(公開 2026/01/22) / 民法

危険負担|改正で債権者主義が廃止された理由

危険負担の意義と改正民法での変更点を詳しく解説。旧法の債権者主義の廃止理由、新法の反対給付の履行拒絶権(536条)、解除との関係まで行政書士試験の出題ポイントを網羅的に整理します。

はじめに|危険負担は改正で大きく変わったテーマ

危険負担とは、双務契約において一方の債務が当事者双方の責めに帰することができない事由により履行不能となった場合、他方の債務がどうなるかという問題です。

2020年4月施行の改正民法により、危険負担の規定は大きく変更されました。旧法で批判が強かった債権者主義の廃止と、反対給付の当然消滅から履行拒絶権への転換が改正の柱です。

行政書士試験では、改正前後の違いが問われる出題が続いています。本記事では、改正前の問題点と改正後の新しい制度を対比しながら整理します。特に「債権者主義の廃止」「当然消滅から履行拒絶権へ」「解除との役割分担」「危険の移転時期(567条)」という4つの軸を押さえれば、危険負担の出題には十分対応できます。

危険負担は、債務不履行・履行不能・契約解除・売買の担保責任と密接に関連する論点です。これらの制度を「履行不能が起きたとき、当事者間のリスクをどう配分するか」という統一的な視点で整理すると、改正の意図が一気に見通しやすくなります。本記事ではその全体像も意識しながら解説していきます。

危険負担の基本的な意味

「危険」とは何か

危険負担における「危険」とは、双務契約の目的物の滅失・損傷などにより、一方の債務が履行不能となるリスクのことです。このリスクを債権者と債務者のどちらが負担するかが危険負担の問題です。

ここでいう「危険」は、当事者双方に帰責事由がない履行不能を前提とします。一方に帰責事由がある場合は、危険負担ではなく債務不履行(損害賠償・解除)の問題として処理されるため、危険負担が問題になるのは「誰も悪くないのに目的物が失われた」場面に限られる点をまず押さえておきましょう。

「対価危険」と「給付危険」

危険負担を正確に理解するには、危険を2種類に区別すると整理しやすくなります。

種類内容例給付危険目的物が滅失した場合に、債務者がなお調達・引渡しの義務を負うかという危険不特定物なら原則として債務者が負い、特定後は債務者を免れる対価危険一方の債務が消滅したとき、反対給付(代金など)を支払わなければならないかという危険危険負担(536条)が扱うのはこちら

危険負担の条文(536条)が直接規律しているのは、このうち対価危険です。「履行できなくなった側が代金をもらえるか/支払う側が代金を払わなくてよいか」という対価危険の配分こそが、危険負担の核心です。

双務契約であることが前提

危険負担は双務契約(売買・賃貸借・請負など、当事者双方が対価的な債務を負う契約)でのみ問題になります。贈与のような片務契約では、相手方に支払うべき反対給付がそもそも存在しないため、危険負担の問題は生じません。「双務契約の一方の債務が消えたとき、もう一方の債務はどうなるか」という構造を常に意識してください。

具体例で理解する

AがBに建物を売却する契約を締結した後、引渡し前にその建物が落雷で滅失したとします。

  • Aの債務(建物引渡債務):履行不能
  • Bの債務(代金支払債務):どうなるか?

ここで、Bの代金支払債務がどうなるかが危険負担の問題です。落雷は当事者双方の責めに帰すことができない事由ですから、Aにも損害賠償責任は生じません。問題は「建物が手に入らないBが、それでも代金を支払わねばならないのか」という対価危険の所在です。この結論が、改正前後で大きく変わりました。

改正前の制度|債権者主義と債務者主義

債務者主義(旧536条1項)

旧民法536条1項は、原則として債務者主義を定めていました。すなわち、双務契約の一方の債務が当事者双方の責めに帰することができない事由で履行不能となった場合、他方の債務も当然に消滅するとされていました。

先ほどの例でいえば、Aの建物引渡債務が履行不能になった場合、Bの代金支払債務も当然に消滅します。建物滅失のリスクは売主A(債務者)が負担するという結論です。

ここで「債務者主義」という呼び方は、履行不能になった給付(建物引渡債務)の債務者であるAが危険を負担するという意味であることに注意してください。「誰が債務者か」を取り違えると、債権者主義・債務者主義の判定を間違えます。滅失した物の引渡義務を負う側が債務者です。

債権者主義(旧534条)

しかし、旧法には大きな例外がありました。旧民法534条は、特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合、その物が当事者双方の責めに帰することができない事由で滅失又は損傷した場合、その滅失又は損傷は債権者の負担に帰すると規定していました。

これを債権者主義といいます。先ほどの例でいえば、建物は特定物なので、建物が滅失しても買主B(債権者)は代金を支払わなければならないという結論になります。

なぜ「債権者主義」と呼ぶのか

ここでの「債権者」とは、履行不能になった給付(建物引渡し)を受ける側=買主Bを指します。建物が手に入らないのに代金だけ支払わされるBが危険を負担するため「債権者主義」と呼ばれます。直感に反する結論であり、ここが旧法最大の論点でした。

旧535条(停止条件付双務契約)

旧534条と並んで、旧535条は停止条件付双務契約の目的物が条件成否未定の間に滅失・損傷した場合の危険負担を定めていました。これも債権者主義の系列に属する規定で、改正で旧534条とともに削除されています。試験では旧534条が中心ですが、旧535条も「停止条件付双務契約に関する危険負担の規定もあわせて削除された」と押さえておけば十分です。

債権者主義への批判

債権者主義は、以下の理由から強く批判されていました。

  1. 結論の不当性: まだ引渡しも受けていない物が滅失したのに代金を支払わなければならないのは不公平
  2. 理論的根拠の薄弱さ: 債権者主義は物権変動の意思主義(契約時に所有権移転)に基づくとされたが、所有権移転のタイミングは当事者の合意で変えられる
  3. 判例の不適用: 実務上、債権者主義の規定はほとんど適用されず、契約解釈や特約で回避されていた

旧法下の解釈論による回避

学説・実務は、債権者主義の不当性を緩和するため、危険の移転時期を「契約時」ではなく「目的物の引渡し時」や「登記移転時」まで遅らせる解釈を展開していました。つまり旧534条の文言は「契約成立と同時に債権者が危険を負担する」と読めるものの、実際には引渡しまで危険は移転しないという理解が有力でした。改正後の567条が「引渡し時に危険移転」と明文化したのは、この旧法下の解釈論を条文に取り込んだものといえます。

改正後の制度|536条の履行拒絶権

債権者主義の廃止

改正民法では、旧534条(特定物の債権者主義)と旧535条(停止条件付双務契約の危険負担)が削除されました。これにより、批判の強かった債権者主義は廃止されました。改正後の危険負担は、原則として「履行不能になった給付の債務者が危険を負う」という方向(旧来の債務者主義の考え方)に一本化されたと整理できます。

反対給付の履行拒絶権(新536条)

改正後の民法536条は以下のように規定しています。

当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
― 民法 第536条第1項

改正前は「反対給付の債務が当然に消滅する」とされていたのが、改正後は「反対給付の履行を拒むことができる」に変わりました。

「当然消滅」から「履行拒絶権」への変更理由

改正前の「当然消滅」構成には問題がありました。

  1. 解除との矛盾: 旧法では、債務者に帰責事由がない場合は解除できなかった。そこで危険負担により反対給付が当然消滅するとして処理されていた
  2. 改正後は無過失解除が可能に: 改正民法では、債務者の帰責事由がなくても債権者は解除できるようになった(第541条・第542条)
  3. 制度の調整: 解除と危険負担の両方で反対給付が消滅すると制度が重複するため、危険負担は「履行拒絶権」にとどめ、確定的に法律関係を解消するには解除によるものとした

履行拒絶権にとどめたことの意味

「当然消滅」だと、債権者が代金債務をなお履行したいと考えても消えてしまい、選択の余地がありません。これに対し「履行拒絶権」であれば、債権者は反対給付を拒むことも、あえて履行することもできるという選択肢を持ちます。たとえば、代金を支払って原状回復請求権や保険金請求権などを取得したいといった事情がある場合に柔軟に対応できます。改正は、債権者に主導権を与える方向で危険負担の効果を再構成したものです。

なお、536条1項の履行拒絶権を行使しても、反対給付債務そのものが消滅するわけではありません。債務は存続したまま、その履行を拒める「抗弁権」が与えられるにすぎない点に注意が必要です。契約関係そのものを清算したい場合は、後述の解除によることになります。

536条2項(債務者の帰責事由がある場合)

債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
― 民法 第536条第2項

債権者の帰責事由により履行不能となった場合は、債権者は反対給付の履行を拒めません。つまり、債権者は代金を支払わなければなりません。ただし、債務者が自己の債務を免れたことで得た利益(他に転売して得た利益など)は償還する必要があります。

利益償還義務の具体例

たとえば、買主Bの過失で売買目的物が滅失した場合、買主Bは代金全額を支払わねばなりません。一方、売主Aは引渡しをせずに済んだ分、自ら負担するはずだった運搬費用や、目的物を他に処分して得た代金などの利益を得ることがあります。この場合、Aはその利益をBに償還しなければなりません。これによりAが二重に得をすることを防ぎ、当事者間の公平を図っています。

「債権者の帰責事由」の典型場面

536条2項が問題になる典型は、(1) 買主が目的物を損壊した場合のほか、(2) 雇用契約で使用者の責めに帰すべき事由により労働者が就労できなかった場合です。労働者は反対給付(賃金)を請求でき、使用者は賃金支払を拒めません。判例上も、使用者の責めに帰すべき事由による解雇期間中の賃金請求は536条2項によって基礎づけられてきました(償還すべき中間収入の取扱いとあわせて論じられます)。雇用関係での適用は条文の射程として押さえておくとよいでしょう。

改正前後の比較表

項目改正前改正後特定物の債権者主義あり(旧534条)廃止帰責事由なしの場合反対給付が当然消滅反対給付の履行拒絶権債権者の帰責事由反対給付は消滅しない反対給付の履行を拒めない帰責事由なしの解除不可可能(542条等)制度間の関係危険負担で処理解除で確定的処理、危険負担は補助的停止条件付契約の特則あり(旧535条)廃止

要件・効果の整理

危険負担(536条1項)が適用されるための要件と効果を一覧で整理します。条文を要件ごとに分解して覚えると、事例問題で適用判断がぶれません。

536条1項(履行拒絶権)の要件

要件内容① 双務契約であること売買・賃貸借・請負など対価的債務がある契約② 一方の債務が履行不能になったこと物理的滅失だけでなく法律的不能も含む③ 当事者双方に帰責事由がないことどちらか一方に帰責事由があれば本条の適用外

効果:債権者は反対給付の履行を拒むことができる(債務自体は存続)。

帰責事由の所在による場合分け

履行不能が起きたとき、誰の帰責事由かによって適用条文と結論が変わります。これが事例問題の最重要分岐点です。

帰責事由の所在適用条文反対給付の扱い解除の可否双方に帰責事由なし536条1項履行拒絶できる無催告解除可(542条1項1号)債務者に帰責事由あり415条(債務不履行)損害賠償+解除で処理無催告解除可(542条1項1号)債権者に帰責事由あり536条2項履行拒絶できない(代金支払必要)解除できない(543条)

事例を読むときは、まず「履行不能の原因は誰の落ち度か」を確定させ、この表のどの行に当たるかを判定するのが定石です。

危険負担と解除の関係

改正後の制度的な位置づけ

改正後は、以下のように危険負担と解除が役割分担をしています。

  • 危険負担(536条): 反対給付の履行拒絶権を付与する(暫定的な自己防衛手段)
  • 解除(542条): 契約関係を確定的に解消する

債権者は、536条の履行拒絶権を行使して反対給付を拒みつつ、542条に基づき解除することで契約関係を確定的に終了させることができます。

催告解除と無催告解除

改正後は、履行不能の場合、催告なしに解除できます(第542条第1項第1号)。

次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。一 債務の全部の履行が不能であるとき
― 民法 第542条第1項第1号

改正前は「債務者の帰責事由」が解除の要件とされていましたが、改正後は帰責事由を解除の要件から外しました。これにより、当事者双方に帰責事由がない履行不能の場合でも、債権者は解除によって契約から離脱できます。危険負担の「履行拒絶」と解除の「契約消滅」が、ともに無過失の履行不能で使えるようになった点が、改正後の制度設計の核心です。

債権者に帰責事由がある場合は解除できない(543条)

債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。
― 民法 第543条

債権者の帰責事由により履行不能となった場合、債権者は解除できません(543条)。これは536条2項が「履行拒絶できない」としていることと整合します。すなわち、自分の落ち度で履行不能を招いた債権者は、反対給付を拒むことも、契約を解除することもできず、代金を支払う立場に置かれるわけです。

危険負担と解除の使い分け

場面危険負担解除帰責事由なしの履行不能履行拒絶可(536条1項)無催告解除可(542条1項1号)債権者の帰責事由履行拒絶不可(536条2項)解除不可(543条)効果反対給付を拒絶(暫定的)契約消滅(確定的)法律関係債務は存続したまま抗弁契約が遡及的・将来的に消滅

解除の効果と原状回復

解除すると契約は解消され、すでに履行した給付は原状回復義務(545条)により返還し合います。たとえば代金の一部を支払い済みだった買主は、解除によりその返還を請求できます。危険負担の履行拒絶権は「これから払う代金を拒める」だけで、すでに払った代金を取り戻すには解除が必要です。既払金の返還を求めるなら解除、未払金の支払を拒むだけなら履行拒絶という使い分けが実務・試験の両面で重要です。

売買契約における危険の移転時期

引渡し時に危険が移転(567条)

改正民法は、売買契約における危険負担について特則を設けています。

売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
― 民法 第567条第1項

つまり、売買の目的物が引き渡された後に滅失・損傷した場合、そのリスクは買主が負担します。引渡し前は536条の原則どおり買主(債権者)は履行を拒絶できます。

567条が条文の上書きをする構造

567条は売買の特則です。引渡し前は536条1項により買主は代金支払を拒めますが、引渡し後は567条1項により買主は追完請求・代金減額・損害賠償・解除のいずれもできず、代金の支払も拒めません。つまり、引渡しを境に危険が売主から買主へ移転します。旧法の債権者主義が「契約時」に危険を移していたのに対し、新法は「引渡し時」を基準とした点に、改正の合理化が表れています。

受領遅滞中の危険移転(567条2項)

売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。
― 民法 第567条第2項

買主が受領を拒んだり受領できない場合(受領遅滞中)に、当事者双方の帰責事由なく目的物が滅失・損傷した場合も、買主がそのリスクを負担します。受領遅滞に陥った買主は、自らの受領拒絶により危険移転の不利益を引き受けることになるわけです。これは受領遅滞の効果を定める413条の2第2項(受領遅滞中の履行不能は債権者の帰責事由によるものとみなす)とも整合する規律です。

危険移転のタイムライン整理

時点滅失・損傷時の危険負担者根拠引渡し前(受領遅滞なし)売主(買主は代金支払を拒める)536条1項売主が履行提供→買主が受領遅滞買主(代金支払拒めず)567条2項引渡し後買主(追完・減額・賠償・解除・支払拒絶いずれも不可)567条1項

頻出論点・出題ポイント

改正点の対比が最頻出

行政書士試験では、改正前後の対比が繰り返し問われます。特に狙われやすいのは次の3点です。

  1. 「当然消滅」か「履行拒絶権」か — 改正後は当然消滅ではなく履行拒絶権。「反対給付債務が当然に消滅する」という選択肢は誤り。
  2. 債権者主義の廃止 — 旧534条の特定物の債権者主義は廃止。「特定物の滅失は債権者の負担」とする選択肢は現行法では誤り。
  3. 無過失でも解除できる — 改正後は帰責事由が解除要件から外れ、双方無過失の履行不能でも解除可能。

帰責事由の所在による結論の違い

「双方無過失」「債務者の帰責事由」「債権者の帰責事由」のどれに当たるかで結論が変わります。とりわけ債権者の帰責事由(536条2項)は、「履行拒絶不可+解除不可+利益償還」という3点セットで問われやすい論点です。

危険の移転時期(567条)

引渡し時に危険が移転するという567条のルールは、担保責任(562条以下)との関連でも問われます。引渡し後の滅失・損傷は買主負担となり、追完請求等ができなくなる点を押さえましょう。

雇用・労働分野での536条2項

使用者の帰責事由で就労できなかった場合の賃金請求(536条2項)は、一般知識・労働法分野とも接点があります。「ノーワーク・ノーペイの例外」として理解しておくと応用が利きます。

よくある誤解

誤解1「改正後も反対給付は当然に消える」

最も多い誤解です。改正後は当然消滅ではなく履行拒絶権であり、反対給付債務そのものは存続します。確定的に消したいなら解除が必要です。

誤解2「債権者主義はまだ残っている」

旧534条の特定物の債権者主義は完全に廃止されました。現行法に債権者主義の原則規定はありません。「特定物だから債権者負担」という処理は誤りです。

誤解3「帰責事由がないと解除できない」

これは旧法の発想です。改正後は帰責事由が解除要件から外れ、双方無過失の履行不能でも542条1項1号で無催告解除できます。

誤解4「履行拒絶権を行使すれば既払金が戻る」

履行拒絶権は未履行の反対給付を拒める抗弁にすぎません。すでに支払った金銭の返還を求めるには、解除による原状回復(545条)が必要です。

誤解5「『債務者』『債権者』の意味を取り違える」

危険負担でいう債務者・債権者は、履行不能になった給付を基準に判断します。売買では建物引渡債務の債務者が売主、債権者が買主です。代金債務を基準に考えると債務者・債権者が逆転するため、必ず「滅失した給付」を基準に固定して考えましょう。

関連論点

履行不能(412条の2)との接続

危険負担は「履行不能」が前提です。履行不能には物理的不能だけでなく、取引上の社会通念に照らして不能と評価される場合も含まれます(412条の2第1項)。原始的不能(契約成立時にすでに不能)の場合でも契約は有効に成立し、損害賠償請求は妨げられません(同条2項)。危険負担を論じる前提として、何が履行不能に当たるかの理解が不可欠です。

受領遅滞(413条・413条の2)との接続

受領遅滞中の双方無過失の履行不能は、債権者の帰責事由によるものとみなされます(413条の2第2項)。この結果、債権者は536条2項により反対給付の履行を拒めず、543条により解除もできなくなります。受領遅滞と危険負担・解除は連動して結論が決まるため、セットで理解すると盤石です。

担保責任(562条以下)との接続

引渡し後の滅失・損傷は567条により買主負担となり、契約不適合責任(追完請求・代金減額等)を追及できません。担保責任が問題になるのは「引渡し時点で既に不適合があった」場合であり、危険移転のタイミングが両制度の振り分け基準になります。

まとめ

危険負担は、改正民法で最も大きく変わったテーマの一つです。

  • 改正前: 債権者主義(旧534条)あり、反対給付の当然消滅
  • 改正後: 債権者主義の廃止、反対給付の履行拒絶権(536条)
  • 解除との関係: 危険負担は暫定的な防御手段、確定的処理は解除で
  • 売買の特則: 引渡し時に危険が移転(567条)
  • 帰責事由による分岐: 双方無過失=536条1項、債権者の帰責=536条2項(履行拒絶不可・利益償還)

改正前後の違いは試験で必ず問われます。「当然消滅→履行拒絶権」「債権者主義の廃止」という2つの変更点を正確に押さえましょう。さらに、帰責事由の所在による場合分けと567条の危険移転時期を組み合わせれば、事例問題にも対応できます。

関連テーマもあわせて学習すると、債権分野全体の理解が深まります。

確認問題

改正民法では、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務が履行不能となった場合、反対給付の債務は当然に消滅する。

○ 正しい × 誤り
解説
改正前は反対給付が「当然に消滅」していましたが、改正後の536条1項は「債権者は、反対給付の履行を拒むことができる」としています。「当然消滅」ではなく「履行拒絶権」に変わった点が重要です。
確認問題

改正民法では、特定物に関する物権の設定・移転を目的とする双務契約において、目的物が滅失した場合の危険を債権者が負担する(債権者主義)。

○ 正しい × 誤り
解説
改正前の旧534条が定めていた債権者主義は、批判が強かったため改正で廃止されました。改正後は536条1項により、債権者は反対給付の履行を拒むことができます。
確認問題

債権者の責めに帰すべき事由によって債務が履行不能となった場合、債権者は反対給付の履行を拒むことができない。

○ 正しい × 誤り
解説
民法536条2項は、債権者の帰責事由により履行不能となった場合、債権者は反対給付の履行を拒めないと規定しています。ただし、債務者が自己の債務を免れたことで得た利益は債権者に償還する必要があります。
確認問題

改正民法では、当事者双方に帰責事由がない履行不能の場合、債権者は契約を解除することができない。

○ 正しい × 誤り
解説
改正後は帰責事由が解除の要件から外されたため、双方無過失の履行不能でも542条1項1号により無催告で解除できます。危険負担の履行拒絶権とあわせて、債権者は契約から離脱する手段を持ちます。
確認問題

売買の目的物が引き渡された後に当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失した場合、買主は代金の支払を拒むことができない。

○ 正しい × 誤り
解説
民法567条1項により、引渡し後に生じた滅失・損傷の危険は買主が負担し、買主は追完請求・代金減額・損害賠償・解除のいずれもできず、代金の支払も拒めません。引渡し時に危険が移転します。
#債権 #改正民法 #民法

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