つの基本的性質(通有性)を有します。
これら4性質のうち、付従性については現代では緩和される傾向にあります。たとえば、将来発生する債権(条件付債権や継続的取引から生じる債権)を担保するための抵当権設定も認められており、設定時に被担保債権が現存していなくても抵当権を成立させることができます。これを成立における付従性の緩和といいます。根抵当権は、この付従性・随伴性を元本確定前について全面的に否定した特殊な抵当権であると位置づけられます(後述)。
抵当権の特色|非占有担保
抵当権の最大の特色は非占有担保であることです。質権と異なり、目的物の占有を設定者のもとに留めたまま担保権を設定できるため、設定者は目的物を引き続き使用・収益することができます。
この点が、不動産担保において抵当権が最も利用される理由です。設定者は担保に入れた不動産を使い続けながら融資を受けられるため、事業用不動産や居住用不動産の担保として極めて使い勝手がよいのです。
抵当権の対抗要件と順位
抵当権は当事者の意思表示(抵当権設定契約)のみで成立しますが、第三者に対抗するためには登記が必要です(177条)。同一の不動産に複数の抵当権を設定することも可能であり、その優先順位は登記の前後によって決まります(373条)。
条文: 民法373条
「同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。」
たとえば、甲不動産に1番抵当権(A)と2番抵当権(B)が設定されている場合、競売による配当はまずAに優先的になされ、残余からBが弁済を受けます。先順位抵当権が被担保債権の弁済等で消滅すると、後順位抵当権の順位が上昇します(順位上昇の原則)。また、抵当権の順位は各抵当権者の合意により変更でき、この場合は登記が効力要件となります(374条)。
抵当権の効力が及ぶ範囲(370条)
370条の規定
条文: 民法370条
「抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第424条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。」
370条が「抵当地の上に存する建物を除き」と規定しているのは、日本法が土地と建物を別個独立の不動産として扱っているためです。土地に抵当権を設定しても、その効力は当然には土地上の建物に及びません。逆に建物に抵当権を設定しても、土地には及びません。この「土地と建物の分離主義」が、後述する法定地上権という独特の制度を生む前提となっています。
効力が及ぶ物の整理
付加一体物・付合物・従物の関係
370条の「付加して一体となっている物」(付加一体物)には、まず付合物が含まれます。付合物とは、不動産に付着して分離が社会経済上不可能・不利益となり、不動産の一部となった物をいいます(242条)。たとえば、土地に植えた立木、建物の増築部分、雨戸・敷石などです。これらは独立の物ではなくなっているため、当然に抵当権の効力が及びます。
問題となるのは従物です。従物とは、主物の常用に供するため主物に付属させた、それ自体は独立した物をいいます(87条1項)。たとえば、建物に対する畳・建具、ガソリンスタンドの店舗建物に対する給油装置などです。条文上「付加一体物」に従物が含まれるかは争いがありましたが、判例は、従物について87条2項を類推適用し、抵当権の効力が及ぶとしています。
判例: 「宅地に対する根抵当権の効力は、特段の事情のない限り、抵当権設定当時右宅地の従物であつた石灯籠及び庭石にも及ぶ」
― 最判昭和44年3月28日(庭石・石灯籠事件)
このように、抵当権設定時に存在した従物に効力が及ぶことは確立しています。さらに、抵当権設定後に付加された従物についても、判例は効力が及ぶ方向で判断しています。たとえば、ガソリンスタンドの地下タンクや洗車機について、抵当権の効力が及ぶとした判例(最判平成2年4月19日)があります。
従たる権利への効力
従物に関する87条2項の類推適用は、従たる権利にも及びます。最も重要な例が、借地上の建物に抵当権を設定した場合の借地権(土地賃借権)です。判例は、建物に対する抵当権の効力は、その建物の従たる権利である借地権にも及ぶとしています(最判昭和40年5月4日)。
判例: 「建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、原則として、建物に対する抵当権の効力の及ぶ目的物とされている」(趣旨)
― 最判昭和40年5月4日
これにより、借地上建物の抵当権が実行されて建物の買受人が現れた場合、買受人は建物とともに借地権を取得できます。建物だけ取得しても敷地利用権がなければ建物を収去せざるを得ないため、この理論は競売における建物の担保価値を維持する重要な役割を果たしています(ただし借地権の譲渡には賃貸人の承諾または612条・借地借家法に基づく裁判所の許可が別途必要となる点に注意)。
果実と371条
抵当権は非占有担保であり、設定者に使用収益権が留保されています。そのため、原則として果実(賃料を含む)には抵当権の効力は及びません。
しかし、債務不履行後は果実にも効力が及びます(371条)。
条文: 民法371条
「抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。」
これにより、被担保債権の債務不履行後は、物上代位によらずとも賃料等の法定果実に抵当権の効力が及ぶことになります。371条は平成15年(2003年)の担保・執行法改正で現在の形に改められた条文で、それ以前は天然果実に限定する規定でしたが、改正後は法定果実(賃料等)も含めて「不履行後の果実」に効力が及ぶことが明文化されました。この371条による効力と、後述する物上代位による賃料への効力との関係は、答案でも整理を求められやすいポイントです。
抵当権の効力は、抵当地の上に存する建物にも及ぶ。
物上代位(304条の準用)
物上代位とは
物上代位とは、抵当権の目的物が売却・賃貸・滅失・損傷等された場合に、目的物に代わる金銭その他の物に対しても抵当権を行使できることをいいます。
抵当権については、372条が先取特権に関する304条を準用しています。
条文: 民法304条1項
「先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。」
物上代位は、抵当権が目的物の「交換価値」を把握する権利であるという価値権としての性質から導かれます。目的物そのものが金銭等の価値代替物に姿を変えても、抵当権者が把握していた交換価値が形を変えて存続している以上、その代替物に効力を及ぼすのが公平にかなう、という発想です。
物上代位の対象
なお、転貸賃料については、原則として物上代位の対象とならないとされています(最決平成12年4月14日)。転貸人(賃借人)は抵当権の目的物の所有者ではなく、転貸料は抵当不動産の交換価値が転化したものとはいえないためです。ただし、賃借人を所有者と同視できるような特段の事情(法人格否認に近い濫用的事例等)がある場合は例外的に物上代位を認める余地があるとされます。
差押えの要件|「払渡し又は引渡しの前」
物上代位を行使するためには、「払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」(304条1項ただし書)とされています。
この「差押え先行の要件」は抵当権者自身が行う必要があります。他の債権者の差押えでは足りません(最判平成1年10月27日)。
差押えがなぜ必要とされるのかについては学説上争いがあり、判例(最判平成10年1月30日)は、差押えの趣旨を主として第三債務者の保護(誰に弁済すればよいか確知できないまま二重弁済の危険を負うのを防ぐ)に求めています。この理解(第三債務者保護説)が、後述する債権譲渡との優劣の結論を導く鍵となります。
物上代位と賃料債権
抵当権に基づく物上代位により、賃料債権を差し押さえることが認められています(最判平成1年10月27日)。これは、抵当不動産の賃料が目的物の「法定果実」に該当するためです。
ここで注意したいのが、前述の371条との関係です。371条は「不履行後の果実」に抵当権の効力が及ぶことを定めますが、物上代位による賃料差押えは、371条とは別に304条準用を根拠として認められてきたものです。実務上、抵当権者が賃料を回収する手段としては、(1) 物上代位として賃料債権を差し押さえる方法と、(2) 担保不動産収益執行(民事執行法180条2号)の2つがあります。択一では「賃料に物上代位できる」という結論と、その根拠(304条準用)、差押え先行の要件をセットで押さえておけば十分です。
物上代位と相殺・債権譲渡の関係
物上代位と他の制度が競合する場面は試験で頻出です。
ポイント: 物上代位による差押えと債権譲渡が競合する場合、判例は抵当権設定登記の時点を基準に優劣を判断する傾向にあります。抵当権設定登記が先であれば、その後の債権譲渡に優先できるのです。
債権譲渡との競合(最判平成10年1月30日)の理解がとくに重要です。判例は、差押えの趣旨を第三債務者保護に求める立場から、抵当権設定登記によって物上代位の対象となりうることが公示されている以上、債権譲渡が物上代位の差押えに先行していても、抵当権者は物上代位を行使できるとしました。つまり、抵当権設定登記が債権譲渡の対抗要件具備より先であれば、抵当権者が優先します。「差押え前に債権が譲渡されてしまったら物上代位できない」と覚えてしまうと誤りなので注意してください。
敷金との関係(最判平成14年3月28日)も近年問われます。賃貸借が終了して目的物が明け渡されると、未払賃料等は敷金の存在する限度で当然に充当され消滅します。抵当権者が物上代位で差し押さえていた賃料債権も、明渡時に敷金が残っていればその範囲で消滅し、抵当権者はその部分について物上代位できません。敷金は賃料債権に内在する性質を持つため、物上代位に優先するというイメージで押さえるとよいでしょう。
抵当権者が物上代位により賃料債権を差し押さえる前に、設定者が当該賃料債権を第三者に譲渡し対抗要件を備えていた場合、抵当権者は物上代位権を行使できない。
法定地上権(388条)
法定地上権の制度趣旨
抵当権の実行により土地と建物の所有者が異なることになった場合、建物所有者は土地の利用権を失い、建物を収去しなければならなくなります。これでは社会経済上不合理であるため、民法は一定の要件の下で法律上当然に地上権を発生させています。
条文: 民法388条
「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。」
法定地上権という制度が必要になるのは、前述のとおり日本法が土地と建物を別個の不動産として扱っているためです。同一人が土地と建物を所有している場合、自分の土地に自分の建物を建てているにすぎないので、両者の間に賃借権や地上権といった利用権を設定することは観念できません(自分の土地に自分のための利用権は設定できない)。ところが抵当権が実行されて土地と建物の所有者が分かれると、建物のために土地利用権を設定しておく機会がなかったために、建物が無権原で土地上に存在することになってしまいます。これを救済するのが法定地上権です。
法定地上権の成立要件
法定地上権が成立するためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
各要件で判断の基準時となるのは、原則として抵当権設定時です(要件(1)(2))。一方、所有者が分離するかどうか(要件(4))は競売時を基準とします。「いつの時点で判断するのか」を混同しないことが、法定地上権の事例問題を解くコツです。
各要件の詳細と典型論点
要件(1):建物の存在
抵当権設定時に建物が存在していなければ法定地上権は成立しません。したがって、更地に抵当権を設定し、その後に建物を建築しても法定地上権は成立しません(後述の最判昭和36年2月10日)。なお、建物が登記されている必要はなく、また保存登記がなくても、抵当権設定時に建物が物理的に存在していれば足ります。建築中の建物であっても、抵当権設定当時に建物として認められる程度に達していれば要件を満たす場合があります。
要件(2):所有者の同一性
抵当権設定時に土地と建物が同一人の所有であることが必要です。設定時に土地はA、建物はBという具合に別人が所有していた場合、建物のためにすでに土地利用権(賃借権・地上権)が設定されているはずなので、法定地上権を認める必要がありません。なお、設定後に所有者が同一になっても、設定時に別人であれば成立しないのが原則です。
要件(3):抵当権の設定
土地のみ、建物のみ、土地建物の双方のいずれに抵当権が設定された場合でも成立しえます。
要件(4):所有者の分離
競売の結果、土地と建物の所有者が別人になったことが必要です。土地と建物が同一の買受人に帰属した場合は、利用権を観念する必要がないため法定地上権は問題になりません。
法定地上権に関する重要判例
1. 更地に抵当権を設定した後に建物を建築した場合
→ 法定地上権は成立しない(最判昭和36年2月10日)
理由:抵当権者は更地としての担保価値を把握しているため、法定地上権の成立を認めると抵当権者に不測の損害を与える。
2. 土地に抵当権設定後、建物が再築された場合
→ 原則として法定地上権は成立しない(最判平成9年2月14日)
理由:新建物の法定地上権を認めると抵当権者の予測に反するため。ただし、旧建物を基準とする法定地上権が成立する余地がある。
3. 土地と建物に共同抵当が設定された場合
→ 建物が取壊し・再築された場合、新建物に法定地上権は成立しない(最判平成9年2月14日)
判例: 「所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない」(趣旨)
― 最判平成9年2月14日
4. 土地が共有の場合
→ 土地共有者の一人が建物を所有していても、法定地上権は成立しない(最判昭和44年11月4日)
理由:他の土地共有者に不測の不利益を与えるため。
抵当権の順位と法定地上権|1番抵当権基準説
法定地上権の事例で特に判断が難しいのが、先順位抵当権と後順位抵当権で要件充足が異なるケースです。代表例として、(1) 1番抵当権設定時には土地のみ存在し更地だったが、(2) その後建物が建築され、(3) さらに2番抵当権が設定された、という事案があります。
このとき、建物が存在しない1番抵当権を基準にすれば成立要件(1)を欠き、建物の存在する2番抵当権を基準にすれば要件を満たすため、どちらを基準にするかで結論が分かれます。判例は、土地について第一順位の抵当権が設定された当時を基準とする立場(1番抵当権基準説)を採り、この事案では法定地上権の成立を否定しました(最判平成2年1月22日)。1番抵当権者の把握した更地としての担保価値を保護する趣旨です。
一方、抵当権設定時に土地と建物が別人所有だったが、後に同一人所有となり、その状態で後順位抵当権が設定されたような建物抵当のケースでは結論が異なる場面もあり、土地抵当と建物抵当で扱いが対称ではない点に注意が必要です。試験対策としては、「土地抵当の事案では1番抵当権設定時を基準に判断する」という結論を軸に押さえておくとよいでしょう。
よくある誤解
法定地上権について受験生が誤りやすい点を整理します。
- 「建物の登記が必要」と誤解する:抵当権設定時に建物が物理的に存在すれば足り、保存登記の有無は要件ではありません。
- 「設定後に所有者が同一になれば成立する」と誤解する:所有者の同一性は抵当権設定時を基準とします。設定時に別人なら原則不成立です。
- 「任意の売買で所有者が分離しても成立する」と誤解する:法定地上権は抵当権の実行(競売)による分離が原因である場合の制度です。当事者の任意の売買で土地建物の所有者が分かれた場合は388条の適用はなく、別途借地借家法等の問題となります。
更地に抵当権を設定した後、抵当権設定者が建物を建築した場合、抵当権が実行されると法定地上権が成立する。
土地と建物が同一所有者に属し、土地と建物の双方に共同抵当権が設定された後、建物が取り壊されて新建物が再築された場合、特段の事情がない限り新建物のために法定地上権は成立しない。
一括競売(389条)
一括競売の制度趣旨
更地に抵当権を設定した後に建物が建築された場合、法定地上権は成立しません。しかし、土地だけを競売すると建物の収去が必要となり、競売価格が低くなる可能性があります。
そこで389条は、土地の抵当権者が土地と建物を一括して競売できる制度を定めています。
条文: 民法389条1項
「抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。」
法定地上権と一括競売は、いずれも「更地に抵当権を設定した後に建物が建った」場面で出てくる制度ですが、方向性が逆である点を意識すると整理しやすくなります。法定地上権は建物を残すための制度(土地利用権を発生させて建物の収去を防ぐ)、一括競売は建物も一緒に売る権限を抵当権者に与える制度です。更地に設定したケースでは法定地上権は成立しないかわりに、抵当権者は一括競売という手段で土地の換価価値を確保できる、という補完関係にあります。
一括競売のポイント
注意: 一括競売における優先弁済権は土地の代価についてのみ行使できます。建物の代価に対しては一般債権者と同順位でしか弁済を受けられません。
平成15年改正前は、一括競売が認められるのは「抵当権設定者自身が築造した建物」に限られていましたが、改正後は389条2項本文により、第三者が築造した建物であっても一括競売できるようになりました。ただし、その建物の所有者が、抵当地を占有することについて抵当権者に対抗できる権利(たとえば抵当権設定登記前から存在する対抗力ある土地賃借権)を有する場合には、一括競売はできません(389条2項ただし書)。
抵当権消滅請求(379条〜)
制度の概要
抵当不動産の第三取得者(抵当不動産の所有権を取得した者)は、抵当権消滅請求をすることができます(379条)。これは、第三取得者が抵当権者に対して一定の金額を提示し、その金額を支払うことで抵当権を消滅させる制度です。
抵当権が設定された不動産を購入した者(第三取得者)は、抵当権が実行されれば所有権を失うという不安定な地位に置かれます。そこで民法は、第三取得者がみずから抵当権の負担から不動産を解放できる手段として、抵当権消滅請求(379条〜)と代価弁済(378条)という2つの制度を用意しています。
抵当権消滅請求の要件・手続
- 抵当不動産の第三取得者であること(所有権を取得した者)
- 主たる債務者、保証人及びその承継人は請求できない(380条)
- 抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に請求すること(382条)
- 登記をした各債権者に対して書面(取得の原因・年月日、提供する代価等を記載)を送付すること(383条)
- 抵当権者は、送付を受けた後2か月以内に競売の申立てをしなければ、提示された金額を承諾したものとみなされる(384条1号)
- 第三取得者が承諾された(又はみなし承諾された)金額を払い渡し又は供託することで抵当権は消滅する(386条)
主たる債務者や保証人が抵当権消滅請求をできないのは(380条)、これらの者は本来債務全額を弁済すべき立場にあり、債務額に満たない代価で抵当権を消滅させることを認めるのは不当だからです。
抵当権消滅請求と代価弁済の比較
両制度の最大の違いは誰が主導権を握るかです。代価弁済は抵当権者からの「請求」が起点となり、第三取得者は抵当権者の言い値(代価)を支払います。これに対し抵当権消滅請求は第三取得者から「提示」を行い、金額の主導権は第三取得者側にあります(抵当権者が不満なら2か月以内に競売を申し立てて対抗する)。「主体は両方とも第三取得者だが、イニシアチブと金額の決め方が逆」という点を押さえましょう。
根抵当権との比較
根抵当権とは
根抵当権とは、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額を限度として担保する抵当権です(398条の2)。
条文: 民法398条の2第1項
「抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。」
継続的な取引(たとえば銀行と企業の与信取引)では、債権の発生と消滅が繰り返されます。そのたびに普通抵当権を設定・抹消するのは煩雑なので、あらかじめ「一定範囲の不特定の債権を、極度額の枠内でまとめて担保する」根抵当権が用いられます。被担保債権の範囲は、特定の継続的取引契約によって生じるものや、一定の種類の取引によって生じるものなどに限定して定める必要があります(包括根抵当の禁止、398条の2第2項)。
普通抵当権と根抵当権の比較
利息・損害金の担保範囲|375条との対比
普通抵当権では、利息その他の定期金や遅延損害金について、満期となった最後の2年分に限って優先弁済を受けられるのが原則です(375条)。これは後順位抵当権者など他の利害関係人を保護するための制限です。
条文: 民法375条1項
「抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。(後略)」
これに対し根抵当権では、極度額の範囲内であれば、元本・利息・損害金の全部について優先弁済を受けられ、「最後の2年分」という制限は適用されません(398条の3第1項)。あらかじめ極度額という上限を公示しているため、その枠内なら後順位者の予測を害さないからです。この対比は択一で問われやすいポイントです。
根抵当権の元本確定
根抵当権は元本確定前には付従性・随伴性が否定されますが、元本確定後は被担保債権が特定され、普通抵当権に近い性質を有するようになります(確定した元本と、それに付随する利息・損害金等が極度額の範囲で担保される)。
元本の確定事由には以下のものがあります(398条の19・398条の20)。
- 確定期日の到来(定めた場合)
- 根抵当権者による確定請求(398条の19第2項。いつでも請求でき、請求時に確定)
- 設定者による確定請求(398条の19第1項。設定時から3年経過後に請求可能、請求から2週間経過で確定)
- 債務者又は根抵当権設定者の破産手続開始決定
- 根抵当権者が抵当不動産に対する競売・担保不動産収益執行・物上代位による差押えを申し立てたとき(差押えの効力発生時)
- 根抵当権者が抵当不動産に対し滞納処分による差押えをしたとき
確定請求について、根抵当権者からの請求は「いつでも・即時確定」、設定者からの請求は「3年経過後・2週間後に確定」と非対称になっている点が頻出です。
根抵当権は、元本確定前であっても被担保債権の移転に伴って移転する随伴性を有する。
試験対策のまとめ
択一式で問われるポイント
- 抵当権の効力が及ぶ範囲(370条・371条): 付合物・従物(設定後の従物も及ぶ)・従たる権利(借地権)・果実の区別
- 物上代位の要件(304条準用): 差押え先行の要件、債権譲渡・相殺・敷金との優劣、転貸賃料は原則対象外
- 法定地上権の成立要件(388条): 4要件の正確な理解、判断の基準時、更地・再築・共有・1番抵当権基準の各判例
- 一括競売(389条): 優先弁済権が土地の代価にのみ及ぶこと、第三者所有建物も対象
- 第三取得者の保護(378条・379条): 代価弁済と抵当権消滅請求のイニシアチブの違い
- 根抵当権(398条の2〜): 元本確定前後の付従性・随伴性、極度額と375条の対比
記述式で問われる場合
抵当権が記述式で出題された場合は、物上代位や法定地上権の要件充足性を丁寧に検討することが求められます。特に、「抵当権に基づく物上代位として、賃料債権を差し押さえることができる」といった結論を、条文の要件に沿って記述できるようにしておきましょう。法定地上権では、(1) 設定時の建物の存在、(2) 設定時の所有者の同一性、(3) 抵当権の設定、(4) 競売による所有者の分離という4要件を、問題文の事実に当てはめて成立・不成立を論じる訓練が有効です。
横断整理のコツ
抵当権は条文・判例ともに量が多い分野ですが、行政書士試験では出題パターンがある程度定まっています。とくに、(1)「価値権としての性質」(物上代位・375条・優先弁済)と、(2)「土地建物分離主義から生じる調整」(法定地上権・一括競売)という2つの視点で論点を束ねると、個々の判例も体系的に記憶できます。本記事の整理を基に、過去問で繰り返し演習を行い、知識を確実なものにしてください。
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